平野 昌智
三重県四日市市生まれ。オレゴン州オレゴン大学卒業後、大手英会話スクールにて中部、関東エリアのブロックマネージャー業務、上海エリアマネージャーなどを担当。その後、日本最大級の専門学校を運営する学校法人にて医療系専門学校の起ち上げに携わる。更に、大手予備校・個別指導塾を運営する上場企業にて乳幼児教育、英語教育(英検対策や留学対策講座等)、事業開発・起ち上げ(英会話教室、英語学童等)など様々な業務に携わる。その後、2021年11月に現在在籍中のソシオークグループ・株式会社明日葉に入社。教育業界での様々な経験を活かし、2022年4月には商品企画部 部長として主に明日葉が運営する学童・児童館でのイベント開発や商品開発に携わり、2022年9月には新たにインキュベーション事業部を起ち上げ、既存の学童・児童館へのソリューションだけでなく、新たな新規事業開発や更なる商品開発によりソシオークグループの目標である「日本で最もソーシャルサービスを支える企業グループ」を目指している。
introduction
自治体からの委託を受け、全国に400以上の学童・児童館を運営する株式会社明日葉。企業が運営を行うことで、子どもたちにとってより安全な居場所を確保し、共働き世帯の保護者が安心して働けるように工夫しています。また、社員の8割が女性であり、管理職の割合は男女それぞれ半分ほど。本来あるべき、男女の垣根が取り払われた「働く環境」を目指して積極的に取り組んでいます。SDGsという視点から、明日葉という企業の強みに迫ります。
街のお弁当屋さんから、学童・児童館を全国に展開する企業へ
–早速ですが、御社の事業内容について教えてください。
平野さん:
株式会社明日葉の基幹事業は、学童・児童館の運営です。全国の自治体からお問合せをいただき、2022年時点で400以上の施設を運営させていただいています。
実は、弊社はお弁当屋さんにルーツを持つ会社なんですよ。
我々が所属するソシオークグループは、来年創業60周年を迎えますが、創業時の事業内容はお弁当屋さんでした。愛情いっぱいの美味しいお弁当は好評で、そこから事業を拡大し、後に学校給食の調理業務を自治体から受託するようになりました。そのため自治体とのご縁が深く、地域・社会に貢献するような事業が増えていったのです。
「学童って何ですか」という質問をよくいただくのですが、学童は、保護者が共働きなどで昼間家庭にいない小学生の児童を、放課後にお預かりする施設事業のことです。
公立の小学校の中に併設されていることが多く、空き教室や専用の施設を利用しています。特に、小学校1〜2年生くらいまでは、家で一人でお留守番をするのは難しいこともありますし、心配なさる親御さんも多いですからね。
–明日葉では、SDGsについてどのように取り組もうと考えていますか。
平野さん:
弊社では、SDGsについての取り組みテーマを「社会課題をビジネスで解決する」と定めています。これは、SDGsが国連で採択された2015年よりも前の2013年に始まった、CSRから一歩踏み込んで社会課題を解決していこうという動きからスタートしています。
弊社はこれを「CSV経営」と呼んでいます。「社会課題」という市場を「CSV経営」という手法で解決し、SDGsのゴールにある「実現したい未来」を目指す。これが弊社の社会的価値であると考えています。
SDGsという観点ではほかにも、社員のライフプランに合わせた多様な働き方の推奨や、学童を利用する児童たちに向けたSDGsの体験学習など、さまざまな取り組みを実施しています。
–御社が推進する「CSV経営」や、全国で活躍する社員の皆さんの働きやすさという観点から、SDGsに取り組もうと思われたのですね。
平野さん:
そうですね。例えば社員の働きやすさの面で言えば、弊社は社員の80%が女性です。「男性」「女性」というくくりを超えた活躍ができる世界になってきているとは思いますが、女性が多いと、必然的に子育て支援の必要性を強く感じます。
また、学童・児童館の需要はここ数年右肩上がりです。男女関わらず仕事をし、育児を行うことが増えてきている時代変化が背景にあるといえますね。
多様化する要望や、児童の様々なバックグラウンドに対応する
–学童や児童館の運営に際して、これまで課題に感じていたことはありますか。
平野さん:
