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排出量取引制度とは?メリットやデメリット、日本の現状も

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気候変動の抑制のためには、温室効果ガスの排出量を削減することが不可欠です。さまざまな方法の中でも、効果的であると世界で注目を集めているのが「排出量取引制度」です。

日本でも導入が計画されていますが、この制度については、まだよく知られていないことも多くあります。

近い将来日本でも導入される排出量取引制度について正しく理解し、温室効果ガス削減に貢献しましょう。排出量取引制度の概要やメリット・デメリット、日本の現状などを、わかりやすく解説します。

目次

排出量取引制度

排出量取引制度とは、温室効果ガス排出量の削減を目的とした経済的手法です。この制度では、対象の企業が、排出できる温室効果ガスの量に上限を設け、それを超えて温室効果ガスを排出する場合は、他の企業から排出権を購入して補う必要があります。

排出量取引制度を導入している国や地域のほとんどは、政府主導で制度を設計・運営しています。排出権の総量や取引ルールなどを政府が定める必要があるため、排出量取引制度を導入するにあたっては、政府の積極的な関与が不可欠です。

カーボンプライシングの1つ

排出量取引制度は、カーボンプライシングの1つです。カーボンプライシングとは、温室効果ガスの排出に価格をつける政策の総称です。排出量取引制度のほかにも、

  • 炭素税:排出したCO2に対して課税
  • クレジット取引:CO2の削減を「価値」と見なして証書化し、売買取引をおこなう

など、さまざまなカーボンプライシングの方式があります。

【カーボンプライシングの分類】

【関連記事】カーボンプライシングをわかりやすく解説!世界・日本の現状、課題、今後の展望も紹介

キャップアンドトレードとも

排出量取引制度は、「キャップアンドトレード」とも呼ばれます。キャップとは、排出権の総量の上限を意味し、トレードは、排出権の取引を意味します。

また、英語圏を中心に、世界各国や地域では、「ETS(Emission Trading Scheme)」とも呼ばれており、日本でも、この略称を使用する場合もあります。

それでは次の章で、排出量取引制度の仕組みを確認しましょう。*1)

排出量取引制度の仕組み

排出量取引制度は、温室効果ガスの排出を抑制するための有効な手段とされています。排出量取引制度の具体的な仕組みについて確認しましょう。

排出権の総量(キャップの設定)

排出量取引制度では、政府が排出権の総量を設定します。この排出権の総量は、温室効果ガスの削減目標を達成するために必要な量を踏まえて設定されます。

排出権の割当

政府は、排出権の総量を、対象となる企業や事業者に割り当てます。割当方法は、

  • 免許制
  • オークション

の2つが代表的です。免許制では、政府が企業や事業者に直接、排出権を割り当てます。オークションでは、企業や事業者が政府が開催するオークションで排出権を購入します。

【排出量割当総量の設定イメージ】

出典:環境省『排出量取引制度について』p.14

排出権の取引

対象の企業や事業者は、排出量取引市場で排出権を自由に売買することができます。具体的には、

  • 排出量の上限を超えて排出する企業は、他の企業から排出権を購入する
  • 排出量を下回って排出する企業は、余った排出権を売却する

といった流れです。

排出権の取引価格が上がれば、多くの温室効果ガスの削減に成功した企業は、排出権を売却することによって利益を得ることができ、排出枠を超えて排出してしまうとコストがかかってしまうので、排出削減を促進する効果も期待できます。

【排出権取引制度の仕組み】

排出権の削減義務

企業や事業者は、温室効果ガスを削減する取り組みをして、排出権の割り当てを受けた量の範囲内で排出する必要があります。つまり、利益を出すことを目的に、自社の温室効果ガス削減に取り組まない状態で、取引だけに参加することはできません。

先述したように、排出量取引制度が、排出権の価格を通じて、企業や事業者に排出量削減を促す仕組みとなっているためです。

排出量取引制度の仕組みを例えると

排出量取引制度をわかりやすく例えてみましょう。

ある会社が従業員の健康管理のために、1日のカロリー摂取量を1人につき2,000kcalに抑えるという目標を設定したとします。会社は、従業員1人あたりに2000kcalのカロリー摂取を許可する「カロリー取引権」を1日に2,000枚発行します。従業員は、このカロリー取引権を自由に売買することができます。

