石嶋 成庫
愛知県名古屋市出身。2007年に戸田市役所入庁。入庁後は市民課、財政課、収納推進課、埼玉県後期高齢者医療広域連合(出向)を経て、2022年より企画財政部共創企画課に配属となり、SDGsの普及啓発等、推進に携わる。
木島 崇
埼玉県さいたま市出身。2014年に戸田市役所入庁。入庁後はみどり公園課を経て、2019年より企画財政部共創企画課に配属となり、戸田市行財政改革大綱の策定、埼玉版スーパーシティプロジェクトへのエントリー、SDGs未来都市への申請等に携わる。
目次
introduction
令和4年5月にSDGs未来都市に選定された埼玉県戸田市。全国的に人口減少や少子高齢化の問題が進む中、人口は増加し続け、若い世代にも人気の街です。しかし、一方で転出も多く、定住が進まないという課題も抱えています。
この課題解決に向け、戸田市は企業や市民と連携しながら様々な取り組みを進めています。
今回、戸田市企画財政部共創企画課の石嶋さんと木島さんにお話を聞きました。
「このまちで良かった」の実現を目指して
–まず、戸田市についてご紹介をお願いいたします。
石嶋さん
戸田市は埼玉県の南東部、東京との県境に位置しているまちです。東西に7㎞、南北に4㎞の、面積は18㎢しかありません。全国的に見ても狭い面積ではあるものの、14万2,000人が暮らしており、人口密度が高くコンパクトなまちだと言えます。
産業は、物流業や昔からの出版業、食品関連産業、機械金属・製造系が活発です。特に物流業は、主要な幹線道路が通っていることもあり、倉庫や配送センターなど、物流の拠点としても注目されています。
–戸田市がSDGsに積極的に取り組むことになった背景を教えてください。
石嶋さん
全国的に人口減少や少子高齢化が進んでいる中で、戸田市は、JR埼京線が開通してから一気に人口増加が進み、現在も人口増加は継続しています。また、平均年齢も埼玉県で一番若く、まだまだ成長途中の自治体です。
その理由としては、都心に近くベッドタウンとして利便性が高いことが挙げられます。しかしその分、進学や転職を機に戸田市から転出するケースも多く、人の入れ替わりが激しい状況であるため、近所同士の繋がりや地域コミュニティの関係が薄いということも課題となっています。
これらの課題を背景として、平成26年に戸田市自治基本条例を制定し、市民や議会、行政が役割分担を持ってまちづくりを進めていくことを掲げました。
その後SDGsが話題になってきた頃、我々が今まで行ってきたまちづくりはSDGsの「誰一人取り残さない」という考え方とリンクしていると感じました。ちょうどそのタイミングで、戸田市は2021年度〜2030年度のまちづくりの方針となる「第五次総合振興計画※」の策定を進めていました。
SDGsの考え方・ゴール時期など親和性が高い側面も多いことから、「第五次総合振興計画」にはSDGsの要素を反映することとなったのです。
総合計画の中では、2030年のあるべき姿として「『このまちで良かった』みんな輝く 未来共創のまち とだ」を掲げ、未来を見据えて市民・企業・行政が一緒になってまちづくりに取り組んでいます。
市内企業、働く人を支援し、居心地の良い環境を整えていく
–現在の取り組みについて教えてください。
木島さん
経済、社会、環境の三側面で様々な取り組みを進めているので、順にお話しします。
まず経済面では、主に6つの取り組みを展開しています。
1つめは「地域産業競争力強化」です。これは市内企業の新技術や新製品を市からも積極的に発信し、市内企業の競争力強化を図る取り組みです。
具体的には、その企業がどのような事業を行っているのかがひと目で分かる「工業見える化プレート」を市が作って交付しています。加えて、工業見える化プレートを交付している企業をマップ上に落とし込み、どこにどのような事業の会社があるかを周知しています。
住工混在が進む当市において、事業者側からの積極的情報発信により市民の皆さんに事業内容を見せていくことで、工業に対する市民理解を醸成して操業環境を向上させ、もって、工業の活性化と流出防止・集積等を図ることを目的として実施するものです。
また、各企業がそういった新技術や新製品を外部に積極的に発信できるように、展示会の出展費に、補助金を出しています。他にも市内企業に対して、関連する支援策の活用を促し、ビジネス交流会などの機会を継続的に提供しています。
2つ目は「市内企業の経営基盤の強化」です。これは社会情勢や市内企業の動向を把握し、商工会などと連携して経営改善に向けた各種講習会を開催するなど、継続的に企業支援を行うものです。
