#インタビュー

つると合同会社 | 美しい循環を生み出す着物リメイク

つると合同会社 大方知子さん 宇波滉基さん インタビュー

大方 知子

1981年、東京都杉並区生まれ。学生時代にインドやドイツでのボランティア経験ののち、国際青年環境NGOにて活動。ベンチャー企業等での業務経験を経て、2008年より「reduce」をコンセプトとしたアクセサリーブランドを始める。その後、2009年にソーシャルビジネスの創出を目的とした会社を創業し、『リユース×福祉作業施設×地元女性×チャリティー』で行うものづくりに取り組む。2012年に着物が大量に廃棄されている状況を知り、また自然と寄り添い育まれてきた和文化への関心が高まり、2015年より 「TSURUTO」をスタートし、2020年に法人化。現在に至るまで、つるとのトータルプロデューサーとして活動している。

宇波 滉基

青森県十和田市生まれ、八戸市育ち。20歳のころニュージーランドにてギャップイヤーを過ごす中、”物”と”生活”の関わりに強い関心を抱く。 帰国後、ライフスタイルブランド「TSURUTO」と出会い、アートディレクション・撮影・コピーライティング など、クリエイティブ業務を中心に関わる。

Introduction

鶴が大空を羽ばたく姿に重ね、日本の文化が世界へ羽ばたき、海を越え渡っていくことをコンセプトに名付けられた「TSURUTO」日本の文化・精神・技術を持った素晴らしい製品を世界へ発信し、多くの方々に届けることを目指して活動しています。今回は、TSURUTOのクリエイティブディレクター宇波さんとブランドプロデューサー大方さんに、製品に込められた想いや今後の展望について伺いました。

着物リメイクを中心に活動する「TSURUTO」

-まず、事業について教えてください。

大方さん:

弊社は、着物のリメイクを中心に事業を展開している会社です。主にオンラインストアやイベントでのポップアップショップでリメイクの依頼を受けています。事業の根本には、サステナブルなライフスタイルを提案する「ライフスタイルプロデュース」という考え方があり、日本の古き良き伝統の中から美しい循環をつくっていくヒントを探り、世界に発信しています。

-これまでに、どのくらいリメイクの依頼があったのでしょうか?

宇波さん:

着物の形や柄をそのまま活かせるワンピースやコートといった衣類に加えて、サコッシュやハンカチなどの小物も合わせると、600〜800点ほど作成しています。1年半前から本格的にオンラインでの着物リメイクのサービスを始め、多くのご依頼をいただいています。

-どのような方から依頼があるのでしょうか?

宇波さん:

幅広い世代からご依頼いただいていますが、特に40〜50代の方が嫁入りのときに親から譲り受けた着物をリメイクされることが多いですね。また、親族が他界したことをきっかけに、着物リメイクを依頼してくださる若い方もいらっしゃいます。

-実際にリメイクする際の流れを教えていただけますか?

宇波さん:

まずお客様から、預けていただく着物のストーリーや想いを聞いて、こちらで用意したパターンの中からどの商品にするかを選んでもらっています。

通常洋服をつくるときは、長いロールの反物から服のパーツを切り出す作業が必要ですが、着物リメイクでは職人が手作業で着物をほどいて反物にします。

-機械化ができない作業なのでしょうか?

大方さん:

生地の産地ごとに質感や伸び縮みの度合いが違ったり、柄のどの部分を切り取るか考えたりするため、ひとつひとつ手作業でしか行えません。

-それだけ手間がかかるとなると価格も高くなってしまう印象があります。

大方さん:

そうですね。工程を丁寧に行い、且つ1点ものとなるとどうしても値段が高くなってしまいます。とはいえ、手作業で行う部分以外を効率化するなど、できる限り値段を抑えられる工夫をしています。

着物リメイクを続けてきたからこそ見えてきた人とのつながり

-受け取った方からはどんな声が届いていますか?

