#インタビュー

株式会社Gab 代表取締役社長 山内萌斗さん|”正しさ”より”楽しさ”で人は動く。シリコンバレーでの経験を活かして環境問題の解決に取り組む若き起業家

エシカルな暮らし

株式会社Gab 代表取締役社長 山内さん インタビュー

株式会社Gab 代表取締役社長 山内萌斗様

山内 萌斗

静岡県浜松市出身2000年2月25日生まれ。静岡大学情報学部行動情報学科2年次休学中。東京大学起業家育成プログラムEGDE-NEXT2018年度シリコンバレー研修選抜メンバー。MAKERS UNIVERSITY 5期生。「エシカルな暮らしをすべての人に。」をミッションに掲げ、Instagramアカウント「エシカルな暮らし」とエシカル商品に特化したオンラインセレクトショップ「エシカルな暮らしオンラインストア」を運営している。その他にも、ポイ捨てデータのマッピングアプリ「MyGOMI.」やゲーム感覚ゴミ拾いイベント「清走中」などの運営を通して「楽しさ」を起点に社会問題解決に取り組む人口を増やす取り組みを多数仕掛けている。将来的にはサプライチェーン改革を実現することを目指している。

「渋谷のポイ捨てを0にする」という目的で設立した株式会社Gab

–本日は、株式会社Gab 代表取締役社長 山内萌斗さんにお話をお伺いします。山内さん、よろしくお願いします。
最初に、株式会社Gabの事業内容について教えていただけますか?

山内さん:

はい、株式会社Gab※は2019年12月に「渋谷のポイ捨てを0にする」という目的で設立しました。主な事業としては、街のポイ捨てデータマッピングサービス「MyGOMI.」や、ゲーム感覚ゴミ拾いイベント「清走中」、エシカル商品を販売するオンラインストア「エシカルな暮らし」の運営を行っています。

株式会社Gab

会社のミッションは、「エシカルな暮らしをすべての人に」。

参考:株式会社Gab

環境問題に興味を持つきっかけとなった、シリコンバレーでの経験

株式会社Gab 代表取締役社長 山内萌斗様

–ゴミ問題の解決を中心に、色々な事業を展開されているのですね。山内さんは昔から環境問題に興味があったのですか?

山内さん:

実はそういうわけではありません。高校生までは教育現場に課題を感じていたため、学校の先生を目指していました。でも、高校3年の進路選択のタイミングで「学校の先生として40年間働いたとしても、自分の力で変えられる教室は多くて40教室」ということに気付いたんです。これでは、僕と同じように課題を感じている全ての生徒を助けることはできないな…と。そこで、全国の学校で使ってもらえるような新しいサービスを作ることで、起業家として教育の現場を変えていきたいと思うようになりました。

「東京大学起業家育成プログラムEGDE-NEXT」に参加

–高校生という早い段階から起業家を目指していたんですね。その時点では「教育現場に課題を感じていた」とのことですが、環境問題に取り組むようになるまでに、何かきっかけがあったのですか?

山内さん:

1番のきっかけが、シリコンバレーで現地の起業家や投資家、学生たちと触れ合ったことです。
大学1年次に参加した東京大学と連携の起業家育成プログラムで、シリコンバレーに行くことができました。そこで、僕が考えた教育事業に対してフィードバッグをもらった際、「これから起業するトピックは、あったらいいなという”Nice to have”ではなく、なくてはならない”Must have”な事業でなくてはならない。君がこれから挑戦するのであれば、人類の存続に必要不可欠なものをやりなさい」と言われ、衝撃を受けたんです。

今まで考えてきた教育のアイデアは、自分よがりな課題感から導き出したアイデアだったと気づくことができました。更に、「世界にどういった課題があるか広い視野で見て、そこから逆算した事業を作らないと、シリコンバレーにいる起業家たちと同じ土俵には立てない」と言われて、その通りだと思ったんですよね。

