グローバル化、働き方改革、SDGs… 激動の時代を生き抜くために、今こそ注目すべきなものの1つがDEI(DE&I)です。特に企業はイノベーション創出、人材獲得、持続的な成長のために、DEIを推進する必要があります。
また、無意識の偏見を克服し、多様性を尊重する行動を心がけることで、私たちはより良い社会を実現できます。多様性、公平性、包摂性を理解し、社会・組織の未来を築く鍵となるDEIについて、注目される背景や取り組み事例もわかりやすく解説します。
DEI(DE&I)とは

DEI(DE&I、以降DEI)とは、
- Diversity(ダイバーシティ・多様性)
- Equity(エクイティ・公平性)
- Inclusion(インクルージョン・包括性・受容性)
の3つの言葉の頭文字を取った略称です。
多様性を尊重し、公平性を追求し、誰もが受け入れられる包括的な組織や社会を実現しようとする取り組みを指します。では、この3つの言葉はどのような意味があるのでしょうか。それぞれ確認していきましょう。
D:ダイバーシティ/Diversity(多様性)
Diversityとは、年齢、性別、人種、宗教、障がいの有無、性的指向など、個人の違いを認め合い、それぞれの特性を活かすことを意味します。多様な背景や価値観を持つ人々が活躍できる環境を整えることが大切です。
E:エクイティ/Equity(公平性)
【平等(Equality)と公平性(Equity)】
Equityとは、機会の平等だけでなく、個人の状況に応じた公平な取り扱いを意味します。たとえば、障がいのある人に対する合理的配慮など、個人の置かれた状況に応じた支援を行うことで、公平な機会を得られるようにすることが重要です。
I:インクルージョン/Inclusion(包括性・受容性)
【インクルージョンとは】
Inclusionとは、多様な人々が活躍できる組織文化や環境で、誰もが受け入れられ、尊重され、なおかつ一人ひとりがそれを認識していることを意味します。それぞれの個性や特性が発揮でき、お互いが協調しながら取り組める体制を整えることが求められます。
E:エクイティ/Equity(公平性)が加わった理由
従来はDiversity(多様性)とInclusion(包括性・受容性)が重視されてきました。しかし、単に多様な人々が存在するだけでは、十分とは言えません。
そこで、それぞれの個人の能力や特性を考慮し、誰もが平等な機会を与えられるEquity(公平性)が加わることで、より真の意味での多様性が実現できると考えられるようになりました。
このように、DEIは、多様性を尊重し、公平性を追求し、包括性を実現することで、組織や社会の持続可能な発展につながると考えられています。次の章では、DEIが求められる背景について見ていきましょう。*1)
トランプ大統領になってアメリカのDEIはどうなる?
トランプ大統領の政権下では、アメリカのDEI政策に大きな変化が起きる可能性が示唆されています。トランプ大統領の「アメリカ・ファースト」戦略に基づいて、国家の安全保障や経済成長が最優先とされています。
そのため、従来の多様性や包摂性を重視するたとえば、移民規制の強化や、伝統的価値観の復権が進むことで、企業や教育機関におけるDEIプログラムの再編や削減が考えられるでしょう。
DEIは逆差別になる?
「DEIは逆差別になる」と言っている方もいます。
DEIの対立は、歴史的な不平等を解消し、多様性や包含性を高めるために導入されるものです。実際、DEIの目的は全員が公正に評価される環境を整えることですが、リスクの運用方法によってはプロパティが重視され、個々の能力や成果が二の次になるリスクも否定できません。
DEIはいらない?
