#インタビュー

CYBERDYNE株式会社|障がい者の可能性を引き出す湘南ロボケアセンターの取り組み

CYBERDYNE株式会社 湘南ロボケアセンター 水津さん インタビュー

CYBERDYNE株式会社

◆会社概要 CYBERDYNE株式会社は、人・ロボット・情報系を融合複合した新領域「サイバニクス」を駆使して、革新技術の創生、新産業の創出、これらの挑戦を通じた人材育成を、好循環のイノベーションを推進しながら同時展開する未来開拓型​​企業です。少子高齢化に関連するさまざまな社会課題解決のため、医療や福祉、生活、職場、生産を繋ぎ、「サイバニクス産業」の創出を推進しています。湘南ロボケアセンターは、装着者の意思に従った動作の実現をサポートする装着型サイボーグ「HAL®」を用いて、障害のある方や高齢者向けに運動プログラムを提供しており、連携して高齢化問題の解決に取り組んでいます。

introduction

世界初の装着型サイボーグ「HAL®」(以下、「HAL」)を開発したCYBERDYNE株式会社(以下、「CYBERDYNE」)。

HALは、脳梗塞や脊髄損傷、加齢等で低下した方の運動を助ける技術として、期待をされています。

今回、HALを活用した運動プログラム、「Neuro HALFIT®︎」を提供している湘南ロボケアセンターの水津さんに、HALの特徴や、湘南ロボケアセンターの社会的な役割、プログラムを体験した利用者の声などについてお聞きしました。

装着型サイボーグHALを取り入れた新しい運動プログラムを実施

–はじめに、CYBERDYNE株式会社のご紹介を企業理念も含めてお願いいたします。

水津さん:

超高齢社会に突入した日本では、被介護者の身体機能のアシストや、家庭での生活支援、介護者の身体的負担軽減といったニーズが高まっています。

CYBERDYNEでは、IoTやロボット、AIによる「サイバニクス技術」を広め、高齢化に関連する社会課題の解決に貢献することを目指しています。

私が所属している「湘南ロボケアセンター」は、CYBERDYNEのグループ会社です。「可能性を信じて、あきらめない!」をモットーに、CYBERDYNEが開発したHALを用いて、障害のある方向けにおひとりおひとりに合わせた運動プログラムを提供しています。保険の対象外となる施設ですので、利用者の多くは自費でリハビリにいらっしゃる方です。そのような方々の可能性を信じて、体を動かせるよう、諦めずに取り組むことを大きく打ち出しており、今後も利用者と共に進んでいきたいと思っています。

–お話に出てきたHALはどのような装置でしょうか。

水津さん:

「HAL」は、世界初の装着型サイボーグです。

原理を簡単に説明すると、人が体を動かそうとするとき、脳からは信号が出されます。この信号は、神経・筋肉の順に伝わります。その際、身体に取り付けたHALのセンサーが信号を読み取り、各関節に装着したパワーユニットを適切に動かすことで、使用者の動きをアシストするというわけです。

そのため、HALは主に病気やけがなどで身体が上手く動かせなくなった方に対して使われることが多いですね。

通常であれば身体を動かそうとすると、脳からの命令が脊髄を通って、動かしたい筋肉に伝わっていきます。しかし、例えば全身麻痺や脳梗塞、脊髄に障害を負った方の場合、神経回路がうまく動作せず、脊髄や神経のどこかで信号が止まってしまうことが多いんです。その結果、身体が動かしにくくなります。

ただ、体から微弱な信号を発していることには変わりありません。HALはそれを読み取り、正しく動くための信号を脳に伝える役割を果たします。

そして、HALを使うことで、過剰な負担なく、自分の意思に従った動作を繰り返し行うことができ、運動を通じて自立度を高めることが期待できるようになります。

障がい者や高齢者を現場でサポートする。湘南ロボケアセンターの役割

–湘南ロボケアセンターでは、利用者に対して、具体的にどのようなサポートを行っているのでしょうか。

水津さん:

当施設の利用者で多いのは、脊髄損傷や急性脊髄炎など脊髄に障害があり、歩行が困難な方です。筋ジストロフィーやALSといった神経・筋疾患を持つ利用者が機能維持のために利用することもあります。加えて、脳障害の後遺症がある方の運動プログラムも承ることがあります。

また、HALは歩行補助タイプ以外に、腰に装着して姿勢を整えるタイプも展開しています。これを活用して、加齢に伴う体力低下を克服したいという方に向けた体操クラスも行っております。最近では、サルコベニア(※1)やロコモティブシンドローム(※2)、フレイル(※3)といった言葉も聞かれるようになりましたし、それに伴う腰痛や膝の痛みで年々体を動かしにくくなる方も増えています。そういった方々にも当施設を利用していただいていますね。

※1:加齢による筋肉量の減少

※2:運動器の障害による移動機能の低下

※3:虚弱

※HAL腰タイプ

湘南ロボケアセンターでは、症状に合わせた運動プログラムを提供しています。例えば筋ジストロフィーの場合、利用者によっては筋肉痛になると筋肉が戻らなくなることもあるため、高負荷のトレーニングができないこともあります。ただし、何もしないと筋力は衰える一方なので、HALを使うことでかかる負荷を軽くし「3分間を3回歩きましょう」といった内容の歩行運動を行っています。

