#インタビュー

BabyArt|「みんなと同じじゃなくていい!」五感を刺激する遊びを通して個の大切さを伝えるベビーアート

BabyArt 川口 真由美さん インタビュー

BabyArt

川口 真由美

大学卒業後、92年に富士ゼロックス株式会社入社。エンジニアリングシステム事業部門に配属され、マーケティングサポート職として従事。97年夫の転勤を機に退職したが、99年には派遣社員として富士ゼロックスに戻り、コンテンツワークスの前進である新規事業部門でカスタマーサポート職として勤務。2001年コンテンツワークス設立と同時に入社、管理部門全般(経理・総務・人事)を任され、組織のインフラを立ち上げる。2015年に取締役に就任、2021年に新規事業としてBabyArtを立ち上げる。

introduction

コンテンツワークスは、身近なものを使って子どもの五感を刺激することで、自己肯定感を高めたり自主性を育んだりするアート活動「ベビーアート」を提供しています。

このベビーアートのベースには「個を大切にする」という考えがあります。子どもだけでなく、親にも「みんなと同じじゃなくていい!」と伝えることで、こころのゆとりを育むのです。

今回は、そんなベビーアート事業を率いておられる川口さんに、ベビーアートをスタートした経緯や活動の内容についてお伺いしました。

「思い出を残す」フォトブックから「思い出を作る」イベント提供まで

ーベビーアートを運営しているコンテンツワークスの会社概要と事業内容を教えてください。

川口さん

コンテンツワークスは、2001年に富士ゼロックス(今の富士フイルムビジネスイノベーション)からスピンオフして作られた会社で、1冊の本から出版できる「オンデマンド出版」事業からスタートしました。

現在主力になっているのは、2004年から始めたフォトブック事業「Photoback(フォトバック)」です。手持ちの写真データをWeb上で編集して簡単にフォトブックが作れるもので、「思い出を残すためのサービス」として展開してきました。そして2021年ごろからは、「思い出を作る」ところも支援しようと、親子向けのイベントを提供する「Famiful(ファミフル)」をスタートしています。

今回お話するベビーアートは、Famiful(ファミフル)で提供する1コンテンツでした。しかし実施しているうちに「もっと多くのお子さんや親御さんに届けたい」という思いが強くなり、Famiful(ファミフル)から独立して、ベビーアート事業を始めました。

小麦粉絵の具や新聞紙で、子どもの五感を刺激するベビーアート

ーべビーアートとは、どのようなアート活動なのでしょうか?

川口さん

ベビーアートは、「個を大切にする」イタリアのレッジョ・エミリア教育をベースに作り上げた「子どもの五感を刺激する」アート活動です。おもちゃではなく、ティッシュや新聞紙、トイレットペーパーの芯など、身近にある素朴なものをベースに「子どもが遊びを考える」ことが特徴です。

具体的な活動は、0歳から3歳までを対象とした「小麦粉絵の具を使って絵を描くイベント」の開催がメインになります。小麦粉絵の具の材料は、「小麦粉」「食紅」「大量の塩」です。お子さんが口に入れても安全なものだけで作っていますが、たくさん塩をいれている理由は、なめたときに「美味しくない!」と感じてもらうためです。そうすれば次から口に入れなくなりますしね。

そんなこだわりのある小麦粉絵の具ですが、保存がききません。そのため、イベントのたびにスタッフが手作りをして持ってきているんです。手間はかかりますが、「おうちでできないこと」を親御さんもお子さんも一番喜んでくれますので、小麦粉絵の具のイベントはよく開催しています。

他には、小麦粉粘土や新聞紙プールのイベントも実施しています。新聞紙プールでは、新聞紙を破るところから子どもたちに行ってもらうのですが、これが子どもの五感にとって非常に良い刺激になるんです。紙の印刷の匂いは嗅覚を刺激しますし、新聞紙には触覚も刺激されますから。単純な遊びのようですが、子どもたちは夢中で時間いっぱい新聞紙を破ったりプールにためた新聞紙の中で泳いだりしていますね。

また、3か月に1回くらいの頻度で、50組から100組が来場する大きなイベントも開催しています。これは、ベビーアートだけでなく同じ目的を持った他社のコンテンツも楽しんでもらえるイベントです。例えばクリスマスには、本格的な演奏と一緒に絵本の読み聞かせをしてくれる「絵本の音楽会」を開催しました。キットパスというお米でできたクレヨンで、床や壁に落書きするイベントも盛況でしたね。子どもだけでなく親御さんも夢中で描いていた姿が印象的でした。

直近ですと、10月15日に「五感ミュージアム」というイベントを開催します。親子で遊べる5、6個のプログラムを出展する予定です。

子どもにも親にも「自分らしさ」を大切にしてほしい

ベビーアートは、特にどのようなお子さんや親御さんにおすすめなのでしょうか?

