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あおむし|自分を見つめた絵本作りを通して自分軸を作り、未来を考える力を育む

株式会社あおむし 八木知美さんインタビュー

八木 知美

広島大学 学校教育学部卒業。3年間公立小学校の教員を経験後、(株)リクルートの広告制作部門にてコピーライティングやデザインの仕事に着手。1990年、広告制作会社 株式会社あおむしを設立。 2014年から教育者のキャリアとデザインのスキルを融合させた教育事業「みらい育」をスタートさせる。現在、全国に広がるみらい育ティーチャーズの代表として、ワークショップの開催とティーチャー育成を行っている。著書に絵本「ゴックンゴクリコ」太田出版、絵本「じっとみて。」「じっとみて。②」kindle本「MOMOTARO 大人準備ノート」など。

introduction

Webデザイン会社でありながら、教育事業も行っているあおむし。

同社の教育事業『みらい育』では、絵本作りを通してSDGsの目標4「質の高い教育をみんなに」の達成を目指しています。

今回、あおむし代表の八木さんに、絵本を使ったSDGsへのユニークなアプローチ方法や教育事業を立ち上げたきっかけについて詳しくお話を伺いました。

小学校の先生からコピーライターへ。教育への思いを忘れられず、『みらい育』を立ち上げ

–事業概要をお聞かせください。

八木さん:

弊社はweb制作やグラフィックデザインを行うクリエイティブ会社です。クライアントは多岐に渡っており、学校の広報誌や一般企業の企業紹介、カタログ制作やパッケージデザイン等を行っています。それに付随して、教育事業「みらい育」を学校の授業や企業研修で行っています。

<横浜国立大学にて 一般教養の授業風景1>
<横浜国立大学にて 一般教養の授業風景2>
<企業研修>
<小学校の授業にて>
<自主開催のワークショップ>

–webデザイン会社でありながら、教育事業に取り組むきっかけは何だったのでしょうか?

八木さん:

私はもともと小学校の先生をしていましたが、挫折してしまって。当時の自分は経験不足でしたし、あまりにも社会を知らない未熟な人間でした。そんな人間が先生としてやっていくのは子どもにも失礼だろうと思って辞めたんです。子どもに教えるためには、先生自身が色んな情報を持っていたり体験したりしていないといけないと思いました。

–もともと教育現場で働いていた方なのですね!そこからなぜWebデザインの道に進んだのでしょうか?

八木さん:

社会を知るためにはどこに行けばいいのか、そして自分の好きなことは何か?を合わせて考えコピーライターを目指そうと思いました。そこでリクルートに入社し、求人広告を制作するスタッフとして働き始めました。それがすごく面白くて。そこから広告の制作やWebデザイン方面に進んでいき、あおむしを立ち上げました。

–異例の経歴ですね。あおむしで教育事業を立ち上げたのは、やはり教育への思いが強かったということでしょうか。

八木さん:

そうですね。ずっと教育現場を忘れられず、子どもたちと関わりたいという強い思いを持っていました。「自分のスキルを利用して教育に何か貢献できないだろうか?」この思いが、教育事業を立ち上げた原点です。

自分を知る、人を知る、多様性を知るワークショップ

–では「みらい育」について、詳しい取組内容をお聞かせください。

八木さん:

弊社はSDGsの取り組みとして「みらい育」という教育事業を行っています。その名の通り、子どもたちの未来を育てる取り組みです。誰の真似でもない、誰から言われたのでもない、本物の自分の未来を育てるために、「じっとみて。」という絵本を開発しました。この教材を使って、参加者に自分の物語を描いてもらっています。自分をじっとみつめることで、自分を知り、思考する力を育みます。

<絵本「じっとみて。」の表紙>

教師をしていたときに感じたことですが、日本の教育は知識を教えることに関しては優れていますが、自分で思考するという部分はとても弱い気がします。「自分はどうしたいのか」という軸や意思を育てるチャンスの少ない教育システムだと感じていました。みらい育は、そんな日本の教育に足りない部分を何とかしたいという思いで始めたものです。

–絵本を活用しようと思ったのはなぜですか?

