#インタビュー

NPO法人 北海道エコビレッジ推進プロジェクト|エコビレッジで持続可能な暮らしを実践し、学び合い、伝えていく

NPO法人 北海道エコビレッジ推進プロジェクト 坂本さんインタビュー

坂本 純科
1991年 北海道大学農学部農学科卒業
1991~2004年 札幌市環境局勤務(緑地計画、公園設計等)
2004~2006年 北海道工業大学、酪農学園大学、札幌北斗高校非常勤講師
2007~2008年 英国ウェールズ大学大学院留学
2009年~北海道長沼町にてエコビレッジライフ体験塾を開設
2012年~NPO法人北海道エコビレッジ推進プロジェクト設立(理事長)
2013年~余市に拠点を建設

introduction

NPO法人 北海道エコビレッジ推進プロジェクトでは、「住民が互いに支えあう仕組み」と「環境に負荷の少ない暮らし方」を求める人々が北海道の余市に集まり、持続可能な暮らしを実践するエコビレッジを展開しています。

また、そこで生活して得た学びや気づきを多くの人に伝え、体験できる「エコカレッジ」も同時に開催しています。

今回、エコビレッジでのサステナブルな暮らしの実態やエコカレッジの取り組みについて、代表の坂本さんに詳しくお話を伺いました。

エコビレッジとは
エコビレッジは「住民が互いに支えあう仕組み」と「環境に負荷の少ない暮らし方」を求める人びとが意識的に創るコミュニティのことです。健康で幸せなライフスタイルを望む人びとの間で着目され、今や世界各地15,000ヶ所に広がっていると言われています。

NPO法人北海道エコビレッジ推進プロジェクト

完全な自給自足ではない「地域自給」で繋がり合い、学び合う

–事業内容を教えて下さい。

坂本さん:私達の活動の柱は暮らしと学びです。エコビレッジで試行・実践しているサステナブルな暮らしの中で気づいたことを教材として、色々な人達に伝える学び合いを行っています。

エコビレッジには6haの敷地がありますが、その中で食べ物やエネルギーなどをできるだけ自給しようとしています。そしてこれまで企業や専門家、海外の労働者など第三者に委ねてきたものを生活者の手に取り戻し、そのあり方について見直すということをやっているんです。

<エコビレッジの施設紹介>

また、一般公開の講座やワークショップをはじめ、住み込みのスタッフやインターンの学生、会員さんやビジターの人達と一緒に、暮らしを通じてサステナビリティの試行・実践をしています。

<エコビレッジでの作業体験の様子>

–エコビレッジでは完全に自給自足の暮らしをされているのですか?

坂本さん:世界のエコビレッジの中には、完全自給自足を理想としているところもあります。しかし完全な自給自足にすると、閉じたコミュニティになってしまう恐れがあると考えています。そこで私達は、地元の農作物を買って地域の農家を支えたり、自分達で作った農作物やワインを販売したりする「地域自給」の形をとっています。

私達は食糧難に備えて食べ物を確保するといったような、シェルター的な自給自足を望んでいるわけではありません。自分たちの楽しみや学び、仲間を作るために自給自足をしています。

ですから、単純に商品を売るのではなく、例えばワインの作り方やトマトの育て方、鶏の飼い方を教えたり、一緒に学んだりといった体験や取り組みを提供してお金をいただいてます。

<研修プログラムの様子>

エコビレッジでおくる持続可能な暮らしの姿とは

–モノではなく、体験を売っているということですね。では、エコビレッジで実践している持続可能な暮らしについてもう少し詳しく教えて下さい。

坂本さん:まず、エコビレッジでの暮らしは、何かをゼロにしたり100%にしたりするような極端なものではありません。買うもの食べるものは意識していますが、自分たちで作った作物の他にスーパーで食べ物を買うこともします。

ただ、食材は地元のものに限って使うというような「コモンルール」を決めています。本来は自分の住む場所の近くで採れるもの、その季節に採れるものを食べるのが自然な姿ですよね。

私なんかはお菓子も好きですが、ポテトチップスは北海道産のものを探して買いますし、チョコレートは日本で作っていないので、フェアトレードのものを選んでいます。

こうした暮らしをしていると、色々な種類の作物は食べられず、季節によってはずっと大根ばかりなんて時もあります。美味しく食べるためには、保存や加工の技術、お料理の腕も重要になってきますね(笑)

<エコビレッジで作っている農作物>

–他の取り組みについてはいかがでしょうか?