この経験から、一旦教育という観点から離れ、色々な課題を探してはサービスを作り、ビジネスコンテストに参加する…というのを、大学2年の頃から繰り返していました。

編集部のポイント

​山内さんが参加した正式プログラム名は「東京大学起業家育成プログラムEGDE-NEXT
※山内さんは2018年度に参加

–シリコンバレーで言われた「”must have”な事業」を突き詰めた中で、環境問題に行き着いたというわけですね。

山内さん:

そうです。大学2年の時に、「地方の大学生が東京に20日間滞在し、東京の課題を解決する」という合宿型ビジネスコンテストに出たんです。

東京の街を20日間歩き回って見つけたのが「渋谷の街がゴミだらけ」という課題でした。原因は、ゴミ箱が少ないということ。地方には、コンビニや自動販売機の横にゴミ箱があることが当たり前ですが、渋谷にはどちらにもゴミ箱がありませんでした。

もう一つは、ゴミ箱の設置に維持管理コストがかかるというオーナー側の課題もあったので、それらを解決するために、広告付きのゴミ箱を置くというアイデアを発表したところ、見事優勝することができたんです。

編集部のポイント

山内さんがゴミ問題に着目するきっかけとなったビジネスコンテスト
株式会社タイミー主催 合宿型ビジネスコンテストPopOut

審査員からは「ゴミ問題はSDGsの中でも重要な課題だから、なくてはならない”must have”の事業だね」と言っていただきました。このとき、シリコンバレーで感じた原体験と審査員の言葉が繋がり、「このトピックなら、人生をかけて登る山として絶対に後悔はしない」という確信が持てたので、「渋谷のポイ捨てを0にする」という思いで起業を決意しました。

ポイ捨てのデータマッピングサービスMyGOMI.(マイゴミ)

ポイ捨てのデータマッピングサービスMyGOMI.(マイゴミ)
出典:株式会社Gab

–ありがとうございます。先ほどのビジネスコンテストで優勝したアイデアを基に「MyGOMI.」というサービスが生まれたんですね。「MyGOMI.」のサービスについて、詳しく教えていただけませんか?

山内さん:

MyGOMI.はポイ捨てされたゴミのデータを活用して、ポイ捨てゼロの社会を目指すというものです。ポイ捨てを見つけても素通りしてしまう人が多いと思うのですが、MyGOMI.を使えば、気軽にポイ捨てされたゴミの個数と位置情報が登録できるので、街のポイ捨てされやすい場所を可視化することができます。

このデータを基に、ポイ捨てが多い場所、つまり人通りの多い場所に広告付きのゴミ箱を設置していきます。渋谷の街中に広告付きのゴミ箱を置けば、エリアジャック広告として機能させることが可能となる、というビジネスモデルです。約1年で合計12万件以上のデータを集積することができました。

僕が創業したのが2019年だったので、まだコロナウイルスが流行っていない時期だったのですが、約1年間取り組んできて、このビジネスモデルを直近でやるのは厳しいのではないか…ということに気づき始めたんですよね。でも、会社を存続させないと将来的にやりたい大きなビジョンを叶えられない…ということで、思い切って2021年2月に事業の方向性を見直しました。

ゴミ拾いイベント「清走中」の開催とInstagramアカウント「エシカルな暮らし」の開設

–コロナ禍で事業の方向性を変更されたのですね。新しくスタートされた事業とは、どのようなものですか?

山内さん:

2つあるのですが、1つ目が「清走中」という”ゴミ拾い”とフジテレビの人気テレビ番組”逃走中”を組み合わせたイベントです。創業時からのミッションである、ポイ捨てをゼロにすることの延長線上で、ゲーム感覚でゴミ拾いを楽しんでいただくというスポンサー型のビジネスモデルです。

チーム戦なんですけど、イベント当日に公式LINEに登録するとゴミ拾いに関連するミッションが届き、ミッションを達成するとポイントが付与され、チームごと獲得した合計ポイントで競い、上位3チームにはスポンサー企業様からの豪華景品が贈呈されるという内容になっています。