2,000kcalを超えて食べたい、または努力しても2,000kcalにおさまらない従業員は、他の従業員からカロリー取引権を2,000kcalを超える分、購入する必要があります。カロリー摂取量を2,000kcal以下に抑えることができる従業員は、余ったカロリー取引権を、必要としている従業員に売却することができます。

2,000kcalにおさまるように食事を調整するか、カロリー取引権を購入してで高カロリーなものを食べるか、その選択は従業員それぞれの自由です。また、日常的に低カロリーな食事で大丈夫という従業員は、買い手さえいれば、カロリー取引権を売却することにより、継続的に副収入が得られるかもしれません。

このように、排出量取引制度は、上の例のカロリー取引制度と同じように、

  • 排出量の限度を超えて排出したい企業は、他の企業から排出権を購入する必要があります。
  • 排出量の限度を下回って排出した企業は、余った排出権を売却することができます。

それでは、次の章からは排出権取引制度のメリット・デメリットを見ていきましょう。*2)

排出量取引制度のメリット

地球温暖化の防止に向けた具体的なアクションとして、排出量取引制度は世界的に注目されています。排出権取引制度はどのようなメリットをもたらすのでしょうか?

経済的インセンティブの創出

排出権取引制度により、排出権の市場が形成されます。これにより、排出権は貴重な資産となります。企業は排出権を売買することで利益を得ることができる一方で、排出権の価格が上昇することで、排出削減への投資が経済的に合理的な選択となります。

このように、排出権取引制度は市場メカニズムを通じて、対象の企業に環境負荷の低減に向けた技術革新や効率化を進める動機付けになります。

環境目標の達成への貢献

排出量取引制度は、国や地域が設定した環境目標へ貢献できることも大きなメリットです。排出枠を国や地域全体で管理することで、全体としての排出量を効果的に抑制し、温室効果ガスの排出削減目標を達成することができます。

企業間で排出権を取引することにより、排出削減が比較的容易な企業がその能力を生かし、全体の排出量削減に貢献することが可能になります。

少ない政府の介入で、効率的に排出量を削減できる

排出量取引制度は、政府が直接的に排出量を規制するのではなく、排出権の価格を通じて排出量削減を促す仕組みです。そのため、政府の介入が少なく、排出量削減を効率的に進めることができます。

企業の自主的な取り組みを促進

排出量取引制度では、企業は排出権を自ら購入することもできます。排出量削減にコストをかけても、排出権の価格が上昇するなどのメリットがあると判断した企業は、自主的に排出量削減に取り組むようになります。

排出量削減のコスト抑制

排出量取引制度では、事業活動での排出量削減に多くのコストがかかる企業は、排出権を購入することで、排出量削減費用を抑えることができます。つまり、排出量を定められた量まで削減することが困難で、排出権を購入した方が安く上がる企業は、排出削減ができる企業に自社の分も削減を任せることができるという仕組みです。

そのため、全体で見ると、排出量削減にかかる費用を抑えながら、温室効果ガスの排出量を削減することができることになります。

イノベーションを促進

また、排出量取引制度は、イノベーションを促進します。排出権の価格が上昇すれば、企業はより効率的な技術を開発・導入することで、排出削減を図るインセンティブを得ます。これにより、排出量削減のより効率的な技術の開発・導入が進み、低炭素社会への移行を加速させる効果があります。

このように、排出量取引制度は市場メカニズムを利用して効率的に温室効果ガスの排出を削減することができます。排出権を取引することで、排出削減が容易な企業はより多くの削減を行い、その分の排出権を排出削減が困難な企業に売却します。その結果として、全体での排出量は制限内に収まりつつ、各企業は最小のコストで排出削減を達成できます。

*3)

