#インタビュー

【SDGs未来都市】富山県富山市|「コンパクトなまちづくり」を軸にSDGsを自分ごとに

富山県富山市 企画調整課 八木さん インタビュー

八木 新大朗
1988年2月、富山県富山市生まれ。県外の大学院修了後、2年間、塾講師として物理・化学の大学受験指導に携わり、2014年4月、富山市役所に入庁。市営住宅課、活力都市推進課、職員研修所を経て、2023年4月から企画調整課に所属し、SDGsの普及啓発に取り組んでいる。

introduction

2015年に北陸新幹線が開通し、首都圏からのアクセスの良さも向上した富山市。2018年には「SDGs未来都市」「自治体SDGsモデル事業」に選定されています。

富山市が未来都市に選定されるまでの背景、取り組みの内容を富山市役所企画調整課の八木さんにお話を伺いました。

SDGsに取り組むきっかけはそれまでのまちづくりにあった

‐まず、富山市についてご紹介をお願いします。

八木さん:

県の中央に位置する富山市は、富山県の面積の3割を有し、水深1,000mの富山湾や北アルプス立山連峰の3,000m級の山々に囲まれた自然豊かな環境が特長です。北陸新幹線の開通でアクセスも便利になり、ホタルイカや白エビなどの特産品も全国的に有名になってきています。

現在の人口は約42万人です。県民のおよそ4割が富山市に住んでおり、「全国住み続けたい街ランキング2020」でも第1位に選ばれました。

〈富山市地形画像〉

‐SDGsに力を入れるようになった背景を教えてください。

八木さん:

もともと富山市は、公共交通を軸としたコンパクトなまちづくり(コンパクトシティ戦略)を進めており、2008年に「環境モデル都市」に、2011年に「環境未来都市」に選定されています。

コンパクトシティ戦略を進める背景として、富山市が自動車依存の非常に高い地域であることが関係しています。夫婦で1台ずつ車を持っているのが当たり前ですし、コンビニに行くのも、場合によってはゴミを捨てに行くのも車を使うという方もいらっしゃいます。マイカーの利用が増えれば、CO2排出量も増えますし、運動量も低下するので健康寿命への影響も否めません。

これらの課題を解決するために富山市が進めてきた「コンパクトシティ戦略」では、各地域が公共交通で繋がっている「お団子と串」の都市構造を目指しており、実現に向けて「公共交通の活性化」、「公共交通沿線地区の居住推進」、「中心市街地の活性化」を3本柱として取り組んできました。

〈「お団子と串」のイメージ画像〉

公共交通の活性化の面では、富山ライトレールの開通・路面電車の一部を繋げることによる環状線化などにより、便利な公共交通を推進しています。また、公共交通沿線地区の居住推進では、公共交通沿線のエリアへの転居や宅地整備を行う場合に費用を助成することによって、このエリアへの居住を誘導しています。

そして中心市街地の活性化としては、グランドプラザの整備を行ってきました。グランドプラザはガラス屋根が特徴の全天候型の広場で、各種イベントが開催できる場所となっており、隣接する商業施設とともにまちなかの賑わいの核として中心市街地の活性化を目指しています。

〈ライトレール〉
〈グランドプラザ〉

このように様々な取り組みを進めてきましたが、その中で、市として抱える課題も多様化してきました。具体的には、「人口減少と超高齢社会」をはじめとし、「過度な自動車依存による公共交通の衰退」「中心市街地の魅力喪失」「割高な都市管理の行政コスト」「CO2排出量の増大」「市町村合併による類似公共施設」「社会資本の適切な維持管理」「平均寿命と健康寿命の乖離」などが挙げられます。

そこで、これまでのコンパクトシティ戦略にSDGsの視点を加えて、より発展させることで、多様化する課題の解決につながると考え、SDGsにも力を入れるようになりました。

「コンパクトなまちづくり」の取り組みにSDGsの視点を組み合わせる

‐現在の取り組みについて教えていただけますか?