2つ目が「エシカルな暮らし」というInstagramアカウントの運営です。
2021年2月からスタートし、約半年間で15,000フォロワーを突破することができました。現在は、オンラインストアの運営も行っています。Instagramではエシカルな商品や知識を発信しているので、フォロワーが潜在顧客となり、エシカル商品に興味を持った方がオンラインストアで直接お買い物ができる、という仕組みです。

エシカル消費

エシカル消費(英語: Ethical Consumption)は、その商品を購入することで環境や社会問題の解決に貢献できる商品を購入し、そうでない商品は購入しないという消費活動を指す。日本語表記としては倫理的消費もある

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』

–どちらも聞いただけでわくわくするような事業ですね!
「エシカルな暮らし」オンラインストアの商品は、山内さんがセレクトされているのですか?

山内さん:

そうですね、大体僕が選んでいます。毎日トピックを決めて色々な商品の記事を読み、エシカルな商品だと判断したものをInstagramで紹介した後、オンラインストアでも購入できるようにしています。

–山内さんの中で、「この商品はおもしろい!」と思ったものはありますか?

おすすめは「AIRPAQ」と「GOTBAG」

山内さん:

あります!「エシカルな暮らし」オンラインストアで販売しているもので、「AIRPAQ」※という車の廃材から作られたバックパックがおすすめです。バッグの素材としてエアバックが使用されていたり、ショルダー部分や裏地にシートベルトが使われています。

「AIRPAQ」とは

車のエアバッグとシートベルトの廃材をアップサイクルして作られたバックパック。廃材を再利用するため、製品一つ一つがオリジナル、全てが一点物なのが特徴。

参考:「エシカルな暮らし」オンラインストア

あと「GOTBAG」※もおすすめです。100%海洋プラスチックで作られている商品で、買うだけでゴミの削減に繋がります。

その他にも、サボテンレザーを使ったお財布や米ぬかから作られた洗顔など、エシカル商品は新しくておもしろい素材から作られているものが多いので、おもしろ要素で認知を広げ、「おもしろいから欲しい!」という理由で買ってくれる人を増やしていきたいと思っています!

「GOT BAG」とは

海洋プラスチックごみの発生量が多くて問題になっているインドネシアで回収した海洋廃棄プラスチックをリサイクルして生産されるバックパック。

参考:「エシカルな暮らし」オンラインストア

–「おもしろい!」というところから知ってもらい、自然と環境に優しい商品に触れてもらえるようなシステムを作るというのは、とても良いですね!

山内さん:

ありがとうございます。前提として「ネタになる」ことが大切かなと思っています。
どこでも買える量産的なオシャレアイテムを持っていても、「おしゃれだね」で終わってしまうことが多いと思うんです。でも、「実はこれゴミからできているんだよ」とか「この腕時計、海洋プラスチックからできているんだよ」という話題から環境問題についてのトピックに繋がっていけば、環境問題に対して行動する人口が増えていくのではないかと考えています。

「小物を通して新たなコミュニケーションを生み出していく」という点は、エシカル商品の可能性を感じているポイントですね。

人は”正しさ”ではなく”楽しさ”で動くということ

株式会社Gab 代表取締役社長 山内萌斗様

–山内さんが同世代や、もっと若い人たちに向けてメッセージを伝えていくうえで、意識されていることはありますか?

山内さん:

会社として、「伝わる」より「行動してもらう」ことに重きを置いています。

なぜ行動が大事かと言うと、いくらインプットして環境問題に詳しくなったとしても、アクションを起こす人が増えなければ、環境問題は解決されないからです。反対に言えば、意識が高くなくてもアクションを起こす人が増えれば、問題は解決するという別の見方もできるかと思います。

僕らは「人は”正しさ”ではなく、”楽しさ”で動く」という言葉を大切にしています。

「清走中」というイベントが分かりやすい例で、ゴミ拾いは汚い・面倒くさいといったイメージがあり、あまりやりたくないと思うのですが、ゲーム要素を取り入れることで、1回の開催ごと平均して約150人もの方に参加していただくことができました。(累計参加人数は600人以上)