坂本さん:電気は100%再生エネルギーの会社から買っていますが、事務所の暖房には灯油を使っていますね。ただ、他の建物では薪ストーブを利用したり、スタッフが生活しているハウスでは太陽光パネルで自給自足した電力を使っています。

<設置されている太陽光パネル>

また、オーガニック野菜など食べるものに気を使う人は多いと思いますが、その一方で、自分が出しているものについては、それほど気にしていないですよね。でも地球環境を汚染しているのは、工場や農業の現場だけでなく、生活の中で私達が排出しているものでもあります。

そこで「コンポストトイレ」と言って、水も電気も使わず個体と液体を分離して排泄物の分解を促すエコな仕組みのトイレを利用しています。分解された排泄物は匂いも全然しませんし、パッと見た感じ普通の土と変わりませんよね。

コンポストトイレ
分解された排泄物

さらには、キッチンや洗面所から出る生活排水も自分たちの手作り浄化槽で浄化しています。はじめはおが屑や籾殻を使っていましたが、この仕組みも毎年改良を重ねています。

そして「学び舎」には、太陽光や熱、風といった自然のエネルギーを機械など使わず建物に利用するパッシブデザインを採用しています。北海道で採れた木材を使い、断熱・気密性の高い建物にしました。冬の北海道は屋外の気温がマイナス10〜15度くらいまで下がるのですが、この建物の中なら小さい薪ストーブ一つで暖かく過ごせます。夏も快適で、外気温が30〜35度に上がったときでも「冷房が入ってるのですか?」と聞かれるくらい涼しいんです。

パッシブデザインを取り入れた学び舎

自分だけ100点のエコライフを送るより、70点の暮らしを多くの人に届けられたら

-エコカレッジにはどのような方が参加されますか?

坂本さん:もちろん「これをしたい!」という意志を持って参加される方もいますが、エコのことを全然考えてない人もいっぱいいます。考えてるけど何をしたらいいかわからないという人もいます。

そういう人たちに「これもできるかも、あれもできるかも」「1人じゃできないかもしれないけど一緒にやろう」と呼びかけるのが私達の活動です。

自分たちだけで100点のエコライフを送るのではなく、65点、70点の暮らしでもいいから色々な人達に伝えたいと思っています。

他にも、中学生や高校生の修学旅行や、もっと小さい子どもたちも呼んで、動物を育てたり魚を捌いたりして、自分たちが食べるものについてもっとよく知ろうという活動もやっています。

最近では、国際交流や多文化共生というところで「ピースワインプロジェクト」の取り組みを始めました。ワインぶどうの植え付け面積を今の倍くらいに広げるのですが、そのプロセスに100カ国の国籍の人たちの参加を促しています。6月にはアフガニスタンの難民の家族も参加してくれましたよ。

ピースワインプロジェクト 活動の様子
ピースワインプロジェクト 活動の様子

–エコビレッジでは本当に多岐にわたる活動をされているのですね。

坂本さん:はい。最初の頃は「色々なことをやっていてわかりにくい」とよく言われました。「あなた達は何をやっている団体なんですか?農業ですか?観光ですか?それとも環境ですか?」って。でも今は、SDGsの全てをやっていますとお伝えするようにしています。(笑)

こう言うとわかりやすいですよね。なぜならこれらは全て繋がっているので、食べ物だけを100%オーガニックにするとか、エネルギーだけを100%再生エネルギーにするというだけでは、地球のサステナビリティには結びつきません。

例えば私達の生活をそのまま変えずに、電力を全て再生エネルギーで賄おうと思ったら、日本中の森林が伐採されて、太陽光パネルや風力発電装置が設置されるかもしれません。でもそれってサステナブルではないですよね。食で言えば、値段が高いオーガニック食品ばかりでは、みんなの食卓に届かないかもしれない。

ですから、エネルギーや食に限らず他のどの事柄も、今までの前提、つまりいつでも好きなものを好きなだけ手に入れられる生活、常に成長する経済を見直すところから始めなくてはいけないと思っています。どの目標も大切ですし、誰も取り残さないというSDGsの理念を達成することはそう簡単ではありません。でも、この非常に複雑な問い、答えが出ないかもしれない問いをモヤモヤしながら考え続けるということが大事だと思っています。

–参加者の反応はいかがでしょうか?印象的な参加者のエピソードなどはありますか?

