#インタビュー

FCNT株式会社|エシカルなスマートフォン「arrows N」から見えてきた「つくる責任」

FCNT株式会社 荒井さん 芦田さん 渡邊さん  インタビュー

荒井 厚介

FCNT株式会社

プロダクト&サービス企画統括部

プリンシパル クリエイティブ プロフェッショナル

芦田 研一

REINOWAホールディングス株式会社

グループ経営戦略室 広報 部長

渡邊 楠都子
REINOWAホールディングス株式会社

グループ経営戦略室 広報

introduction

私たちの生活とは切っても切り離せなくなったスマートフォン。機能はどんどんバージョンアップされ、毎年のように新製品が発表されています。1、2年で買い換える人も少なくありません。そのような中、FCNT株式会社はエシカルなスマートフォン「arrows N」シリーズを今冬リリースします。部品の67%がリサイクル素材(注1)で、バッテリーは4年間(注2)持続するという長期の使用が可能。そこには、携帯電話の開発に30年以上携わる企業の「つくる責任」への想いがありました。

独自の強みを持った携帯電話を開発し続ける

–FCNT株式会社様の事業内容について教えてください。

渡邊さん:

元々FCNT株式会社は、1991年に富士通株式会社の移動通信事業本部として発足したのが始まりです。そこから、東芝の携帯部門と統合して2016年に「富士通コネクテッドテクノロジーズ株式会社」という形で富士通の子会社として独立しております。

そして「ポラリス・キャピタル・グループ株式会社」からの出資を受け、2021年4月に社名をFCNT株式会社変更しました。

“Creating New “Connects”というミッションのもと、「つながり」をキーワードにプロダクト・ソリューション・サービスという3つを大きな柱として事業を展開しております。

ソリューション事業では、ローカル5Gの環境構築からエッジAIを活用したローカル5Gソリューション(河川の水位検知や工場での安全監視など)や、エッジAIとカメラ型デバイスを組み合わせたエッジAIソリューションを通じて社会課題を解決するようなBtoB事業を行っております。

プロダクト事業では、画面の割れにくさ・防水防塵性能に優れたスマートフォンの「arrowsシリーズ」とシニア向けの「らくらくシリーズ」という2大ブランドを展開しております。

サービス事業では、シニア向けのSNS「らくらくコミュニティ」や「らくらくコンシェルジュ」という、端末をお持ちの方のご自宅などに伺ってスマホなどの操作を教えるサービスを展開しております。

–30年以上も前から携帯電話の開発に携わっているのですね。

芦田さん:

当初はいわゆるガラケーといわれるフィーチャーフォンから始まりました。

2003年に世界初の歩数計搭載の端末を発表し、日本初の指紋センサーを搭載した製品や防水端末を販売するなど、さまざまな最新技術を取り入れた製品を発表してきました。それ以外にも、虹彩認証という、登録した目の虹彩を識別しパスロック解除する虹彩認証や、利用シーンによってブラウザのブックマーク・画像・アプリケーションなどの表示を切り替えるプライバシーモードを真っ先に採用するなど、時代を先取りしたマニア受けするような製品開発をかなり行ってきました。

2010年には、当社初のスマートフォンを発売し、現在に至るまで「arrowsシリーズ」「らくらくシリーズ」ともに、ご愛顧を頂いております。ここ数年、スマートフォンの機能がかなりスペックアップして競争が激しくなってきていますが、従来から培ってきた「arrows」の強みとして、特に3つご紹介させて頂きます。

まず「防水」ですね。非常に早い段階から我々が取り組んできまして、家庭用泡タイプのハンドソープや家庭用液体タイプの食器用洗剤で洗うことが出来ます。

次に、「堅牢性」です。とにかく割れにくい。米国国防総省の調達基準であるMIL規格に準拠した製品としてお届けしているので、頑丈さ・防水・防塵など、厳しい環境下でも安心してお使い頂ける設計になっています。

