#インタビュー

NPO法人トランジション・ジャパン|「できる人が・できるだけ」で持続可能な町をつくる

NPO法人トランジション・ジャパン 小山 宮佳江さん インタビュー

小山 宮佳江

地に足がついた暮らしをしたくて、2008年に藤野(相模原市緑区)のパーマカルチャーセンタージャパンで学び、翌2009年に藤野に移住。同時に始まった地域コミュニティで持続可能な暮らしを実践する市民活動、トランジション藤野とNPO法人 トランジション・ジャパンの活動にも加わり、2013年より共同代表となる。内なるトランジションに重心を置き、コミュニティづくり、つながりを取り戻すワーク、パーマカルチャーの講座などを行う。生命という地球、世界という地球、自分という地球の声を発信している。

Introduction

NPO法人トランジション・ジャパンは、日本各地にあるトランジション・タウンの活動をサポートしている団体です。トランジション・タウンとは、持続可能な生活へと移行(トランジション)する市民活動で、現在は、北海道から沖縄まで約70もの活動グループが存在しています。各トラジション・タウンでは、ただエネルギーを消費する生活から一歩抜け出し、地域の人たちと助け合って、持続可能な社会へ移行していく新しい生活様式を目指しています。

今回は、法人の共同代表で理事を務める小山さんに、活動内容や活動に対する想いを伺いました。

一人では立ち向かえない環境問題を、地域のみんなで解決する

–本日はよろしくお願いします!早速ですが、まずはどのような団体か教えてください。

小山さん:

私たちは、日本にあるトランジション・タウンの活動をサポートしたり、普及・啓発を行ったりしている団体です。イギリス発祥のトランジション・タウンの活動を日本でも広めるために、2008年6月に発足しました。

–トランジション・タウンとはどのような取り組みなのでしょうか?

小山さん:

トランジション・タウンとは、限りある資源に頼り環境破壊の進む「従来の生活」から、環境に優しい「持続可能な生活」へと移行(トランジション)するために、市民自ら各地域での暮らしを考え、行動し、変化を起こそうという運動のことです。2005年にイギリスのトットネスで、パーマカルチャー(※)講師のロブ・ホプキンスさんが提唱したのが始まりです。人間優位ではなく、人と自然と生き物とが共存できる街づくり、というイメージですね。

パーマカルチャーとは

パーマカルチャーとは、パーマネント(永続性)と農業(アグリカルチャー)、そして文化(カルチャー)を組み合わせた言葉で、永続可能な農業をもとに永続可能な文化、即ち、人と自然が共に豊かになるような関係を築いていくためのデザイン手法です。

–まさにSDGsを象徴するような活動ですね。

小山さん:

そうですね。気候変動や石油の産出量がピークを迎える問題に対して、個人ひとりでできることってとても小さなもののような気持ちになります。ですが、同じ地域の住人たちで力を合わせて、手の届く活動を地道に積み重ねていけば、いつか大きな問題をも解決できるという考え方に基づいています。

–トランジション・タウンという活動があるなんて、初めて知りました。ぜひ詳しく教えてください!

SDGsは「社会実験」ハードルを下げてどんどん挑戦する

–具体的に、トランジション・タウンではどのような活動をするのですか?

小山さん:

では、日本で一番最初にトランジション・タウンの活動が始まった旧藤野町(現在の相模原市)の事例である、「トランジション藤野」での活動ついてご紹介しますね。

今でも「トランジション藤野」で行っている主な活動には、「藤野地域通貨よろづ屋」「藤野電力」「森部」などがあります。それぞれの活動は、ワーキンググループという有志の方達の集まりによって運営されているんですよ。

–学校の部活動のようなイメージですか?

小山さん:

そうですね。ただ、ワーキンググループはもっと自由度が高いですよ!

トランジション藤野では、「やりたい人が・やりたいことを・やりたいだけやる」という考え方を大切にしています。社会実験と称してとりあえずやってみる。無理をしない。流れに任せながら、地域のなかのリソースをいかして活動しているんですよ。

–実験だと思うと、やってみるハードルが下がっていいですね!最初の、「藤野地域通貨よろづ屋」では、藤野独自のお金をやりとりするのですか?

小山さん:

お金として紙幣を発行するのではなく、通帳で、それぞれが出来ること・得意なことをやりとりしているんです。単位は萬(よろづ)です。例えば、AさんがBさんに畑仕事を1時間で1,000萬でお願いした場合は、Aさんの通帳には-1,000萬、Bさんの通帳には+1,000萬と記入し、合意の証としてお互いの通帳にサインをします。

–自分に出来ることで人を助けると、通帳にどんどん貯まっていくのですね。

小山さん:

助けてもらったらマイナス分誰かに恩返しをしたくなるし、プラスが貯まっていくと嬉しくて、さらに他の人を助けてあげたくなる。とてもいい循環ですよね。顔の見える間柄で、得意なモノやコトを取引していくと、相手の深い知識に触れたり、意外な特技を持つことを知れたりして、絆も生まれていくんですよ。

