中村俊宏
1961年3月21日 愛知県新城市生まれ。1979年4月 愛知大学に入学、演劇サークルに所属、役者と大道具を担当する。その活動をきっかけに大学を中退し、上京、劇団に所属し、役者大道具として活躍する。当時のアルバイト先で大道具として就職、劇団を退団、工場長として現場に従事する傍ら、取締役として経営に携わる。その後、現エクス・アドメディアの前身である(有)エクス・アドメディアの立ち上げる、大道具と取締役を兼務する。2007年12月 (株)エクス・アドメディアに改組し、代表に就任、現在に至る。
introduction
多くの人と感動や興奮を共有するイベント。ショッピングモールや展示場で開催される新商品などの展示会。驚きや発見を与える空間の装飾の「その後」に思いを馳せる人はどれくらいいるでしょうか。製品を使い回すことと感動を与えることは両立できるのです。株式会社エクス・アドメディアの取り組みから、イベント業界ができるSDGsとは何かが見えてきました。
捨てることに心を痛めている中、SDGsに出会う
–中村社長、室井さん、今日はよろしくお願いします。早速ですが、事業概要について教えてください。
室井さん:
代表の中村が学生の時に舞台芸術に興味を持ったことをきっかけに、舞台芸術の装飾会社に入って、そこで立ち上げた会社になります。事業は、舞台芸術や大道具の仕事から始まりました。現在はさいたま市を拠点に、イベントの空間デザインの企画から施工まで、また百貨店などのディスプレイを担当しています。
中村さん:
私たちだけでなく、業界の多くの人たちが廃棄物を多く出してしまうことにコンプレックスを抱えていました。時々産業廃棄物が増えてニュースで取り上げられる際、夢の島の風景とかが映って、ショベルカーが持ち上げているゴミを見ると、明らかに同業者が出したゴミだということに気付くんですよね。
しかし、僕らの仕事は、初めて作ったものを初めて人に見せる仕事です。つまり「驚き」を与えることですから、一度使った物を使い回すことが難しかったのです。
働き方についてもすごくブラックで、労働環境の改善や廃棄の問題について悩んでいた時にSDGsという言葉に出会いました。
失業や貧困、食糧の問題が含まれていることに斬新さも覚えました。ちょうどベトナムへ海外進出を始めた頃だったので、SDGsという枠組みの中で、今までやってきた努力を加速させていこうと思いました。
ベトナムに進出したことがロスフラワーの問題提起につながった
–なぜベトナムで事業を展開されたのですか?
中村さん:
まず、人手不足を補うことが第一の目的でした。加えて、我々の業界は災害に非常に弱いので、なるべく日本から遠い所に新たな拠点を作ろうと考えました。
コンサルティングをお願いしていた方がベトナムにご縁があり、お誘いを受けて一緒に現地を見に行ったら、すごく心の琴線に触れたんですよね。
ホーチミンは、港街で水路がいっぱい走っていて大阪に似ている印象を持ちました。立地も非常によく、ASEANの都市にドアトゥドアで2時間くらいで行けるんですよ。碁盤で言えば天元みたいな位置です。
日本とTPPを締結していますから、関税が相当安くなるだろうという予測や、バンコクやクアラルンプールと比べるとまだまだ経済成長の途中だったので、「拠点にするならもうホーチミンしかない」と思いましたね。それに何より、非常に人柄がいい国民性というのも大きな理由ですね。食べ物も日本人の味覚に非常に似ているので、長期の出張も可能だと思いました。
–ベトナムに進出されたこととSDGsがどのようにつながったのでしょうか。
中村さん:
毎年代々木公園で行われている「ベトナムフェスティバル」に参加したことに端を発します。
我々は、依頼があった仕事を引き受けるというプル型の会社だったのですが、このイベントに関しては、ぜひやらせてくださいと初めてプッシュ型の営業をかけました。
ベトナムの政治や公官庁、エンタメ、物流など様々な分野に接点を持つことができますし、我々の会社を認知してもらうことにも繋がります。しかし、すぐに参加できたわけではなく、見積もりを書いては負け…というようなことを1、2年繰り返して、少しずつ持ち場をもらえるようになりました。