そして、「セキュリティ」の部分ですね。従来からこれら3つを非常に大事にしてお客様にお届けしてきました。

これまでの強みに加えサステナブルな要素を取り入れる

–現在はどのような製品作りに取り組んでいるのですか。

荒井さん:

現在「arrows」というブランドのリニューアルと「arrows N」の商品化を同時に進めております。

ここ数年、他社のスマートフォンの均質化やコロナ禍を受けた社会の変化、地球環境のニュースも目にする機会が増えました。このような外的な要因から、我々のものづくりのビジネスも見直すことになりました。

また、これまでハードウェアを作ってキャリアさんに納めて販売するという形のビジネスモデルが基本だったのですが、「らくらくコミュニティ」に代表されるようなシニア向けサービスに加えて、「La Member’s」という弊社のすべてのお客様向けの会員サービスを今年から始めました。

社会や環境の変化と、メーカーとしてお客様と直接的な接点を持っていきたいという2つの思惑からリブランディングのきっかけが生まれました。

我々の調査から、お客様の傾向の変化も見えてきました。

これまでの「1年や2年でスマートフォンを買い換える」という生活から、「もう少し長く使いたい」というマインドに変わってきているんです。

「持続可能なものづくりって何だろう」と考えると、お客様に商品を気に入っていただき、それを長く使っていただくことが不可欠ですので、今回のリブランディングにおいてはサステナビリティやエシカルの方向に舵を切り、「使い続けていただくこと」を念頭に製品設計しました。

–「arrows N」にはどのような特徴があるのですか。

荒井さん:

バッテリーの寿命は4年間で、「長く使い続けていただく」ことを体現しています。

また、本体は石油由来のプラスチックをなるべく少なくし、材料の67%が再利用された素材でできています。また、アルミニウムは100%リサイクルの材料を使っています。

製造中に、作っているプロセスで不具合のある部品や組み違いのようにエラーが出たりすることがあるのですが、使えるものはラインの中でもう一度リペアして使っています。どうしても使えない部品はリサイクルに回すなど、なるべくゴミを出さないようなプロセスを踏んでおります。

限られた資源を有効に使ってものづくりをすることは大切ですが、お客様が使う上での快適性が損なわれてはいけません。そこは我々の強みを最大限活かしています。リサイクル素材を使っているにも関わらず、堅牢性は損なわれていません。またコロナ禍で携帯電話も消毒したいという声が結構あったのですが、防水性の強いarrows製品なら堂々と消毒できます。

しかし、開発時にはそのような機能を担保しつつ、サイズやデザイン、機能、環境に配慮した素材の全てを満たすことに非常に苦労しました。

本来なら素材選定で1年くらいかかるところを短い期間で選び、さまざまなテストをして設計に落とし込み、開発チームは本当によく頑張ってくれました。

渡邊さん:

ちなみに「arrows N」は国内で製造します。海外で作ったものを日本に持ってくると、その過程で輸送に関わるCO2を排出してしまいます。国内で作ることによって、輸送コストも抑えられますし販売元であるキャリア様にすぐ納品できる状態になりますので、CO2の削減には貢献できると考えております。

食品と違って、国内産のスマートフォンにどれほどお客様がメリットを感じてくれるか未知の部分はありますが、SDGsや環境の問題にこれだけ敏感になっていますので、時代背景としても、生産背景が見える国内産というのが付加価値としてご提供できるのではないかと思っています。

将来の当たり前を今のデザインに落とし込む

–ちなみに、どのようなお客様をイメージしていますか?