八木さん:

今までにないものを生み出したり、イノベーションを生み出したりするベースにはアートがあると言われています。感性を刺激することで、ひらめきの原動力になるのではないかと思い、試行錯誤した末に絵本という形を取りました。

–「みらい育」には、アートという手段が一番適していたということですね。

八木さん:

そうです。それに、絵本にはストーリーがあるので自分の物語を編んでいけますよね。「じっとみて。」では植物を自分を思考するためのメタファー(隠喩)として使います。

植物のストーリーってよく人生に例えられます。「じっとみて。」では、種から始まり、芽が出て、自分の花を咲かせ、次の世代へバトンを渡すという一通りの人生を植物に例えて考え描いていくことで、自分の性格や個性を見つめる「内観」ができます。

<絵本「じっとみて。」の目次>

–自分そのものを語るのではなく、あえて植物に例えると。

八木さん:

「じっとみて。」は5ページあり、「あなたを例えるならどんな種なのか」「どんな芽を出したいのか」「どんな栄養で育つのか」「将来どんな花を咲かせたいのか?」を起承転結で描いていきます。花には「こういう自分になりたい」という姿を託すのですが、ゴージャスな花を描く子もいれば、一輪の小さな孤高の花を咲かせたいというおじさんもいて、本当に様々です。

これは東日本大震災で壮絶な体験をされた当時中学生だった女子高生が2年後に描いた芽のシーン。
地中で2年間ずっと一人で頑張ってきたという思いが描かれています。


<小学5年生の男の子が描いた花>
<子育てママが描いた花>

–人によってかなり違いがありそうですね。他の人の絵本を見るのは楽しそうです。

八木さん:

ひとつとして同じもはありません。実にユニークで、愉快です。絵本の最後は、「次の世代にどんな種を届けたいですか?」というページで締めくくります。企業の研修にも使っていただいていて、IT企業での研修では、次の世代に届ける種としてUSBを描いた人もいました。自分の知識や技術をUSBに全部詰めて託したいと。

–独特で面白いですね。

八木さん:

メタファーに自分を託すことは、直接表現するよりも真実に近づけます。また、自己開示しやすくなる効果があります。ワークショップでは、作った絵本を互いに見せ合って、感想を書き合います。そうすることで他人の持つ世界を知り、「自分とは全然違う」とハッとするような多様性を感じられるのです。

–植物に例えることで自分のことを書きやすくなりますし、他の人の絵本も見やすいですね。

八木さん:

はい。日本人は自分について話すことを恥ずかしがったりしますけど、「じっとみて。」では植物に託すことで、恥ずかしさがどこかへ消えていきます。他ならぬ自分のことですが、アウトプットは植物なので、言いにくいことも自然に言えてしまうのです。そしてそれは心の中に土足で入らない安全な方法だと思っています。

<ワークショップ後のアンケート>

–みらい育の参加者にはどんな反応が多いですか?

八木さん:

ワークショップでは、参加者が互いに絵本を見て感想を伝え合います。そして、不思議と褒めあってしまうんです。普段、自己開示する機会は少ないですし、自分の作った絵本を褒められることによって自信をつける人も多いですね。子ども達は特に褒められるのが嬉しくて、感想の欄をいっぱいに埋めてきたりします。まるでラブレターをもらったような感覚になります。

<感想がたくさん書き込まれた絵本>

–自分を見てもらって褒めてもらうという体験は貴重ですものね。みらい育の対象が子どもから大人まで幅広いのはなぜでしょうか?

