脱サラ農業がなぜ今注目されているのか?経験者に聞くメリット・デメリット

近年、脱サラ農業を始める若い世代が増えています。

脱サラ農業を検索して来られた皆さまの中には、

「脱サラ農業に興味がある」

「新しいことに挑戦したい」

という方もいらっしゃると思います。

とはいえ、働き方を変えることはなかなか勇気がいるもの。あらかじめ情報を得ておくことで脱サラ農業への一歩を踏み出しやすくなるかもしれません。

そこで今回は、実際に脱サラ農業を経験した方に、メリット・デメリットをお伺いし、始める際に必要な準備も教えていただきました。

ぜひ人生の選択肢のひとつとして参考にしてみてくださいね。

この記事の監修者
阪口 竜也 フロムファーイースト株式会社 代表取締役 / 一般社団法人beyond SDGs japan代表理事
ナチュラルコスメブランド「みんなでみらいを」を運営。2009年 Entrepreneur of the year 2009のセミファイナリスト受賞。2014年よりカンボジアで持続型の植林「森の叡智プロジェクト」を開始。2015年パリ開催のCOP21で日本政府が森の叡智プロジェクトを発表。2017年には、日本ではじめて開催された『第一回SDGsビジネスアワード』で大賞を受賞した。著書に、「世界は自分一人から変えられる」(2017年 大和書房)

目次

脱サラして農業を始める人が増えている

脱サラ農業とは、会社員生活をやめて農業を始めることです。

農林水産省(※1)によると、令和元年度の新規就農者は5万5,870人、前年に比べ0.1%増加したことが分かりました。

30〜40代が中心

新規就農者とは、もともと農家出身ではなく新規で農業を始めた人のことで、その中心となっている世代が30〜40代です。

なぜ、脱サラして農業を始める人が増えているのでしょうか。

脱サラ農業がなぜ今注目されているのか

脱サラ農業が注目されている理由として

  • 就農環境や条件が充実してきた
  • 就農相談窓口が全国的に整備され始めた

などが挙げられます。

それぞれ詳しく見ていきましょう。

就農支援機関の充実

1つ目は、就農支援機関が全国的に整備されてきたことです。

日本の農業は、高齢化や後継者不足などで離農者が後を絶たず、就農者の減少に歯止めがかからないという課題を抱えています。

こうした現状から、行政や都道府県では、新規就農者への支援体制が手厚くなっています。

具体的にどのような支援があるのでしょうか。

全国新規就農相談センター

新規就農を目指す人にとって、最も利用しやすい機関は「全国新規就農相談センター」です。

相談センターでは、農業や農村全般の情報を得ることができ、融資や補助制度、研修先などのアドバイスも受けられます。

  • 自分のやりたい農業のイメージを形にしたい
  • 希望する就農地域が決まっている

など、ある程度就農する決意が固まっていれば、都道府県ごとの相談センターを訪れるとスムーズに進められるでしょう。

都道府県ごとの相談センターを調べてみたい方は下記を参考にしてみてください。

新・農業人フェア

続いて紹介するのが「新・農業人フェア」です。

こちらは、全国の農業会議所と社団法人日本農業法人協会の共催で、毎年開催されるもので、新規就農のための支援が受けられます。

具体的な支援内容は、新規で農業を始めたい人に対して、就農者の受け入れを行なっている地方自治体を紹介してもらえる、というものです。

例えば「◯◯県で有機農業をやりたい」と相談すれば、該当する県のブースで研修先や先輩農家さんにつないでもらえます。

このように、就農相談がしやすく初期のハードルが下がっているのは、若い世代にとっても安心できる点でしょう。

もう1つ注目されている理由として、補助金制度の充実があります。

給付金制度の存在

農業界では、新規就農者に対して「農業次世代人材投資資金(旧:青年就農給付金)」という制度を設けています。

農業次世代人材投資資金とは?

農業次世代人材投資資金は、農林水産省(※)が若者の新規就農を推進する目的で2012年より開始されたものです。

就農の「準備期間」と「就農後の支援」として、それぞれ給付金が得ることができます。

<準備期間>

都道府県が認める研修機関で、研修を受ける就農希望者に最長2年間、年間最大150万円の支給

<就農後支援>

農業経営を始めてから経営が安定するまで最長5年間、開始1〜3年目は年間150万円、4〜5年目は年間120万円の支給

つまり、2つ合わせて最長7年間にわたり給付金が交付されます。

このように、相談窓口の普及や給付金制度が整っていることで、若い世代が農業に参入しやすくなっています。

また、脱サラして農業を始める人が増えている背景には、これらの制度の他にも、人々の働くことへの意識の変化が関係しています。

働きがいを求める人の増加

働きがいを求める人の増加も、脱サラ農業が注目される理由です。

まず「働きがい」とはどのような状態なのか、定義を確認してみましょう。

働きがいをの意味を調べてみると、

“働くことによって得られる結果や喜び。働くだけの価値”(※3) と表されます。

つまり、​​個人が自らの意思で前向きに働いていることが「働きがいを感じている状態」であり、それによって仕事へのモチベーションが高まり、積極的に行動できるようになります。

