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“Charity Beauty Premium”とは?野生動物保護とルッキズムの関連やオーストラリアの対策

もし野生動物への寄付を行うとしたら、何を基準に寄付先を選びますか?

残っている個体数や状況などを考慮して寄付する野生動物を決めるべきですが、オーストラリアでは見た目の可愛らしい動物が選ばれやすいという現状があります。

ルックスを基準に判断するルッキズムは、実は寄付活動でも頻発しています。

Charity Beauty Premiumと呼ばれており、人だけでなく、野生動物を対象とした寄付活動にもよく見られる現象です。

この記事では、オーストラリアが直面しているCharity Beauty Premiumの問題や対策について詳しく解説していきます。

Charity Beauty Premiumって何?

Charity Beauty Premiumとは、寄付活動などの慈善活動において、見た目が美しい事前寄付先が選ばれやすいという現象を表した言葉です。

本来は困っている人を救いたいという想いからが寄付を行うにもかかわらず、美醜によって寄付先の選択肢が変わる可能性があるという矛盾を指しています。

野生動物保護におけるCharity Beauty Premium

野生動物の寄付におけるCharity Beauty Premiumでは、見た目が可愛らしい生物に人気が集まりやすいという点が指摘されています。

オーストラリアの動物園などで人気のコアラ、ワラビー、ビルビーなどは、ぬいぐるみのようなルックスから寄付活動でも好成績を残しやすい野生動物です。

一方、爬虫類や鳥類は慈善活動でも寄付が集まりにくく、目標金額に到達することは非常に稀です。

野生動物による寄付金の違い

Charity Beauty Premiumは、オーストラリアでも近年問題視されている現象です。

2009年から2018年にかけて、トカゲを含む爬虫類、鳥類、コウモリなどは寄付活動で軽視されてきたという過去があります。

これまでにオーストラリア国内では数々の寄付活動が行われてきたものの、アカハラワカバインコやニシキジインコを対象としたプロジェクトでは予想金額の10分の1の金額にしか到達せず、絶滅寸前種のBellinger River Turtle(オーストラリア固有種のカメ)は36万ドル(約3,500万円)を予定していたにもかかわらず1セントも寄付を集めることができませんでした。

一方で、カモノハシなどの可愛らしい野生動物は寄付が集まりやすいとされており、50万ドル(約4,800万円)を設定していた際には個人からの寄付金のみで目標金額に到達したこともあります。

また、2018年には、野生動物の寄付活動で合計5,000万ドル(約48億円)を集めるというプロジェクトが立ち上がりました。

さまざまな野生動物が対象となっていたものの、より効率的に寄付金を集めるためにビルビーやフクロアリクイ(Numbut)といった可愛らしい見た目の有袋類が重点的にキャンペーンで使われました。

慈善活動として行われているにもかかわらず、オーストラリアでは野生動物の見た目による格差が大きいという実態が見られます。

アンケートを使った実験

Charity Beauty Premiumについて調査すべく実施されたのが、数千人を対象とした対面及びオンラインでのアンケートです。

対象者は複数の野生動物の写真の中から自身が1番寄付したいと思う動物を選ぶというアンケート内容で、選ぶまでの時間は10秒と約30秒の2回に分けて実験が行われました。

その結果、10秒での実験では、より多くの対象者が可愛らしい見た目の野生動物を選びました。

一方で30秒での実験においては、どの野生動物がより深刻な状況に置かれているかといったバックグラウンドなどを考える時間があったことから、選ばれた動物の結果にバラつきが出ています。

今回のアンケート調査により、感覚や思い付きで寄付先を選ぶと見た目重視になりやすい傾向があることがわかりました。

単なる人気投票なら問題ありませんが、寄付先を決定する場合は各野生動物の置かれている状況などを考慮した上で選ぶべきです。

そのため、広告やネット記事などを見てすぐに寄付先を決めるのではなく、調査と厳選に時間をかけることが慈善活動に参加する上で重要だと考えられています。

Charity Beauty Premiumに対するオーストラリアの対策

無意識のうちに野生動物に対するCharity Beauty Premiumが起こっているオーストラリアですが、ここではどのような対策を行っているのか深堀していきます。