–昔から日本にあった、ご近所同士の助け合いみたいですね。

小山さん:

そうですね。他にも、「藤野電力」では自分たちでエネルギーの自給自足に挑戦し、小さなソーラーパネルを組み立てて電気をつくるワークショップを月イチで行なっています。電気もプランターで育てる野菜のように自分でつくることができるんです。藤野で始まった取り組みですが、今や全国各地、世界でもワークショップを開催するなど展開しています。

「森部」では、森と住民とがどうしたら共存できるのかを研究していて、メンバーたちは、週末や休日に山に入って、森の再生に取り組んでいます。森を地域の人といっしょに整備してこどもたちが遊べる場づくりをしていたり、薪ストーブユーザーが週末に集まって、薪作りをするチームをつくったりして活動しています。

–すごいです。皆さん自発的に参加しているから、活動内容もどんどん濃くなっていくのですね。

DIY経験から多くのことを学び、生活に取り入れていく

–ワークショップという言葉が何度か出てきましたが、トランジション・タウン活動の中でも、特に重視されている取り組みなのでしょうか。

小山さん:

そうですね。トランジション・タウンでは、「色んなものを自分で作る」という経験づくりも大切にしています。例えば、私の住む地域では、お味噌作りやお醤油づくりもやっています。ちょうど週末にメンバーとお味噌作りをするので、今日も米麹の仕込みをしてきたところなんですよ。

あとは、家を建てるメンバーがいれば、ワークショップと称して壁の漆喰をみんなで塗ることもあります。実は我が家も、メンバーが漆喰を塗るのを手伝ってくれました。家づくりは、大工さんの手が必要な場所も多いですが、自分たちでできる部分は自ら手を加えました。木材も、地域のものを使っているんですよ。

–漆喰を塗る経験なんて、滅多にできないことですよね。ワークショップの参加者からは、どのような反応がありますか?

小山さん:

家にしてもお味噌にしても、作る前は「本当に自分で作れるのかな?」思うようですが、いざやってみると、「案外できてしまった!」と、驚かれることが多いですね。自分でものを作れた達成感がありますし、素材や成り立ちについて学べたことで、「もっと自分ができることはないか」と考えるきっかけになるようです。

–ひとつの物作り体験をきっかけに、考え方が変わるんですね。

小山さん:

かくいう私も、オフグリッドと呼ばれる、電力会社からの送電線から電力供給を受けない生活をしています。ソーラーパネルで発電した電気をバッテリーに溜めてあかりを灯し、冬は薪ストーブで部屋を暖めています。

私たちは当たり前のように電気を使っていますが、「電気は本当に電力会社から買わなければいけないのか?」と考えることが重要です。太陽や風などの自然エネルギーを利用すれば、自分たちでも電気が作れます。そこに気づけば、電力会社から電気を買うシステムから一歩抜け出すきっかけにもなると考えています。

–究極のDIYは、暮らしのエネルギーを自給することなのかもしれませんね。

いつか日本全体が1つのトランジション・タウンになることを目指して

–トランジションタウンの活動は、誰でも参加できるんでしょうか?

小山さん:

どなたでも参加できます。小さなお子さんからおじいちゃんおばあちゃんまで、一緒に活動していますよ。

–幅広い年代の方が参加しているのですね。どうしたら活動に参加できますか?

小山さん:

お近くのランジションタウンのイベントに参加するか、ないところは立ち上げてみてください!立ち上げの登録にはお金もかかりません。

「やりたい事を・やりたい人が・やりたいだけ」という考え方を大切にしているので、登録したからには何か活動をしなければ!と頑張りすぎる必要もありません。

介護や育児で活動を離れてもいいので、また活動できる状態になれば、好きなタイミングで戻ってきてほしいと思っています。

–自分のペースで、興味があることに参加できるのはとてもいいですね!

小山さん:

誰もが最初は初心者ですから、緊張せずに飛び込んでみてくださいね。

また、災害があったときには、地域の人たちの繋がりが特に大事になりますよね。トランジション・タウンの取り組みをきっかけに、地域の中で絆が生まれて、自分の居場所もできていきます。お住まいの地域についてより知るためにも、参加してみるといいかも知れないです。

–自分の住んでいる地域に、トランジション・タウンの取り組みがあるのかも気になってきました。では最後に、今後の展望について教えてください。

小山さん:

これからも、各トランジション・タウンの活動を活性化させていきたいですね。

今は地域ごとに活動していますが、チームがもっと増えるにつれて点と点とが繋がって、ひとつの大きなチームになるといいなと願っています。

–持続可能な地域の取り組みが繋がって、相乗効果を産むことを期待されているのですね。

本日は貴重なお話をありがとうございます!

関連リンク

NPO法人Transition Japan:https://transitionjapan.net/

藤野地域通貨よろづ屋:https://fujinoyorozuya.jimdofree.com/

藤野電力:https://fujino.pw/

森部:http://ttfujinomoribu.blog.fc2.com/