#インタビュー

株式会社Agriture|規格外野菜を乾燥野菜に。その先に見たい持続可能な農業のために!

株式会社Agriture

株式会社Agriture CEO 小島 怜さん インタビュー

小島 怜

京都生まれ。大学で農業地理学を専攻し、過疎地域での農業法人が与える影響を研究。その後、乾燥野菜OYAOYAを開始し、2022年に株式会社Agritureを創業して法人化。京都北部エリアで10以上の生産者と連携し、30品目以上の乾燥野菜の企画から販売を行なっている。

introduction

コリコリとした触感がアクセントの伝統的な保存食品、切り干し大根を普段の料理に使ったことはありますか?手軽な健康食材であるにも関わらず、若い世代の人には馴染みの薄い食材になりつつあるのではないでしょうか。

京都の北部に、この切り干し野菜(以下、乾燥野菜)で持続可能な農業に向き合う会社があります。事業のきっかけは農家が抱える課題のひとつ、大量の規格外野菜でした。

廃棄される運命にあった規格外野菜を活用し、野菜や農業の魅力を伝え続ける株式会社Agriture。創業3年目を迎えたばかりの同社の、これまでの軌跡と今後の展開について、CEOの小島さんにお話を伺いました。

食生活の見直しを機に、学生起業で始めた規格外野菜のアップサイクル

ーまずは理念や事業内容についてお聞かせください。

小島さん:

弊社は「農業の、これから。を創る」というビジョンをもとに、規格外野菜をアップサイクルした乾燥野菜およびドライフルーツの製造と企画、販売を一貫しておこなっている会社

です。

4年ほど前、個人事業主として乾燥野菜ブランド「OYAOYA」で販売を開始しました。法人化した現在は、乾燥野菜の製造・販売や法人向けに原料提供を含めた乾燥野菜のOEM※をしています。

※original equipment manufacturingの略称。既に自分の作りたいものと近いものを製造する機能を持っているメーカーへ依頼して商品を作ってもらうこと

ー乾燥野菜との出会いについて教えてください。

小島さん:

祖母が糖尿病になったことをきっかけに、私も食生活を気にするようになったのが始まりです。大学生だった当時、自らの食生活では摂取量が少なかった野菜を、もっと手軽に食べられるようにできないかと思うようになりました。

初めは野菜チップスの開発を検討しましたが、油で揚げたり塩で加工したりなどの工程に難しさを感じました。商品を模索する中で、農家さんにヒアリングをしていたところ、既に乾燥野菜を作られている方に出会いました。話を聞くと、その乾燥野菜は処分される運命にある規格外野菜を使用しているとのことでした。だれも傷つけることのない、とてもいいプロダクトだなと興味を持ったのが乾燥野菜に着目したきっかけです。

―規格外野菜とはどのようなものですか?また規格外野菜を、どうして乾燥野菜にアップサイクルすることにしたのですか?

小島さん:

規格外野菜とは、味に問題は無いにもかかわらず、形や大きさが不揃いであるという理由で、一般のスーパーなどでは販売の対象外になってしまう野菜のことです。農家1軒あたりで、総収穫量の3割程度の野菜が規格外になると言われています。せっかく大切に育てた野菜の3割を、処分したり加工することは、農家にとって大きな負担です。

そのため農家さんは、規格外野菜を格安で販売したりジュースなどに加工したりなど、利用方法を考えて、実践していたようです。とはいえ、私の調査したところでは、農家さんの収入の下支えとなるような利用方法は確立していないように思われました。

当時私はまだ大学生でしたから、冷凍など大がかりな設備投資は難しく、常温で日持ちのするものを商品化したいと考えていました。その中でも乾燥野菜は、お湯をかけるだけで手軽に食べることができますから、私生活でも重宝していて、その利便性に着目しました。

そして何より、規格外野菜を利用して乾燥野菜を作るというアイデアはエコで共感を呼びました。規格外野菜を処分してきた農家さんだけではなく、家庭でも使いきれなかった野菜を処分してしまったという心苦しい経験がある方も多く、規格外野菜をアップサイクルするというストーリーを評価してくださる方はたくさんおられます。