脱サラと働きがいの関係

脱サラと働きがいは、どう関係するのでしょうか。

脱サラ経営に関する調査(※4)によると、脱サラ後の働き方について、

  • 仕事の幅が広がり、裁量権が増えた
  • 成果や評価を直接得る機会が増えた
  • 気の合う人と仕事ができるようになった

など、脱サラを経験した多くの方が仕事のやりがいを感じる機会が増え、さらに交友関係の広がりがモチベーションにつながっていることがわかりました。

新規で農業を始める動きが見られるのは、働きがいを求めている人が増加していることが関係していると考えられています。

ここまで、脱サラ農業が注目されている理由を見てきましたが、いざ脱サラ農業を始めよう!と決めた時、あらかじめ情報を得ておくと、イメージしやすいかもしれません。

そこで次の章からは、実際に脱サラ農業を経験した方にメリットとデメリットを教えていただきましょう。

【経験者に聞く】脱サラ農業のメリット

取材協力して頂いたのは、岐阜県美濃市で農業を営む「ささべじ」代表の笹本和樹さん。アパレル、ブライダル業界での会社員生活を経て、2012年に農家へ転身しました。

ささべじ代表 笹本和樹さん <写真:本人提供>

「ささべじ」とは?

ささべじは「美味いは正義」をテーマに掲げ、自然栽培で育てた野菜とトマトをメインに生産。全国に野菜セットの販売、週に2回(水・土)、直売所で販売を行っています。

脱サラ農業を始めてから丸10年、培ってきた経験の中で感じたメリットとデメリットをお伺いします。

MAYU
MAYU

就農して感じたメリットを教えていただけますか。

メリット1:やった分だけ経験値を生む

笹本
笹本

スタートした年齢が早いほど、経験値が増えることです。

僕は、就農したのが26歳と若かったため、残された農業人生は長くなり経験値となって蓄積されています。

経験が増えることで、培ってきた成功例や失敗例をこれから就農する方に伝えられますし、何より自分の財産になります。

メリット2:自分のやり方で進められる。失敗から学べるものが多い

笹本
笹本

農業は自分のやり方で進められ、同時に多くのことを失敗から学べる良さがあります。

農業のやり方には主に2つのパターンがあります。

笹本
笹本

1つは経験者の講習を受けながら学ぶ、もう1つは自分で学ぶ方法です。

前者は経験者の農法を学べるという利点はありますが、教えてもらった通りのやり方にとらわれてしまう可能性があります。

例えば教科書をお手本にした場合、害虫被害が起きた時は農薬を使うという答えが用意されています。僕は教科書通りが好きではなかったので、研修を受けずに自分で学ぶことを選択しました。

失敗しない道を選ぶのはリスクを取ってしまう可能性も。

笹本
笹本

自分のやり方を通すと、当然失敗する回数も増えます。でも僕にとってはそれが最大のメリットでした。自分でやりながら何度も失敗を経験することで、未然に防げるようになるし、失敗パターンも見えてきます。失敗をしないのはある意味危険なんじゃないかと思います。

MAYU
MAYU

例えばどのようなことを試されたのでしょう?

笹本
笹本

教科書に書かれていることにあえて逆らってみました。

例えば、水やりの頻度。教科書を見ると「この段階であげてください」と書かれていますが、あえてそれをしなかったらどうなるのかって興味が湧いて、水なしでどこまで耐えられるか試してみました。

メリット3:あらゆる人間関係の中での自己成長

トマトハウスの前にて <写真:本人提供>
笹本
笹本

農業は人間関係が付き物で、そこで得られるメリットが多いですね。

「一人が好きだから始めました」という方も結構いますが、決して一人の作業ばかりではありません。取引先との打ち合わせや、地主と話し合ったりするなど、たくさんの人と関わります。

笹本
笹本

会社員の頃は、会社の枠の中で「自分とお客様」という関係でしかありませんでした。でも農家は「人と人」の関係がより濃く感じられます。お客さんから「美味しかったよ」と言われると、励みになりますね。農業始めて人の温かさをより感じました。

