
近年、少しずつリジェネラティブという言葉を耳にするようになりました。とはいえ、サステナブルなどの似た言葉もメディアで取り上げられる機会が増えているため、違いがよくわからない人も多いと思います。
そこでこの記事では、リジェネラティブについてわかりやすく簡単に解説します。1次産業だけでなく建築業界に関わる内容となるため、ぜひ知っておきたい内容です。
早速リジェネラティブの言葉の意味から確認していきましょう!
目次
リジェネラティブとは
リジェネラティブとは、英語で「再生(更生)させる」ことを意味する言葉です。
近年リジェネラティブが叫ばれるようになった背景には、環境問題が深く関係しています。
近現代の工業型産業によって、世界各地で環境破壊が見られるようになり、それに伴い地球温暖化や異常気象が問題視されるようになってきました。そこで荒廃した土壌や海の生態系を取り戻すための取り組みとして注目を浴びているのが「リジェネラティブ」です。
リジェネラティブとサステナブルとの違い
リジェネラティブが注目される一方で、持続可能な社会・環境を目指す「サステナブル(Sustinable)」という言葉をよく見かけますが、一体何が違うのでしょうか。
2つの言葉を比べると、サステナブルは「継続」を示す言葉のため、あくまでも今あるシステムを維持する意味合いが強くなります。
一方の「リジェネラティブ(Regenerative)」は、「再生」を意味することから、問題の根本を解決し、現状をよりよくするための取り組みに使われるのが最適な言葉です。
このように、リジェネラティブは特に環境の再生に関する取り組みと相性がよい言葉といえます。
では一体どのような場面でリジェネラティブが使われているのでしょうか。近年、日本をはじめ世界で増加傾向にある「リジェネラティブ農業」「リジェネラティブ漁業」について見ていきましょう。
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農業分野におけるリジェネラティブ
まずはリジェネラティブ農業から説明します。
リジェネラティブ農業は、日本では「環境再生型農業」とも呼ばれ、土壌と生態系の回復を目的とした農業のあり方を指します。
リジェネラティブ農業は2026年2月現在、国際的な統一基準はまだ完全には整備されていませんが、米国をはじめとする「再生農業基準」や「Regenerative Organic Certified®」などの認証制度が導入され、土壌の健康と生物多様性の修復を明確に目的とした農業の枠組みが定義されつつあります。
よく挙げられる共通の考え方には、以下のようなものが含まれます。
- 土壌の有機物を増やし、炭素貯留を促進する
- 農薬・化学肥料の使用を最小限に抑え、自然由来の肥料や輪作・混作、カバークロップなどを活用する
- 地域の生物多様性や地域コミュニティのつながりを回復・強化する
- 次世代に健全な土壌を引き継ぐことを目的とした持続可能な農場経営を重視する
不耕起農法や有機農法もリジェネラティブ農業の一種
具体的には、
- 育てる作物ごとに土地を仕切り、機械で耕して農薬・化学肥料を用いる近現代の農法に代わり、できるだけ土を耕さない「不耕起農法」
- 自然由来の堆肥などを利用する「有機農法」
がリジェネラティブ農業の中に含まれます。
リジェネラティブ農業が発展した背景
リジェネラティブ農業が発展した背景には、1970年代から問題視されてきた環境破壊による気候変動・地球温暖化が挙げられます。
近年では、IPCC(気候変動に関する政府間パネル)や国連環境計画(UNEP)などの報告書で、農業・土地利用が温室効果ガス排出に大きく関与していることが改めて整理され、
2030年までのSDGs目標や、その後の「ポストSDGs」議論において、農業の役割が改めて注目されています。
また、米国ではNRDC (Natural Resources Defense Council)などの報告によると農業が全排出量の約10%程度を占める一方で、日本では農林水産省が「みどりの食料システム戦略」や2026年度概算要求において、リジェネラティブ農業の拡充を新たな重点施策として位置づけており、環境負荷の低減と食料安全保障の両立が求められています。