八木さん:

「コンパクトなまちづくり」を軸に、

  1. 都市のかたち:公共交通を軸とした拠点集中型のコンパクトなまちづくりの実現
  2. 市民生活:ヘルシー&交流シティの形成と質の高いライフ・ワークスタイルの確立
  3. エネルギー:セーフ&環境スマートシティと自立分散型エネルギーシステムの構築
  4. 産業:産業活力の向上による技術・社会イノベーションの創造
  5. 都市・地域:多様なステークホルダーとの連携による都市ブランド力の向上

の5つを方針として掲げています。これらの方針を、SDGsの目標と組み合わせながら、すべてを連鎖させて取り組みを進めています。

たとえば、コンパクトなまちづくりを推進し、歩くライフスタイルを実現することは、SDGsの目標3「すべての人に健康と福祉を」に繋がります。また、公共交通を活性化させることは、今までマイカーがなくなかなか外出できなかった方にも、外出機会を提供できるので、目標10「人と国の不平等をなくそう」に繋がっていきます。コンパクトなまちづくりを起点として、シナジー効果、相乗効果を生み出すことによって、正のスパイラルを起こしていく。これがSDGsを推進していくうえで大事だと考えています。

その中で、主軸の「コンパクトなまちづくり」を実現するためには、まちなかを移動しやすい形に整えて公共交通を活性化する必要があります。そこで、先ほどお話した路面電車の他にも、シェアサイクルやグリーンスローモビリティを導入し、自家用車に頼らずとも移動できる環境を整えています。

特にグリーンスローモビリティ運行事業は、高齢者の新たな移動手段として期待されています。グリーンスローモビリティは、時速20キロ未満の公道を走ることができる電動車を活用した小規模の移動サービスです。現在、郊外の交通空白地域での運用を見据えた社会実験を行っていることに加え、2023年8月には、過去の実験結果を踏まえて駅北エリアで本格運行を開始したところです。

ただ、公共交通を整備しても利用していただかなければ意味がありません。そのため、若いうちから公共交通に慣れ親しんでもらおうと学校と連携し、「実際に公共交通を利用する」、「公共交通について学んでもらう」などの教育活動も展開しています。

また、65歳以上の高齢者の外出機会創出を目指して様々な施策をを展開しています。そのなかの一つに、おでかけ定期券を交付しており、これは、65歳以上の高齢者の方を対象に、市内のどこからでも中心市街地に出かける際に公共交通の利用料金を1乗車100円に割引するサービスです。

本来であれば岐阜の県境から中心市街地まで往復で2,000円以上かかるところが、おでかけ定期券を使えば200円で利用できるため好評です。

この事業により、交通事業者は乗客が増えますし、市街地まで出てもらえば、街の賑わいにも繋がります。利用者と市、そして交通事業者の三者にメリットがある事業となっています。

他にも、おじいちゃん・おばあちゃんが動物園や美術館、科学博物館などの公共施設をお孫さんと利用する際は入館料が無料になります。

また、まちなかの花屋さんで花束を買って路面電車に乗る際は、乗車券が無料になる取り組みもあります。このように、外出するきっかけや公共交通を使うきっかけを作り、まちなかにも賑わいを作れるようはたらきかけています。

公共交通を整備することは、市民の歩く機会の創出にもつながり、健康維持も期待できます。そして、「歩くライフスタイル」を推進するために、歩くことの楽しみを提供するアプリ「とほ活(富歩活」を導入しました。このアプリは、歩いた歩数や公共交通の利用、イベントへの参加によってポイントを貯めることができます。貯まったポイントに応じて、市内の高級ホテルの宿泊券やキッチン家電、地元プロスポーツチームの観戦チケットなどの景品が当たる仕組みです。

これらの取り組みにより、公共交通機関の利用者は増えていますか?

八木さん:

コロナ禍で自粛の期間があったので、全体の利用者数は減少しています。しかし、感染症流行前までの5年間で、富山地鉄鉄道利用者数は10%の利用者数増加がありました。公共交通利用者数が減少している自治体が多い中、富山市では上昇しているため、さらに取り組みを加速させていきたいと考えています。

とはいえ、いきなり車を完全に手放して、すべての移動手段を公共交通に切り替えるのは現実的ではないですよね。そこで、今まで移動手段は車1択だった中で、公共交通も利用する生活をしてみようとなるような工夫も施しています。

例えば、駅やバス停の付近にパークアンドライドという車や自転車置き場を設置して、公共交通に乗り換えやすくするなどです。

私自身も5年前までは、夫婦で1台ずつ車を持っていましたが、思い切って1台手放しました。やってみると、公共交通を使いながら生活することは、イメージしていたよりも不便なく生活できるなと実感しています。

市民・企業・自治体、それぞれが連携してSDGsを普及させていく

これらの取り組みは、市民の方に知ってもらうことも大切だと思います。富山市では、どのような普及活動を行っていますか?

