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ダイバーシティ経営企業100選とは?取組事例や取り組むメリットも

企業は今、グローバル化への対応や人材の確保といった課題を抱えています。これらの課題を解決するための有効な経営戦略「ダイバーシティ経営」が注目を集めています。過去には、ダイバーシティ経営に取り組む企業を表彰する「ダイバーシティ経営企業100選」という制度がありました。これからダイバーシティ経営を進めていこう!というときに、この取り組みは参考になるでしょう。この記事では、ダイバーシティ経営企業100選とは何か、取り組み事例、メリット、今後の普及方針、SDGsとの関係を解説します。

ダイバーシティ経営企業100選とは

ダイバーシティ経営企業100選とは、経済産業省が平成24年度から令和2年度にかけて実施した事業で、ダイバーシティ経営に取り組む企業を表彰する制度を言います。※[i]

ダイバーシティ経営とは、多様な人材を活かし、その能力が最大限発揮できる機会を提供することで、イノベーションを生み出し、価値創造につなげている経営のことです。「多様」とは、性別、年齢、人種や国籍、障がいの有無、性的指向、宗教・信条、価値観のほか、キャリアや経験、働き方も含みます。また「価値創造」は、個々がその特性を活かして働ける環境を整えることで自由な発想が生まれ、その結果、生産性が向上し競争力を強化する流れを作ることです。※[ii]

企業は、事業のグローバル化や少子高齢化による労働人口の減少などの課題を抱えています。その中でダイバーシティ経営企業100選は、ダイバーシティ経営の重要性や意義、取り組み事例の浸透を図ることを通じて、日本国内の経済の発展を目指してきました。選定された企業は、制度が実施された9年間で282社に上っています。

【関連記事】ダイバーシティの意味とは?多様性が尊重される理由と日本や海外の事例やSDGsとの関連を紹介

ダイバーシティ経営企業100選の種類

ダイバーシティ経営企業100選には、「新・ダイバーシティ経営企業100選」と「100選プライム」の2つの種類があります。

新・ダイバーシティ経営企業100選

「新・ダイバーシティ経営企業100選」は、平成27年度に開始された事業です。それ以前の「ダイバーシティ経営企業100選」という名称を変え、今後広がりが期待される分野の重点テーマが各年度に設定されています。表彰の対象や応募条件、評価ポイントは次の通りです。

対象「ダイバーシティ経営」に優れている企業
応募要件⑴    原則として民間企業等であること
⑵    障害者法定雇用率2.2%以上を満たしていること
⑶    労働関係法令等に関して違反がないこと
⑷    社会通念上表彰にふさわしくないと判断される問題がないこと
評価ポイント⑴    【実践性】多様な人材の活躍に取り組み、実際に成果を上げていること
⑵    【革新性・先進性】類似の業種や規模、地域の企業に先駆けた取り組みを実施し、結果を出していること
⑶    【全社レベルでの取り組みの浸透性・継続性】経営トップがダイバーシティ推進を主導することで、ダイバーシティ経営が組織全体に浸透し、継続的に取り組みが進化していること

100選プライム

100選プライムとは、2017年度にスタートした中長期的に企業価値を生み出し続ける取り組み「ダイバーシティ2.0」を実践する企業を選定する制度です。制度の実施期間中に合わせて8社が受賞しています。表彰の対象や応募条件、評価ポイントは次の通りです。

対象・「ダイバーシティ2.0 行動ガイドライン実践のための7つのアクション」を実践している企業
・過去に「100選」および「新・100選」を受賞した企業
応募要件⑴      原則として民間企業等であること
⑵      障害者法定雇用率2.2%以上を満たしていること
⑶      取締役に女性が1名以上含まれていること
⑷      労働関係法令等に関して違反がないこと
⑸      社会通念上表彰にふさわしくないと判断される問題がないこと
評価ポイント「ダイバーシティ2.0 行動ガイドライン実践のための7つのアクション」に取り組み、成果を上げていること