植物を育てている産業なのに、どうしてそんなに温室効果ガスが出るの?と疑問を抱く人もいると思います。しかし私たちが食べている野菜・果実の中には、ビニールハウスや施設で栽培され、温湿度維持や生育に必要な養分をまかなうために化石燃料を燃やしてるケースが少なくないのです。
リジェネラティブ農業は地球温暖化対策にもなる
土壌には、私たちの目には見えない微生物が数えきれないほど生息し、互いに作用しています。この複雑なシステムがあるおかげで、土に撒かれた種が発芽し、植物が成長するのに十分な水と栄養をキープでき、人間を含む生物が食べられる葉や実が育つのです。
さらに植物が空気中の二酸化炭素から炭素を吸収し、土壌に貯め込みます。これは空気中の二酸化炭素濃度を減らすことを意味し、地球温暖化の対策ともいえるのです。
日本のリジェネラティブ農業事例|五段農園(岐阜県白川町)
ここでひとつ、日本におけるリジェネラティブ農業に取り組む事例を紹介します。
岐阜県白川町で畑を営む「五段農園」では、化学農薬・肥料を用いず自家製堆肥を使った農法で野菜を育てています。
五段農園の特徴は、豊かな栄養をたっぷり含んだ堆肥づくりにあります。地域で出た生ゴミや資材を利用して堆肥を作り、畑に還すといった土壌の健康を優先した農法によって自然環境を守り、循環型の有機農法を実践しています。
漁業・水産業におけるリジェネラティブ
リジェネラティブは、土の健康だけでなく海や川の生態系を回復させるためにも活用されています。
ブルーカーボンが重要キーワード
漁業や水産業におけるリジェネラティブを考える際に、理解しておきたい言葉がブルーカーボンです。
具体例として、海藻について見ていきましょう。
水中の炭素を吸収して酸素を排出する習性を持つ海藻
海藻は、陸の植物と同じように、水中の炭素を吸収して酸素を排出する習性があります。海藻の生息地におけるブルーカーボン貯蔵量は、全体の割合としてはさほど多くありません。しかし、海中のブルーカーボンは長期間の保存ができるため、気候変動の対策としても大きな可能性を秘めているのです。
また、海の森とも言われる海藻は、さまざまな魚や生き物が住処・餌として利用し、豊かな生態系を作るためには欠かせない存在です。
今や世界では、海や川の環境を改善する手段として、また栄養が豊富な食材として海藻に着目する企業が増えています。
また、藻場の再生や海藻の養殖によって、単に炭素吸収だけでなく、魚介類の生息場や漁業資源の回復、水質改善、さらにバイオマス燃料など二次利用の可能性も広がっています。例えば、積丹町や秋田県男鹿市など、日本各地で海藻を活用した「養殖藻場プロジェクト」や「ブルーカーボン形成プロジェクト」が実証実験として進められています。
日本のリジェネラティブ漁業事例|合同会社シーベジタブル(高知県安芸市)
高知県のスタートアップ企業「合同会社シーベジタブル」では、アオノリの陸上養殖を行っています。
アオノリは、沿岸部に20mの穴を掘って得る地下水によって上質に育ちます。現在は陸上での養殖がメインですが、ゆくゆくは海中の環境を本格的に改善するため、海での養殖を視野に入れているといいます。またアワビなど貝類との組みあわせによって、より栄養の豊富な商品を生産すると同時に、豊かな生態系を育む可能性を持っています。
建築分野でも進むリジェネラティブ
これまで、一次産業の農業・水産業におけるリジェネラティブについてお話してきました。加えて近年は、建築業界でもリジェネラティブを軸とした動きが盛んになってきています。
ここでは、これからの建築分野において押さえておきたいキーワードを、いくつかご紹介します。
リジェネラティブデザイン
はじめに、建築の基礎となるデザインにおける概念が「リジェネラティブ・デザイン」です。
リジェネラティブ・デザインとは、人間の住み心地だけでなく、周囲の自然環境に配慮し、建築物に関わるエネルギー資源が自然由来であることを理想とします。
建材に木や石といった自然素材を使うほか、周囲の環境に適した構造であることが重要です。できるだけ電化製品を使わなくても済むように雨水を利用した冷房システムを設置したり、生活排水をろ過するために植物の生態系を活かした用水路をつくったり、といった例が挙げられます。
リジェネラティブ・デザインの概念は、1970年代のヨーロッパで誕生し、発展しました。気候変動が加速し、さまざまなエネルギー資源が枯渇する中で、できるだけ自然の恵みを上手に活かして快適に暮らすための空間づくりには、今後リジェネラティブ・デザインが欠かせません。
