アノテーションサポート株式会社 河内さん インタビュー
◆会社概要アノテーションサポート株式会社は、アノテーションに特化した業務代行サービス「アノサポ」を提供している会社です。「世界の無国籍者をゼロにする」をミッションとし、AI開発で必須のアノテーションを通じて、子ども達の国籍取得を支援しています。AI開発に不可欠な教師データの仕事と雇用を約束することで、母国に家族で帰国してもらい、親には自社で働く機会を、子ども達には国籍の取得と公立学校へ通えるようサポートしています。
introduction
東南アジアやアフリカを中心に社会問題となっている無国籍問題。無国籍の人々は、教育や医療、就職の機会を得ることが難しく、子どもたちは夢を諦めざるを得ない状況です。
2021年に設立されたアノテーションサポート株式会社は、マレーシアとフィリピンの無国籍者に雇用の機会を提供し、彼らが国籍を取得して自立した生活を送るためのサポートを行っています。
本記事では、アノテーションサポート株式会社の河内さんにサービス内容や社会貢献活動の取り組み、今後の事業展開について詳しくお話を伺いました。
国籍取得を支援して子どもが夢に挑戦できる社会を実現したい
–まずは御社について教えてください。
河内さん:
アノテーションサポート株式会社は、世界の無国籍問題を解決することをビジョンに掲げて、2021年8月に設立しました。現在、その第一歩として、AI開発に必要なデータを作成するサービスを通じて、無国籍の人々に仕事を提供しています。具体的には、機械学習を行う際に必要な教師データである「アノテーションデータ」について、企業から依頼を受けて作成を代行しています。彼らに安定した収入をもたらすことで、自身の未来を築いていくための足掛かりを提供しているのです。
–河内さんがアノテーションサポートを創業したきっかけは何ですか。
河内さん:
私はもともとAIに詳しかったわけでも、起業して稼ぎたかったわけでもありません。アノテーションサポートを立ち上げたきっかけは、私自身が学生時代にボランティア活動を通じて無国籍の子どもたちと出会ったことです。当時、マレーシアでボランティアをしていた際、8歳の無国籍の子どもと出会いました。その子どもは「将来警察官になりたい」と言っていましたが、無国籍であるためにその夢が叶わないと話していたのです。
その出来事から、私は無国籍という問題に関心を持ち、この問題を解決するために詳しく調べるようになりました。そのうち、彼らがフィリピンに帰国し、国籍を取得するための仕組みが必要だと感じました。そのために、フィリピンで仕事をどのように用意できるだろうと考えたところが始まりです。
無国籍問題の解決をアノテーション事業で実現
–フィリピンとマレーシアの間の無国籍問題について教えてください。
河内さん:
フィリピンからマレーシアに移住してくる人々の多くは、仕事が得られないなどの経済的な困窮から逃れるために移住しています。しかし、マレーシアは難民条約に加盟していないため、こうした移住者は難民としての権利が保障されていません。その結果、彼らは不法移民として扱われ、正式な滞在許可を得られないまま、長期間マレーシアに滞在することになります。
このような状況で生まれた子どもたちは、マレーシアでもフィリピンでも国籍を持たず、無国籍となってしまいます。無国籍の子どもたちは、学校に通うことができず、社会保障も受けられません。さらに、無国籍であるがために逮捕され、強制送還されることまであります。
彼らがこの悪循環から抜け出すためには、フィリピンに帰国してもらって国籍を取得する必要がありますが、そのためには現地での仕事や収入が必要なのです。
–次にアノテーション教師データについて教えてください。どのような場面で活用されていますか。
河内さん:
アノテーション教師データとは、AIが正確に学習するために必要なデータです。具体的には、画像やテキストに対してラベル付けを行い、それをAIに提供することで物体やテキストの意味を正しく理解できるようになります。
例えば、犬を認識するAIを作成する際には、さまざまな種類や色、角度の犬の画像を提供し、それに「犬」というラベルを付けます。AIはこのデータをもとに学習することで、写真から犬を認識することが可能になるのです。
アノテーションは、さまざまな分野で活用されています。自動運転車の開発では、道路標識や歩行者などを認識するために、膨大な量の画像データをアノテーションしています。
農業では、収穫された作物の品質を判別するためにAIが使用されますが、そのための教師データを準備する段階でアノテーションが必要です。そのほか工場の安全監視や、医療画像の解析など、多くの分野で活用されています。
–無国籍問題解決の手段として「アノテーション」を選んだ理由はなんでしょうか。
河内さん:
無国籍問題の解決には、彼らが母国で生活できる環境を整える必要があります。しかし、フィリピンに帰国しても、仕事がなければ生活を維持することはできません。そこで、私たちはフィリピンで仕事を創り出し、彼らが安定して生活できる収入源を提供することを目指しました。
どのような仕事が最適なのか、多くのIT企業経営者にアドバイスをしてもらいました。その中でアノテーションという仕事を選んだ理由として、言語に依存せずに行える仕事であることが挙げられます。マレーシアで暮らすフィリピン人の多くは英語が不得意であったり、他の言語が主となっていたりする場合もあるためです。また、短期間でスキルを習得でき、リモートで行える仕事であることも条件でした。
これらの条件を満たすアノテーションは、無国籍の人々にとって理想的な仕事だったのです。
アノテーション事業の可能性とアノサポの強み
–提供しているアノテーションサービス(アノサポ)について、内容や特徴を教えてください。
