#インタビュー

MNインターファッション株式会社|D2Cブランド「ANNUAL」でひとにも羊にも環境にも優しいニュージーランド産ウールを広める

MNインターファッション株式会社 企画開発部マーケティング課兼「ANNUAL」デザイナー 関川恵三さん インタビュー

関川 恵三

大学在学時から東京コレクションに参加する「リトゥンアフターワーズ」でデザイナーアシスタントを経験。大学卒業後、「ミキオサカベ」や「20,000,000 フラグメンツ」にて経験を積む。

2013年川島メリヤス製造所に入社し、数多くのデザイナーズブランドのニット設計を担当。2016年MNインターファッション入社。企画開発部マーケティング課に所属し、”地球と人に優しい”をコンセプトにした、エシカルで高品質なニットウェアブランド「ANNUAL」のデザインや製品統括、さらに他ブランドのマーケティング全般に関わる。

introduction

「メリノウール」を使ったニット製品を手に取ったことはありますか?その名の通り、メリノ種の羊からとれるウールのことですが、中でもニュージーランド産のメリノウールはとても希少なものなのだそうです。このニュージーランド産のメリノウールを使うことにこだわったアパレルブランド「ANNUAL」は2019年にスタートし、流行に左右されない、長く着続けられるニットウエアを提供しています。

元々は繊維商社として素材開発やOEM製品の販売が主軸であるMNインターファッション株式会社が、どのような想いで自社ブランド「ANNUAL」を立ち上げたのか。本日は、「ANNUAL」のデザイナー、製品統括などを手掛ける企画開発部マーケティング課の関川恵三さんに、ブランドに対するこだわりや、アパレル業界におけるSDGsの取り組みなどについてお話をお伺いしました。

希少なニュージーランド産メリノウールを「自分達の手で消費者に届けたい」と立ち上げたD2Cブランド

–まずは、関川さんが手掛けているブランド「ANNUAL」についてお聞かせください。

関川さん:

「ANNUAL」のコンセプトは「ニュージーランド産のメリノウールを使ったデイリーウエアブランド」です。

私はこれまでデザイナーズブランドのニットウエアのデザイン等を担当してきましたが、弊社に入社してからはニット糸の素材開発をする部署に所属していました。さまざまな素材を手にする機会がありましたが、ウール素材の開発と言っても、数年前までは羊の産地にまでフォーカスすることはなかったんです。

しかし最近は、スーパーでも生産者のわかる野菜や商品が並んでいますよね。同様に洋服の素材も「どこでとられたか」「素材の機能性やどういう背景があるか」ということに注目が集まっています。そこで、弊社としても他社との差別化のため「生産者の顔がわかる素材の開発」を進める中で出会ったのがニュージーランド産のメリノウールでした。

弊社は商社なので、直接消費者に対して洋服を販売する事はなく、国内外の工場でアパレル製品の製造を請け負い、アパレルに商品を納めるOEMが本業です。良い素材を開発しても、本来ならば、どこかのアパレルブランドに使ってもらわなければ消費者に届けられないのですが、「このメリノウールの良さは自分でしっかり伝えたい」と考え、D2Cブランド「ANNUAL」を立ち上げることにしました。

–あえてニュージーランド産のメリノウールにこだわる理由を教えてください。

ニュージーランド産のメリノウールは、他国のものより毛の縮れが深く、ふくらみがあり、空気を多く含むので軽くて暖かいのが特徴です。

一般的にメリノウールは、オーストラリアで育てられたメリノ種の羊からとることが多く、ニュージーランド産はメリノウール全体のわずか1.3%ほどです。とても希少ですが、柔軟性・膨らみ感・細さ・強度・白さというどの点をとっても高品質であるため、ニュージーランド産のメリノウールを使うことで、本当に良い品質のニットができあがります。

ニュージーランド産のメリノウールを使うのには、この「品質のよさ」というポイントのほかに、「ミュールジングの禁止」という背景があることも大きなポイントになっています。

ミュールジング」とは、羊が病気にかからないように子羊のうちにおしりの皮を肉ごと削ぐ処置のことです。

羊毛がたくさん採れるようにと改良されたメリノ羊は、毛が密集することでおしりに糞が付きやすく、そこから虫がわいてしまうなど病気にかかりやすいリスクがあります。これを防ぐため、羊のために行うのが「ミュールジング」ではあるのですが、近年はその行為自体が羊を痛めつけているのではないかと問題視されるようになり、法律で禁止する国も出てきています。

オーストラリアは、気温が高い気候から虫が多く発生する環境ということもあり、「ミュールジング」が合法化されていますが、ニュージーランドでは法律で禁じられています。寒暖の差が激しいニュージーランドは、冬は-20℃前後、夏は30℃くらいと虫が発生しづらい環境です。そのため「ミュールジング」をせず、自然に育てても羊に悪い影響が少ないんです。

