#インタビュー

株式会社東京バル|食の社会課題にチャレンジ。プラントベース食品「EASY VEGAN」と野菜の皮までまるごと使ったアップサイクルブランド「KAWAIINE」で新しい食のスタンダードをつくる

株式会社東京バル 筒井さん インタビュー

筒井 玲子

新卒でサイバーエージェント(広告代理事業)入社。 学生時代のミスユニバース全国大会への出場をきっかけに、 健康啓発や環境保全などのチャリティー活動を行っている中で食の社会課題について関心を高く持ったことを背景に世界展開を視野に夫婦で起業。

introduction

飲食店の経営からスタートした東京バル(つくば市)は、アニマルライツや環境、健康的な食への課題の気づきを経て、独自の技術により、様々なビーガンフードの販売を始めました。プラントベースのみならず、グルテンフリー、アップサイクルも取り入れた商品群は、健康や環境への課題解決と共に、美味しさや食べやすさも追求したラインアップです。

今回は、同社のファウンダー・筒井玲子さんに、ビーガンフードを手がけるようになったきっかけや、開発プロセス、現状などを伺いました。

日本食材の魅力を世界に発信し、食の課題に取り組みながら美味しい食品を届ける

-まずは御社の事業内容をご紹介ください。

筒井さん:

東京バルは、食品の製造・販売を通して社会課題に取り組むことをメインとしています。その中でも、美味しくなければ幅広い層に受け入れていただけないと考え、たくさんの方に長く愛される食品アイテムをお届けすることを目指して食品開発をしている会社です。

商品は、すべてプラントベース(動物性不使用)です。「EASY VEGAN」(イージービーガン)というブランドで一番最初に出したのが、植物性の「パルメザンチーズ風味」でした。「こんにゃくジャーキー」「大地の肉味噌」も人気商品です。

2023年にリリースした新ブランド「KAWAIINE」(皮いいね)は、その名の通り、栄養がある野菜の皮も利用した、アップサイクルのビーガン食品です。現在のラインアップは、「芋皮スナック」「グラノーラ にんじん」「グラノーラ ケール」「クラッカー にんじん」となっています。

もともとは、つくば市にあった飲食事業をご縁あって譲渡していただいたところから始まったのですが、そのレストランでは、ビーガンのメニューもご提供しています。

-掲げていらっしゃるビジョンがあれば教えてください。

筒井さん:

私たちはまだまだスタートアップの企業ですので、たくさんのことに挑戦している段階ですが、現在は「日本の食品素材の魅力を世界に発信する」と「食の課題に取り組みながら、美味しい食品をお届けする」の2つをモットーに、食品開発に取り組んでいます。

-アニマルフリーに関心をもたれたきっかけは何だったのですか?

筒井さん:

個人的な話で恐縮ですが、大学生時代にミス・ユニバースのファイナリストになった体験があります。その過程で、「社会課題にどう貢献する女性になっていくか」というテーマが一つありました。社会課題への関心からコンテストに参加した面もあり、様々なNPO法人の方々や、社会課題に取り組んでいる活動家の方々とお話しする機会を持てたんです。そこでビーガンの思想を学び、自分も実践していくうちに、地球環境にも自分の身体のためにもなることを実感しました。

アニマルフリーへの関心は、たまたまアニマルライツについてのセミナーに参加し、先進国の食育レベルの高さやアニマルライツへの意識の高さなどを知ったのが直接のきっかけとなりました。

日本のアニマルライツへの認識度は、たとえばアメリカのように「思想」として進んでいる国と比べれば、低いと感じます。ただ、日本にはそもそも精進料理のような文化も根底にありますから、国外の「食文化」と比較した場合、そこまでお肉ばかりが中心の食事にはなっていないと思います。食の環境として、アニマルフリーの食品を手軽に手に取っていただける状況を作ることが、弊社の願いです。