 【7つのアクション】
 ①    経営戦略への組み込み
 ②    推進体制の構築
 ③    ガバナンスの改革
 ④    全社的な環境・ルールの整備
 ⑤    管理職の行動・意識改革
 ⑥    従業員の行動・意識改革
 ⑦    労働市場・資本市場への情報開示と対話

ダイバーシティ経営企業100選企業の取り組み事例

ダイバーシティ経営企業100選企業の取り組み事例は、経済産業省のサイトに「ベストプラクティス集」として掲載されています。※[iii]その中から2社を紹介します。

【中小企業】東和組立株式会社(2021年度受賞)

岐阜県の東和組立株式会社は、自動車用ショックアブソーバーを製造する従業員数135人(うち外国人38人、チャレンジド※15人)の企業です。多様な属性の人材が活躍することにより、労働生産性を向上することが課題でした。そこで業務の固定化を廃止し、人材の特性に合わせた配置を実施。年齢、性別、国籍、障がいにより生じる課題をIT、IoTでカバーしながら多能工化を実現しています。例えば、

  • 外国人やシニア、障がいのある社員が従事できるように、ITを活用して内製した画像判断装置やタブレットによるバーコード識別装置を導入する
  • 体力差、体格差にかかわらず業務を担当できるように、作業台の高さを調整する市販の昇降テーブルを導入したり、市販の農業用電動運搬車を改造して台車を製作したりする

などがあり、他にもさまざまな取り組みを行っています。

この結果、取り組み前のモデルラインと比較して出来高生産性が約25%向上、納期の遵守率も目標の90%を達成しました。※[iv]

※チャレンジド

障がい者のこと

【中小企業】株式会社サニックス(2020年度受賞)

山形県の株式会社サニックスは、自動車整備業 及び 輸送機械器具製造業を営む従業員数75人の企業です。優秀な技術者の不足や若い人材の確保と技術の継承が課題でした。そこで、新卒採用と育成・定着、企業イメージ刷新のための職場環境改善を推進しています。例えば、

  • 若手社員をリーダーに指名し、5S活動(整理、整頓、清掃、清潔、躾)を開始する
  • 大学生インターンを受入れ、若手社員に担当させる
  • 社内報や社内SNS(LINE WORKS)といったツールを活用して、社内コミュニケーションの活性化に取り組む

など、若手社員が主体的に行動することで、働きがいを感じられる職場づくりや、社員の思いをリアルタイムで共有する仕組みを作っています。

この結果、若手社員からシニア社員までの情報共有が図られ技術継承が進展。また、企業イメージが向上し、2013~2018年で19名の新卒社員が入社し、9割が定着しています。

ダイバーシティ経営に取り組むメリット

続いては、ダイバーシティ経営に取り組むメリットを見ていきましょう。

生産性の向上

1つ目のメリットは、生産性が向上することです。多様な社員がそれぞれの能力を十分に発揮することで、効率よく業務を進めることができます。

次のグラフは、ダイバーシティ経営企業100選受賞の有無別に、経営成果が「良い/うまくいっている」と回答した中小企業の割合を示しています。

※経済産業省「多様な人材の確保と育成に必要な人材マネジメントに関する調査」(2020年10~11月実施)において、上記各項目につき、同業・同規模の他社と比較した2019年度時点の状況を、正社員1,000人以下の中堅・中小企業に限定しダイバーシティ経営企業100選受賞企業(ダイバーシティ経営を行う企業)と非受賞企業(ダイバーシティ経営を行っていないと推測される企業)で分析したもの

ダイバーシティ経営を行う受賞企業は、非受賞企業に比べて「人材育成や能力開発」、「正社員の仕事に対する意欲」が高いことが分かります。また、「売上高」や「営業利益」といった経営効果も得られていることから、ダイバーシティ経営は生産性向上の一助になっていると言えるでしょう。