メリット4:「農業は、好きなようにできる」舵取りの達人になれる

笹本
笹本

農家になることで、好きなように進められる、どんどんチャレンジができることもメリットですね。農法も、資金面もすべて自分次第です。責任という点では大変ですが、やりがいばかりです。

就農して感じた生きがい

笹本
笹本

僕にとって農業は生きがいです。24時間365日仕事のことを考えても苦にならないくらい好きです。自分が力を注いだ分、作物は答えてくれる、そしてその作物を食べてくれた人も喜んでくれる。これが楽しくて仕方がないんですよね。

MAYU
MAYU

ありがとうございます。続いてデメリットを教えてください。

【経験者に聞く】脱サラ農業のデメリット

デメリット1:地主、周囲の農家と価値観の違い

笹本
笹本

地主や周囲の農家との関係が本当に大変でした。

僕の場合、土地を借りて就農したのですが、実践する農法が地主の求めているものと違ったため、就農5年目で返却してほしいと言われました。

MAYU
MAYU

どのような考えの違いがあったのでしょうか?

笹本
笹本

僕の場合は自然栽培が良いと考え、草を生やして育てていました。

これは「草を生やしたらどうなるんだろう」という疑問から、除草することをやめてみたんです。すると作物がすくすく成長していった。そこで自然栽培の考え方に出会いました。

笹本
笹本

でも、地主は草の生い茂った畑に対してあまり良い印象を持たなかったようで。そんな状態では僕も地主も気持ちよく過ごせないので、結局その土地は返しました。

好きなようにできるというメリットの反面、地主との考え方の違いも意識しなくてはなりませんね。

デメリット2:補助金制度の認知不足による苦労

笹本
笹本

僕が就農した頃、新規就農者への補助金制度はあまり認知されていませんでした。トラクターや耕運機、温室ハウスなど、農業には初期投資が発生します。

でも当時は「何か補助金ありますか」と、市役所に聞いても明確な返答が得られず。

自ら情報を取りに行かないと教えてもらえませんでした。実際は7年間得られた補助金が結果的に2年半しか受けられなかったのです。

笹本
笹本

今はネットで検索すればすぐに補助金に関する情報が出てきますし、市役所に行けばアドバイスを頂けます。だから、これから就農する方はぜひ補助金制度を活用していってほしいと思います。

デメリット3:売り先の確保

MAYU
MAYU

経営の面で苦労したことは何かありますか?

笹本
笹本

売り先の確保ですね。売るためには地道に農業を続けること、そして周りに認知してもらう必要があります。そのために最初の5年間くらいは各地のマルシェに出品しました。

笹本
笹本

来ていただくお客様には、「こういう野菜作っています」「SNSやっています」と伝えるようにしました。試行錯誤してみても1日の売り上げが800円だった日もあります。でも、マルシェに出ることは宣伝広告費だと思ってとにかく顔を出し続けました。

マルシェで販売する際、意識した点

MAYU
MAYU

マルシェで売り上げを伸ばすにはどういった工夫をされていましたか?

笹本
笹本

魅せ方にこだわりました。そうしてリピーターになってくださる方が増え、口コミによってまたお客さんが来てくれるようになりました。

販売中の笹本さん <写真:本人提供>
笹本
笹本

地道に続けることは大変かもしれませんが、そうした中でお客さんとの信頼関係が生まれます。

デメリット4:超過需要と超過供給の繰り返し

笹本
笹本

売り先を確保してからも需要と供給のアンバランスに苦労しました。

お客さんからの需要がたくさんあっても天候の影響で作物が育たない、その逆で今度は大量に生産したら売り先がなく余ってしまう場合があります。

笹本
笹本

そのような事態が起きないようにするには、自分で売り先を探すよりもJAさんにお願いして買い取ってもらうという方法もあります。

ただ、自分で売り先を見つけて価格を決めたいという方は、需要と供給のバランスの苦労が付き物なのではと感じます。

笹本さんのお話の中でも、新規就農するなら今がチャンスという言葉があるように、実際に日本では新規就農者向けのバックアップ制度が増えてきています。

しかし、今後脱サラをして新規就農するには何から始めたらいいのか、どこに相談に行けばいいのか、と様々な不安があるかと思います。そこで、新規就農するための方法についても伺いました。

脱サラして農業を始めるには

MAYU
MAYU

これから新規就農する方は、どのようなステップを踏むといいのでしょうか。その一方でこれはやめといたほうがいいよというものがあれば教えていただけますか。

ステップ①メインとなる作物を決めてから、市役所に相談に行く

ささべじのトマト <写真:本人提供>
笹本
笹本

まず、どの作物を育てるかを決めてから市役所の産業課や農業振興課に相談に行くことをおすすめします。

なぜなら、決めた野菜によって受けられるアドバイスが変わるからです。

笹本
笹本

既に農業を実践している方とつながれば、収益モデルを教えてもらえ、スムーズに始められます。

全国にそういった先駆者がいるというのが農業界の良いところですね。

ステップ②育てたい野菜の成長するサイクルを調べてから実践者を訪れよう

MAYU
MAYU

役所で実践者の方の紹介頂いた後、どのようなタイミングで伺うのがいいのでしょう?

