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バーチャルウォーターとは?食品ごとの計算方法と日本の問題点と解決策

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私たちが普段食べている肉や野菜は、生産する過程でどのくらいの水が使われているのか考えたことはありますか。植物は水を吸って生長し、動物はそれを食べて大きくなるように、食べ物が食卓に上るまでには、実は多くの水が必要なのです。

この目に見えない水の量を量り、世界の水資源を有効に使うために用いられるのがバーチャルウォーター(仮想水)という概念です。この記事では、バーチャルウォーターから見えてくる問題や日本と世界の現状と解決策、私たちにできることを解説します。

バーチャルウォーター(仮想水)とは

バーチャルウォーター(仮想水)とは、輸入した食料を自国で生産すると想定したときに必要な水の量のことです。この概念は、ロンドン大学東洋アフリカ学科名誉教授のアンソニー・アラン氏により1999年に紹介されました。もともとは「水資源が地域によって偏っていても、食料の輸出入を行うことで緩和することができる」という仮説から始まった議論でしたが、現在では水問題を考える際のツールとしても用いられています。

牛肉を輸入する場合を考えてみましょう。牛はトウモロコシなどの飼料を食べて育ちます。トウモロコシは、1キログラムを育てるのに1,800リットルの水が必要です。牛が食肉になるまでに食べるトウモロコシの量を計算すると、牛肉1キログラムにつき約20,000倍もの水が使われているといわれています。

これをもし、輸入する国が自国で牛肉を生産するとします。この場合、輸出する側で使われる水と同等の水が必要となるため、膨大な量を消費しなければなりません。言い換えれば、輸入した国は、他国の水を大量に消費していることとなります。※[1]

バーチャルウォーターは一般的に、

  • 食物などを輸出する国→バーチャルウォーターを輸出する
  • 食物などを輸入する国→バーチャルウォーターを輸入する

と表現されます。

バーチャルウォーターの計算方法

バーチャルウォーターを計算すると、食品が生産されるまでにどれだけの水が使われているのかが分かります。

「炊いたご飯のお茶わん一杯分のバーチャルウォーター」を例に、解き方を解説していきましょう。

バーチャルウォーターの計算式

①バーチャルウォーター基準値(㎥/t)×②食品重量(t)×③1,000(L/㎥)=バーチャルウォーターの量(L)

①ご飯を炊く前の「米」バーチャルウォーターの基準値を調べる

バーチャルウォーター基準値(㎥/t)は、その食品を生産するのに使用する水の量を表したものです。

環境省が公開している「バーチャルウォーター(VW)量 一覧表(PDFファイル:40KB)」にバーチャルウォーターの目安が掲載されています。

米は3,700㎥/tであることが分かるので、これを計算式の①に当てはめます。

②調べたい食品の重量をトンに変換

次にお茶わん一杯のご飯の重量を量ります。仮に150グラムだった場合、使われている米の量は一般的に約半分の75グラムです。

この75グラムをトンに換算すると0.000075トンになります。

 これを計算式の②に当てはめましょう。

※1グラム=0.000001トン

※1キログラム=0.001トン

③トンで計算した数字をリットルに換算して計算

①3,700㎥/t×②0.000075t×③1,000(L/㎥)=④277.5L

計算すると、277.5リットルになります。これは、大きめの浴槽一杯分ぐらいの量です。お茶わん一杯のご飯に多くの水が使われていることが分かります。

環境省のサイトでは、お茶わん一杯のご飯の量をあらかじめ単位あたりの重量 (g)として設定して、バーチャルウォーター量を計算できるフォームがあります。上記の計算を自動で行ってくれるので、大体の目安を知りたいときに便利です。

バーチャルウォーターによって見えてくる問題

バーチャルウォーターという概念は、水資源の豊富な国と乏しい国があっても、食料の輸出入を行うことで問題を軽減できるという議論から始まったことは前に述べた通りです。つまり、世界の市場の中でバランスが保たれている状態が理想です。しかし、現実にはいくつかの問題が浮かび上がってきます。ここでは、2つの問題について見ていきましょう。

問題①水不足

世界の人口が増加し続ける中、淡水資源は2030年までに必要量の40%まで不足すると推計されています。※[2]そこで、バーチャルウォーターを調べると、もともと水資源が乏しいのに、他国に食料を輸出している国があることが分かります。

