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株式会社SAMURAI TRADING|卵の殻からゼロエミッションを可能にした次世代プラスチックと紙の秘密に迫る

株式会社SAMURAI TRADING

株式会社SAMURAI TRADING 櫻井裕也さん インタビュー

櫻井 裕也

平成5年 株式会社 協和食品に就職

平成8年 株式会社さくらフーズ設立

平成29年 株式会社SAMURAI TRADING設立

introduction

SDGsが発表される前から「環境」がキーワードになることを予測し、製品の開発を進めてきた株式会社SAMURAI TRADING。卵の殻を原料に使ったバイオマスプラスチックSHELLMINEは、素材そのもので「グッドデザイン賞」を受賞し、パルプの使用を大幅に削減した紙素材CaMISHELLは特許および登録商標を取得。さらに、「エコ玉プロジェクト」のリーダーカンパニーとして、地域のSDGsを牽引してきました。名実ともに、SDGsを体現する企業の取り組みに迫ります。

なぜアメリカのスーパーマーケットの売り場は地味に映ったのか

–まずは事業概要について教えてください。

櫻井さん:

食品添加物販売と環境関連事業を主軸とし、卵の殻とポリプロピレンなどのプラスチックを混ぜ合わせることにより、燃やせるごみとして使用可能なバイオマスプラスチックであるPLASHELLとSHELLMINEの開発・製造を行っています。

また、卵の殻を種々な紙繊維と混合した次世代の紙素材・CaMISHELLも展開しています。原料に卵の殻を代用することで、バージンパルプの伐採抑制とパルプ消費の大幅削減を実現し、土壌・森林保護に大きく貢献できます。

私は元々デザートの製造会社を経営していました。2005年頃からゼロエミッションの一環として材料として使う卵の殻の活用を進めていて、当時は畑の肥料や家畜の飼料として使っていたのです。今のPLASHELLやCaMISHELLといったエンドユーザー向けの商品を販売したのは2017年あたりからですかね。

–なぜ、デザート会社から現在の事業を展開していこうと思ったのですか?

櫻井さん:

時代の流れとして、「環境」が必ず日本でもキーワードになってくると思ったからですね。

デザート会社にいた頃、アメリカで卵を使わないマヨネーズを製造していた時期があって、現地にもよく視察に行っていました。

そのなかで、スーパーマーケットの売り場を見た時、日本のカラフルな売り場と異なり、なんとなく茶色というか、華やかじゃなかったんです。その理由は、お弁当やサンドイッチが紙のパックに包まれて販売されていたからでした。

「なぜこんなことをするんだろう。もしかして石油製品を使わないようにしているのかな」と漠然と考えていた時に、たまたまゴア副大統領(当時)主演のドキュメンタリー映画『不都合な真実』を観てリンクしたんですよ。いつになるか分からないけど、世界は環境を意識した方向へ舵を切っていくんだと。

そして2015年にSDGsが発表された時には、これまでとは違って、世界的に本気で取り組むことになるだろうと思いました。ただ、それでも事業として踏み込むことは非常に怖かったですね。開発をしながら様子を見ていましたが、講演などで企業の取り組み姿勢が明らかに変わってきたのを感じ、そこで勝負をかけることにしました。

ちなみに、SAMURAI TRADINGはアメリカで作っていたマヨネーズの製品名である「SAMURAI MAYO」からとっています。僕の名前とも音が似ていることもあって企業名に使いました。

燃やせるプラスチック・PLASHELLとSHELLMINE

–ここからは、PLASHELLやSHELLMINEの特徴について教えてください。

櫻井さん:

PLASHELLは、お弁当箱のおかず用の容器やクリアファイルなど、プラスチックそのもののような質感と見た目が特徴です。音もプラスチックのようです。

そしてPLASHELLは熱可塑性という特性があります。これは、温度をかけると溶け、冷やすと固まる性質です。例えば、ゼラチンで作るゼリーのように、加熱して溶かし、冷蔵庫で固めることができ、再加熱すると再び溶けます。

SHELLMINEは陶器のような質感を持ち、食器類なども作ることができます。PLASHELLが熱可塑性であったのに対し、SHELLMINEは熱硬化性という特性があります。例えば、卵を熱すると茹で卵になりますが、一度茹で卵になると元に戻すことはできません。熱をかけて一度固まると、再び戻らない性質が熱硬化性です。