DEIの必要性は、賛否両論が存在します。
DEIは、歴史的な不平等や構造優劣を問題にし、多様な視点を組織に取り入れるための重要な取り組みです。能力評価が怖れると妄想する声もあります。
途中、DEIの手法の導入や運用基準によっては、一方で組織内の分断を生むリスクがあると主張する意見も認められます。
DEIが注目される背景

なぜ今、DEIが重要視されているのでしょうか?それは、現代社会が直面するさまざまな課題と、企業を取り巻く環境変化が大きく関係しています。
地球規模課題への対応:サステナビリティ経営の必須要素
近年、地球温暖化や人権問題など、サステナビリティ(持続可能性)に関わる課題が世界中で深刻化しています。これらの課題は、企業にとっても無視できないリスクであり、長期的な成長を阻害する要因になる可能性もあります。
こうした中、企業は自社の事業活動が社会や環境に与える影響を意識し、持続可能な経営を目指すことが求められています。そして、サステナビリティ経営を成功させるためには、DEIが不可欠な要素となります。
なぜなら、多様な人材がそれぞれの視点や経験を持ち寄り、自由に意見を交わすことで、新たなアイデアや解決策が生まれやすくなるからです。画一的な考え方に縛られることなく、柔軟に対応できる組織こそが、サステナビリティ課題に立ち向かい、持続的な成長を遂げられると言えるでしょう。
グローバル化と少子高齢化:新たな価値を生み出す人材の重要性
現代社会は、経済や文化のグローバル化がますます進んでいます。企業は海外市場への進出や、外国人材の積極的な登用など、よりグローバルな視点で経営を展開する必要があります。
また、日本国内では少子高齢化が急速に進み、労働力人口の減少が深刻な問題となっています。企業は限られた人材を最大限に活用し、個々の能力を発揮できる環境を整えることが重要です。
DEIを推進することで、性別、年齢、人種、民族、宗教、性的指向、障害の有無など、さまざまな属性を持つ人材が活躍できる環境を築くことができます。多様な価値観や経験を持つ人材が集まることで、新たな市場や顧客ニーズを的確に把握し、革新的な商品やサービスを生み出すことができるのです。
価値観の多様化と人材獲得競争:優秀な人材を惹きつける職場環境
近年、個人の価値観が多様化し、ワークライフバランス※や働き方改革など、労働環境に対する意識も大きく変化しています。従業員は単に与えられた仕事をこなすだけでなく、自分らしく働き、生きがいを感じられる職場環境を求めるようになっています。
優秀な人材を獲得し、組織を活性化するためには、多様な価値観や働き方を尊重し、個々の能力を発揮できる環境を整えることが不可欠です。DEIを積極的に推進することで、従業員のエンゲージメント※を高め、組織全体の活性化につなげることができます。
DEIは、企業が現代社会の課題に対応し、持続的な成長を遂げるために不可欠な考え方です。多様性を尊重し、誰もが能力を発揮できる環境を築くことで、イノベーションの創出、人材獲得、企業価値の向上など、さまざまなメリットをもたらすことができます。*2)
DEIに取り組むためには具体的に何をすれば良いのか

DEIが重要であることは理解できたものの、実際に何をすれば良いのかわからない、という方も多いのではないでしょうか?ここでは、具体的にどんな取り組みがDEIを推進するのか確認していきましょう。
意識改革と教育プログラム
企業内でのDEI意識向上のために、継続的な教育プログラムやトレーニングを導入しましょう。従業員全員が多様性の重要性を理解し、共に働くことの価値を認識することが大切です。
ダイバーシティを反映した採用プロセス
採用プロセスにおいて、人種や性別、年齢などさまざまなバックグラウンドを持つ候補者を公平に評価することが肝要です。面接担当者のトレーニングや採用基準の見直しを行いましょう。
フレキシブルな労働環境の整備
従業員の多様なニーズに対応するために、フレキシブルな労働制度や働き方改革を推進しましょう。育児・介護支援や障害者の就労支援など、多様な状況に適した取り組みを導入することが重要です。
インクルーシブなコミュニケーション環境の構築
従業員が自由に意見を述べ合える環境を整備しましょう。適切なフィードバックの仕組みやコミュニケーションツールの活用を通じて、すべての声が尊重される文化を醸成します。