まず挙げられるのは、預かり時間の問題ですね。
自治体が運営する学童や児童館の運営時間は多くが17時までで終了してしまいます。
しかし、児童を預けている方の中には18時や19時までお仕事をされている方もいらっしゃいますよね。そこで、弊社のような民間企業の出番です。会社の組織として、様々な人員配置を行い体制を整えることで、施設によっても異なりますが、19時~21時頃までのお預かりが可能になります。
また、利用児童の個人情報の管理や、提供するおやつのアレルギー管理など、きめ細かい対応も可能になります。
近年お預かりしている児童の中には、多様なバックグラウンドを持った子どもたちが増えてきています。例えば、外国籍を持つ児童や、障がいのある児童ですね。
–預かりに対する要望や、子どもたちの多様性も変化していく中で、柔軟な対応が必要になってくるのですね。
平野さん:
そうですね。国籍の違いや、障がいのある・ないに関わらず、柔軟に対応するためには様々な方との連携が必要だと感じています。運営の際には、利用児童のご家族、自治体としっかりコミュニケーションを取りながら、一施設として幅広い方々が利用できるように意識しています。
預かり時間の解決や、コンプライアンスの順守など、企業として責任を持って対応していくことが、結果的に社会貢献やSDGsの目標達成につながるのだと信じています。実際、日々児童や地元の方々とコミュニケーションをとっていく中で、こうした企業の役割の重要性を実感しています。
学童に通う子どもたちとSDGsワークショップを開催
–学童や児童館では、具体的にどのような取り組みを行っていますか。
平野さん:
我々の運営する学童や児童館では、児童たちにSDGsを身近に感じてもらえるような取り組みを全国各地で行っております。
学童を利用する児童の半分以上は、小学校低学年のため、SDGsについて普通に説明しても、理解してもらうのは難しいです。そのため、少しでも身近に感じてもらえるように、小さな子どもでも分かるようなポスターを掲示したり、SDGsのカードゲームを使ったりして、日頃からSDGsに触れられるように工夫しています。
SDGsという言葉の認知だけではなく、体験を通して伝わるように、地元の企業と協力したイベントも実施しています。
例えば、南足柄市でリサイクル事業を行う高部金属様と開催したワークショップでは、ゴミの分別について児童たちと一緒に学びました。複数の学童クラブで数日間に分けて実施し、小学1年生から5年生まで、総勢30名の児童が参加してくれました。
高部金属様の工場では、スチール缶とアルミ缶を分別する現場を見学しました。先端に磁石のついたショベルカーのような重機をたくさんの缶に近付けると、スチール缶だけが磁石にくっつきます。大きな重機を使って缶が分別されていく様子に、児童たちは目を輝かせていました。
ショベルカーを使った大迫力の分別シーンを見てもらった後に、もっと身近な例で体感できるように、磁石を使った釣りゲームを行いました。自分の手で、スチール缶とアルミ缶に磁石を近づけることで、どちらが磁石にくっつくのか、実際に体験してもらうんですね。
誰が一番多くの空き缶を釣れるかをゲームにすることで、「スチール缶が磁石にくっつく」ということを楽しく学んでもらえたと思います。
–子どもたちや、イベントに参加した方の反応はいかがでしたか。
平野さん:
イベント後、児童たちからは「すごく楽しかった!」「缶に種類があることを知って驚いた」などの感想がありました。また、イベントを通して、家庭でもゴミの分別やリサイクルを意識するようになったようです。
高部金属の方からも、「子どもたちの明るい笑顔を見ることができた」などの嬉しいお声が届いています。地元の子どもたちと接する機会から、企業と子どもたち、双方ともに喜んでもらえるイベントになったことを嬉しく思っています。
社員の声に耳を傾け、男女の垣根なく個々人に最適な環境を
–社員の方々の働きやすさに対しては、どのように配慮なさっているのでしょうか。
平野さん:
弊社は女性社員が8割を占めているので、まずは女性の意見を吸い上げやすい環境整備を意識しました。意見に耳を傾けた上で、働きやすい環境を一緒に築いていく、という感じでしょうか。
社員の声を聞いていると、働きやすい環境といってもライフイベントに合わせて様々な要望があると感じています。