最近はICTデジタル社会への対応として、DXを推進する企業に対して、市が補助金を出すことも行っています。
また、市内企業の技術や魅力ある商品などを積極的にPRする取り組みとして、「戸田ブランド」という戸田市のおすすめ商品をまとめたパンフレットを作成しています。登録には審査があり、認定されると掲載される仕組みです。戸田ブランドを全国に発信することで、競争力強化につながることを期待しています。
3つ目が「多様な働き方への支援と切れ目のない起業支援」です。
起業向けセミナーを託児付きにしたり、市役所内にハローワークを設置したりして、起業したい方や働きたい方が気軽に職探しできる環境を整えています。
4つ目が「エコに取り組む事業支援」です。これはISOなど環境への取り組みを行う事業者を支援するもので、環境マネジメントシステムを導入する際の必要経費に補助金を交付しています。
5つ目が「地域の魅力を知る機会の提供」です。ふるさと祭りや花火大会などのイベントを開催することで、戸田市の良さを知ってもらい、親しみを持ってもらうことを目指しています。
6つ目が市内の観光地や観光資源を整備する「観光振興」です。市内には、バーベキューやドッグラン、スポーツ施設などのアクティビティが楽しめる「彩湖・道満グリーンパーク」という広い公園があります。ここは、ドラマのロケ地に使われることもあり、今後も様々なシーンで活用していただけるよう、フィルムコミッションを展開していきます。このような現存の施設を活かして、訪れたい街としての魅力を発信しています。
希薄になりつつある地域コミュニティを再形成する
–続いては、社会面での取り組みを教えてください。
木島さん:
社会面では主に5つの取り組みを行っています。
1つ目は、「地域コミュニティの活性化」です。町会・自治会の加入促進に関するパンフレットの作成や、広報やホームページ等で地域コミュニティに関する情報を発信・共有を行っています。
また、町会・自治会が自らの活動に注力できるよう、行政からの依頼事項の見直し等を図っています。町会・自治会の負担軽減により、担い手不足の解消につながるよう、地域に関わる人々と共に考え、話し合いを行いながら地域コミュニティの活性化を進めています。
2つ目が「市民活動の推進」で、SDGs共創基金を設置しました。この基金を、子どもの居場所づくりやシニア活躍、防災などSDGsにつながる事業に活用するほか、市民活動団体が行う地域課題解決に向けた活動に補助金を交付しております。この基金を活用することで、SDGsの啓発にもつながりますし、市民活動も推進できると考えています。
3つ目が「公民連携によるまちづくり」です。市内サービスは、行政だけでは行き届かない部分も多々あります。そこで、民間企業等が持つ資源やノウハウ等をいかした提案を募集し、行政課題や地域問題等を迅速かつ柔軟に解決することを目的とした公民連携提案窓口「とだラボ」を設置しています。これは、自由な発想で提案ができるフリー型と市が設定した課題等へ提案いただくテーマ型を設定しています。
例えば発信面に関わるテーマであれば、コンビニや郵便局とも連携し、市のポスターやチラシなどを店舗に掲示していただき、行政情報の発信を行う、食品ロスの削減を目指して、市が作った「てまえどりPOP」を市内の小売店に設置してもらうなど、既に多様な連携活動を実施しています。
4つ目が「健康作りの事業推進」です。戸田市では、市民の健康寿命が短いという課題を抱えていたため、ICTなどを活用して健康な体づくりを促進しています。
具体的には、埼玉県のコバトン健康マイレージ事業というスマホアプリの歩数計を使用して、歩いた歩数によってポイントがたまって抽選会に応募できるなど、市民の方々が楽しみながら参加できる設計にしています。
民間企業と連携しながら健康作りを支援している事業もあります。例えば保険会社と連携し、健康教室に「血管年齢測定機」や「ベジチェック※」、「骨密度測定器」などを提供いただくことで、今後の予防や健康への意識の向上を目指すものなどです。
5つ目が「健康診断の推進と相談・支援の充実」です。健康診断の受診率向上を目指したもので、健康に関する講座やセミナーなどを市が主催しています。これまでに多くの方が参加し、健康についての認識を高めてもらいました。
また、「健康福祉の杜まつり」という健康に特化したお祭りも毎年開催しています。これをきっかけに健康に関心を持ってもらえるとうれしいですね。
ゴミを減らし、エネルギーも再利用する
–環境面はどのように取り組んでいらっしゃいますか?