排出量取引制度のデメリット・課題

前の章では、排出権取引制度が環境保全と経済活動の両立を促進する強力なツールであることを見てきました。しかし、この制度にはデメリットや改善の余地も存在します。

コストの高騰とその影響

排出権の価格が高騰すると、排出権のコストは企業の負担となり、結果として商品やサービスの価格に転嫁されることがあります。これは消費者にとって、特に低所得層にとっては重い負担となり得ます。

また、コスト増加は企業の国際競争力を損なうリスクも懸念されます。

市場の不確実性と操縦性

排出権の市場価格は、供給と需要によって変動しますが、これが過度に不安定になると、企業の排出削減に対する投資意欲を削ぐことになりかねません。さらに、市場の操縦や不正取引のリスクも存在し、これらは制度の信頼性を損なう要因となります。

実効性の問題

排出権の割り当てが適切でない場合、期待された効果が得られないことがあります。割り当てが過剰であれば、排出削減のインセンティブが低下し、また、逆に不足していると、経済活動に過度な制約を与える可能性があります。

管理・監視の課題

排出権取引制度は、その性質上、厳格な管理と監視が求められます。排出量の正確な計測や報告、不正防止の体制など、実施にあたっては高度なシステムと透明性が必要とされますが、これらを維持するには相応のコストと労力が不可欠です。

このように、排出量取引制度には、環境保全のための有効な手段である一方で、コストの問題や市場の不確実性、実効性や管理面での課題が存在します。これらのデメリットや課題を理解し、適切に対処することが、制度の持続可能な発展には必要です。

次の章では、これらの課題に立ち向かいながら、世界各国で展開されている排出量取引制度の現状について確認しましょう。

世界の排出量取引制度の現状

排出権取引制度は世界各国で導入が進んでいます。2023年7月現在、排出量取引制度を導入している国・地域には、

  • 欧州連合(EU)
  • アメリカ合衆国
  • 中国
  • 韓国
  • カナダ
  • オーストラリア
  • ニュージーランド
  • 日本

などがあります。

【排出量取引制度導入国の例】

欧州連合(EU)の排出量取引制度

欧州連合(EU)では、EU ETS(European Union Emissions Trading System)という排出量取引制度があります。この制度では、EU域内の二酸化炭素大量排出者は自身の二酸化炭素排出量を計測し、毎年その量を報告することが義務付けられています。

そして、1年ごとに二酸化炭素排出量と同量の排出許容量を政府に返上することが同時に義務付けられています。排出施設は無償で一定の排出許容量を政府から取得し、または他の排出施設やトレーダー、政府から排出許容量を購入することになります。

このEU-ETSは、世界最大規模の排出量取引制度であり、温室効果ガス削減に大きな成果を上げています。2020年には、対象となる排出量が2005年比で43%削減されました。

アメリカ合衆国の排出量取引制度

アメリカ合衆国にも、排出権取引制度が存在します。アメリカ合衆国の排出量取引制度は、各企業や施設に対し、一定期間中の排出量の上限を課し、その上限を段階的に引き下げることによって排出量削減を目指すものです。

排出枠が余った企業は、その削減分に付加価値をつけて排出枠を上回った企業と取引することができ、これにより市場原理を生かして環境負荷を低減する手法が採用されています。アメリカの排出量取引制度は、EU-ETSと比較すると、制度の規模が小さく、また、排出枠の割り当て方法が異なるなどの特徴があります。

中国の排出量取引制度

中国では、全国炭素排出量取引制度が導入されています。この制度は、対象事業者に対して、企業活動実績(発電量・熱生産量)相応の排出枠を翌年までに政府に提出する義務があります。

2021年7月16日にオンラインで正式に取引が開始され、世界最大の温室効果ガス排出国である中国が2060年までのカーボンニュートラル達成を目指しています。中国の排出量取引制度は、世界最大規模の排出量取引制度となることが期待されています。

今後、排出量取引制度は、世界各国でさらに導入が進むと予想されています。また、制度の設計や運用方法も、さらに進化していくと考えられます。*4)