例えば、パートナーの事情で転居が必要になる場合もありますよね。そういったケースでも、弊社は日本各地に事業所を展開していますので、状況を考慮しながら、転居先でもお仕事を続けてもらえる体制が整っています。
ほかにも育児・介護による時短勤務への変更や、現場からバックオフィスへの異動による業務の変更など、その方の事情に合わせてどんな状況でも仕事が続けられるような、多様な働き方を用意しています。
–社員の方の声を聞き、勤務地や働き方の要望に応えているのですね。
平野さん:
そうですね。また、弊社の特長として、様々な分野の有資格者が多いことが挙げられます。様々な資格や社会経験を持つ社員が集まっているので、働きやすい環境についてのアイディアやヒントをたくさんくれるんです。
例えば、グループ会社の「株式会社あしたばマインド」では保育園を運営しておりますので、保育士や看護士、栄養士の資格を持った社員がいます。また、これは自治体によって変わってくるのですが、児童館の責任者に小学校や幼稚園の教員免許やMSW(医療ソーシャルワーカー)、社会福祉士の資格が求められる場合があります。加えて相談事業も展開しておりますので、PSW(精神保健福祉士)の資格を持った社員もいます。
社内の人員配置や制度について、様々な有資格者や社会経験のある社員の意見を集めることが、働きやすい環境構築に繋がっているのではないかなと考えています。
入社後の研修制度や資格取得のサポートも充実しています。例えば、総合職として入社した新卒社員の保育士資格取得をサポートしたり、管理職を目指す社員に向けてビジネスマネージャー検定の対策講座を無料で受講できるようにしたりしています。
社員が色んな仕事や新たなステップに挑戦したいと思った時には、会社から手厚くサポートするようにしています。
–男性社員に対するサポートも、何か工夫なさっているのでしょうか。
平野さん:
男性社員は全体の2割程度ですが、男女分け隔てなく働ける環境が整っています。男性の育休や産休取得についてもサポート体制を整えはじめ、2024年までに男性社員の育休取得率50%以上を目指し取得を推進しています。
「産休や育休で休んだら周囲に迷惑をかけるのではないか」と思っている方も多いようですが、サポート体制の構築や、復帰後の研修受講などにより、安心して職場に復帰できる体制をつくっています。
–実際に育休を取得された方の反応はいかがですか。
平野さん:
復職後も、産休・育休前と変わらず働けるところが好評です。長い間休暇をとったとしても、フォロー体制やウェルカムな風土が根付いているので、仕事がやりにくかったという声は聞いたことがありませんね。
企業と自治体のSDGsの架け橋として連携を深めたい
–今後の展望についてはいかがでしょうか。
平野さん:
国連でSDGsを達成する目標期限とされている2030年まで、もう10年を切ってしまっている状況ですので、グループ全体で今まで以上に力を入れていきたいと思っています。グループ企業内にとどまらず、地域の自治体や企業、大学と一緒にできる取り組みをさらに増やしていきたいですね。
現在、明日葉やソシオークグループは、神奈川県の「かながわSDGsパートナー」や小田原市の「おだわらSDGsパートナー」に所属しています。
その中で、我々がSDGsの取り組みについて、自治体や大学、企業との橋渡し的な存在になることがよくあります。イベントの際などによく伺うのが、「自治体や小学校でSDGsについての取り組みをやりたかったが、問い合わせ先が分からなかった」というお声です。地元企業だけでなく、全国規模の企業や団体からご相談いただくこともあります。
そこで私たちが間に入ることによって、SDGsの取り組みを行いたい企業の声を自治体に届けたり、反対に、自治体の方から地元企業に依頼をして、学童・児童館での取り組みを形にしたりするお手伝いをしています。
地域や自治体から信頼をいただいている弊社だからこそできる、非常にやりがいのある役割だなと感じています。
2030年の目標達成はかなり難しいと言われていますが、様々な企業や自治体の方、地域の方を巻き込んで大きな波をつくっていき、微力ながらお力添えできるといいなと考えています。
–本日は、貴重なお話をありがとうございました。
株式会社明日葉HP:https://ashita-ba.co.jp/