例えばインドは、世界第3位のバーチャルウォーター輸出国ですが、1年のうち一定期間生活の中で水不足を経験している人が10億人いるといわれています。経済的に輸出に頼らざるを得ない国が、ますます水不足に陥るという問題をバーチャルウォーターによって知ることができます。

問題②水質汚濁

食料の輸出国において、水質汚染が問題になっているケースがあります。例えば、中国では河川や湖沼の水質汚濁が深刻です。日本は中国から野菜などを輸入しているため、食の安全性にも関わります。バーチャルウォーターにより貿易の流れが見えると、水の汚濁は世界に関係する問題であることが分かります。

それでは、世界と日本のバーチャルウォーターはどのようになっているのでしょうか。次で見ていきましょう。

バーチャルウォーターの世界の現状

まずは、バーチャルウォーターから分かる世界の現状を見ていきましょう。大きな特徴は、輸入国には先進国が多いことと、輸出国であっても水不足に悩む国があることです。

【輸入国】先進国が多い

バーチャルウォーターの輸入国は、先進国が多いのが特徴です。次の表は、国別に年間のバーチャルウォーターを示しています。

<バーチャルウォーターの主要な総輸入国>

単位:Gm3/年

1. アメリカ 234
2. 日本 127
3. ドイツ 125
4. 中国 121
5. イタリア 101
6. メキシコ 92
7. フランス 78
8. イギリス 77
9. オランダ 71

引用元:UNESCO-IHE “NATIONAL WATER FOOTPRINT ACCOUNTS: The GREEN, BLUE AND GLAY WATER FOOTPRINT OF PRODUCTION AND CONSUMPTION” M. M. Mekonnen, A. Y. Hoekstra, May 2011

順位を見ていくと、アメリカ、日本、ドイツと続き、上位9位までの国には先進国が多いことが分かります。これらの国は、他国で生産された食料を手に入れることができるため、自国の水資源が乏しくても生活を維持することが可能です。

【輸出国】水不足に悩む国もある

次にバーチャルウォーターの輸出国の特徴を確認します。

<バーチャルウォーターの主要な総輸出国>

単位:Gm3/年

1. アメリカ 314
2. 中国 143
3. インド 125
4. ブラジル 112
5. アルゼンチン 98
6. カナダ 91
7. オーストラリア 89
8. インドネシア 72
9. フランス 65
10. ドイツ 64

引用元:UNESCO-IHE “NATIONAL WATER FOOTPRINT ACCOUNTS: The GREEN, BLUE AND GLAY WATER FOOTPRINT OF PRODUCTION AND CONSUMPTION” M. M. Mekonnen, A. Y. Hoekstra, May 2011

世界で輸出されているバーチャルウォーターの量の半分以上が表に記載されている上位10カ国で占められています。

輸出量の1位のアメリカや2位の中国などは、輸入国の上位にも登場した国です。一方、インドやブラジル、アルゼンチンなどは輸出のみが目立っている国で水不足が深刻であると言えるでしょう。例えば、インドとパキスタンにまたがる地下水は、雨水や雪解け水が自然にたまるよりも、くみ上げられる量が多く、ガンジス川上流域で50倍以上、インダス川下流で18倍と、使用量の方が上回っているのが現状です。※[3]

もう一つのデータを見てみましょう。次の一覧は、生活の中で物理的に水が不足している人口の多い国を表しています。

  • インド 10億人
  • 中国 9億人
  • バングラデシュ 1.3億人
  • アメリカ 1.3億人
  • パキスタン 1.2億人
  • ナイジェリア 1.1億人
  • メキシコ 0.9億人[4]

インドや中国、アメリカは、輸出国の上位でありながら、水が不足している人口も多いことが分かります。これは、食料などの輸出により収入を得られるメリットがある一方で、貴重な水資源が自国内で十分に活用されていないことを示しています。

このように、バーチャルウォーターの輸入国と輸出国のバランスが保たれているとは言えず、水不足に悩む人口は少なくないのが現状です。

バーチャルウォーターの日本の現状

これまで見てきたように、日本はバーチャルウォーターの輸入量が多い国の一つです。自国の水を使うことなく、他国の生産した食料を輸入してまかなっています。水不足に悩む国々の水資源までも使っているとも言えるでしょう。しかし、問題はそれだけではありません。