週に一度ビーガンの日にするだけでも状況は変ってゆく

-「EASY VEGAN」ブランドを立ち上げられた背景を、なぜ「EASY」なのかも含めて教えてください。

筒井さん:

私がプラントベースの食事を取り入れるようになったころは、まだまだビーガンの食事の選択肢が少なく、もっと気軽に購入できたり楽しめたりするプラントベースの食事があればいいなと思っていました。そこで東京バル(レストラン部門)のシェフに頼み、ビーガン料理のメニューを出してもらったんですが、それがとても美味しくて、もっとたくさんの人に食べてもらいたいとミールキットを作って商品化しました。そんなかたちで活動を始めたのが、ビーガンに特化していくきっかけとなりました。

のちに立ち上げたブランド名「EASY VEGAN」の「EASY」には、2つの思いを込めています。ビーガンというと、厳しそうで敷居が高く感じてしまいますが、週に一回でもアニマルフリーの日を取り入れていただければ、というような「フレクシブルに気軽く」という意味での「EASY」が一つ目です。地球課題というと難しいことに感じますが、週に一度の取組みであっても状況は変わっていきますよ、という思いがあります。また、そこにビーガンの商品があれば、手軽にトライしていただけます。その「手軽く簡単に」の意味が、もう一つの「EASY」です。

-「EASY VEGAN」の商品の詳細をご紹介いただけますか?

筒井さん:

「パルメザンチーズ風味」は、酒粕とナッツから出来ています。「日本の食材を世界に発信」というテーマのなか、魅力的なものとして選んだのが酒粕でした。海外には、カシューナッツから出来た植物性チーズがたくさんありますが、酒粕を使うことで、もっと発酵の香りや味わい深いコクが表現できるんです。酒粕は独特の強い匂いがありますが、弊社独自の技術で加熱しますと、グラタンの上で焦げたチーズのような香りになります。アメリカなどでも販売していますが、国外からも高い評価をいただいている商品です。

「こんにゃくジャーキー」は2023年に出したばかりの商品ですが、滋賀県名産の赤く染まったこんにゃくを使っています。この赤こんにゃくの生まれには諸説ありますが、織田信長が派手好きで、地味なこんにゃくを赤く染めさせた、とも言われています。そんな歴史ある赤こんにゃくを、新しいかたちでビーガンのジャーキーとして海外にも販売しています。見た目の色、というのも大事なんですよね。

エミリア=ロマーニャ州ボローニャにあるCircolo Bononia で茨城県プロモーションイベントが2月9日に開催され、当社酒粕とナッツからできた植物性パルメザン風味(Vegan parmesan Style)と赤こんにゃくジャーキー(Vegan jerky)を使用したお料理が提供されました。

アップサイクルによる「野菜のいいとこどり」のブランド

-新たなブランド「KAWAIINE」を立ち上げられた背景を教えてください。

筒井さん:

これも個人的な話となってしまいますが、長女がダウン症を持って生まれてきました。赤ちゃんの頃は食がとても細く、ごはんを食べさせるのが一苦労でした。そのため、少量の食事からも栄養をたくさん取ってほしくて、いろいろと調べたんです。その結果、かぼちゃの種やにんじんの皮などの捨ててしまいがちな使いにくい部分に栄養が詰まっていると知り、それらをいかに食べさせるか試行錯誤を重ねていました。

実は、「KAWAIINE」のアップサイクル事業は、私のその試行錯誤と近隣の事業者さんの課題がマッチングして生まれたとも言えます。茨城県は干し芋が名産ですが、製品を作る過程でさつまいもの皮は捨てられてしまいます。ところが、さつまいもの皮のふきんには、「ヤラピン」という、さつまいもにしか含まれない成長成分が存在しているんです。さつまいもをパキッと輪切りにすると、皮の周辺に白い液がにじむんですが、これがヤラピンです。昔から薬にも使われてきたような成分ですが、そのヤラピンを捨てていることに葛藤を覚える干し芋事業者さんが多かったんです。

その中で干し芋事業者さんから「皮の利用ができないか」という話があった際、長女に野菜の皮を食べさせようと苦労していた私は、アップサイクルで野菜のいいとこどりをしたブランドを作ろうと考え、皮こそ栄養価が高い、という意味の「KAWAIINE」が誕生しました。

-皮といえば、やはり農薬が気になるところですが、どのように対処されていますか?