脳梗塞などで麻痺がある方は、麻痺がある方向に体重がかけられず姿勢が崩れるので、バランスを整えるメニューが中心になります。HALを使えば、モニターを通して動作を確認できるため、補助的な役割もこなせます。「体重が今は右にしかかかってませんので、左にかける練習をしましょう」といった声かけも可能です。

脊髄損傷の方は全身運動が難しいので、自分では動かしにくい部位をターゲットにして繰り返し運動するプログラムを実施しています。

家族の介護負担軽減も実現。利用者からは喜びの声も

–利用者の声はいかがですか。

水津さん:

社会復帰を目指して来所された方は、「家事ができるようになってうれしい」、「復職できて感謝している」など、喜びの声をいただいています。また、当施設に来るだけでも「人と会えるので元気になる」といった方もいます。すでに何年も通われる方もいて、「もう習慣になっているので、運動プログラムを受けないと逆に調子が悪くなる」と仰っていましたね。

また、ご家族の方から喜びの声が届くこともあります。

当施設の利用者のご家族は、日常のあらゆる場面で介助しているので「体力的に限界…」という方も多くいます。その中でHALを使った運動プログラムにより、補助無しで立ち上がり便器に移動できるようになったり、車椅子からベッドに自力で移れるようになったりしたことで、介助量が軽減したと喜ばれていました。

もちろん、「昔のように歩きたい」といった大きな変化を望む方も多いのですが、まずは小さな部分から1つずつステップを踏んでいきましょうと話をしています。

小さなお子様であれば、障がいを負う前の状態まで改善していくケースも結構あり、ご両親は大変喜ばれていました。そんな話を聞けることも、この仕事の楽しみだと思います。

–喜びの声が多数届いているのですね。続いては、運動プログラムをサポートするスタッフさんについて伺います。介護業界の人手不足が叫ばれていますが、御社ではそのような課題はありますか?

水津さん:

HALのおかげで人不足の課題はクリアできていると思います。

通常のリハビリは専門職(看護師や理学療法士など)でないと実施できません。対して、当施設は病院という位置付けではないため、HALを介在した運動プログラムであれば、マッサージ師やスポーツトレーナーも担当することが可能です。

また、利用者1人に対する人数も異なります。通常のリハビリ施設では、利用者1名につき3人ほどのスタッフが必要だと思いますが、私たちはHALを使っていることで1〜2人でサポートできています。各セッションは90分と決して楽というわけではありませんが、HALのおかげで体力的な負担も少ないですね。

–様々な症状の利用者がいると思いますが、専門職でなくても対応できるものなのでしょうか?

水津さん:

これまでHALを使って実施してきた運動データは、疾患別に収集しています。そのため専門職ではなくても、例えば「明日来られる方はこの症状なので、過去の例から照らし合わせるとこの運動メニューが合いそう。」というように、ある程度の状況を予測して準備できるんです。

とはいえ、データに頼り切っているというわけではなく、コミュニケーションによる情報収集も重視しています。脊髄損傷でも人によって状態や困っていることは違うので、必ずしも同じ動きが適用できるわけではありません。密にコミュニケーションをとり、利用者おひとりおひとりの状態に合わせた運動プログラムを実施できるようにしています。

これは、利用者の満足度にもつながっています。多様なスタッフと話せますし、「あのスタッフがいるから行こう」という方もいるほどです。

海外からも注目される「HAL」。今後はアスリート向けサービスも展開

–今後の展望についてお伺いしたく思います。

水津さん:

現時点でも喜びの声をたくさんいただいていますが、湘南ロボケアセンターとしては引き続き、利用者の可能性を信じて諦めずにサポートしていきたいと思います。

また、現在は高齢者や60代〜70代の脳血管障害・脳梗塞・脳出血で片麻痺といった利用者がメインですが、今後は子どものニーズにもこれまで以上に対応したいと考えています。子ども用のHALが開発されており、現在は10%程度のシェアですが、この割合を増やすことが目標です。

お子様の場合はご家族の想いがとても強く、HALを使いに日本に来られる海外の方やリピートされる方も多くいます。

※HAL下肢タイプ

2023年10月にはトルコから5歳の男の子が1ヶ月間、11月にはアメリカから4歳の男の子が1ヶ月間ほど当施設にいらっしゃいました。他にも中国からの利用者もいます。

エジプトや香港など海外からのお問い合わせも増えていますし、今後も世界各国からの需要を大きく取り込みたいと思っています。

そして湘南ロボケアセンターとは別に、四ツ谷ロボケアセンターではHALを使用して、アスリート向けの取り組みをしています。身体の使い方や余計な力を入れないといったトレーニングは、スポーツにも応用できるためです。

筋肉が緊張していると、上手く力を抜くことができません。例えば、ゴルフのスイングにしても、肩の力を抜くことが必要なときがあります。それを改善するためのトレーニングにHALが使われているんです。

HALモニターを使うことで力の入り具合がタブレット画面上に表示されるため、身体の動きを視覚化しやすくなります。「まだ力が入っていますよ」などの声かけをして、繰り返し正しいフォームを覚えていくことは障がい者のトレーニングでも行っていますが、スポーツでも共通していると実感しました。

このように、アスリート向けの取り組みを展開するなど、HALの使い方が広がっているように感じます。今後もさまざまな可能性を探っていきたいですね。

–HALによる運動プログラムについての興味深いお話をありがとうございました。

関連リンク

CYBERDYNE株式会社公式ホームページ:https://www.cyberdyne.jp/

湘南ロボケアセンター株式会社公式ホームページ:http://www.robocare.jp/shonan/