日本の排出量取引制度の現状

日本の排出量取引制度は、2026年度の本格稼働に向けて準備が進められています。2023年度は、制度の準備として、排出量取引制度の基本方針や市場設計の検討、排出権のオークションの実施などが行われています。

【日本のカーボンプライシング導入ロードマップ】

GXリーグにおける排出量取引制度(GX-ETS)

2023年度から試行的に開始されるGXリーグ※の排出量取引制度(GX-ETS)は、参加企業の自主参加型です。企業が自主的に目標を設定し、その目標を達成するために努力する制度です。

具体的には、企業は、自社の温室効果ガスの排出量を把握し、その排出量を将来的に削減する目標を設定します。目標は、政府が定める指針を踏まえて設定することが求められます。

そして企業は目標を達成するために、省エネや再生可能エネルギーの導入などの取り組みを行います。また、削減に成功した排出量を、他の企業に売却することもできます。

GXリーグの排出量取引制度は、2026年度の本格稼働に向けて準備が進められています。本格稼働後は、参加率向上や目標の公平性・実効性の向上、さらには発展に向けた検討が進められる予定です。

GXリーグ

2022年に経済産業省が設立した、カーボンニュートラルに向けた企業の取り組みを支援するプラットフォーム。2050年カーボンニュートラル実現に向け、企業の自主的な取り組みを促進し、日本の経済社会全体の脱炭素化を加速することが目的。

【日本の部門別のCO2排出量(2019年度)】

排出量削減目標

日本の排出量取引制度では、排出量削減目標が設定されています。2030年度の目標は、2013年度比で46%削減です。

排出量取引制度により、排出権の価格が上昇すれば、排出量削減を促す効果が期待されます。さらに、46%にとどまらず日本は2030年度に50%削減の高みに挑戦することも表明しています。

先行的な例:東京都の排出量取引制度

東京都の排出量取引制度は、2010年に開始されました。対象は、電力・熱供給業、製造業、化学工業、建設業、運輸業、商業・サービス業の6業種です。

【東京都の対象事業所の総 CO2排出量の推移 】

東京都の排出量取引制度の対象事業所の2021年度の排出量は、基準排出量から33%削減の1,111万トンとなりました。これは、一部事業所の営業時間回復等の影響がある中、省エネ対策の進展や低炭素電力・熱の利用により実現したものです。

東京都は、2024年度までの第三計画期間においても、全ての事業所が義務履行できるよう、引き続き対象事業所におけるCO2削減を促進していく計画です。

日本の排出量取引制度が本格稼働すると、日本全体の温室効果ガスの排出削減に大きく貢献することが期待できます。*5)

企業が排出量取引制度に参加するには

企業が排出量取引制度に参加することで、排出量削減に取り組むとともに、排出権の取引を通じて、収益を上げることもできます。この制度に参加するためには、企業はさまざまな条件をクリアする必要があります。

ここでは、企業が排出量取引制度に参加するために必要なステップを紹介します。

①対象となるかどうかを確認する

排出量取引制度は、温室効果ガスの排出量が多い企業を対象に導入されています。そのため、まずは自社が対象となるかどうかを確認する必要があります。

②排出量の算定方法を理解する

排出量取引制度では、企業が排出量を算定する必要があります。排出量の算定方法は、制度設計によって異なります。たとえば、J-ETSでは、燃料の使用量や生産量などに基づいて、排出量を算定します。

③排出権の取得方法を検討する

排出量取引制度では、排出枠を超えて温室効果ガスを排出する企業は、排出権を取得する必要があります。排出権の取得方法は、

  1. 政府が開催するオークションで取得する
  2. 他の企業から購入する

の2つがあります。

④排出量削減計画を策定する

排出量取引制度では、企業は排出量削減計画を策定する必要があります。排出量削減計画には、排出量削減目標や削減方法などを盛り込んで、具体的な計画を作成します。

排出量削減計画は、過去の排出量をベースに、2030年度の削減目標を設定します。

⑤排出量削減計画

排出権の交付は、以下の方法で行われます。

ベンチマーク方式

製品・工程に係る望ましい排出原単位(生産量当たりのCO2排出量)を設定し、これに生産量を乗じて排出枠を設定します。製造する製品が均一であり、ベンチマークを設定できる製品・工程に用いられます。具体的な計算式は、「排出枠 = 活動水準(生産量等) × ベンチマーク」です。

