#インタビュー

dot science株式会社|プロデュースとブランディングの力で「いいもの」に価値を与え生産者を応援する!

dot science株式会社

dot science株式会社 代表 小澤 亮さん インタビュー

小澤 亮

マーケター。ヤフー株式会社を経て、品質に信念を持つ生産者の販路をつくる会社を創業。オンラインシェアNo.1の食べられる花屋 EDIBLE GARDEN、捨てられてしまう食材をアップサイクルするサステナミール、食材の品質を数字で証明する成分分析ブランディング、伝統食のブランド開発・企業顧問など、食の領域で活動している

introduction

SNS上で一度は見たことがある、色とりどりの美しい花でかざられたスイーツや料理、カクテル。これらに使われている花は、dot science(ドット サイエンス)株式会社が手掛けている「エディブルフラワー」かもしれません。

鑑賞を目的に生産されている花ではなく、食べられる「エディブルフラワー」は、農林水産省のガイドラインに基づいて食用として安全に栽培された食用花です。

dot science株式会社は、流通の難しいエディブルフラワーをプロデュースし、生産者を応援しています。

今回は、代表の小澤亮さんに生産者を応援すること、エディブルフラワーについてなどお話を伺いしました。

現場で頑張る生産者の右腕になり支える

–はじめに、dot science株式会社のご紹介をお願いします。

小澤さん:

dot science株式会社は、「農林畜産の生産者を応援すること」を理念に2017年に創業しました。

現在は「ブランドのプロデュース事業」が主な事業です。

「ブランドのプロデュース事業」では、食材と伝統食において、生産から販売までをトータルでプロデュースしています。

特に、食べられる花屋「エディブルガーデン」の事業は、いろいろなクリエーターとコラボしており、成長中の事業です。

「ブランディング事業」では、生産者がこだわって作った⾷品を、科学的に証明する成分分析のサービスをおこなっています。品質の⾼さを証明し、価格を後押ししているほか、加工食品のプロデュースや食品の品質数値証明なども手がけています。

このように、私たちはいいものに価値をつけて「持続可能な価格の流通を増やすこと」が目標です。

また、障がい者福祉施設と協力した事業展開もしています。

私たち専門家の知識を取り入れプロデュースした施設で、障がい者ならではの能力を生かし、食材の栽培や加工品の製造をしています。この取り組みは、障がい者が関わるものづくりの価値を上げ、それにより、障がい者福祉の労働賃金を上げることを目指しています。

–小澤さんが食の生産者を応援したいと思ったきっかけはなんだったのでしょうか。

小澤さん:

私は、もともと「ものづくり」が好きで、大学では建築デザインを専攻していました。卒業後は、ものづくりする人を右腕として支える仕事がしたいと考え、勉強のためにヤフージャパンに就職しました。

そのころは、ものづくりの中心と言えばアパレル業界で、ブランドの力が強い時代でした。

今でこそ、機能やコンセプトが面白いノーブランドの商品が人気になることもありますが、当時は、アパレルだけでなく、ほかの商品もブランドの力が強かったんです。

その中で、食のジャンルでは、地方の生産者が自分の造った食材や商品を独自でどんどん売り始めていました。それを見て、食の分野ならノーブランドでも勝負ができるのではないかと思ったんです。

また、これまでに、全国の250程の農畜水産の生産者を訪ねて話を聞く中で、いいものを生産しても流通の過程で価値が伝わらず、消えてしまうことが多々あると感じていました。

生産者は現場での生産に集中するため、自分で作ったものをうまく流通させることまで手が回っていないケースがほとんどです。

このような背景を持つ生産者の方々がとても多く、私たちが生産者の右腕として商品のブランディングを行いしっかりストーリーや価値を伝え勝負しようと考えたのが事業を始めたきっかけです。

現在は、食用バラのような食べられる花「エディブルフラワー」の事業が好調です。

花の品質が非常に高いので、様々な食のジャンルで活用され、オンラインシェアNo.1に成長しています。

100%無農薬栽培 高品質でサステナブルな食材「エディブルフラワー」

–では、「エディブルフラワー」の事業についてお聞きかせください。

小澤さん:

食べられる花屋「エディブルガーデン」というサービス名で、無農薬栽培のサステナブルなエディブルフラワーを取り扱っています。

弊社のメンバーには、マーケティングの専門家である私をはじめ、農業の科学者、ミシュラン星付きの有名店で活躍したトップシェフなどのプロがいます。プロの目線と強みを生かし、栽培から収穫、販売までプロデュースすることで、1週間以上の鮮度保持が可能となり、人にも環境にも優しいエディブルフラワーが実現しました。

現在、80種類以上のエディブルフラワーが、高級ホテルやレストランで愛用されています。

私たちがエディブルフラワー事業で最も大切にしているのは、「高品質でサステナブルな食材である」ということです。そのために、100%化学農薬不使用で栽培することにこだわっています。エディブルフラワーは虫害に弱いので、農薬を使わずに栽培することは非常に難しいのですが、「化学農薬からの脱却」を実現するために栽培の監修を行っています。

–御社のエディブルフラワー栽培の特徴を教えてください。

小澤さん:

栽培については、農業の科学者である木村が「植物工場栽培」「ハウス栽培」を監修し、栽培・収穫・検査・梱包・予冷・出荷の各工程が、科学的根拠に基づいた方法で行なわれます。

エディブルフラワーは特徴によっていくつかのブランドがありますが、その中でも植物工場で栽培している「AYUMI」と「Nobel Rose」は、従来の農法と比較して、水の使用量を95%以上削減しています。これにより、品質の高い花を栽培するだけでなく、環境への負荷も軽減できます。また、植物工場栽培は防虫性が高いため、香り高い品種の花が無農薬の環境で安定して栽培できます。また、無菌であるため、洗わずに料理や菓子に使用できるようになりました。

もう一つ大きな特徴は、障がい者福祉施設で障がいのある方々にエディブルフラワーの生産をしてもらっていることです。

具体的には、「AYUMI」は「NPO法人歩実」に導入した植物工場を中心に無農薬で栽培しています。規格の1,000倍以上の衛⽣基準で育てることで、通常の2倍以上の期間、鮮度を保てます。

これは、真面目にコツコツと作業に取り組める障がいのある⽅々の適性 と、植物⽣理学上の正しいオペレーションをマッチさせたからこその成果です。今まで就労支援を行っている3つの団体で、高品質なエディブルフラワーの栽培を実現してきました。その品質が評価され、今ではミシュランガイド星付きレストランでも愛用されるようになり、福祉施設利⽤者への⼯賃は全国平均の2倍を達成中です。 

「おいしい花体験」を拡げエディブルフラワーを普及させたい

–現在事業を展開する中で、何か課題はありますか。

小澤さん:

まず、エディブルフラワーは市場が非常に小さいということが問題の一つでした。

事業を始めた当初は、使用されるのはちょっとした飾り程度で使用量が少ないため、客単価が低かったんです。

現在は、食材としての認知がひろがり、ご発注いただく量はおよそ10倍にひろがっています。

とはいえ、まだまだ道半ば。今後も、利用者数と使用量を増やしていくことが重要だと考えています。

その上で、払拭していきたい課題があります。

それは、花はあくまでも飾りであり、食べてもおいしくない、という世間のイメージです。

若い世代では、「インスタ映えのために花を飾って、食べずに捨てられてる。それでいいの?」と言われたりもするんですよね。もちろん飾りに使われる花も否定しません。

しかし、食べておいしいエディブルフラワーの生産にも注力していますので、それを知ってもらい、普及させていくことも大切だと思っています。

–では、利用者数と使用量を増やし、おいしい花を普及させるためにどのようなことをされているのでしょうか。

小澤さん:

利用者数と使用量を増やすには、飾りで使用する以外の体験をしてもらうことが必要だと思います。そのために、食べた人に感動を与える「おいしい花体験」を提供したいと考えました。

そこで、トップクリエーターとコラボして「おいしい花体験」をつくるE.F.Lab(エディブルフラワー研究所)を立ち上げました。

パティシエ・バーテンダー・シェフ・バリスタなど、様々なジャンルのトップクリエイターと花を掛け合わせたコラボレーションの企画を常時進⾏しています。

そして、その体験の様子をインスタグラムなどでしっかり配信していくと、興味を持つ人が増え、体験する人が増えるほどエディブルフラワーの価値をあげていけると考えています。