人手不足の解消

もう1つのメリットは、人手不足の解消につながることです。先のグラフの「新入社員・中途社員の採用」「正社員全体の定着」の成果については、受賞企業が非受賞企業を大きく引き離しています。このことから、ダイバーシティ経営は求職者や社員にとって大きな魅力であることは事実です。人材を呼び込み、さらにその後も継続して働いてもらうためには、ダイバーシティ経営の推進は今後ますます重要になるでしょう。

今後のダイバーシティ経営の普及方針

ダイバーシティ経営企業100選はすでに終了していますが、ダイバーシティ経営は今後も拡大の余地は残されているというのが経済産業省の見解です。そして、企業がダイバーシティ経営に取り組む際には、「3拍子」をそろえることがポイントであるとしています。※[v]

■3拍子
1.経営者の取り組み
2.人事管理制度の整備
3.現場管理職の取り組み

この「3拍子」のそろった中小企業は、そうでない企業と比べて経営成果が良いことも分かっています。ダイバーシティ経営を実践していくためには、意義や必要性を伝えていくほか、こうした実践のための支援ツール※を提供するなどして、普及していきたいとしています。

※各種支援ツールは「ダイバーシティ経営実践のための各種支援ツール」(経済産業省)にて入手できます。

ダイバーシティ経営とSDGs

最後に、ダイバーシティ経営とSDGsの関係について確認していきます。ダイバーシティ経営は、目標5「ジェンダー平等を実現しよう」、目標8「働きがいも経済成長も」、目標10「人や国の不平等をなくそう」に関係があります。

目標5「ジェンダー平等を実現しよう」目標10「人や国の不平等をなくそう」

目標5「ジェンダー平等を実現しよう」は、政治、経済、公共の場での意思決定において、女性の参画と平等なリーダーシップの機会を確保することが掲げられています。また目標10「人や国の不平等をなくそう」は、年齢、性別、障がい、人種、民族、出自、宗教などにかかわらず、社会的・経済的・政治的に参画する力を与えることを目指しています。

ダイバーシティ経営は、性別や障がい、人種などにかかわらず、多様な人材を活かすことが根本にあります。企業がダイバーシティ経営を推進することは、これらの目標の達成につながります。

目標8「働きがいも経済成長も」

目標8「働きがいも経済成長も」は、働きがいのある仕事を創出し、イノベーションを支援する開発重視型の政策を推進することを目標にしています。

ダイバーシティ経営により環境が整えば、社員は自分の能力を活かすことで働きがいを感じることができます。そうして発揮された能力はイノベーションにつながり、経済の成長に寄与するでしょう。

まとめ

ダイバーシティ経営企業100選とは、ダイバーシティ経営を行っている企業を表彰する制度のことです。経済産業省が平成24年度から令和2年度にかけて実施した事業で、9年間で282社が選定されています。選定された企業は、「人材育成や能力開発」「正社員の仕事に対する意欲」「新入社員・中途社員の採用」「正社員全体の定着」において成果を上げていることから、ダイバーシティ経営は生産性の向上と人手不足の解消につながることが分かります。またダイバーシティ経営は、年齢、性別、障がい、人種、民族、出自、宗教などにかかわらず、一人一人が能力を発揮できる場を提供するため、SDGsの目標達成にも貢献できます。企業が直面しているグローバル化や労働人口の減少への対応が求められる中、ダイバーシティ経営は企業にとって今後も必要な経営戦略になっていくでしょう。

参考
※[i] 経済産業省「事業概要 | 新・ダイバーシティ経営企業100選
※[ii] 経済産業省「ダイバーシティ経営の推進
※[iii] 経済産業省「これまでの表彰企業 | 新・ダイバーシティ経営企業100選
※[iv] これまでの表彰企業|新・ダイバーシティ経営企業100選「令和2年度ベストプラクティス集(全体版)
※[v] ダイバーシティ経営の推進 (METI/経済産業省)リーフレット(~3拍子で取り組む~ 多様な人材の活躍を実現するために)