世界の国々と比べて収支の数値が高い

アメリカや中国は、バーチャルウォーターの輸入量だけでなく、輸出量も多いことが特徴でした。それに対して日本は、輸入量のみが突出しているため、バーチャルウォーターの収支で言えばアメリカや中国よりも数値が高いと言えます。次の図は、国ごとのバーチャルウォーターの収支とその水量を表しています。矢印が太いほど、水量が多いことを示しています。

■国別のバーチャルウォーターの収支と水量 1996~2005年(15 Gm3/年超のみ表示)

国別のバーチャルウォーターの収支と水量 1996~2005年(15 Gm3/年超のみ表示)
引用元:UNESCO-IHE “NATIONAL WATER FOOTPRINT ACCOUNTS: The GREEN, BLUE AND GLAY WATER FOOTPRINT OF PRODUCTION AND CONSUMPTION” M. M. Mekonnen, A. Y. Hoekstra, May 2011

緑色の国は、収支においてマイナスであり、バーチャルウォーターの輸出量が多いことを示しています。一方、赤色はプラスを意味し、輸入量が多い国です。日本をはじめ、北アフリカと中東、メキシコ、ヨーロッパ、韓国が赤色になっています。日本は、世界の中でもバーチャルウォーターの輸入が多い国の一つなのです。

日本のバーチャルウォーターが多い原因

日本のバーチャルウォーターが多い原因はいくつかあります。そのうちの2つについて取り上げてみましょう。

水の供給量が十分でない

日本は水資源が豊かであると言われていますが、年間1人当たりどのくらいの水を使うことができるのでしょうか。次のグラフを見てみましょう。

日本の年平均降水量は約1,700mmと多く、世界の陸域の約2倍です。しかし、国土面積に対して人口が多いため、実際に1人が年間で使える量は約3,300立方メートルと、世界平均の3分の1にとどまっています。つまり、日本は確かに水が豊富にありますが、人口比で見ると資源量は少ないのが現実です。このことが、バーチャルウォーターが増えている一つの要因になっていると考えられています。

食料自給率が低い

2つ目の原因は、食料自給率が低いことです。世界の食料自給率のグラフを見てみましょう。

世界の食料自給率のグラフ
引用元:農林水産省「世界の食料自給率

日本のカロリーベースの食料自給率は38%と、バーチャルウォーターの高い他の輸入国に比べても低いことが分かります。これは、食生活の変化により米の消費が減少する中で、食肉や油脂などが増えてきたことが要因です。※[5]自給できない分の食料は、海外からの輸入に頼らざるを得ず、バーチャルウォーターの輸入につながっています。

カロリーベースの食料自給率とは

国民に供給される食品の基礎的な栄養価であるエネルギー(カロリー)に対する国内生産の割合を言います。畜産物の場合、「輸入した飼料を使って国内で生産した分は、総合食料自給率における国産には算入しない」ため、例えば牛の餌の50%が輸入品だとすると、牛肉のカロリーの半分が食料自給率に反映されます。

日本のバーチャルウォーターを減らすための解決策

日本のバーチャルウォーターを減らすための取り組みにはどのようなものがあるのでしょうか。

日本の取り組み事例

国は、原因の一つである食料自給率を令和12年度までにカロリーベースで45%に上げるほか、飼料自給率を25%から34%、食料国産率を46%から53%にする目標を掲げています。これらは、令和2年3月に閣議決定された「食料・農業・農村基本計画」に定められています。※[6]

また、環境省では、水環境の保全や水の大切さについて広める「ウォータープロジェクト」を官民連携で発足しました。このプロジェクトは、企業、団体、自治体の水の取り組みを紹介し、その重要性や正しい情報を発信するのが目的です。※[7]次では、このプロジェクトに参加している愛知県岡崎市の取り組みについて紹介します。

自治体の取り組み事例|愛知県岡崎市

自治体の取組事例|愛知県岡崎市
引用元:岡崎市「水循環総合計画[概要版]

愛知県岡崎市では「水を守り育む条例」を制定し、健全で恵み豊かな水を大切に守ることを誓っています。内容は、市、市民、事業者に対して各責務を定めているほか、水環境のあるべき姿とその実現に向けた取り組みの方向性をまとめた「水循環総合計画」を作るとしています。

■岡崎市「水を守り育む条例」一部抜粋

(市の責務)

第4条 市は、この条例の目的を達成するため、水循環に関して総合的かつ計画的な施策を推進しなければならない。

(市民の責務)