グランドファザリング方式

過去の排出実績に応じて排出枠を設定します。ベンチマークを設定できない製品・工程に用いられます。具体的な計算式は「排出枠 = 過去の排出実績 × (1- 削減率)」です。

原単位方式

排出原単位のみ(生産量当たりのCO2排出量)を排出限度とします。生産量増等に伴い、総量削減が担保されない場合や、電気事業者には電力供給義務が課されており、自らの原単位改善努力のみでは義務履行が困難となる可能性がある場合に適用されます。

オークション方式

排出枠を競売によって配分します。価格転嫁できない場合に制度対象者の負担が過重になるおそれがあります。

⑥排出量の報告を行う

排出量取引制度では、企業は毎年、排出量を報告する必要があります。日本では、国内排出量取引制度(J-ETS)を運営する環境省が、排出量の報告先となっています。

報告方法は、インターネットの専用フォームから行う方法と、郵送で行う方法の2つがあり、報告期限は、毎年3月31日です。

排出量の報告は、排出量取引制度の適切な運営のために必要不可欠です。企業は、正確かつ迅速に排出量の報告を行うようにしましょう。*6)

排出量取引制度に関してよくある疑問

Questions & Answers Street Sign

ここでは、排出量取引制度に関してよくある疑問に、わかりやすく回答していきます。

おかしいと言われるのはなぜ?

排出量取引制度は、温室効果ガスの排出量を削減するために、排出権の取引を通じて、企業の排出量削減を促す仕組みです。しかし、この制度について、「おかしい」という意見も少なくありません。

排出量取引制度は、温室効果ガスの排出を抑制するための有効な手段とされていますが、一方で様々な課題や問題点が指摘されています。その1つは、公平性のある排出枠の設定が難しいという点です。

排出枠は一般に、先進国にとっては厳しい制限となり、途上国にとっては緩い制限となります。厳しい先進国で温室効果ガスの削減努力をするよりも、途上国で事業活動を行うほうが良いということで、企業が排出規制の緩い国へ移転してしまい、温室効果ガスの排出量を結果的に増やしてしまうケースがあります。

これをカーボンリーゲージ問題※といいます。

カーボンリーゲージ問題

排出量取引制度において、排出規制の厳しい国から、排出規制の緩い国へ、企業の事業活動が移転してしまう問題。この結果、世界全体の温室効果ガスの排出量を削減する効果が薄れてしまう可能性がある。

儲かるの?

対象の企業が排出量削減に成功し、排出権を余分に取得した場合、その排出権を他の企業に売却することで、収益を得ることができます。

たとえば、ある企業が排出量削減に成功し、排出権を余分に取得した場合、それを他の企業に売却することで、収益を得ることができます。ただし、排出量取引制度に参加する企業は、排出量削減に取り組む義務があります。

排出量削減に取り組まず、排出権を取得するだけでは、収益を上げることはできません。

個人でも参加できる?

排出量取引制度は、原則として企業を対象とした制度です。日本では、現時点で個人が排出量取引制度に参加することはできません。

対象の範囲は?

日本の排出量取引制度は、主に大規模な施設や企業を対象としています。具体的な対象範囲は、制度を運用する各地方自治体によりますが、一般的には、温室効果ガスの排出量が多い企業や施設が対象となります。

また、自主参加型の排出量取引制度(JVETS)も存在し、これには任意で参加することが可能です。ただし、中小規模の排出主体を対象とすることは難しいとされています。

具体的な対象範囲や参加要件については、各地方自治体の公式ウェブサイトや資料を確認しましょう。*7)