「バラってこんなに美味しかったんだ」などとコメントをもらうと本当に嬉しいです。

生産者の方々も、「この花だったら美味しいんじゃないか」などと工夫して頑張って取り組んでくれていますので、体験できる企画をどんどん作っていきたいと思っています。

また、エディブルフラワーを使ったバラのジャムやアイスクリームなどの加工品も手掛けています。弊社の田村シェフが開発したこれらの商品も、障がい者福祉施設でつくられています。

知的障がいのある方の就労継続支援に取り組んでいる上町工房ではバラのジャムを。エディブルフラワーの栽培でも連携しているNPO法人歩実では「バラのアイスクリーム」を製造しています。

田村シェフが各福祉施設と連携しながら、シンプルなレシピに整えたからこそ、みんなの才能が生かされた商品になったのではないかと考えています。

–他にも、エディブルフラワーの価値を上げるためにしていることはありますか。

小澤さん:

「食材の価値の数値化」にも取り組んでいます。

「エディブルガーデン」を立ち上げて、まず最初にしたのがこの食材の数値化です。島根大学との研究で自然栽培の食用バラの香り成分の含有量を調べました。結果、通常のベルローズという品種の3,840倍の香り成分が含まれていることが明らかになったんです。これにより、香りの高さ、品質、生産者の努力が可視化されたと思います。

他にも「AYUMI」で生産している食用のビオラに、全食材でもトップクラスのポリフェノールが含まれていることも明らかになりました。具体的には、スーパーフードとして人気がある「アサイー」の約4倍ものポリフェノールの含有量です。

数字で科学的に証明できたおかげで、料理人など使ってくれる方に試してもらいやすくなりました。そして、数々のすばらしいコラボレーションやクリエイションが生まれるようになりました。

私たちが生産者の代わりとなり、食材の価値を証明し、伝えつづけること。料理人にその食材を「最高の一皿」に仕上げてもらう努力を欠かさないこと。そうすることで、生産者と料理人それぞれの「一流のクリエイションを支える」ことができると考えています。

エディブルフラワーの価格を含む価値を上げることは、とても重要でこれからも大事にしていきたいことです。

–では最後に、これからどのように事業を展開していきたいか、展望をお聞かせください。

小澤さん:

世界に誇る花食カルチャーを創りあげたいですね。

スローガンは「おいしい花体験を日常から非日常まで。」です。

多様なジャンルのトップクリエイターと共に、エディブルフラワーの創造的な体験を届けていくつもりです。 そのためには2つのことが必要です。

1つは、まだ市場に出回っていない、⾹りがある・味に特徴があるエディブルフラワーの栽培を増やすことです。

今までのエディブルフラワーが、香りが少なく味もあまり良いものでなかったのは、つくり手にとって栽培しやすい品種が選ばれてきたからです。生命力が強く育てやすい花は、苦みが強く、虫を呼び寄せる香りは少ない傾向にあります。つまり、あまりおいしいとは言えません。飾るだけでなく、食べておいしいと感じられる花の品種の栽培が必要です。

現在、「おいしい花体験」を広げるために、20品種以上のおいしい花を試験栽培しています。

2つ目は、「おいしい花体験」の敷居を下げることです。

現在は、世界で活躍するバーテンダー、ミシュランガイド星付きレストラン、予約のできないパティスリーなど、数々のトップクリエイターとコラボレーションをしています。当然価格や予約などの点で難しいこともあります。ですから、これからはワンコインで体験できるような商品なども企画し、価格帯に幅を持たせたいと考えています。

《ワンコインでおいしい花体験ができる バラのシュークリーム(500円)》

また、百貨店のような⼤企業とコラボレーションする ことで、皆さんに知ってもらう機会を増やすことも強化したいと思っています。

《⾼島屋限定で販売した 花のチョコレート(3,537円)》

–「おいしい花体験」が拡がると、誰でも気軽に体験できるようになりますね。楽しみです。本日は貴重なお話をありがとうございました。

関連サイト

dot science株式会社公式サイト:https://foodvisioning.science/

EDIBLE GARDENサイト:https://ediblegarden.flowers/

エディブルフラワー研究所サイト:https://eflab.jp/