私自身も実際にニュージーランドに行き、羊が育てられているのを観ましたが、本当にのびのびと良い環境で育っています。放牧に近いような飼育環境で、緑も多く茂っているので餌も豊富で栄養たっぷりという感じでした。だからこそ、その羊からとれる羊毛は痩せていなくて、強くて切れづらく、品質がいいんですよね。

ニュージーランド産は供給量が非常に少ないので、10月~11月に毛刈りされたものを年末年始にかけ、バイヤーが現地で買い付けます。

海外のバイヤーは、オークションを通して羊毛の品質を表す繊度の数値だけを見て買うことが多いのですが、弊社と協業しているウールバイヤーは数値だけでなく実際に羊毛を触って良し悪しを見極めて購入するので、その年にできた高品質のものを買うことができるんです。自分達の目で品質をしっかり見極めて商品化しているのも、私たちのこだわりの一つです。

–デザイナーの関川さん自ら現地に足を運ぶほどとは、素材への真のこだわりが感じられます。製品化する上で、他にどんなところを意識していらっしゃいますか?

関川さん:

羊毛の買い付けから、糸づくり・デザイン・編立・縫製・販売とすべてのサプライチェーンを自分の目で確かめて、連携しながら長く愛されるアイテムを提供したいと考えています。

製品化するときには、丈やデザインによって編み方を変えたり、周りの人に試着してもらいリアルな意見をもらったりしながら大切に商品にしています。

実際にANNUALのニットを着てくれている人からは、「どんな動きをしても動きづらさやごわつきを感じない。”肌馴染み”が良いニットだと感じる。」という声をいただいています。

また品質の良さだけでなく、ウール自体が天然素材なので、生分解でき、リサイクルも可能という特徴があります。こうしたことから、環境にも配慮した服づくりができます。

品質が良くて、環境にも動物にも優しい素材であるニュージーランド産メリノウールを使った商品を、ぜひ日本の皆さんに紹介したいという思いで日々「ANNUAL」を運営しています。

あくまで「ファッションは着る人を高揚させるもの」 背景にサステナブルなストーリーを持たせたい

これまで数多くのニットウエアのデザインや素材開発を手掛けてきた関川さんならではの視点が製品に詰まっているのですね。ファッションにおけるサステナビリティに関心を持たれたきっかけはあったのでしょうか。

関川さん:

弊社の大阪支店は、全世界に高機能素材を中心に生地を販売しています。「Pertex」を始めとする業界を代表する高機能素材ブランドを保有しているのですが、私が入社した当時の上長が「Pertex」の全世界の販売権を獲得してきた人物なので、私たちもグローバルな視点でのものづくりというのが当たり前となっていました。

さまざまな素材を吟味し、実際に開発を進めていくと「これは環境に負荷をかけているのではないか」という課題や問題点がどんどん見えてくるんです。「それならば、環境にも良いものを作っていこう」という意識が芽生え、国内向けの素材開発でも海外と同じ基準でサステナブルなものづくりをしていくことになったんです。

とはいえ、私自身は「ファッションは着る人を高揚させるものであるべき」というポリシーをもとに服作りに携わっています。近年ファッション業界でも「SDGs」や「サステナビリティ」を意識する流れになってきていますが、それらの考え方を消費者に押し付けるようなことはしたくないですね。

ファッションはまず「かわいい」「かっこいい」といった着る人の気分を高めるものであることを前提として、その背景をたどっていくと、品質としても地球にとっても「良いもの」だと分かるというのが良いのではないかと考えています。

もちろん、せっかくつくるのだから品質にはこだわりたいですね。

しかし一方で、自分が今まで良かれと思ってしてきたことが、裏から見ると環境に負荷をかけているということも多々あります。そこのバランスは難しく、永遠の課題ですね。

ファッションにおけるサステナビリティについては、弊社に入ってからより意識して情報を調べるようになりました。また商社という立場上多くの方と関わるので、業務を通して知識や経験値を増やしていくことができています。

「長く」着てもらった後は素材として「もう一度」蘇らせる。衣料品のサステナビリティを追求する取り組み

–他にも、環境問題の解決に向けた取り組みを何かされていますか。

関川さん:

はい。回収した衣料品を再資源化する「CLOTHLOOP(クロスループ)」という取り組みを導入しています。

着古されて役割を終えた衣料品を回収し、選別作業を行い、再資源化が可能なものは、わた状にもどして紡いで糸にします。本来ならばただ棄てられるはずの服が新しい資源として生まれ変わるファッションの循環モデルです。

素材開発の仕事をする中で、日々廃棄される素材や端材が気がかりでしたが、さらに環境省から公表されているデータを目にして驚愕しました。洋服は1日に1,300トン、大型トラック130台分もの量が焼却されたり埋められたりしているのだそうです。

これを知ったことがきっかけで、「せっかくつくった服をどうにか再資源化できないか」と考え「CLOTHLOOP」の取り組みを始めました。

参照:環境省サステナブルファッション

衣類は「CLOTHLOOP」の回収センターで一括回収し、リサイクル工程に回していきます。該当する洋服の品質表示のタグと一緒に「CLOTHLOOP」のURLが入ったタグをつけていて、ホームページからどのような手順でリサイクルできるのかを確認できるようにしています。