大方さん:

お婆様がずっと大事に身につけていた着物を預けてくださった方は、「また別のものになって身につけられることで、祖母をそばに感じられる」と泣いて喜んでくださいました。

また、亡くなったお母様から嫁入り道具で持たされた着物が何十年もタンスに眠っていたという方は、リメイク後、洋服として着られるようになったことで、長年の心のつかえがとれたと仰ってくださいました。

単にアップサイクル、リユースで寿命が延びるだけでなく、着物ひとつひとつのストーリーを通して、家族の絆や人とのつながりを感じています。

宇波さん:

他にも、昔一緒に住んでいたお婆様からもらった着物をアロハシャツにリメイクして普段着として愛用してくださっている20代の男性もいます。

過去にその着物を使っていた人を思い出して懐かしむ方もいれば、肌触りもよく蒸れにくく、おしゃれだから普段遣いしているという方もいて、いろんな楽しみ方をされていますね。

大量の着物が破棄されている現状を知り、何かできないか模索してたどり着いた着物リメイク

-着物リメイクに着目したきっかけを教えてください。

大方さん:

もともと私は、「ファッションからエコロジーを」という考えのもと、古着をアップサイクルしたアクセサリーづくりを行っていました。これは2008年頃にファッション業界にはびこった「大量に生産して大量に消費。そして余ったら大量に廃棄」という負の連鎖を知ったのがきっかけです。

-初めは古着からのスタートだったんですね。

大方さん:

エコロジーブームの後押しや、作ったアクセサリーを百貨店に置かせてもらったり雑誌に掲載いただいたりと露出が増えたこともあり、「アップサイクルした商品でもこんなにかわいいものがつくれる」とお客様に感じてもらえたと思います。ただ、それでも廃棄された服の山が減るわけではありません。手放された古着をアップサイクルするだけでは、環境問題の根本的解決にはつながらないと気付いたんです。

ファッション自体がもっとサステナブルになるためには、モノを大切にする気持ちが必要だと思います。それがない限りゴミは増え続け、アップサイクルし続けなければならず、いつまで経っても負の連鎖を断ち切ることはできません。

-確かに多くの人にモノを大切にする気持ちが芽生えなければ、解決は難しそうです。

大方さん:

そんな中で、古着の素材を仕入れていたリサイクルセンターの方から「破棄された着物を何かに使えないか」と話がありました。

着物には、「お直しすれば次の世代も着られる」、「古くなったらおむつや雑巾になる」というように、長い歴史の中で育まれてきた美学があります。モノを大切にする価値観を世界に発信していくツールとしてピッタリだと感じ、自然と着物に意識が向くようになってきました。

職人が減っている織物の世界。いいものを次の世代に遺していきたい。

-最後に、今後の展望について教えてください。

宇波さん:

これまで蓄積してきたデータをもとに、手作業以外の工程をさらに効率化し、より手軽に着物リメイクを楽しんでいただけるようにしていきたいです。

同時に、私たちが良いと思った生地を多くの方々に見てもらいたいという思いもあります。

そのために、私の地元である青森の日本三代刺し子と呼ばれる「こぎん刺し」や「菱刺し」とコラボレーションしたり、沖縄の「芭蕉布」や鹿児島の世界三大織物「大島紬」などの産地の織、柄、色使いなどで世界観を表現するなど、生地自体にスポットライトを当てることを考えています。せっかく継いできた模様の型が消えてしまわないよう、データとしても遺していきたいですね。

また、コロナで話は延びていますが、バンクーバーファッションウィークの運営の方から、「着物を使った服でコレクションに出展しないか」とのお声もいただいています。1点ものでのチャレンジを見据え、具体的な行動をしていきたいです。

大方さん:

着物は長い歴史のある衣服ですが、現代では採算が合わなかったり、職人が減っていることでつくれなくなっているものもあります。

日本には、質感や柄の素朴さが魅力の新潟の「小千谷紬」、夏に着るとサラっとして気持ちいい「塩沢紬」といった素敵な着物たちがたくさんあります。これを次の世代につないでいくためにも、新たな需要を掘り起こしていきたいですね。

-直近で開催予定のイベントなどはありますか?

宇波さん:

5月15(日)、29(日) 東日本橋で試着相談会を行います。完成品を試着してもらって、オンラインストアだけではわからない手触りや着心地を体感していただけます。当日着物を持参してもらえれば、どんなリメイクができるか提案します。

また、5月13日(金)の20時から、NHKの「あしたも晴れ!人生レシピ」という番組の中で、着物リメイクを紹介してもらう予定です。ぜひご覧ください。

-イベントにコレクションに、新たな挑戦と発信を続けてられていて、パワーを感じます。
本日は貴重なお話をありがとうございました。

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TSURUTO:https://www.tsuruto-online.com/