これらの取り組みは、中小企業でも比較的容易に実践できるものばかりです。DEIを推進することで、従業員のモチベーション向上や組織のイノベーション力強化につながり、企業全体の成長と競争力強化につながることが期待できます。
多様性を活かした職場環境づくりに積極的に取り組むことは、企業の持続可能な発展のためにも重要です。*3)
DEIを推進するメリット

DEIは単なる倫理的な問題ではありません。実は、企業にとって大きなメリットをもたらす可能性を秘めた戦略でもあるのです。
DEIを推進する代表的なメリットを確認していきましょう。
①イノベーションの創出
多様な人材が集まる企業は、年齢、性別、価値観、経歴などの違いから生まれる多角的な視点や意見交換が活発になりやすく、革新的なアイデアが生まれやすい環境が作られます。実際に、経営層の多様性が高い企業では、イノベーションによる売上の割合が高いことが確認されています。
②優秀な人材の維持・獲得
ワークライフバランスに配慮した働きやすい環境を整備することで、ライフステージの変化に応じた柔軟な働き方が可能となり、離職率の低下や定着率の向上が期待できます。また、DEIに積極的な企業イメージを醸成することで、特に若年層を中心に人材獲得の機会が広がります。実際、Z世代の多くが、DEIに消極的な企業には好感を持っていないことが分かっています。
③企業価値の向上
DEIに取り組むグローバル企業のCEOの85%が、その戦略によって最終的な業績が改善したと回答しています。さらに、財務情報からは見えにくい企業価値への貢献も期待されており、ESG投資を重視する投資家からの注目を集められる可能性が高まります。
【ダイバーシティ経営が企業成長にもたらす4つの効果】
DEIは単なる企業の社会的責任の枠を超えて、企業の競争力強化やイノベーション創出、人材確保など、企業経営に直結するメリットをもたらすと言えます。「取り組まないことの方がリスク」なものの1つと評価する声もあるように、時代の要請に応えながら、自社の成長につなげるためにも、DEIの取り組みを積極的に推進していくことが求められています。*4)
DEIを推進する上でのデメリット・課題

DEIの推進には、企業にとってさまざまな課題や困難もともなうことがわかってきています。企業がDEIに取り組む際には、これらの課題を十分に理解し、適切に対応することが重要です。
目先の課題対応に忙く、取り組みを始める余裕がない
地方の中小企業の経営者は、日々の事業運営に追われ、DEIの取り組みを十分に検討する余裕がない場合も少なくありません。人手不足や売上の確保など、目前の経営課題に集中せざるを得ない状況にあり、DEIの重要性を認識しつつも、具体的な行動に移すのが難しい状況にある企業が、
- 他の課題への対応と並行してどう取り組みを進めていくか
- 政府や地方自治体がどう支援するか
などは大きな課題です。
DEI推進の効果が見えにくい
DEIを推進しても、短期的に業績や生産性の向上といった目に見えるメリットが得られにくい傾向にあります。多様性を受け入れる組織文化を根付かせるには時間がかかり、その効果を客観的に示すのは容易ではありません。
経営者がDEIの価値を理解し、中長期的な視点で取り組むことが求められます。
DEI推進の具体的な方法が分からない
DEIの推進方法やそのための具体的な施策について、企業側の知識や経験が不足していることも課題です。どのように多様な人材を確保し、公平な処遇を実現するか、従業員のインクルージョンをどう醸成するかなど、実践的なノウハウが不足しています。外部の支援などを得ながら、一歩ずつ取り組みを進めていく必要があります。
このように、DEIの推進にはさまざまな課題がありますが、それらに適切に対応し、中長期的な視点を持って取り組むことが重要です。地域全体でDEIに取り組む機運が高まりつつある中、企業に対する具体的な支援策の提供が期待されています。企業の実践を後押しするツールや事例の提供、DEIの成果に関するデータ公開、行政によるインセンティブの提示など、総合的な支援が求められています。*5)
DEIを推進する企業の取り組み事例
DEIの重要性が高まる中、先進的な企業では、積極的にDEIに取り組んでいます。では、実際にどのような企業がどのようなDEI施策を行っているのでしょうか。
具体的な事例をいくつか紹介していきます。
花王:誰もが輝く未来を目指して
【多様性への理解】