リジェネラティブ・アーバニズム
リジェネラティブの考え方は、建築物そのものだけでなく、町づくりにも適用されます。
リジェネラティブ・アーバニズムとは、災害に強い町づくりを指す言葉です。具体的には、地震や台風・津波といった自然災害に強く、万が一被災しても対応できるようなシステムを構築することを目指しています。
また災害とは関係なく、普段の生活の中で市民が暮らしやすい環境を整えることも大切です。
2014年に公開された映画「都市を耕す エディブル・シティー」という映画をご存じでしょうか。アメリカの複数の都市を舞台に、経済格差社会の影響を受けて食べ物を購入するのも困難な市民が、自分たちの住む町に農園をつくるドキュメンタリーです。
この映画の中では都市型農園の取り組みを通し、自宅から歩いて行ける農園で新鮮な野菜を収穫できる喜びや、地域コミュニティの強い結びつき、食糧安全保障に対する運動などを描いています。
つまり、リジェネラティブ・アーバニズムは、市民の暮らしやすさと自然災害対策の双方が求められているのです。
ネット・ポジティブ・インパクト
ネット・ポジティブ・インパクトは、リジェネラティブ・デザイン、リジェネラティブ・アーバニズムを実現する上で重要なキーワードのひとつです。
ネット(Net)は英語で「正味」を意味する言葉です。例えば、包装を含まない商品それ自体の重さを「Net Weight(純粋な重さ)」と表したりします。
ネット・ポジティブとは、「正味よりもよりよい状態」ということになりますので、物事において最初よりもよい状態であることを示しています。建築分野では、特に生態系の回復という側面でよく使われるようです。
ビルや発電所のような新しい建物を作るには、新たな土地が必要ですが、その際に生態系へのダメージを与えてしまうことがあります。
そのため、建設後の生物モニタリングや保全活動を通して、生態系の損失よりもプラスの状態を目指す取り組みが「ネット・ポジティブ・インパクト」です。
ネットゼロ・エネルギー
ネットゼロ・エネルギーは、建物が一年間で消費するエネルギー量と、太陽光発電など再生可能エネルギーで生み出すエネルギー量を差し引いた結果が「ゼロ」である状態を指します。
日本では、2025年より延床面積300㎡以上の新築建築物に対してZEB(ネットゼロエネルギー・ビル)相当の省エネ基準の適合が義務化され、2027年以降には住宅を含む全ての新築建築物に段階的に省エネ基準が適用され、2030年にはZEB・ZEH相当の水準が強化される予定です。
そのため、省エネ設備や再生可能エネルギーの導入だけでなく、建物のライフサイクルを通じた炭素排出量の削減が求められるようになっています。
ネットゼロ・カーボン
ネットゼロ・カーボンは、排出される二酸化炭素の量と、植林や炭素吸収源の増加などによって大気中から除去される二酸化炭素の量が等しくなることを指します。
お金での支払いや再生エネルギーの発電によって「相殺したつもり」になるのではなく、植林活動を行い炭素を地中に貯蔵するなど本格的な行動が求められます。
ゼロ・ウェイスト
ものづくりにおいて「ゼロ・ウェイスト」がよく使われるイメージですが、建築分野でも同じように耳にする頻度の高い言葉です。
新しい建物を建てる際に、建材をどこから調達するかは重要な問題です。別の用途で伐採された木を利用することや、遠い国や地域から調達するのではなく近場で手に入る材料を用いることも、ゼロ・ウェイストを達成するのに必要なポイントといえます。
リジェネラティブに関する企業の取り組み
建築の世界でもリジェネラティブの重要性が高まっていることを、キーワードを通して知ってもらえたかと思います。
では次に、実際にリジェネラティブな建築に取り組む企業・自治体の例を見ていきましょう。
【上勝ゼロウェイストセンター(徳島県上勝町)】
徳島県上勝町は、人口1,400人ほどの小さな町です。2003年に自治体として初の「ゼロ・ウェイスト宣言」を行い、地域のごみ回収・交流の場として建てられたのが、上勝ゼロ・ウェイストセンターです。
この建築を手がけたNAP建築設計事務所が着目したのは、地域で問題となっている丸太材でした。ゴミとして回収・処理しにくい上勝産の杉丸太を利用し、設計に取りこんだのです。