笹本
笹本

種類によって異なりますが、作物の育つサイクルを調べてから、忙しくないタイミングで訪れると良いでしょう。

うちの場合ですと、トマトの繁忙期は冬からなのでそれ以外の時期だと訪れてきた方と長く交流できます。

ステップ③補助金制度を活用しよう!

MAYU
MAYU

就農する上で不安になる1つが資金面だと思います。補助金制度を受けるにはどうしたらいいのでしょう。

笹本
笹本

市の産業課や地域振興課などを訪れて、就農したい旨を伝えれば県につないでもらえます。就農準備の補助金はさまざまで、遠方で就農する場合は、移住のための補助金制度も紹介してくれます。

MAYU
MAYU

では最後に、新規就農をするにあたりこれだけはやめておいた方がいいよ!ということがあれば教えていただけますか。

笹本
笹本

僕の失敗例を参考にしていただけたらと思います。まず、脱サラした勢いで農業を始めないことです。僕は脱サラして「明日から農業始めます!」と勢いで転身したパターンなので、後からがすごく大変でした。

何となく農業を始めたいから相談しにいこうという前に、まずメインとなる作物を決めて、そしてその裏作(主とする作物を収穫した後、次の作付けまでの間、他の作物を栽培すること)として育てられるものを決めることをおすすめします。

笹本
笹本

なぜなら、農家はそれが生業なので、メイン作物が落ち着いた時期の収入がなくなってしまうからです。できれば季節ごとに野菜を収穫できるよう計画を立てておくと、収入のない時期を避けることができます。

MAYU
MAYU

ありがとうございました。

ここまで脱サラ農業について詳しく見てきました。最後に、脱サラ農業とSDGsの関係について確認しましょう。

【補足】SDGsとの関係

脱サラ農業という選択肢は、近年認知度が高まっているSDGsとも深く関わっていますす。

SDGsとは?

まずSDGsとは何か、簡単に説明します。

SDGsとは、2015年9月に国連で採択された持続可能な開発目標で、2030年までに達成すべきゴールを17の項目にまとめたものです。

脱サラ農業は目標2「飢餓をゼロに」、目標8「働きがいも経済成長も」と関係しています。

目標2「飢餓をゼロに」

目標2では、飢えに苦しむ人々を保護することに加えて、持続可能な農業形態を確立することを掲げています。

現在、49歳以下の新規就農者が増加傾向にあるといっても、まだまだ日本の農業人口は全体的に見ると減少傾向にあります。

このままでは将来的に作物の収穫量も激減し、さらに海外からの輸入に頼ることも考えられます。

そこで、脱サラして農業を始める若い世代が増えることは、将来の食を支えることにもつながるのです。

続いてもう1つの目標を見ていきましょう。

目標8「働きがいも経済成長も」

目標8は「みんなの生活を良くする安定した経済成長を進め、だれもが人間らしい仕事ができる社会を作ろう」という目標です。

目標にある経済成長とは、

  1. 生産活動が活発となる
  2. 雇用が増える
  3. 収入が増え消費が増える
  4. 生産活動がさらに活発になる

という社会の循環を意味しています。

脱サラ農業を選択した笹本さんは、働きがいだけではなく「自分のペースで仕事ができるため家族との時間が増えた」「仕事のモチベーションが維持できるようになった」と話していました。

経済成長には、1人1人がやりがいのある仕事を選択できる必要があります。生活の中心となる仕事にやりがいを得られることで、経済成長にもつながっていくのです。

まとめ

今回は、脱サラ農業が注目されている理由に、

  • 新規就農者への支援制度が増えていること
  • 給付金が得られること
  • 働きがいを求める人の増加

がありました。

人生には様々な選択肢があります。

その中でも脱サラ農業は、働きがい、生きがいにつながる一つの道になるのではないでしょうか。

実際に脱サラ農業を経験した方のメリット・デメリットを知ることで、今後、何か新しいことへチャレンジするきっかけになれば幸いです。

<参考文献>
農林水産省 令和元年新規就農者調査結果
※2 農林水産省 農業次世代人材投資資金
※3コトバンク
※4株式会社アントレ