花王は、創業138年の歴史を重ね、生活者の幸せを追求し続けてきた企業です。企業におけるDE&I(DEI)の重要性がますます高まる中、花王は「正道を歩む」の価値観のもと、新たなDEIの方針を策定しました。
この方針に基づき、花王は以下のような取り組みを進めています。
多様な人材の活躍を促進する
花王は、性別、年齢、人種、国籍、宗教、性的指向、障がいなど、あらゆる属性に関わらず、誰もが能力を最大限に発揮できる環境づくりに力を入れています。このために、
- 女性管理職比率の目標設定
- LGBTQ+に関する研修の実施
- 障がい者雇用促進
- ダイバーシティキャリアパス制度※の導入
などに取り組んでいます。
誰もが尊重される職場文化を醸成する
花王は、一人ひとりの個性を尊重し、互いを尊重し合える職場文化を醸成しています。具体的には、
- アンコンシャスバイアス研修※の実施
- LGBTQ+に関する社内啓発活動
- 多様な意見が活かせるコミュニケーション環境の整備
などに取り組んでいます。
社会課題の解決に貢献する
花王は、DEIの推進を通じて、社会課題の解決にも貢献しています。
- ジェンダー平等に関する社会貢献活動
- 障がい者社会参画支援
- 多文化共生社会の実現に向けた活動
などを通じて、誰もが輝く未来の実現に向けた社会貢献活動に取り組んでいます。
釧路製作所:製造業の課題克服に向けたダイバーシティ推進
【釧路製作所】
1950年代から橋梁製造を手がける釧路製作所は、少子高齢化や市場縮小に直面する中、「100年企業」をめざしてダイバーシティの推進に取り組んでいます。
業務プロセスの改善で、多様な人材の活躍を実現
まず、縦割りの組織文化を改め、オペレーションの細分化により、経験年数に関係なく活躍できる環境を整備しました。若手の採用にも注力し、
- 高専や工業高校からのインターンシップ受け入れ
- 女性にも働きやすい職場づくり
などを進めています。
また、障がいのある社員の活躍も支援しています。技術習得のフローを整備し、ベテラン社員がマンツーマンで指導するなど、全社を挙げて能力発揮につなげています。
シニア社員の知見を若手育成に活かす
一方で、シニア社員の経験と技術力を大切に活用しています。シニア社員を単に技術者としてではなく、若手の育成役として期待し、組織全体の技術力向上に貢献してもらっています。
こうした取り組みにより、これまで男性中心だった組織に、新しい発想を持つ若手が加わるようになりました。その成果の一つが、ロケット部品製造への参入です。
若手女性社員も指導のもと、溶接技術の向上を遂げるなど、多様な人材が活躍する姿が見られます。釧路製作所は、組織文化とプロセスの改善に取り組むことで、ダイバーシティを原動力にしながら、事業の成長と持続可能性の確保を目指しているのです。
やまやコミュニケーションズ:ダイバーシティ推進と健康経営
【社員のためのトレーニングルーム】
やまやコミュニケーションズでは、女性の管理職比率が2割を超えるなど、女性社員の活躍が進んでいます。ただし、これは当初から目標としたわけではありません。
むしろ、一人ひとりの実力や意欲を評価し登用してきたことで、自然とこの状況に至ったのです。しかし、実力主義でも以前は管理職を目指す女性社員が少なかったという問題がありました。
そこでやまやは、管理職の職務を明確化し上司部下の目標共有を推進しました。これにより、管理職としてのイメージが湧きやすくなったことで、女性社員の管理職登用意欲が高まりました。また、子育てで一時退職した女性が復帰して管理職に就くなど、キャリア形成もサポートしています。
健康経営の推進で社員の安心と活力を醸成
同時に、やまやは一人ひとりが安心して持続的に働ける環境づくりにも注力しています。
- 休業・復帰支援の仕組みづくり
- 対話しやすいオフィスの設計
- 無意識のバイアス解消研修
など、社員の心理的安全性を高める取り組みを行っています。
そうした効果もあり、やまやは3年連続で「健康経営優良法人」に選定されています。新社屋にはトレーニングルームを設置し、イスラム教の方の礼拝スペースとしても活用されるなど、社員の健康促進にも注力しています。*6)
【関連記事】健康経営とは?取り組み事例とメリット・デメリットを解説【2023年版】
企業がDEIを推進する際のポイント

ここで、DEIの取り組みを実践的に進めるためのポイントをまとめます。
目標設定