第5条 市民は、日常生活の水循環に与える影響を認識し、生活排水による水質汚濁の防止、節水等に心がけ、水環境の保全に努めなければならない。

(事業者の責務)

第6条 事業者は、その事業活動を行うに当たっては、水環境を保全するために必要な措置を講ずるよう努めなければならない。

また、令和2年度の水循環総合計画報告書によると、市民による水質一斉調査を行い、身近な川への理解を深め、環境意識の向上を図る取り組みも行っています。※[8]

バーチャルウォーターとSDGs目標6「安全な水とトイレを世界中に」の関係

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バーチャルウォーターについて理解が深まったところで、SDGsとの関係についても確認しておきましょう。

SDGsとは、2015年に採択された国際的な目標です。「社会」「経済」「環境」の3つの側面から、今世界が抱えている課題の解決を目指すために17個の目標が掲げられています。

17個の目標のうち、バーチャルウォーターと関係するのが目標6「安全な水とトイレを世界中に」です。

SDGs目標6「安全な水とトイレを世界中に」はキャッチコピー通り、世界中の人々が、

  • 清潔な水を飲んだり生活の中で活用できたり(家事など)するようにする
  • 清潔なトイレを使えるようにする

ことを目指しています。加えて、水不足への対応や川、湖などの水質管理・生態系の維持にも言及していることがポイントです。

バーチャルウォーターを活用することで、水不足や水質汚濁の現状を把握でき、収支のバランスについても検討が可能となります。つまり、目標6を達成する上で、重要な役割を持つツールと言えるでしょう。

バーチャルウォーターを減らすために私たちにできること

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国や自治体の取り組みを見てきましたが、私たちにもできることはあります。バーチャルウォーターは、毎日の食事など日々の生活に直結する問題です。身近なところから始めてみましょう。

生活の中のバーチャルウォーターを調べる

普段の生活の中で、どのくらいの水を使っているのかを知ることは大切です。まずは、この記事で紹介しているバーチャルウォーターの計算方法や、環境省が公開している仮想水計算機を使って、食品にどのくらいの水が使われているかを調べてみましょう。バーチャルウォーター量の多い食品が分かれば、国産や地元産を積極的に選ぶようにするなど、買い物をする際の目安にできます。

水を大切に使う

水は限られた資源です。大切に使うようにしましょう。食品のバーチャルウォーターを知ると、フードロスも水を無駄にする行為と言えるでしょう。また、賞味期限が過ぎて手つかずのまま廃棄してしまうのも問題です。食品などに使われている目に見えない水を意識する生活を心がけるのも、私たちにできることの一つです。

まとめ

バーチャルウォーターは、食料を生産する際に必要と想定される水の量のことで、輸出入の際に使われる概念です。バーチャルウォーターを算出すると、各国の水資源の状況や問題などが見えてくるほか、世界の水がつながっていることが分かります。日本は収支で見ると数値が高いため、食料の自給率を高めるなどの対策が必要です。国や団体、企業は取り組みを進めていますが、私たち個人にもできることはあります。まずは、身近な食品のバーチャルウォーターの量を調べて理解を深め、意識を持つところから始めることが大切です。

<参考文献>
※[1] 環境省「バーチャルウォーター
※[2] 国際連合広報センター「水の国際行動の10年 – 2018-2028 世界的な水危機を回避するために
※[3] 特定非営利活動法人ウォーターエイドジャパン「隠れた水-Beneath the Surface 世界水の日報告書 2019
※[4] 特定非営利活動法人ウォーターエイドジャパン「隠れた水-Beneath the Surface 世界水の日報告書 2019
※[5] 農林水産省「日本の食料自給率
※[6] 農林水産省「日本の食料自給率
※[7] 環境省「ウォータープロジェクトとは
※[8] 岡崎市「健全な水循環をめざして-令和2年度年次報告書-

この記事の監修者
阪口 竜也 監修者:フロムファーイースト株式会社 代表取締役 / 一般社団法人beyond SDGs japan代表理事
ナチュラルコスメブランド「みんなでみらいを」を運営。2009年 Entrepreneur of the year 2009のセミファイナリスト受賞。2014年よりカンボジアで持続型の植林「森の叡智プロジェクト」を開始。2015年パリ開催のCOP21で日本政府が森の叡智プロジェクトを発表。2017年には、日本ではじめて開催された『第一回SDGsビジネスアワード』で大賞を受賞した。著書に、「世界は自分一人から変えられる」(2017年 大和書房)