八木さん:

そもそも、みらい育は子どもたちが楽しく生きていく未来を作りたくて始めたので、ターゲットは小学生でした。2014年にユネスコ世界会議の共催イベントに採用されたことがきっかけで発表の場が広がり、「企業研修でもやってほしい」等の声がかかるようになったんです。シニア大学といって70〜80代の高齢者向けにワークショップをやったこともあります。

参考リンク:https://aomushi.com/2019/unesco.html

–全世代向けという感じですね。

八木さん:

はい。下は2歳半から上は83歳まで、人間を対象にやっています。(笑)

みらい育は質の高い教育を自分で実現するためのツール

–ところで、みらい育とSDGsの「質の高い教育をみんなに」という目標はどのように繋がっているのでしょうか?

八木さん:

そうですね、みらい育は知識や情報を教えるという教育ではないので、ちょっと飛躍していると感じられるかもしれません。ただ、みらい育によって「私はこうしたい」「こんな風になりたい」という自分の本来の意思を知ることができます。すると、そうなるためには何をすべきかが見つかり、自然と学びの深度は進んでいきます。自分はどうしたいのか、興味のあることは何かを知ることができれば、それは学ぶ意欲や原動力に繋がります。

ですから、みらい育で発見した自分の軸や意思が起点となって、質の高い教育を実現させるということですね。

–自分の中の好奇心や探求心が明らかになると、それが学びや意欲の原動力となり、質の高い教育へ繋がっていく。みらい育では、質の高い教育を実現するための土台作りをしているということでしょうか。

八木さん:

その通りです。質の高い教育へ自分で向かう、そのスタートラインに立つためのツールですね。

内観でこども達の自己肯定感を高めていきたい

–今後の展望をお聞かせください。

八木さん:

やはりまだ小学校には全然導入されていないので、みらい育を教育課程になるといいなあと思っています。小学1〜6年生までをフォローしたいです。写真などはデジタルで残せますが、心のイメージは残せません。時とともにどんどん消えていくので、毎年絵本を作り、自分自身の心の心象風景を残しておくことによって心のアルバムにもなります。

–毎年、かなり違う絵本ができてきそうですね。

八木さん:

はい。置かれた環境や立場も変わってきますし、特に子どもだと毎年全く違うものができますね。5年間続けて絵本を作った子どもがいますが、ものすごい変化がありました。

–具体的に、どんな変化がありましたか。

八木さん:

自分について考えることができるようになりましたね。継続的に内観し、イメージを描き出す(自己開示)を続けることで、思考力がつくんです。はじめ、その子はかっぱ巻きが好きだからと、かっぱ巻きの絵を描いたりしていました。年を重ねていくにつれ、哲学的な思考ができるようになってきました。続けることで「こうしたい」という深い思考に変わってくるのです。

–絵本は心のアルバムであるのと同時に、自己開示や思考の練習もできるツールなのですね。

八木さん:

はい。内観は自己肯定感を高めるひとつの手法にもなっています。実は内閣府の「子ども・若者白書」によると、日本の20〜24歳は10人に6〜7人が「自分のことが嫌い」だと言っているんです。

–ものすごく多いですね。なぜこんなに自己肯定感が低いのでしょうか?

八木さん:

自己肯定感の低下は小学校5年生くらいから始まるのですが、その頃からすごく人を気にしたり、他者と比べるようになったりして「自分は劣っている」と勝手に思ってしまうのでしょうね。でもそうではなく、自分はこんなに素晴らしいんだよ、自分はとても大切な存在なんだよと、ということをもっと知ってほしいですね。

–子どもたちに内観で自己肯定感をもっと高めてほしいということですね。

八木さん:

はい。みらい育は小学校や中学校、高校生、大学生まで活動の裾野を広げていきたいと思っています。もちろん、先に挙げた企業研修やシニア大学にも提供して、より多くの人に何回でも絵本を作って体験してもらいたいです。

–何歳からでも何回でも内観の機会があるのは素晴らしいですね。私も誰かの作った絵本を読んでみたくなりました。本日は貴重なお話ありがとうございました。

関連リンク

株式会社あおむし 公式サイト https://www.aomushi.com/2019/aomushi_profile.html