DEIに取り組む上で、まずは企業の目指すゴールを明確に定める必要があります。性別、年齢、国籍、障がいの有無など、どのような多様性を重視し、どのような組織を目指すのかを具体的な数値目標とともに設定しましょう。これにより、DEI推進の成果を可視化し、従業員の理解と協力を得やすくなります。
研修の実施
DEIの意義や重要性を、経営者から現場の従業員まで会社全体で共有するための研修を実施しましょう。偏見や無意識のバイアスを排除する方法、多様な個性を受け入れる組織風土の醸成など、DEIを浸透させるための教育プログラムを設けることが肝心です。
多様な個の特性を活かす
従業員一人ひとりが自分らしさを発揮し、活躍できる環境を整備しましょう。キャリアパスの多様化や、柔軟な働き方の選択肢の確保など、個の特性に合わせた働き方を可能にする仕組みづくりが重要です。
多様性を受容する組織文化の育成
全従業員がお互いの違いを理解し、尊重し合える組織文化を醸成することが欠かせません。そのため、
- 管理職による適切なリーダーシップ
- 建設的なコミュニケーションの推進
など、組織全体でDEIを受け入れる土壌づくりに取り組みましょう。
生活と仕事の両立支援
子育てや介護など、多様な生活ニーズを抱える従業員が、安心して働き続けられる環境を整備することも重要です。テレワークの導入やワークライフバランス施策の充実など、柔軟な働き方を可能にする仕組みづくりを検討しましょう。
古い考え方や価値観に潜む盲点に注意
DEIを推進する上で、古い考え方や価値観が潜む盲点に注意する必要があります。
① 画一的な評価制度
従来の評価制度は、画一的な基準で従業員を評価する傾向があります。しかし、多様な個の特性を活かすためには、画一的な評価制度ではなく、個々の能力やスキルに合わせた評価制度が必要です。
②固定観念
性別や年齢、出身地などに関する固定観念は、多様な人材の活躍を阻害する要因となります。固定観念にとらわれず、一人ひとりの能力やスキルを評価することを心掛けましょう。
③無意識の偏見
無意識の偏見は、誰もが持っているものです。無意識の偏見に気づき、それを克服することが、DEIを推進するために重要です。
④多様性への恐怖
変化への抵抗感から、多様性への恐怖が生じることもあります。多様性を受け入れることは、変化を意味しますが、同時に新たな可能性を生み出すことも理解しましょう。
⑤過去の成功体験への固執
過去の成功体験に固執し、新しいことに挑戦しないことも、DEIの推進を妨げる要因となります。変化の激しい現代社会においては、常に新しいことに挑戦し続けることが重要です。
DEIの推進は、企業によっては大きな転換期を迎える取り組みになる可能性があります。経営トップの強いリーダーシップの下、組織全体でDEIの意義を共有し、従業員一人ひとりが自分らしく活躍できる環境づくりを目指しましょう。*7)
DEIに関する疑問
ここではDEIに関する2つの疑問ついて回答していきます。
DEIとポリコレの違いは?
DEIとポリコレは、どちらも多様性や公平性を尊重する社会的な概念ですが、その目的やアプローチには違いがあります。
DEIは、組織や社会において「多様性(Diversity)」「公平性(Equity)」「包括性(Inclusion)」を推進する取り組みを指し、一方でポリコレは「政治的に正しい表現や行動」を指します。
つまり、DEIは組織や社会の構造的な変革を通じた多様性と公平性の実現を目指す活動全般のことです。ポリコレはその一環として言語や表現を通じて個人や集団への配慮を行うアプローチといえます。
DEIが批判される理由は?
DEIが批判される理由はいくつかあります。
まず、逆差別の懸念です。多様性や公平性を推進するあまり、特定のグループを優遇することが他のグループへの不公平につながると指摘されます。
次に、表面的な取り組みへの批判です。DEIが単なるイメージ戦略やパフォーマンスとして扱われ、実質的な変化が伴わないケースが見られます。これにより、企業や組織が本質的な課題解決を怠っていると批判されることがあります。
さらに、業務効率や競争力低下の懸念もあります。多様な人材の調整や公平性の確保にリソースを割くことで、業務のスピードや意思決定が遅れる場合があるためです。
このように、DEIは社会的に重要な価値観である一方、実践やバランスを誤ると批判の対象となる可能性もあります。
DEIを推進することで企業の利益生産や成果にどのような影響がある?