木島さん
環境面の取り組みは主に3つです。
1つ目が「循環型社会の推進」で、生ゴミ処理機を購入する際に補助金を出すなど、主にゴミの減量化につながる活動を支援しています。また、生ゴミと花苗を交換する取り組みも進めています。蕨戸田衛生センター内の「リサイクルフラワーセンター」という生ゴミ堆肥化施設に、一定の段階まで堆肥化させた家庭の生ゴミを専用生ごみバケツに入れて持ち込むと花苗と交換できます。
他にも市民参加型のゴミ拾い活動「530(ゴミゼロ)運動」を開催したり、リユースに力を入れる企業と協力し、粗大ごみ処理施設に運び込まれた家具の中から使えるものを選定し、処理を行った上で再生家具として販売してもらったりもしています。
2つ目が地球温暖化への意識啓発を目指した「地球温暖化対策の推進」です。例えば太陽光パネルや電気自動車など、環境に配慮した設備を購入する際に補助金を交付しています。
また、市役所でも夏と冬にエコライフDAY&WEEKを推進しています。「車ではなく公共交通機関を使う」、「電気をこまめに消す」など、取り組みをチェックする日を設けて、市職員全員で温暖化対策への意識を高めているところです。
3つ目が「電力の地産地消」です。戸田市では、隣の蕨市と共同で収集ゴミが集まる蕨戸田衛生センターを運用しています。ここでは、燃やしたゴミを活用して電力を生み出しており、この電気の一部は本庁舎で使用されています。電力の地産地消を行うことで、化石燃料で作った電気の使用を減らし、CO2排出量の削減にもつながります。
情報発信からSDGsを「自分ごと」に。
–様々な取り組みを行っていらっしゃるのですね。このような活動を、どのように市民の皆さんや地域外に発信しているのでしょうか。
石嶋さん
他の自治体さんと同様にホームページ、SNS、広報なども活用していますが、独自の発信も行っています。特徴的なところでいうと、民間企業の協力のもと、例えばコンビニの掲示スペースを年間を通してお借りして、毎月、市のイベントポスター等を貼って周知しています。また、包括連携協定を締結している生命保険会社にも日常業務である契約者回りで、戸田市の取り組みを個別に周知いただいています。他にも、自治体の時事がまとめられているメディアに、戸田市に関する情報を投稿しています。
2023年11月には、市民にSDGsをより身近に感じてもらうために、「SDGs謎解きイベント」を実施する予定です。市内の公共施設をめぐりながら、SDGsに関連する謎解きのストーリーを解いていくという内容で、楽しみながらSDGsの理解が深まります。
今後もHPやSNSだけに頼らず、いろいろなツールを使用して情報発信を行っていきたいですね。
–今後の展望をお聞かせください。
石嶋さん
令和3年度に、市民にSDGsに対する意識調査を行い、SDGsの認知度は60%でした。今後はそこから一歩進み、「自分ごと」として主体的に考え、積極的に取り組んでもらうことが求められます。その環境整備が私たち行政にできることだと考えています。
そして引き続き、市内外に戸田市の魅力を発信することにも力を入れていきます。その一環として、2022年(令和4年)12月に「とだSDGsパートナー制度」を創設しました。また、2023年度からは戸田市商工会との連携事業「とだSDGs動画」制作支援をスタートさせ、文字だけではなく、実際にSDGsに取り組む企業の映像を取引先や市民の皆さんにも見てもらえる事業をスタートさせました。これにより、SDGsに取り組む企業のさらなる見える化が進み、支援も発信力も強化されると考えています。
※制作動画は戸田市公式YouTubeチャンネルにアップしています。(以下の二次元バーコードからアクセスできます。)
そして何より、市民に戸田市に住み続けたいと思ってもらえるよう、これからも努めていきたいと思います。
—貴重なお話をありがとうございました。
戸田市ホームページ:https://www.city.toda.saitama.jp/