2022年のベトナムフェスティバルでは、フラワーデザイナーの竹内美香さんとの共同制作である「花船」を展示しました。この作品は、ホーチミンを流れるサイゴン川の花の船上市場をモチーフにして、ベトナムの原風景を再現しました。
竹内さんとの出会いは、アパレルサーキュラーエコノミー協会の理事長の高橋さんからご紹介をいただいたのがきっかけです。
アパレル業界も私たちと同じように製品の廃棄の問題を抱えているだけでなく、児童労働の問題なども指摘されています。
私たちは元々アパレル系の店舗や、東京ガールズコレクションなどの大きなイベントに携わっていたこともあり、何かお手伝いできることがあればと思い、この協会に入りました。
ご紹介いただいた日のとあるイベントで、竹内さんは会場の装飾をされていました。イベントが終わると、装飾で使われたお花を参加者に渡して、持ち帰ってもらっていたんです。そこで初めて「ロスフラワー(まだ綺麗に咲いているのに廃棄される花)」という問題があることを知って、僕も室井も驚きました。
–なぜロスフラワーが起きるのでしょうか。
中村さん:
コロナ禍でイベント業界もかなり大変だったんですけど、ロスフラワーの原因の多くが、イベントのキャンセルや縮小によることだったんですね。もう驚愕しました。
当社で日本武道館での告別式のような行事を担当したことがあるんですけど、思い返せば、すごい量の花を飾るんですよね。イベントが終わった後、その花がどうなるかなんて考えたこともなかったわけですよ。
他にも、茎が長すぎたり短すぎたりすると同じく廃棄されてしまう。やっぱりお花ってかわいいので何とかしたいと思いました。誰にも見られずにこれがどんどん産業廃棄物になってると思って実際に見ると泣けてきますよね。
「高橋さん、よくぞ竹内さんと出会わせてくれた」と思いました。何とかロスフラワーのことをベトナムフェスティバルの舞台セットに取り入れようと竹内さんと取り組むことになりました。
–どのようにロスフラワーの問題を「花船」に取り入れたのでしょうか。
中村さん:
本来、SDGsをアピールすることと、SDGsに取り組むことは分けて考えなくてはならないと思っていますが、まずはこのロスフラワーという問題があるということを認知してもらおうという観点で装飾に取り組みました。
「花船」はステージの上部に、船を逆さまに吊るすことにより、お花の装飾が観客席から見えるように配置されています。ですが、逆さにすると生の花だと日持ちしないのです。そこで、装飾をしてから本番のフィナーレを迎えるところでちょうどドライフラワーになるように設置しました。
ステージだけでなく、床に置いて展示した「花船」には生花を使いました。2,000本を越えるドライフラワーと生花。ロスフラワーの問題を知ってもらうため、全て竹内さんが熱心に、花農家の方や花の商店街を回ってたくさんのお花を調達してくれたから実現できたことです。
–参加者の反応はいかがでしたか。
中村さん:
フェスの実行委員会の方々には、この問題を深いところまで理解してもらえなかったかもしれません。こちらが説明しても中々理解が追いつかないところがありました。
その一方で、ボランティアスタッフにドライフラワーを配ると目をキラキラさせていました。「皆さん、ロスフラワーって知っていますか?」って聞いたら、結構みんな知っていて驚きましたね。配った時点で、彼らはこの意味を理解していたんですよ。男女関係なく喜んでくれて、「日本の若い子たち本当にいいなぁ」って思いましたね。あの表情を見せたいぐらいです。
実は、竹内さんと二人でロスフラワーの問題について、国に陳情に行こうと思っています。まずは、ロスフラワーに関する理解と支援を国としてお願いします。もし助成金を頂けたら、専門の機械を購入して、ドライフラワーをどんどん作る事業を共同出資でやろうと話しています。問題が起きた時に、何とかドライフラワーにして花の寿命を少しでも伸ばし、お花が溢れる街にしていきたいですね。
ゼロ・エミッションは廃材屋めぐりから始まった
–今まで、イベントで使われた資材もそのまま廃棄されていたのでしょうか。
中村さん:
以前から、できるだけゴミを出さないように端材の仕分けをすることには取り組んでいました。例えば、工場の中に、大きさや長さごとに分けた棚を作って、木端を分けていましたね。産業廃棄物をサーマルとして活用してくれる会社にも収集をお願いしていたのですが、マテリアル化するという取り組みは本当に最近です。
我々の仕事って、裾野が広い仕事なので、実に色んな材料を使うんですよ。これを仕分けてエミッションしないようにすることは本当に大変なんです。このコロナ禍の間、私と室井は「廃材マニア」って言われるくらい、あちこちの廃材屋さんを見て回りました。社内でも、そんなに回って意味があるのかって言われましたけどね。
廃材屋さんを見て回ると、仕分ける人の涙ぐましい努力というか技能がすごかったですよ。プラスチックって見た目が同じでも、含有されている薬品や成分の違いで分けなければなりません。見ただけでは分からないんですよ。ポケットにライターを入れている人が多くて、ちょっと燃やしてみて匂いをかいだり、炎の色の変化を見たりして仕分けていました。
そのおかげで、廃材の種類によってマテリアルにできる会社の見当が付いて、私たちも目利きができるようになりました。この経験は決して無駄ではなかったんですよね。手間はかかりますが、必ずゼロ・エミッションできるんだっていうことに気付きました。
–例えば、どのようにゼロ・エミッションされていくのでしょうか。
室井さん:
エコプロという、環境や社会課題の解決に向けた製品・サービスの展示イベントが東京ビッグサイトであります。弊社が出展した際のブースは再利用前提で作られたブースとなっており、結論から言うとゴミが全く出ません。
使用した板材は、建築でも使われるほど強度が高いCLTという種類の板材です。加えて、日本の間伐材を用いて作られています。杉などの人工林は、間引かないと森が荒れることにつながるのですが、林業の人手不足で適切に間伐が行えないことや、間伐された木材の流通が問題になっています。
しかし、いくらCLTという強度の高い板でも、いつかは耐久性が落ちてしまい役目を終えることになります。その時に、化学薬品が使われていない木材だったら、そのまま粉砕して圧縮することでパーティクルボードなどの別の板材にすることができるんですね。
それが例えば、ホームセンターなどでDIYで使う板材やパーティクル材として販売されたり、皆さんのご家庭にある棚とか犬小屋などに使われたりします。木という素材一つとっても、そのような流通フローができています。
アクリルも徐々にマテリアルリサイクル化を拡大していきたいです。製造工程や我々が使った後でもアクリルの端材が出るので、それを業者の方に回収していただいて、また再生されたアクリル材という形で我々の元に届くというようなイメージですね。
ゼロ・エミッションなくして日本のSDGsなし
–今後の展望についていかがでしょうか。
中村さん:
我々が廃材処理場の現場を回って大きく分かったことがあります。ヨーロッパでは「サーマルリサイクルはリサイクルではない」って言われています。でも日本の場合は、以前は中国が日本の産業廃棄物を輸入廃棄物として受け入れてましたが、今は廃棄物輸入が規制されたことで、とてもじゃないけどサーマルをしていかないと処理できないんです。
当社も、できるだけマテリアルをたくさん出していこうと打ち出していますけど、サーマルを決して無視しているわけではありません。あくまでエミッションを無くすというのが私たちの考え方です。サーマルを無くしたら日本のSDGsは崩壊します。完全にそういう結論に至って、ゼロ・エミッションなら何とかできると私たちは思っています。
室井さん:
これまでSDGsを通して学んできたことや実践経験を、ロスフラワーといった業界以外の問題に活かして取り組んでいきたいと思います。持続可能な社会を作るためには、1社だけではできないので、他の業種の方と手を取り合って、色々なことにチャレンジしていきたいです。
今後の目標としては、イベントやディスプレイに使える自社オリジナルの素材や技術を開発して、会社の新しいバリューにしていけたらと思います。
–ありがとうございました。
株式会社エクス・アドメディア:https://www.ex-ad.co.jp/