DEIを推進することで、企業の利益や生産性にさまざまな良い影響をもたらします。
多様なバックグラウンドを持つ社員が集まることで、新しい視点やアイデアが生まれ、イノベーションが推進されます。また、多様な顧客層のニーズをわかりやすくなり、より幅広い市場へアプローチできる点もメリットと考えられるでしょう。
公平で包摂的な職場環境は社員の取り組みや定着率を向上、優秀な組織のパフォーマンス向上や売上増加につながる可能性が高いです。
DEIとSDGs
DEIの取り組みは、SDGs(持続可能な開発目標)の達成にとても重要な役割を果たしています。特にDEIが貢献するSDGs目標を確認してみましょう。
SDGs目標4:質の高い教育をみんなに
DEIの取り組みは、教育の場においても重要な役割を果たします。DEIでは、一人一人の特性を理解し、誰もが安心して学べる環境を整備します。
教育の質を高めながら、教育への公平なアクセスを実現することで、社会的な格差の解消にもつながるのです。
SDGs目標5:ジェンダー平等を達成しよう
目標5のジェンダー平等は、DEIの根幹をなす大切な要素です。DEIでは、性別に関わらず誰もが活躍できる機会を保証し、ガラスの天井※を取り払います。
また、家事・育児への男性の参画を促進したり、ジェンダーバイアスのない組織文化を醸成したりすることで、男女の役割意識を変革し、真の意味での平等を実現することができます。
SDGs目標8:働きがいも 経済成長も
DEIは、目標8の目指す「働きがいのある人間らしい仕事」の実現にも貢献します。多様な人材を活かし、一人ひとりの能力を最大限に引き出すことで、イノベーションの創出や生産性の向上につながります。
また、ワークライフバランスの推進や、障がいのある人の就労支援など、誰もが活躍できる環境づくりも重要です。こうした取り組みにより、個人の働きがいと組織の持続可能な成長の両立が可能になるのです。
SDGs目標9:産業と技術革新の基盤をつくろう
DEIは、多様な視点とアイデアを生み出し、イノベーションの創出にもつながります。性別、年齢、国籍、経験など、背景の異なる人材を受け入れ、ダイバーシティを高めることで、製品・サービスの高度化や新たな価値創造につながります。
また、技術の発展や産業構造の転換に柔軟に適応できる組織文化の醸成にも貢献します。
SDGs目標10:人や国の不平等をなくそう
DEIの最も重要な目的の1つが、あらゆる差別や偏見をなくし、誰もが公平に扱われる社会の実現です。一人ひとりの個性を尊重し合うことで、経済的・社会的な格差の解消につながります。
さらに、マイノリティの積極的な活用や、多様性を活かした製品・サービスの開発など、DEIの取り組みは、グローバルな競争力の向上にもつながるのです。
このように、DEIの実践は、SDGsが目指す持続可能な社会づくりに大きな影響を及ぼします。一人一人の多様性を尊重し、誰もが活躍できる環境を整備することは、より良い未来につながるのです。*8)
>>各目標に関する詳しい記事はこちらから
まとめ

DEIとは、Diversity(多様性)、Equity(公平性)、Inclusion(包摂性)の頭文字を取った略称です。企業や組織において、
- 性別
- 年齢
- 国籍
- 障がい
- ライフスタイル
など、さまざまな個性や違いを受け入れ、活かしていくための取り組みを指します。
DEIが注目されるようになった背景には、グローバル化の進展や働き方の多様化など、社会構造の変化があります。企業競争力の強化や、人材の定着・生産性向上、社会課題の解決などにも寄与するため、企業のみならず、行政や教育現場でも積極的に取り組まれつつあります。
特に日本では、少子高齢化や人手不足への対応、女性の活躍推進など、DEIが重要な経営課題となっています。多様な人材を活かすことで、イノベーションの創出や市場への適応力強化が期待されるのです。
DEIに取り組むにあたっては、まず自社の現状を把握することが重要です。
- 従業員の属性(性別、年齢、国籍等)はどうなっているか
- 昇進や評価、報酬などにおいて公平性は確保されているか
- 障がい者や外国人など、マイノリティの社員は活躍できる環境か