筒井さん:

さつまいもは、葉と異なり土の中に埋まってはいますが、もちろん安全性はしっかりと確保しています。有機栽培でないものについては、しっかりと洗浄工程を経ており、また栄養剤や農薬などの使用があれば履歴をきちんと残されている農家さんのものを採用しています。食材として扱えるようフローを整えて頂き、私たちの想いに共感いただける事業者さんのみと契約させていただいています。

-「KAWAIINE」の商品について、詳しく教えていただけますか?

筒井さん:

最初に作ったのが、さつまいもの皮と米ぬかをアップサイクルした「芋皮スナック」です。この二つの食材だけで出来ていますが、どちらも栄養価はとても高いんです。独自の技術により、砂糖を使わずにしっかりした甘さを楽しんでいただけます。

「芋皮スナック」が完成したあと、最初にシンガポールで販売会を行ったのですが、とても甘くて美味しいと大評判でした。シンガポールは、国民の糖尿病が問題になっているという背景があります。国が砂糖の利用に規制をかけているほどで、レストランのメニューなどにも、砂糖がどれほど使われているかという「砂糖グレード」が記載されていたり、「シュガーフリー」と書かれていたりするんです。国民の健康意識も高まっていて、会期中、砂糖を使わずに甘味を楽しめる「皮芋スナック」をリピートで買ってくださる方が続出しました。

ほかには、「SALAD TO GO(持ち運ぶサラダ)」というシリーズがあります。こちらはすべて、つくば市の無添加ジュースのメーカー、ベルファームさんと提携をして、そのジュースの絞る時に出る野菜の繊維質を原材料として作っています。ベルファームさんは、野菜の栄養素を壊さないように、独自の製法でジュースを搾っているため、絞りかすにも栄養の可能性がたくさん秘められています。さらには、それらのほとんどが繊維質です。今、「天然食物繊維」はとても必要なキーワードです。

ベルファームつくばより。工場長の永嶋さん(左)、鈴木社長(右)農場では有機JASを取得しケールやにんじんといった農産物を育てています。

これだけの素材を捨ててしまうのはもったいない、というメーカーさんの想いのもと誕生したのが、「にんじんのグラノーラ」(甘いものとスパイシーな味の2種類)、「ケールのグラノーラ」「クラッカー にんじん」です。すべて余計なものは入れず、化学調味料不使用、かつ野菜の素材本来の美味しさを感じられる味わいとなっています。クラッカーは、1パックでにんじん2本分の食物繊維が摂取できるんです。

海外からも寄せられるアップサイクルの相談

-地域で連携する、ということも意識されているのですか?

筒井さん:

もちろんそれはありますが、ある意味、地域の事業者様の課題をお聞きしているうちに食材が集まってきて、結果的にそういう取り組みになったといえます。私たちがアップサイクルについて商品パッケージやSNSなどで発信していることにより、今では茨城県だけでなく、日本全国、海外からもご相談をいただいている状況です。多彩で魅力的なアップサイクルの素材が集まるようになってきていますので、今後も商品開発を進め、ラインナップも増やしていく予定です。

-そうなれば、人々のビーガン食へのハードルもさらに低くなりますね。ご経営のレストランではビーガンメニューに対応しているとのことですが、導入当初から現在までに、お客さんの関心に変化は見られますか?