5人ずつチームに分かれてミッションに取り組むというものなのですが、「タバコのゴミ30個と黄金のトングが交換できる」とか「黄金のトングでゴミを拾うとポイントが2倍になる」とか「最後に逃走中をやってハンターから逃げ残った人数分ポイントが加算される」など、誰もが「参加したい!」と思えるような、様々なゲームを用意しています。

–おもしろそうですね!私も参加したくなりました。「清走中」は小学生の方も多く参加されているそうですね!

山内さん:

長野県の飯田市で行ったイベントでは、参加者の約6割が小学生でした。小学生の時って楽しいことしかやりたくないと思うんですよね。でも、多くの子が好きであろう「逃走中」と組み合わせることで、みんな無心でゴミを拾っていました。
結果的に、約1時間の清掃活動で60キロ以上のゴミを拾うことができたんです。イベント参加前に「この街にゴミなんてあるの?」と言っていた小学生が一番ゴミを拾ってくれて、「楽しかった!」と言ってくれているのを見て「これだ!」と確信しました。

「エシカルな暮らし」オンラインストアでも、「”正しさ”より”楽しさ”」の部分をすごく重視しています。エシカル商品を買うこと自体が社会貢献に繋がるので、買う動機は必ずしも環境問題でなくても良いと思っているんです。だからこそ、「おしゃれで可愛いから使ってみたい!」と思ってもらえるような、おもしろいアイデアが盛り込まれた商品をセレクトしています。もちろん、表面的な価値だけではなく、実際の体験も本当に素晴らしい選りすぐりの商品です。

社会問題に対してアクションを起こす敷居を下げて、いかに裾野を広げていくかというところは、会社として大事にしているポイントです!

「エシカルな暮らし」をすべての人に届けるために

株式会社Gab 代表取締役社長 山内萌斗様

–事業について色々とお話していただき、ありがとうございます!最後に今後の展望を教えてください。

山内さん:

株式会社Gabは「エシカルな暮らしをすべての人に」というミッションを掲げています。エシカルに興味関心がある人だけでなく、そうでない人々にもエシカル商品を手に取っていただく機会を提供していきたいと思っています。

今考えているのは、Instagramで暮らし系の新しいアカウントを運用していくことです。若い女性から流行が生まれることが多いと思うので、そういった方々に興味を持ってもらえるような世界観を発信するアカウントを作りたいと考えています。
最近、おしゃれな部屋の投稿を参考に、家具を買う人が多いので、「このおしゃれな部屋に使われてる商品は、実は全部エシカル商品…!」という状況が作れたら、「おしゃれな部屋を作りたい!」という動機で、もっとエシカル商品を手に取っていただける機会が増やせるのではないかと思うんです。Instagramの運用は会社の強みでもあるので、新しいアカウントでエシカル商品を手にとっていただく裾野を広げていきたいです。

その他にも、実際に使ってみて本当にオススメできるエシカル商品の本気レビュー投稿を中心にアカウントを運用する計画だったり、自社ブランド、エシカル商品を買うことでトークン※が付与されるトークンエコノミーなども考えています。

トークン とは

硬貨の代わりに用いられる代用貨幣のこと。各々の仮想通貨暗号通貨)のこと。

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』

–どんどん新しいアイデアが生まれているんですね!楽しみです。

山内さん:

ありがとうございます!また、会社として「サプライチェーン改革を実現する。」というビジョンも掲げています。エシカル商品の需要が高まれば、企業のものの作り方も変わり、物流もよりエコな物流が選ばれるようになると予測しているためです。そのスタートとして、まずは消費者側の意識を変えていくというのがGabの使命かなと思っています。

「エシカルな暮らしをすべての人に」というミッションの実現のため、今できる施策を片っ端からどんどんやっていきたいと思います。

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