排出量取引制度とSDGs

排出量取引制度は、SDGsの目標達成に大いに貢献する可能性があります。具体的には、以下のような効果が期待できます。

①経済効率的な排出削減

排出量取引制度は、企業が自社の排出量を抑制するインセンティブを提供します。これにより、費用の少ない排出削減の取り組みが効率的に選択されます。その結果、社会全体として効率的な排出削減が行われます。

②低炭素型の技術・製品の開発促進

排出量取引制度により、これまでよりも効率的な排出削減技術や低炭素型製品の需要が高まります。これにより、低炭素型の技術・製品の開発が促されることで、新たなビジネスチャンスが生まれる可能性があります。

特に関係の深いSDGs目標を確認してみましょう。

SDGs目標7:エネルギーをみんなに そしてクリーンに

排出量取引制度は、温室効果ガスの排出量を削減するための政策の1つです。温室効果ガスを多く排出する事業者は、排出量に応じて「排出権」を購入する必要があります。

この制度により、企業や個人は、排出量を削減するために、省エネや再生可能エネルギーの導入などの取り組みを進めることが求められます。

SDGs目標9:産業と技術革新の基盤をつくろう

排出量取引制度は、企業や個人が、省エネや再生可能エネルギーの導入などの取り組みを進めるための経済的インセンティブを与える制度です。これにより、対象となる企業は、新たな技術や製品の開発・導入に投資する意欲が高まると考えられます。

SDGs目標11:住み続けられるまちづくりを

排出量取引制度は、温室効果ガスの排出量を削減することで、気候変動による被害を軽減する効果があります。気候変動による被害は、洪水や干ばつなどの自然災害の発生、海面上昇による沿岸部の浸水など、今後も人々の生活や経済活動に大きな影響を与える可能性があります。

この制度により、温室効果ガスの排出量が減少し、気候変動による被害の軽減につながると期待されています。

SDGs目標13:気候変動に具体的な対策を

排出量取引制度は、温室効果ガスの排出量を削減するための最も効果的な政策のひとつです。この制度を導入することで、世界全体で温室効果ガスの排出量を大幅に削減し、気候変動の深刻化を防ぐことができます。*8)

>>各目標に関する詳しい記事はこちらから

まとめ

世界では、EUや米国など、多くの国で排出量取引制度が導入されています。日本でも、2026年度の本格稼働に向けて準備が進められており、2023年度は、制度の準備として、排出量取引制度の基本方針や市場設計の検討、排出権のオークションの実施などが行われています。

温室効果ガスの排出量を削減することは、気候変動の深刻化を防ぐために不可欠です。今後、排出量取引制度は、温室効果ガスの排出量を効果的に削減するため、世界中でさらに普及していくことが予想されます。

温室効果ガスの削減は、排出量取引制度の対象となる大規模な排出企業だけでなく、私たち個人も日常生活の中で、

  • 省エネ家電の導入
  • エコドライブの推進
  • 再生可能エネルギーの利用
  • 環境に配慮した商品の購入

など、省エネやエコライフを心がけ、削減に貢献することができます。また、中小企業や団体も、各事業に合わせた省エネや再生可能エネルギーの導入などの取り組みを進めることが重要です。

私たちひとりひとりが、できることから始め、排出量取引制度の普及と温室効果ガス削減に貢献しましょう。将来も持続可能な地球環境と社会のために、温室効果ガス削減に取り組むことは、今、私たちの社会とって最も重要な課題の1つなのです。