このように、熱可塑性と熱硬化性の違いによって、PLASHELLとSHELLMINEが異なる用途で使われています。

特にSHELLMINEは、電子レンジ対応が可能である点で注目されています。例えば、一般的な幼児用のキャラクターの装飾がされているような食器はメラミン食器と呼ばれるもので、プラスチック製であるため耐熱性が低かったのです。SHELLMINEは卵の殻を含んでいるため、耐熱性が高く、お子様用のお皿でも電子レンジで使うことができます。

新江ノ島水族館 あわたんカフェで使用されているSHELLMINEのお皿)

SHELLMINEは素材自体が評価され「グッドデザイン賞」を受賞しました。通常グッドデザイン賞はデザインや形状を見られることが多いのですが、素材自体が評価されることは珍しいことなのです。

「白い紙」も生み出せるCaMISHELLとFSC認証

–CaMISHELLにはどのような特徴がありますか。

櫻井さん:

CaMISHELLの特筆すべき点は、ヴァージンパルプと混ぜることによって、白い紙を作れることです。コピー用紙がどうして白いのかというと、炭酸カルシウム(填料:てんりょう)を入れて透けないようにしているからです。鉱物系の炭酸カルシウムは山から削り出して粉末にして入れますが、環境破壊につながることもあります。

このような背景があるなかで、炭酸カルシウムなどの成分を含む卵の殻を使うことは、環境にも優しい選択になりますし、原料も豊富です。

また、卵の殻は無機物なので腐りません。日本は多湿の国なので、有機物は水分があると腐ってしまいますよね。

そういった再生紙は雑誌や包装紙、紙袋など商業印刷に向かないこともあり、汎用性を考えるとやはり卵の殻が一番いいと思っています。

現在、技術的には卵の殻を60%まで含めることが可能です。これから段階的に混入率をあげていく予定です。

突然ですが、みなさんが普段使っている紙は、違法な伐採や労働、児童労働で作られた製品ではありませんか?適正価格で購入された紙ですか?もしそのような問題があれば、SDGsとは言えませんよね。

CaMISHELL(カミシェル)は、FSC認証がされたバージンパルプを使っています。違法伐採がない、もし木を伐採したらそこに木を植えていく、フェアトレードであることが担保されるなど、トレーサビリティのある紙なんですね。

このFSC認証は世界標準になりつつあり、アメリカをはじめ、世界の大企業はFSC認証紙に切り替えています。最近は日本でもコピー用紙、ティッシュなど、様々な商品で見かけるようになりました。

他にも多くのカフェチェーンやファーストフード店でも使われているので、行く機会があればよく見てください。マークが入ってますから。

僕たちは、卵の殻を使ってパルプの使用量を抑制しながら、持続可能な原料を使ったFSC認証紙を提案しています。

FSC認証ではない紙の方が安いことは事実です。ただ、安ければいいだろうっていうのはもう終わったんじゃないですかね。やっぱり、そういったところまで配慮したものを作っていかないと、社会から選ばれなくなってくると思います。

まだ誰もSDGsを知らない中啓蒙活動から始めた

–SDGsが浸透していない頃から取り組まれていたのですね。どのように認知させていったのですか?

櫻井さん:

私の事業と同時進行で「エコ玉プロジェクト」というバイオマスプラスチックの普及とSDGsを推進する団体を設立しました。というのも、やっぱり僕らがいくら環境に配慮した商品を開発しても、SDGsが当たり前に世の中で機能しないと、評価されないんですよね。事業として継続しなかったら意味がないので。

海洋プラスチック問題に取り組むための業界横断的なアライアンスである「クリーン・オーシャン・マテリアル・アライアンス」が2019年に政府主導で設立されました。私も当初から参画していましたが、同じ業界のライバル同士が参加していたので、手を取り合って前に進むのか正直疑問に思っていました。

このような取り組みは即断即決できないと社会にインパクトが与えられません。それならば独自に進めていけば良いと考え、「エコ玉プロジェクト」を設立したのです。

僕が委員長で、埼玉県のカネパッケージ株式会社や株式会社ベジテックに声をかけてこの3社でリーダーカンパニーとして取り組んできました。

もう本当にボランティア団体みたいな感じですし、SDGsの認知向上に関しては完全無償です。

当時、SDGsの認知度は非常に低く、知っている人は1%いたのかなというぐらいでした。僕の事業の話をしても「変わったことを言い出した」とか「会社として成立するのか?」とか、周りからはずいぶん心配されましたね。しかし、意識の高い企業や人々との話し合いを通じて、今後絶対に必要となると確信し、啓発活動を続けていきました。

シダックスの志太会長にも協力をお願いし、彼の名前が後押しとなり、多くの企業や地方自治体が賛同して参加しました。現在は56団体ぐらいが参加してくれています。年会費はなく、賛同できるものだけに参加してもらう緩やかな体制づくりを行いました。

その代わり、参加企業にお伺いを立てることをせず、僕たちがやりたいことを素早く決めて様々な取り組みを行うことができました。

そのような活動をしつつ、PLASHELLやCaMISHELLを導入してくれた企業も出てきて、事業も軌道に乗ってきています。

–エコ玉プロジェクトではどのような活動をされているのですか?