河内さん:
私たちが提供しているアノサポの特徴は、データの品質を重視しながら、スピードとコストの面でも顧客に満足していただける点です。AI開発では、教師データの品質が重要であり、開発全体の80%の時間がこの作業に費やされるともいわれています。
私たちは、顧客の負担を軽減するために、このデータ作成を全面的に代行し、品質の高いデータを迅速に提供しています。
また、フィリピンの無国籍者を中心に雇用しているため、日本国内で同様のサービスを依頼するよりもコストを抑えられる点も特徴です。そのほか、アノテーションの方針やAIモデルのコンサルティングも行っており、顧客のニーズに応じて柔軟に対応することで、精度の高いAIを作り上げることを目指しています。
–アノテーションサービスの顧客はどのような企業でしょうか。また企業から評価の高いポイントはありますか。
河内さん:
私たちのアノテーションサービスを利用している顧客は、主にAI開発を行っている企業や研究機関です。例えば、自動運転や農業、製造業、医療分野など、さまざまな業界でAIを活用している企業が私たちのサービスを利用しています。また、アカデミアや大学などの研究機関からも、プロジェクトの一環としてデータ作成の依頼を受けることが多いですね。
評価されているポイントとしては、第一にデータの品質の高さが挙げられます。AIの精度を向上させるためには、正確で信頼性の高いデータが不可欠です。私たちは、データの品質を最優先にし、細部にまでこだわったアノテーションを行っています。
また、顧客の要望に応じた柔軟な対応や、迅速な納品スピードも高く評価されています。AI開発はスピード感が求められるため、即日のお見積もりや短期間での修正と納品が可能な点は大きな強みだと思っております。
最初はアノサポを信じてもらえず苦労するも今では喜びの声が多数に
–アノテーションの仕事を作り出すことで無国籍問題をどのように解決できるのでしょうか。
河内さん:
無国籍の人々が直面している問題は、安定した収入がないために、国籍を取得するための手続きやフィリピンへの帰国ができないという点です。私たちは、彼らにアノテーションの仕事を提供することで、フィリピンで生活を再建するための支援を行っています。
アノテーションの仕事は短期間でスキルを習得でき、リモートで行えるため、無国籍の人々にとって理想的な職業です。難民や貧困の問題というのはその辺りの地域一体で起こっている問題であることが多く、点在していても働けるという点が重要です。加えて、マレーシアの無国籍の子を持つ世帯が2つの村で合計300世帯ほどいるので、アノテーション事業のマーケット規模もあります。このプロセスを通じて、子どもたちは正式な国籍を取得してフィリピン国内で教育や医療サービスを受けられるようになりますし、無国籍問題の根本的な解決につなげることができると考えています。
–アノサポのビジネスを立ち上げるなかで苦労したエピソードはございますか。
河内さん:
ビジネスを立ち上げる際に最も苦労したのは、フィリピンの無国籍者たちに私たちのプロジェクトを信じてもらうことでした。彼らにとって、フィリピンに戻るという選択肢は現実的でなく、多くの人々が、私たちが提供する仕事や国籍取得の支援を詐欺だと疑っていたのです。しかしその中でも、私の9年間にわたるボランティア活動を見てくれていた一部の家族が協力してくださり、その信頼関係から成功事例を生み出しました。
また、無国籍の人々がパソコンを使ったアノテーションの仕事を習得するには、多くの時間と労力がかかりました。特に、ITの知識やスキルが全くない状態から始める人が多かったため、基本的なパソコン操作から教える必要がありました。しかし、彼らが少しずつスキルを身につけ、実際にデータ作成に携わるようになると、仕事に対する自信や誇りが生まれました。このような成長を目の当たりにすると、苦労が報われる瞬間だと感じます。
–フィリピンの利用者からはどのような反応がありましたか。
河内さん:
フィリピンの利用者からは、最初は不安や疑念が多かったですね。特に、経済難民としてマレーシアに移住してから何十年も経った人たちにとって、再びフィリピンに戻るという決断は大きなリスクでした。
しかし、私たちが実際にフィリピンで仕事を提供し成功事例を作り始めると、SNSなどによって口コミが広がり、徐々に多くの人々が信じて参加してくれるようになりました。今ではフィリピンに戻った家族から、国籍を取得して子どもたちが学校に通うことができるようになったというポジティブな声も多く寄せられています。また、アノテーションの仕事に誇りを持ち、自分たちがAIの開発に貢献しているという実感を持って働いているという声も多く寄せられています。
今後のアノテーションサポートの展望。さらなる事業拡大の方針は?
–今後の事業展開や展望を教えてください。
河内さん:
現在、私たちは主に日本国内の企業を対象にアノテーションサービスを提供していますが、今期はアメリカ市場への展開も視野に入れています。無国籍者問題は世界中で存在し、特にアフリカや東南アジアの貧困地域で深刻な問題となっています。私たちは、フィリピンでの成功をもとに、他の地域でも同様の取り組みを行い、無国籍者に雇用の機会を提供することを目指しています。
アメリカやEUでの市場拡大を通じて、私たちはさらに多くの無国籍者を支援し、彼らが国籍を取得できるようにしたいですね。AI開発の本場アメリカで、ジャパニーズクオリティを押し出して勝負する予定です。
–アノテーションサービスと無国籍問題に関して、興味深いお話をいただきありがとうございました。
アノテーションサポート株式会社公式サイト:https://annotation-support.com/