川口さん

ベビーアートは、0歳から3歳までのお子さんが対象です。その理由は、脳は3歳ぐらいまでに約9割が形成されるため、それまでの間に五感を刺激して脳を活性化させることで、自己肯定感が高まるからです。「自分のことも周りのことも肯定できるようになること」、「コミュニケーション能力や発想力を高めること」を目指しています。

また、3歳までのお子さんの中でもあまり外に出たがらなかったり人見知りをしたりするお子さん、また子育てに不安を抱えている親御さんにもぜひ来ていただきたいです。

3歳以下という年齢は、親と子どもの「個」の時間が大切な時期です。そのため、ベビーアートのイベントでは、ひと家族ごとに模造紙をひいて、そこで遊んでもらうスタイルにしています。「みんなでこれをやりましょう」といった集団行動の時間はありませんので、人見知りのお子さんにも活用してもらいやすいと思いますね。

そして、イベントに来られた親御さんにいつもお伝えしているのは、「みんなと同じじゃなくていい」ということです。例えば、小麦粉絵の具がテーマのイベントでも、お子さんが興味を示さなければ無理に触らせる必要はありません。自分の子が他の子と同じようにできないことを気にして、「これで遊んだら?」「こうしたらいいんじゃない?」と、誘導してしまう方もいらっしゃいます。しかし、何もかも親が決めていると子どもは自分で考えなくなり、社会に出てからつまずいてしまうかもしれません。今の時代に求められている「主体的に動く力」を育てるためにも、「興味を持てるもので、子ども自身に遊びを考えてもらう」姿勢を大切にしてほしい。子どもが低年齢のうちにそんな親の姿勢を育てるためにも、ベビーアートの裏テーマは、「親のこころのゆとり」としています。

ー実際にベビーアートにご参加された方の感想や様子を教えていただけますか?

川口さん

「あの子、こんなことできたんだ!」と驚かれてる親御さんは多いですね。例えば、今までは触ろうとしなかった粘土や絵の具で遊んだり、「危ないから使えない」と親が勝手に思っていたはさみを使っていたり、ママのそばから動けなかった子が離れていったり。ベビーアートに来て「親が口出しをしない」ことを徹底してみると、今まで見たことがなかった子どもの姿を発見できたというお声をよく聞くんです。そのため、たくさんの方から「来てよかった」と言っていただいています。

さらに、親御さん自身がお子さんの隣で絵を描いたり粘土細工を作ったりして楽しんでいる姿もよく見ますね。すっきりした顔で帰って行かれる姿を見ると、親御さんの「こころのゆとり」を作るお手伝いができたかなと、嬉しく思います。

もともとは、親御さんにもリフレッシュしていただくために、何か他のサービスを提供しなければならないと考えていました。しかし、ベビーアートを続ける中で「実は子どもと一緒に夢中で何かを作ることで、親までストレスを解消できるのだ」と気づいたんです。そのため今は、家族で精一杯楽しんでいただけることに集中しています。

コロナ禍にスタートしたため、イベントを開催できなかった

ーベビーアートをスタートしたきっかけをお伺いできますか?

川口さん

私は、総務・経理・人事などの管理部門を任されているのですが、その他に会社とシナジーのあるものを取り入れて事業を拡大するという使命もあります。ベビーアートとは、Famiful(ファミフル)のオリジナルコンテンツにできそうな事業を探していたときに出会いました。思想や目的、コンセプトがFamiful(ファミフル)と合致していたので、社長に買収を提案したという経緯です。

ただ、私はそれまで新規事業を担当したことはなかったので、事業への展開まで任せてもらえるとは思っていませんでしたね。

そんな中でスタートしたベビーアート事業ですが、当時はコロナ真っ只中でした。そのため、イベントを企画をしては潰れるという期間が続いたんです。小麦粉絵の具を使うなど「おうちでできないことをする」こともベビーアートの売りですので、オンラインでのイベントも開催できませんでしたね。そのような状況の中、1年くらいは赤字覚悟の無料イベントを開催して、ベビーアート活動を広めることに注力しました。

その後は、決まった場所を間借りして教室としてスタートを切りました。ところが、どうしても生徒さんが集まらなかったんです。その原因はコロナ禍だからというよりも、そこにはニーズがなかったからだと今ではわかります。というのも、ベビーアートは一般的な「習い事」とは違います。何かを教えたりゴールがあったりするわけではなく、何かの上達を目指すものでもありません。ですから、月謝制があまり合っていなかったのだと思います。さらに、お子さんがかなり汚れる活動ですので、毎週だと親御さんの負担が重すぎたのかもしれません。そこで、1年弱ほど試した教室型はすっぱりと諦めて月に2、3回不定期で開催するイベント型に変えてみたところ、ようやく人が来てくれるようになりました。今では4箇所で月2回ずつイベントを開催しています。1回のイベントの定員は約10組なのですが、おかげさまで毎回全部埋まっていますね。

ー今後力を入れていきたいことを教えていただけますか?

川口さん

今イベントを開催できている地域は、東京、横浜、多摩だけですので、今後は地方を含め、全国各地にベビーアートの活動を広げていくつもりです。

加えて、小麦粉アレルギーのお子さんも使える「米粉絵の具」を作ったり、3歳以下が対象になっているイベントを6歳以下まで対象にしたりと、さらに多くの子どもや親御さんに楽しんでいただける方法でベビーアートを実施していこうと思います。

ー貴重なお話をお聞かせいただき、ありがとうございました!