櫻井さん:

カネパッケージさんが、ずいぶん前からフィリピンでマングローブ植林を通じて環境保護に力を入れていたので、私たちも一緒に植林活動に取り組んでいます。

2月の植林はルフィ事件のせいで、マスコミに席を独占されてフライトが不可能になってしまいました。そのため、2月はカネパッケージ現地スタッフ対応としました。10月に再び参加する予定です。現在、名刺の作成を請け負っており、1箱の名刺を作るごとに、マングローブ1本を発注者の名前で植える活動を始めました。今年の目標は2万箱です。一概には言えないのですが、マングローブ約1本で、年間10KgくらいのCO2を吸収できます。それにより20万キロ、年間200トンのカーボンオフセットが可能になります。これは大きいですよね。

マングローブは海岸線に沿って植えるので、津波の際にコンクリートに頼らない防波堤として機能します。また、根元は海の生き物の住処になるので生物多様性の保護にも役立ちます。

平時にはCO2吸収が行われ、海岸線に植えられたマングローブが生態系を活用した防災・減災が可能になるのです。

<植林している様子>
<大きくなったマングローブ林>

一部には海外で植林するのではなく、日本国内で実施した方が良いのではないかとの意見もあります。しかし、地球全体に良い影響が多いフィリピンでのマングローブの植林活動を推進していますね。特に、津波の影響を受ける可能性が高いので優先的に取り組んでいます。

他には、障がい者施設の人たちと、フードロスの削減にも取り組んでいます。

食品問屋さんとタイアップして、賞味期限が短くなって出荷できなくなった食べ物を障がい者施設で詰め合わせにして、イベントを開催して販売しています。

この活動の大きな目的は、フードロス削減だけでなく、障がい者施設で働く方たちの給料を上げることです。彼らの時給って100円くらいなんですよ。

彼らにもできる仕事があるし、昨今のインフレの事情もあって、時給を300円くらいには上げることを目指してプロジェクトを始めました。

自社でも、PLASHELLを用いたノベルティの成形から袋詰めまでの全ての作業を、障がい者施設で行っています。

当たり前のことをやってこなかったから「SDGs」は生まれた

–今後の取り組みについてはいかがですか。

櫻井さん:

3月に埼玉県入間市と協定を結びまして、スーパーマーケット「いなげや」さんで家庭用の油の回収を始めました。いなげやさんに回収ボックスを置いて、僕たちは油を回収し、それを原料にベジタブルインクを作っていく取り組みです。そこから得られた収益を入間市さんに戻し、環境問題の解決に貢献できるような活動に使っていただきます。

ゆくゆくは、入間市を走っている循環バスとかトラックの燃料をバイオディーゼル化して、少しでもCO2の削減に繋げることを目的としています。

–数歩先をいった取り組みですね。最後に読者へメッセージをお願いします。

櫻井さん:

Z世代やα世代の子どもたちは、経済成長の中で起こった気候変動などの問題に直面していて、割を食っているように感じる人たちが多いと思います。自分たちがそう感じている以上、次の世代にも同じ思いをさせないよう、しっかりと考えて行動してほしいと思います。それが持続可能性ということになるのではないでしょうか。

先日、ある企業のサステナビリティ部門責任者が、小学5年生の子どもに「SDGsの責任者になって、気候変動に貢献するために取り組むんだよ」と話したそうです。小学校でもSDGsについて学習していますよね。

そのお子さんはこう答えました。

「パパ、そんなこと別に言うことじゃなくて当たり前のことだよ。みんなが当たり前なことをやってきてないからSDGsって言葉が生まれたんだよ。」

今まで当たり前のことをやってこなかった。考えてこなかったってことを今の子どもたちの方が知ってますよ。持続可能な世の中をずっと後世に残してあげたいなっていうのが僕の思いです。

–胸に刺さる言葉ですね。貴重なお話をありがとうございました。

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