坂本さん:以前、動物のいる教育ファームを作りたいと言って企画を持ってきた女性がいました。一緒に企画書を書いて助成金を取り、馬を飼って森の中を歩かせて道を作ったり、羊を飼ってオーナーを募り、羊の肉を食べたりしました。彼女は結婚して埼玉に移住しましたが、今は生ゴミコンポストを作る講座を主催するなど、自分の住む地域で子育てしながらサステナブルな取り組みを続けていますね。

他には卒業して学校の先生になったスタッフが、自分の生徒をここに農業実習で連れてきています。羊飼いになったスタッフは、時期になるとこの地域の羊の毛刈りを手伝ってくれたりしますね。

みんな、初めて来たときは農家になろうなんて考えてもいなかったし、羊どころか犬も猫も飼ったことがなかったけれど、ここでの体験に刺激を受けたり、自分の将来について考えたりしたのだと思います。

活動のきっかけはヨーロッパのエコビレッジ訪問

–魅力的な取り組みであることが伝わってきました。気になるのが、エコビレッジを始めたきっかけです。教えていただけますか?

坂本さん:直接のきっかけとしては、2006年から2008年にかけてヨーロッパのエコビレッジを訪問して歩いたことです。小さいところでは10人くらい、もっと大きいところでは1,000〜2,000人規模のコミュニティもあって、まるで一つの自治体に近いものでした。そこでは、自分の暮らしに関係することは全てやるという自治が成り立っていたんです。

また、遡ると、20代にアジアを旅しているとき、車椅子の人がいると、全然知らない人でも躊躇せずに手助けする光景を目にする機会が多くありました。以前、自分自身が怪我をして車椅子を体験していたことから、障がいのある人たちの支援活動に関わっていたのですが、これには驚きましたね。

そういった国の様子やいきいきとしている障がい者の方の様子を見て「日本は色々便利な制度や施設があるけれど、ハードのバリアを家族や地域の助け合いで克服している」と感じたのも大きいですね。

ヨーロッパのエコビレッジでは、住民同士が各自でできることを提供し合い、助け合い、結び合いながら環境問題や観光、オーガニック農業など、地域課題の解決に繋がっていく。それを見て、北海道でもこの取り組みを実践してみたいと思いました。

ちょうどヨーロッパから日本に帰ってきた頃にリーマンショックがあって、会社を追われたり、家をなくした人たちが公園で年を越したりしているのをテレビで見ました。日本には困った時に助けてくれる家族や友達のいない人がこんなにいるんだ、とショックを受けましたね。

それと同時に、縁もゆかりもない見知らぬ人たちが助け合っている様子を見て驚きもしました。日本にも地縁血縁や会社や行政だけではなくて、こういったもっと広い大きな助け合いの仕組みが必要なんだなと感じました。それですぐに今の活動を始めたのです。

地域全体をエコアップして、エコビレッジ化していきたい

–今後の展望をお聞かせください。

坂本さん:地域全体がエコビレッジとなるような将来を期待していますね。団体を立ち上げたばかりの頃は、自分たちの敷地の中で会員さんを中心にエコビレッジの取り組みを行っていました。

しかし、立ち上げから10年が経って地域に色々な仲間が広がっていき、最初の頃は関係の薄かった行政などの地縁団体とも信頼関係ができました。学びの講座も、ここの敷地の中だけだったらせいぜい2〜30人ぐらいのキャパシティしかなかったのですが、今は200人規模の修学旅行を地域全体で受けられるようになっています。

–今この6ヘクタールの敷地でやってることだけではなく、この活動の輪を広げてもっと沢山の地域の人が関わるような形にしていきたいということですね。

坂本さん:おっしゃる通りです。地域の中には、それほど環境意識が高いわけではない人もいると思います。いわゆる意識の高い人達は、むしろ都会から来ることが多かったりしますね。でも「外の人だけでやってる意識の高い事業」ではなく、地域の普通の人たちの生活も変えていくプロジェクトであることが大切だと思います。「地域を変えていく」というと偉そうですが、もちろん教わることや助けてもらうこともありますので、お互いに学び合いつつ、地域全体がエコアップしていけたらいいですね。

エコビレッジ全景

関連リンク

NPO法人 北海道エコビレッジ推進プロジェクト

http://ecovillage.greenwebs.net/