スタディツアーを通しての教育

オーストラリアの動物園や野生動物公園では、学校を対象としたスタディツアーを頻繁に開催しています。

スタディツアーでは、さまざまな野生動物の生態、観察、飼育管理などについて学ぶのが一般的です。

子どもたちから特に人気があるのは哺乳類ですが、各施設では人気のある爬虫類や鳥類もまんべんなく網羅できるようにプログラムを組んでいます。

全ての動物を隈なく教育対象にするという姿勢を示しており、野生動物の種に対する差別が生まれていることや、見た目にかかわらず命は平等であるべきといった考え方を伝えることを目的としています。

爬虫類や鳥類を使った体験型アクティビティの実施

動物園や野生動物公園では、来園者に体験型アクティビティを提供しています。

ウォンバットの餌やり体験、コアラの抱っこ、1日飼育員体験、野生動物病院ツアーといったバリエーション豊富なプランがありますが、大多数の施設で行っているのが爬虫類や鳥類を使った体験型アクティビティです。

全長3mを超える蛇を首に巻いたり、厚手のグローブをつけて鷹を腕に留まらせたり、カメの赤ちゃんとふれあったり、鳥類の飼育エリアのバックヤードツアーをしたり、施設ごとに来園者が爬虫類や鳥類とふれあえる機会を作っています。

爬虫類や鳥類に関する市民の関心の低さを実感している飼育スタッフも多く、体験型アクティビティを通して人々が爬虫類や鳥類に関心を持てるように工夫しています。

動物種による製品販売の差別をしない

オーストラリアの動物園、オモチャ屋、博物館のギフトショップでは、オーストラリアの固有種のさまざまなぬいぐるみやオモチャが販売されています。

売れ行きが好調なのはコアラやカンガルーといった可愛らしい哺乳類ですが、各施設や店舗では爬虫類や鳥類の製品も置いてあるのが一般的です。

利益追求による動物種の差別をしないというポリシーを掲げており、バリエーション豊富な野生動物の中から好きなものを選べるように取り組んでいます。

実際、野生動物に対して可愛さとは違った魅力を感じる子どもも多く、ワニや鳥などのぬいぐるみを買う利用者もたくさんいます。

寄付先の野生動物の情報提供

寄付を募集するにあたって、各野生動物のバックグラウンド、状況、寄付の使用用途といった詳細をしっかりと記載することが大切です。

アンケートを使った実験でも分かるように、人々は十分な時間と情報があれば不人気な野生動物でも寄付先として選ぶ可能性が高くなります。

そのため、寄付する側が正しく判断できるように、webサイトやパンフレットなどの媒体に詳細な情報を記載する必要があります。

寄付を募集する時期を検討する

オーストラリアでは、寄付の募集時期を考慮するように呼び掛けています。

1年中いつでも好きなタイミングで募集できる寄付活動ですが、12月の年末シーズンは寄付金が集まりにくい時期です。

寄付が比較的身近な文化であるオーストラリアでは、国民の実に3人に1人が何らかの活動へ寄付を行っていると言われています。

広告やネット記事などを見て気軽に寄付を行う市民が多いものの、忙しいクリスマスシーズンは寄付先をしっかりと考える上で不向きです。

寄付先の調査や厳選を行う時間がなく、感覚的に見た目が可愛らしい野生動物を寄付先に選ぶ可能性が高くなります。

そのため、爬虫類や鳥類などの不人気な動物種の寄付活動の募集については、12月を避けるのがベターとされています。

まとめ

オーストラリアでは、Charity Beauty Premiumの問題に対するさまざま取り組みに力を入れています。

野生動物の保護にバラつきが出ると、将来的に生態系に影響が出る可能性も高くなります。

自分のお金の使い道を決めるのは、もちろん自分自身です。

可愛らしい動物を寄付先に選ぶことは決して間違ってはいませんが、見過ごしがちな爬虫類や鳥類などの野生動物の状況もチェックした上で判断してみてはいかがでしょう?