八木さん:

2022年度に富山市の公式ホームページをリニューアルし、市民の方に、よりわかりやすい情報を提供しています。

他にも、富山市独自のSDGsロゴマークを作成したり、SNSで情報発信をしたりなど、普及ツールの作成も行っています。今年度は公式の富山市のLINEアカウントを設けて、初月で1万を超える登録者数がありました。市民の方に分かりやすい情報を届け、富山市の方向性やまちづくりの方向性も知ってもらい、行動を起こしやすくなるような環境づくりを進めていきたいですね。

また、2019年度から「富山市SDGsサポーター」という登録制度を設けています。こちらは、登録した個人・企業・団体にSDGsの情報提供や、実際のサポーターの取り組み事例をホームページ等で紹介するものです。2023年3月で1,000人を超えるサポーターの方、300を超える企業・団体が登録をしていただいています。

さらに2020年度からは一歩進んだ形で、自らの地域や自身の活動の場でSDGsを広めて実践していく人材育成を目指して、「SDGs推進コミュニケーター養成講座」を開始しています。こちらも2023年3月時点で147名の方を認定しております。

その他にも、SDGsウィークとして、その期間にSDGsのフォーラムや講演、パネルディスカッション、実際に小学生に取り組み事例を発表してもらうなど、イベントを集中させて普及展開に取り組んでいます。

富山市SDGsサポーターの活動の例をご紹介いただけますか?

八木さん:

2023年5月にG7の教育大臣会合が富山・金沢で開催された際の活動を紹介します。開催に伴い富山市では、SDGsの普及展開に力を入れている一般社団法人の環境市民プラットフォームとやまさんが、富山市の補助金制度を活用して、SDGs折り鶴プロジェクトを実施されました。

〈SDGs折り鶴プロジェクト〉

これは、まちなかの交通量が多いところで折り鶴をみんなで折って、代表の方が実際に会場まで届けにいく活動です。折り鶴の用紙も新しいものではなく、企業から提供された余ったチラシなどの資源を再利用しています。今までSDGsを気にされていなかった方も、この場を覗いて一緒に折り鶴を折りながらSDGsについてお話をされていらっしゃいました。

市民・団体・企業がSDGsを共通言語としてパートナーシップで取り組みをされた一例です。このような活動を市としても、改めて支援していかなければいけないと思っています。

SDGsをもっと「自分事」として取り組んで欲しい

‐今後の展望を教えてください。

八木さん:

富山市は、2012年に再生エネルギーの普及モデルとして小水力発電所を設置し、2021年度にゼロカーボンシティ宣言をしており、様々なステークホルダーと連携して環境施策の強化を図っています。また、センサーネットワーク事業のデータを活用し、子どもたちの見守り活動にも役立てています。このような様々な取り組みを進めていく中で、自治体だけでも企業だけでもSDGsは達成できないものだと強く感じています。やはり市民の方一人一人の取り組みが非常に大切です。

富山県はSDGsの認知度が、全国1位という結果もありました。ただ、肌感覚としては実際に取り組んでいる方はまだまだ少ないですね。

これからは、実際に行動していく方を増やす取り組みを進めることが大事だと考えています。SDGsをもっと「自分ごと」にして取り組んでいってほしいですし、究極的にはSDGsという言葉を使わなくても取り組んでいくことが理想です。

ご紹介したプロジェクトやサポーター、コミュニケーターの方々が、どのように連携していけるか、また、その方々の発案した企画が自走していけるよう、自治体としてどのように支援できるかが大事だと思っております。

‐認知度を向上させながら、自分事としてSDGsの普及に取り組んでいく。今後さらに発展していく街の未来が見えてきます。本日は貴重なお話をありがとうございました。

関連リンク

富山市HP:https://www.city.toyama.lg.jp/