幅広い世代や業種の人に愛される乾燥野菜とドライフルーツ

-乾燥野菜について伺います。ラインナップや、どのようなお客様に利用されているのかを教えてください。

小島さん:

現在、30種類以上のラインナップがあり、トマト、たまねぎ、きゅうりなどが人気です。基本的にはどんな野菜も乾燥できますから色々試作して、年内には50種類まで増やしていきたいと思っています。

ドライフルーツは梨やりんご、みかんなどがあります。一般的に販売されているドライフルーツは砂糖が入っているものも多くあります。対して弊社は、十分に甘味のある高い品質の果物を使用しているので、砂糖は使用していません。

また、それぞれの果物の食感を楽しんでいただけるように、切り方や乾燥の仕方を変えていることが特徴です。

売上比率で言いますと、現在は法人のお客様がほとんどです。販売開始当初は個人向け販売が主でしたが、最近は規模を拡大し、主に法人向けに事業展開をしています。内訳としては、ホテルやペットフード関連の会社、レストランなどがあります。最近ではIT企業などで、ノベルティとして使用されることも増えました。非常に幅広い業種の方に購入していただいています。

-パッケージのデザインが斬新で、若い人も手にとりやすいデザインですね。

小島さん:

これまでの乾燥野菜というと、店頭に並んでいても地味で目立たないものが多かったように思います。そこで若い世代の方にも購入して欲しいと、ポップなパッケージデザインに仕上げました。ただ実際に購入されている方は、切り干し大根になじみ深い年齢層の方が多いのが現状です。

とはいえ、パッケージデザインが日本とアジアでデザイン賞を受賞したこともあり、これから徐々に若い人にも弊社の乾燥野菜が浸透していくと思っています。

乾燥野菜の用途は無限大!お客様が教えてくれる意外な利用方法

―乾燥野菜にはどのような使い方がありますか?

小島さん:

スーパーなどで販売されている乾燥ネギなどをイメージしていただけると分かりやすいかもしれません。お湯を注いだり味噌汁の中に入れたりするだけで、手軽に調理することができます。

弊社のサイトではお客様から寄せられたレシピを掲載しており、その数は160にものぼります。トマトやニンジンなど甘味のある野菜をアイスやイタリアンスイーツに使用するなど、使用方法は多岐にわたります。

私は当初、カップラーメンの中に入れて食べる程度の発想しかしていませんでした。しかしお客様の反響をもとに、「乾燥野菜は実にいろいろな料理に使える」と今では言えるようになりました。私も汁物に加えるだけでなく、保存容器に調味料と一緒に乾燥野菜を入れて簡単な漬物にするなど、ほぼ毎日の食事に取り入れています。

―160ものレシピがあるとは驚きです。その中で、小島さんが販売開始当初は想定していなかった使用例やお客様の反応があれば教えてください。

小島さん:

乾燥野菜はペットフードとしての可能性も含んでいるということは新たな発見でした。販売を進めていく中で、「自宅のペットが美味しそうに食べました。」というお声をいただくようになったのです。また、ペットの健康を考慮したい飼い主様が、普段与えているペットフードに弊社の乾燥野菜を混ぜて食べさせているという事例もあるようです。そのようなニーズを踏まえて、現在ペットフードの関連会社と新たな商品開発を進めているところです。

他にも意外だったのは、山登りやキャンプでの利用、非常時に備えた保存食としての利用です。また、病気で生野菜を食べることができない方が、弊社の乾燥野菜を食べることができたというお声をいただいたこともありました。

私の想定を超えて、様々な方の食生活に貢献できていることを嬉しく思っています。

地域密着型で製造するからこそ届けられる、温かみのある乾燥野菜

ーここからは、農家との連携にまつわるエピソードや農家からの反響について教えてください。

小島さん:

事業を開始した当初は、農家さんとの信頼関係作りに苦労しました。農家さんからすると何者か分からない若者がいきなり畑にやってくる訳ですから。そこでアナログではありますが、農作業を一緒に手伝うことで徐々に信頼関係を獲得しました。なんとか3軒を獲得できると、そこからは紹介などで増えていき、現在は12軒の農家さんと連携をしています。