荒井さん:

エシカルやサステナブルは比較的新しい言葉なので、まずはその概念が響くお客様の心を捉えて商品のご購入につなげていけたらと思います。具体的には、やはりお子様がいらっしゃるような方ですとか、年齢で区切ると30代後半から40代前半くらいの方でしょうか。ご自身やお子様の将来のために、日常生活を変えていく1つのツールとしてご購入いただけたらと考えております。

また若い世代のお客様は、食べ物やファッションなどにおいてエシカルやサステナビリティの知識をお持ちの方も多く、ポテンシャルがあると思っています。家電製品でも同じような考え方を持ってものづくりをしている会社があるということを知っていただけたら嬉しいですね。

将来、エシカルとサステナビリティという考え方が当たり前になると捉えていまして、その「将来の当たり前を今のデザインに落とし込むとどうなるのかな」といったところを含めてデザインしています。今、手に取ってもらって、来年見ても「やっぱりいいね」と思っていただけるような普遍的なデザインを心がけています。

また、この「arrows N」で得たノウハウやベンダーさんとの繋がりを今後は他の商品にも展開して、自社製品全体をサステナブルな形に発展させていきたいですね。

製品を作って終わりではなく、お客様とつながるコミュニティを提供し、長く楽しめる商品サービスをめざす

–今後の展望についてはいかがでしょうか。

渡邊さん:

実は製品だけでなく、エシカルなサービスも含めて年明け以降に発表する予定です。詳細はまだ解禁できないのですが、製品を買ってもらって終わりではなく、使い続ける中でのサービス展開することで、新たな価値をお伝えできればと感じています。

私たちのテーマはやはり、「繋ぐ」というところに行き着きます。いいものを作ればどんどん売れる時代は終わっていくと思いますし、お客様とつながることで良いサービスや価値を提供していきたいと思っています。

芦田さん:

作って終わりではないという点では、例えばシニア向けであれば販売後のアフターサービスやコニュニケーションというのは非常に大事になってきます。

サービス事業の柱である「らくらくコミュニティ」が開始した年に「らくらくスマートフォン」ができまして、その端末を通してシニアの方が中心となって集まっていただくSNSコミュニティサイトを作りました。シニアの方同士で「らくらくコミュニティ」を通じて、自身の興味関心のあるカテゴリで共通の話題などで交流していただけます。写真や俳句、川柳など興味を持ってもらえそうなさまざまなコンテンツを企画することで、ユーザー同士がつながりを持つことにつながります。

また、一般的なSNSと違うのは24時間投稿をチェックしていることです。誹謗中傷が起きないことはもちろんですが、SNSを使いこなしているシニアの方もいれば、初めて使う人などさまざまな人がいます。不安を解消できるように、セキュリティという部分にもリソースを配分しています。

製品自体の回収についても、通信キャリアと一体となって進めていかなければなりません。SDGs目標の1つに「つくる責任とつかう責任」がありますが、やはり我々メーカーが作ったものをお客様にどういうふうに快適に使っていただけるのか、使ったあとの課題や問題に対し、どのように取り組むのかが大事なところです。そうした全体の流れを、これからも真剣に考え、会社として世の中に必要な価値を提供していきたいと思っています。

–「arrows N」を購入された方とどのようなコミュニティができるのか楽しみです。貴重なお話をありがとうございました。

[注釈]

(注1)

本体重量から、バッテリーやディスプレイなどの電気電子部品を除いた部品総重量に対する、リサイクル素材総重量の割合です。

(注2)

FCNT から発売したスマートフォンの中で、最も大容量な電池の採用と、長寿命化を実現する充電制御技術の搭載による。(2022 年7 月現在。FCNT 株式会社調べ)電池の寿命は、ご利用環境やご利用状況によって異なります。

本機種と同性能バッテリーを用い、充放電を繰り返すシミュレーションに基づく結果。バッテリーの寿命は利用状況によって変化します。

(シミュレーション内容)

1.5 日に1 回の頻度で1 サイクルの充放電(1 サイクル=0%から100%まで満充電にし、その後、0%まで電池を使い切る)を行った場合、1000 サイクル(約4.1 年)時点において電池容量が初期容量の80%残ることを確認。(2022 年7月現在。FCNT 株式会社調べ)

関連リンク

FCNT株式会社HP:https://www.fcnt.com/