<参考・引用文献>
*1)排出量取引制度
資源エネルギー庁『脱炭素に向けて各国が取り組む「カーボンプライシング」とは?』(2023年5月)
環境省『国内排出量取引制度について』(2007年7月)
経済産業省『カーボン・クレジット・レポートの概要』(2022年6月)
資源エネルギー庁『 令和4年度エネルギーに関する年次報告(エネルギー白書2023)第1節 脱炭素社会への移行に向けた世界の動向』(2023年6月)
首相官邸『(Ⅲ-1) 排出量取引 』
経済産業省『カーボン・クレジット・レポート』(2022年6月)
日本経済新聞『JPXと経産省、排出量取引の市場開設 9月から実証実験』(2022年5月)
経済産業省『脱炭素成長型経済構造移行推進戦略』(2023年7月)
*2)排出量取引制度の仕組み
環境省『排出量取引制度について』p.14
経済産業省『カーボン・クレジット・レポートの概要』p.14(2022年6月)
経済産業省『成長に資するカーボンプライシングについて③~炭素税、排出量取引、クレジット取引等~』(2022年4月)
日本経済新聞『排出量取引「削減強制せず」 経産省、任意参加の制度案』(2021年7月)
資源エネルギー庁『令和3年度エネルギーに関する年次報告(エネルギー白書2022)第1節 脱炭素を巡る世界の動向』(2022年6月)
内閣官房『我が国のグリーントランスフォーメーション実現に向けて』(2023年8月)
*3)排出量取引制度のメリット
資源エネルギー庁『脱炭素に向けて各国が取り組む「カーボンプライシング」とは?』(2023年5月)
経済産業省『成長に資するカーボンプライシングについて③~炭素税、排出量取引、クレジット取引等~』(2022年4月)
*4)世界の排出量取引制度の現状
資源エネルギー庁『脱炭素に向けて各国が取り組む「カーボンプライシング」とは?』(2023年5月)
JETRO『世界で導入が進むカーボンプライシング(前編)炭素税、排出量取引制度の現状』(2021年9月)
経済産業省『海外の炭素税・排出権取引制度と我が国への示唆』(2021年4月)
日経ESG『抜本改革迫る、EU ETS徹底解説 欧州排出量取引制度で対策強化、日本は26年本格開始』(2023年2月)
*5)日本の排出量取引制度の現状
資源エネルギー庁『「GX実現」に向けた日本のエネルギー政策(後編)脱炭素も経済成長も実現する方策とは』(2023年5月)
資源エネルギー庁『 令和2年度エネルギーに関する年次報告(エネルギー白書2021)第3節 2050年カーボンニュートラルに向けた我が国の課題と取組』(2020年6月)
東京都環境局『【東京都 キャップ&トレード制度】第三計画期間2年度目においても対象事業所の排出量の大幅削減が継続 』(2023年10月)
環境省『地球温暖化対策計画(令和3年10月22日閣議決定)』(2021年10月)
資源エネルギー庁『「GX実現」に向けた日本のエネルギー政策(前編)安定供給を前提に脱炭素を進める』(2023年3月)
経済産業省『グリーントランスフォーメーションの推進に向けて-成長志向型カーボンプライシングを中心に』(2023年5月)
経済産業省『カーボン・クレジット・レポートの概要』(2022年6月)
経済産業省『カーボンクレジット・レポートを踏まえた政策動向』(2023年3⽉)
日本経済新聞『GXリーグ参加、700社規模 排出量取引4月スタート』(2023年2月)
経済産業省『GXリーグ基本構想』(2023年8月)
*6)企業が排出量取引制度に参加するには
環境省『省エネ法・温対法・フロン法電子報告システム(EEGS)』
環境省『国内排出量取引制度について』(2013年7月)
環境省『排出量取引制度について』
東京環境局『排出量取引入門』(2017年12月)
環境省『キャップ・アンド・トレード方式による国内排出量取引制度について~制度設計における論点の整理~』(2010年8月)
経済産業省『海外の炭素税・排出量取引事例と若国への示唆』(2021年4月)
*7)排出量取引制度に関してよくある疑問
経済産業省『国境炭素調整措置の最新動向の整理ー欧州における同行を中心にー』(2021年2月)
環境省『カーボンプライシングの効果・影響』(2017年7月)
環境省『我が国における国内排出量取引制度について(概要版)』
京都大学『経済学研究科 再生可能エネルギー経済学講座 No.315 温室効果ガス排出権取引制度に対する日本における3つの反論― なぜそれらは全て間違いなのか』(2022年5月)
電力中央研究所『欧州排出量取引の制度改革 2030年55%削減に向けた EU ETS の改正と ETS II の新規導入』(2023年5月)
*8)排出量取引制度とSDGs
経済産業省『SDGs』