農家連携におけるこだわりは、「自身の農産物に確かな思い入れを持っている農家さんであること」、また「ある程度大規模で農家としての事業が安定していること」です。弊社では1日から2日かけてじっくりと野菜を乾燥することで、うま味を凝縮させています。ですから野菜の味や品質が商品の要となるのです。大規模な農家さんは、栽培方法に伴う野菜の味が安定していることが多い傾向にあります。そのため、そのような野菜を使うことで商品の品質を保ちながら、弊社も事業拡大ができると考えています。

農家さんからいただく反響としては、弊社が規格外野菜を乾燥野菜に加工することで、その農家さんの知名度が上がったり、イメージアップに貢献したりすることがあるようです。また、農家さん自身の手土産としても重宝していると聞いています。

弊社がお付き合いさせていただいている農家さんは若い方が多く、年々農地拡大されています。野菜の生産量が増えることで規格外野菜の量も増えますが、会社が成長しているので継続して一定量を購入することができていることを嬉しく思っています。

ー取り組んでおられる農福連携についてもお伺いします。どのような作業を委託されていますか?また、作業を委託されることになった経緯についてもお聞かせください。

小島さん:

野菜の乾燥作業の前段階に必要となる、カットや種を取り除くといった作業を、地域内の就労支援B型作業所に委託しています。弊社が収穫した野菜を持ち込み、作業所にてカットされたものを受け取って即日乾燥しています。

作業所に委託している理由は2つあります。1つは野菜のおいしさを伝えるため、切り方にこだわったからです。大規模な設備投資をして製造を工業化してしまうと、事業面での不安もありますが、野菜の良さを届けられないと考えたからです。

2つ目は、弊社が事業を開始したのがコロナのパンデミックが発生した時期で、当時その作業所が受注する仕事が不安定だったという事情があります。

弊社の事業が拡大するにつれ生産量が増えており、作業の効率化や生産強化の対策が今後必要になってきます。機械化も視野に入れながら、一部の野菜についてはこれからも就労支援B型作業所に作業を委託し続けたいと考えています。

乾燥野菜を広めることで野菜や農業に関わる人を増やしたい

-最後にお伺いします。農業が多くの課題を抱える一方で、成長を続ける会社としてどのように今後事業を展開していきたいとお考えですか?

小島さん:

健康的な食品を開発したいという想いからスタートした事業でしたが、多くの農家さんをまわるうちに、高齢化や耕作放棄地の増加など、日本の農業が抱えるあらゆる問題に気づくようになりました。農業人口の高齢化を防ぐことはできませんが、持続可能な農業のためには 、農業や野菜に興味を持つ人を増やすことが大切だと考えており、弊社の乾燥野菜はその手段の1つになると思うのです。

農家さんが処分に困った規格外野菜を、弊社が利用することが最終目的ではありません。「美味しい野菜を届けたい」という想いは農家さんと同じです。ですから規格外野菜とはいえ、素材にも加工方法にもこだわった自慢の乾燥野菜を、弊社は製造しています。

弊社の乾燥野菜を通して、野菜の魅力に気づき、農業の抱える課題を知っていただきたいですね。その結果、農業に興味を持つ人を増やすことで、持続可能な農業に貢献したいと考えています。

そのためには野菜の切り方を変えるなど商品の改良を含めて、乾燥野菜の用途や魅力をもっと広げながら事業拡大していきたいと考えています。

また、弊社の培ったノウハウで、野菜の6次産業品の開発をサポートするなど、今後も困っている農家さんの力になりたいと考えています。

ー野菜や農家への誠実な想いが支持を得て、事業拡大につながっているのがよく伝わりました。今後も様々な分野で利用される乾燥野菜を通して、農業の支えとなっていく御社の成長を頼もしく思いました。この度は貴重なお話をお聞かせいただきありがとうございました。

関連サイト

株式会社Agriture 公式サイト:https://agriture.jp

乾燥野菜ブランドOYAOYA 公式サイト:https://oyaoya-kyoto.com