こうして再生されたウールはもう一度製品に蘇ります。現在弊社ではこのリサイクルウールでラグマットを作り販売しているんです。

リサイクルウールはどうしても短い繊維になってしまうので、服としてではなく、繊維長を考慮した製品を生み出していくことを考えています。

このラグマットは、国内に数件しか残っていないフッキングマットを作る工場の職人が、手作業で作っていて、全自動のフッキングマシーンで作ったものとは違い、繊細で味わい深い風合いの仕上がりになるのが特徴です。

加えて、「アートやファッションを通じて伝統工芸を守る」ことにも繋がっているんです。

この取り組みは周りからの反応も良く、再製品化されたラグマットを見て興味を持ってくれる人達も増えました。異業種の方達から連絡をいただくこともあるんですよ。

また、ブランドとしてリサイクルウールを使った製品があることで、ポップアップショップなどを展開したときに、ブランドとしてのストーリーをきちんと消費者に伝えられるというメリットもありますね。

一方、この取り組みを始めてみて課題も見えてきました。

現在は主に「ANNUAL」と、その他自社ブランドの服が「CLOTHLOOP」の回収対象となっています。他社の商品にはどのような素材が使われているかが細部まではわからないため、素材として再生できるかどうかの判断ができないからです。

また、ウールを再資源化するための条件は、「ウールの混率が80%以上」です。

ANNUALとして最終の製品混率がウール80%以上となれば回収後も再資源化に進めるので、80%を越えるように商品を企画しています。

弊社はOEMで他社ブランドの製品も製造していますので、この「CLOTHLOOP」企画に賛同してくれる会社があれば、一緒に取り組んでいくことも可能ではないかと考えています。

アパレル販売のサイクルを根底から見直し、商品を通して「良いものを長く使う」という考えを伝えたい

–まずは自社ブランドで、循環型ファッション実現の第一歩を踏み出したということですね。現在のアパレル業界におけるサステナビリティへの取り組みや、課題についてはどのようにお考えですか。

関川さん:

数年前に比べ、日本、諸外国においてもサステナビリティの意識は高まっています。決して日本が劣っているとも思っていませんし、国内での素材開発もいろいろと進んでいます。

日本のアパレル業界の課題は、どちらかというと「洋服を販売する時期とその仕組み」にあるのではないでしょうか。

衣料品の販売は1月頃から春物から順に夏物へ、秋冬物は7、8月頃から始まります。実際に消費者が必要な時期にはセールが始まってしまいます。

各社セールに乗り遅れないように早め早めに仕込みをし、セールを見越した服づくりが当たり前になっていますよね。

セールになり割引されると、同じような商品であれば、消費者はどうしても安い方へ流れてしまいます。ですから我先に割引するという動きがでてきますね。セールを見越した原価設定になっていると、素材も安いものになり、商品の質もどんどん悪い方へいってしまう。

この商品が回転していく仕組みがそもそも需要とあっていないと思います。この状態はサステナブルとは決して言えませんよね。

ものの開発というよりも、流通、販売の仕組みを変えていかなければファッション業界はサステナブルではいられないと思います。

流行の移り変わりの激しいファッション業界ですが、これを変えていくには、「より安いもの」に流されず、「良いものを長く使う」という消費者全体の姿勢の転換も必要になりそうですね。

消費者が長く着られる服を購入したいと考えたとき、どんなことに気を付ければ良いかアドバイスをお願いします。

関川さん:

これはとても難しいですね。

服を購入するときに、品質表示やお手入れの方法まで確認して購入する人は、あまり多くないのではないかと思います。

やはり5年10年と長く着ようと思ったら、良い素材が使われていること、素材に合った手入れをきちんとすることは欠かせません。購入するときに店員に素材や手入れ方法などを聞いて長く着られそうだと思うものを選択することが大切ではないでしょうか。

また、流行は一度外れてしまってもまためぐって戻ってくるものですから、良いものなら、手入れをしながら取っておいて、また着たいと思ったときに着られるのではないかと思います。

–最後に、今後の展望についてお聞かせください。

関川さん:

会社にとってのサステナビリティを考えれば、売れるものを作ることは不可欠なことです。そのうえで、環境に良い材料を使うことや、無駄をなくすための取り組みも両立していかなくてはならないと考えています。

それを実現していくために、最近はアパレル業界でもデジタル分野に力を入れています。デジタル化を業界全体に広め、定着させていくことは今後しなければならない事の一つだと思っています。

また、ブランド「ANNUAL」はまだまだこれから成長の伸びしろがありますので、たくさんの方に直接製品の良さを知ってもらい、事業を拡大していきたいと思っています。

–これからの「ANNUAL」の展開が楽しみです。本日はありがとうございました。

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