さまざまなごみが集まる収集所に最適な風通しのよさをクリアしただけでなく、建築においてもゼロ・ウェイストを達成し、建物の解体時に必要なエネルギーとごみの削減まで視野に入れています。
Bosco Verticale(イタリア・ミラノ)
2014年に建てられたBosco Verticaleは、別名「縦に伸びた森」とも言われる不思議なデザインが特徴です。
Hines Italiaが建物のリノベーションを計画し、2つの棟に合計800本近い木を入れ込んだほか、低木や草も植えられました。たくさんの植物が建物と共存することで二酸化炭素を吸収し、人間をはじめ生き物に必要な酸素を吐き出すため、ビル周辺の空気の質を高めてくれます。
Omega Center for Sustainable Living(アメリカ・ニューヨーク)
ニューヨーク州に建てられたThe Omega Center for Sustainable Living (OCSL)は、雨水を活用した設備に長けたデザインが魅力です。
屋根では植物が育ち、建物脇の湿地を通って水をろ過するシステムが備わるなど、リジェネラティブ・デザインが散りばめられています。
建物に使用された建材のほとんどはリサイクル素材のため、ゼロ・ウェイストにも貢献している好例です。
リジェネラティブとSDGsの関係
これまで見てきたように、リジェネラティブはさまざまな分野で適用され、陸や海の生態系の回復を目指すために欠かせない概念であることが分かりました。
最後に、リジェネラティブとSDGsにはどのような関係性があるのか、2つのポイントを挙げて簡単に説明します。
気候変動の対策における重要なキーワード
英語の「Regenerative」が「再生」を意味する言葉であることはすでに述べましたが、リジェネラティブの考え方を経済活動に反映することは、これからますます加速していくであろう気候変動のスピードを少しでも緩和させるために不可欠です。
農業、漁業、建築の3つの分野すべてに共通するゴールが「生態系を回復し、環境によりよい影響をもたらすこと」であったように、今の私たちには、気候変動の原因のひとつである「生態系の破壊」を修復することが急務となります。
生態系の回復には膨大な時間がかかるからこそ、2030年を期限とするSDGsの目標達成に向けて、リジェネラティブの概念を活かした早急な行動が求められます。
リジェネラティブは、コミュニティの結びつきを高める
生態系の輪の中にいる私たち人間にとって、リジェネラティブを取り入れた活動は、近隣に住む住人や地域の人々の団結力を高める効果も見込まれます。
SDGs目標は国や企業を超えて団結し、一体となって行動をすることが求められています。環境だけでなく社会の結びつきを取り戻すためにも、リジェネラティブは今後さらに重要な概念となっていくでしょう。
まとめ
今回はリジェネラティブについて、基本的な知識と、特に取り組みが広まっている農業や漁業・建築の分野に触れながらご紹介しました。
私たち人間が持続可能な暮らしを達成するために、まずは環境の礎を作ってくれる生態系を豊かにしていくことが最優先課題です。
同じ地球に住む住人同士という意識を持ち、生態系の配慮をしながら日々の暮らしを営むことが、今後の私たちに求められているのではないでしょうか。
<参考文献>
NRDC
NRDC
五段農園
国土交通省
OCEAN REGENERATIVE
The Blue Carbon Initiative
Special Dried Suji Aonori Sea Laver – SEA VEGETABLE COMPANY
Regenerative Architecture: An Innovative Step Beyond Sustainability | The Design Gesture
オーステッド
環境省
書籍「土と内臓」
この記事を書いた人
のり ライター
東京生まれ&育ちのリトアニア在住ライター。森と畑に出会い「自然と人とが寄り添う暮らし方」を探求するように。現地で暮らし学んだ北欧の文化と植物、日本で体験したマクロビ&パーマカルチャーを糧に、食・暮らし関連を中心に執筆中。普段はほぼベジ。
東京生まれ&育ちのリトアニア在住ライター。森と畑に出会い「自然と人とが寄り添う暮らし方」を探求するように。現地で暮らし学んだ北欧の文化と植物、日本で体験したマクロビ&パーマカルチャーを糧に、食・暮らし関連を中心に執筆中。普段はほぼベジ。