などをチェックして、課題を特定した上で、経営層のコミットメントのもと、具体的な施策を打ち出していくことが大切です。
一方で、個人としても、自身の価値観や行動を見直し、多様な人々を受け入れ、理解を深めていくことが求められます。ステレオタイプからの脱却や、相手を理解しようとする姿勢を意識するなど、一人ひとりができることから始めていくことが重要です。
DEIの推進は、企業にとっても個人にとっても、大きなメリットがあります。多様性を活かし、公平性と包摂性を実現することで、イノベーションの創出や組織の活性化、さらには社会課題の解決にもつながります。
また、これらに取り組まなければ、人材確保や企業イメージの低下、社会からの信用失墜などの面で、深刻なリスクが生じる可能性があると言われています。
ぜひこの機会に、あなたの周り、職場、そして社会がよりよくあるためには、どうあるべきか、なにができるかを考える機会を持ってください。多様性を尊重し、公平性と包摂性を実現する組織や社会の実現は簡単なことではありませんが、将来も人間社会が持続可能で、より幸福度の高い暮らしのために、真摯に向き合い、理解を深めていきましょう。
<参考・引用文献>
*1)DEIと
経済産業省『ダイバーシティ経営の推進について』(2024年2月)
経済産業省『多様な個を活かす経営へ~ダイバーシティ経営への第一歩~』(2021年3月)
経済産業省『事務局資料』(2022年1月)
日本経済新聞『童話に学ぶDEI〜進化するダイバーシティ』(2023年3月)
日本生産性本部『ダイバーシティ・エクイティ&インクルージョン(DE&I)とは? おさえておきたいキーワードとポイント解説』
*2)DEIが注目される背景
日経BizGate『DEIのEは何?女性の活躍推進、納得感を高めるには ダイバーシティ研究の第一人者、谷口真美・早稲田大学 商学学術院教授に聞く』(2024年2月)
日本経済新聞『CFOがリードするDEI推進で企業競争力向上』
*3)DEIに取り組むためには具体的に何をすれば良いのか
経済産業省『ダイバーシティ・コンパス』
日本経済新聞『高まる「DEI」の重要性 新風シリコンバレー ジャパン・インターカルチュラル・コンサルティング社⻑ ロッシェル・カップ氏』(2022年3月)
日経XTECH『多様性の新概念「DEI」、キンドリルジャパンの従業員コミュニティーから学ぶ』(2023年9月)
*4)DEIを推進するメリット
経済産業省『中小企業のためのダイバーシティ経営』
NTT東日本『DE&I推進がもたらす、イノベーション創出と人材確保』(2023年6月)
厚生労働省『ダイバーシティ経営の利点と「ダイバーシティインデックス」の必要性』(2022年12月)
*5)DEIを推進する上でのデメリット・課題
日経COMEMO『DE&Iに対する「反動」にどう対処するべきか?』(2024年1月)
経済産業省『DIVERSITY MANAGEMENT』(2024年)
*6)DEIを推進する企業の取り組み事例
KAO『花王ユニバーサルデザイン指針』
経済産業省『中小企業のためのダイバーシティ経営』
日本経済新聞『花王、「ダイバーシティ、エクイティ、インクルージョン(DE&I)方針」を策定』(2023年6月)
KAO『ダイバーシティ、エクイティ、インクルージョン(DE&I)方針』
Panasonic『「DEI(Diversity, Equity & Inclusion)」とは?』
AJINOMOTO『DE&Iってなに?味の素グループの取り組みからわかるD&Iとの違いとは?』
*7)企業がDEIを推進する際のポイント
経済産業省『DIVERSITY MANAGEMENT』(2024年)
厚生労働省『職場におけるダイバーシティ推進事業について』(2019年)
厚生労働省『令和元年度厚生労働省委託事業「多様な人材が活躍できる職場環境に関する企業の事例集~性的マイノリティに関する取事例~」の概要』(2019年)
厚生労働省『令和元年度 厚生労働省委託事業 職場におけるダイバーシティ推進事業 報告書』(2020年3月)
*8)DEIとSDGs
国際連合広報センター『SDGsのポスター・ロゴ・アイコンおよびガイドライン』