筒井さん:

日本全体としては、まだまだビーガン食の導入が進んでいないと感じますが、弊社のレストランにおいては、変化を感じています。二店のうちの一店舗は筑波大学の中にあるんですが、そちらでビーガン対応のメニューを推しています。やはりつくばという土地柄、国際的な機関や学生さんが多いため、関心を持たれる方が増えていますね。海外の方のビーガンメニュー利用が増えているのは当然として、日本のスポーツチームでビーガンを実践するアスリートの方々が利用してくださるなど、関心が高まっていることを感じます。

葉のマークがついているものがビーガンメニュー

-御社のブランドでは、ビーガンの規定にさえ含まれない「グルテン(小麦)フリー」まで採用しているのはなぜでしょう?

筒井さん:

「より多くの方々に手に取ってもらいたい」という願いがあるからです。アレルギーであったり、宗教上のきまりであったり、ビーガン、ベジタリアンであったり、そのような「食の多様性」に対応していくニーズを強く感じています。アレルギーにおいては、まずは小麦の除去が対応できるものでしたので、グルテンフリーを採用しています。

自分自身が子育てをするなかで、小麦粉よりは米粉を使うことが多く、その実地体験からもグルテンフリーは身体に優しい選択かと思えました。また、日本は世界の中で食料の自給自足率がとても低いんですが、この国で唯一自給自足出来るのが米なんです。ロシアとウクライナの戦争などから小麦粉が不足し、値段も上がっています。そのような意味からも、小麦から米に切り替えていく意味や必要性を感じています。

培ったノウハウを世界にも広げ、効率のよい食料分配を目指す

-商品にたくさんの思いを込められていることがよくわかりました。「食」の事業以外での社会課題に取り組まれていることがあれば教えてください。

筒井さん:

長女がダウン症ということもあり、障がい者の方々の雇用や仕事の創出に取り組んでいます。つくば市には、日本で一番大きい障がい者の方のための学校があります。弊社のレストランでは、その学校の耳の聞こえない学生さんたちがスタッフとして働いています。彼らはとてもアグレッシブで、キッチンだけでなく、「お客様とコミュニケーションを取りたい」という思いを持って、ホールにも出てくれています。口話といって、お客様の口の動きで言葉が理解できるんです。今後も、障がい者の方々を積極的に雇用していく予定です。

また、つくば市には、障がい者の方々や何らかの理由で学校に行けない方々の就労支援をしている「カラーズ」という施設があります。当事者の皆さんに弊社のレシピでクッキーを作ってもらい、イベントなどで販売するという活動も行っています。

-野菜のみならず、御社もまるごと社会課題解決のために存在されているのですね。最後に、将来への展望をお聞かせください。

筒井さん:

社会課題の解決を目指すとはいえ、食べ物は美味しくなければたくさんの人に普及しません。今後はさらに、いかに皆様が手に取りやすいものをかたちとしてお届けできるか、そこへの挑戦を続けていきます。

また、どうしてもビーガン食は値段が高めとなってしまいますが、弊社では、比較的手にとりやすい価格設定にしていきたいと考えています。同時に、少々矛盾するようですが、ただ安ければいいのではなく、海外のように、しっかりとした価値あるものにお金を払うという消費者意識を創り出すことも、私たちがやらねばならないことの一つと捉えています。そのような啓発活動も、リーズナブルな商品を作りつつ、並行してやっていきたいですね。

弊社の商品を幅広くお届けすることで、多くの方々に食についての課題意識を知っていただくことも、私たちにできることの一つです。先進国ではたくさんの食材が捨てられている状態ですが、世界で見ると40%の人々に充分に食が届いていません。ですので、私たちのノウハウを日本のみならず世界でも展開し広げてゆくことで、少しでも効率の良い食料分配が実現することを目指したいと考えています。

ー気軽にビーガンを楽しもうという気持ちになれました。今日はありがとうございました。

関連リンク

株式会社東京バル公式サイト:https://tokyobal.co.jp/