最近、あなたの街にも外国人が増えたと感じることはありませんか?日本では今、外国からの移住者を積極的に受け入れています。
ここで必要になるのが多文化共生です。これは日本だけでなく、今後世界中で重要な課題となるでしょう。では、多文化共生とは実際にはどのようなことを意味するのでしょうか?海外・日本の現状や私たちにできることなどから、多文化共生について考え、理解を深めておきましょう。
目次
多文化共生とは
多文化共生とは、異なる国籍や民族の人々が、互いの文化的な違いを尊重し、対等な関係を築きながら、地域社会の一員として共に生きていくことを指します。近年、グローバル化の進展や少子高齢化に伴い、日本国内でも外国からの移住者の数は増加傾向にあります。
実際に2023年12月末時点で、日本全国に約340万人の外国人が在住しており、これは総人口の約2.7%に相当します。
【日本在留外国人数の推移】
そもそも文化とは何か?
文化とは、人々が共有する価値観、習慣、伝統、芸術、言語などのことです。文化は、長い時間をかけて形成され、世代を超えて受け継がれてきました。
文化は目に見えないものであり、具体的な形はありません。しかし、私たちの考え方や行動様式に大きな影響を与えています。
例えば、
- 時間に対する考え方
- コミュニケーションの仕方
- 食事のマナー
などは、文化によって大きく異なります。
ダイバーシティと多文化共生の関係
次に、近年よく耳にするようになったダイバーシティとの関係についても確認します。
ダイバーシティとは、性別、年齢、国籍、民族、障がいの有無など、個人の属性の違いを受け入れ、尊重することです。多文化共生は、その一部としてダイバーシティの実現に必要なものと位置づけられます。
具体的には、異なる文化的背景を持つ人々が互いに理解を深め、対等な関係を築くことで、より豊かな地域社会の実現につながると考えられています。
では、なぜ多文化共生が必要なのでしょうか。
なぜ多文化共生が必要か
少子高齢化が進む地域社会において、外国人住民は重要な担い手として期待されています。今後も外国人材の受け入れ拡大により、地域社会における外国人との接点がさらに増えることが予想されます。
そのため、外国人の人権を保障し、地域住民の異文化理解を深めることで、互いに協力し合える関係を築いていくことが必要です。多文化共生の推進によって、地域社会の活性化にもつなげていくことができるのです。
多文化共生は、単なる理想ではなく、現実的な課題として私たち一人ひとりに求められています。多文化共生について理解を深め、積極的に取り組んでいくことが、これからの時代には重要となるでしょう。*1)
まずは多文化共生の身近な例を知ろう
「あれ?このお店、メニューが日本語と中国語の両方で書いてある!」
「この公園で遊んでいる子供たち、日本語と英語で話している!」
などという経験はありませんか?実は、私たちの生活はすでに多文化共生が進んでいます。
身近な例を見ていきましょう。
生活情報の多言語化
近年、駅や病院、公共施設などで、案内板やサインが複数の言語で表示されるようになってきました。これは、外国人にも分かりやすい表示を心がけることで、安心して地域の中で生活できるようサポートしているのです。
このような取り組みは、お互いの文化の違いを認め合い、共生していく上で重要な意味を持っています。例として、
- 政府や自治体による外国人向けの生活ガイドが多言語で作成・配布されている
- 大きな医療機では、多言語対応可能な医師やスタッフが常駐している
- 公共交通機関では、多言語対応の案内表示や車内アナウンスが導入されている
など、普段の生活の中でもいろいろな場所で見つけることができます。
多文化共生のための食品表示
近年、スーパーマーケットなどで、ハラル(イスラム教徒が食べられる食材)や、ベジタリアンに配慮した食品が販売されるようになってきました。食事は文化の一部であり、お互いの宗教的・信仰的な違いを尊重することは、多文化共生を実現する上で重要です。
さまざまな国の料理のレストラン
また、日本各地で、中華料理、韓国料理、インド料理など、世界各国のさまざまな料理を提供するレストランが増えています。異国の食文化に触れ、味わうことは、異文化への理解を深める良い機会となるでしょう。
これは、日本に住む外国人住民のニーズだけでなく、日本人にとっても異文化体験や新しい食文化を楽しむ機会として人気が高まっていることも表しています。こうした取り組みが、地域に暮らす人々の間で相互理解を育てていくのです。
学校の授業
最近では、小中高の学校で、外国文化を学ぶ授業が行われるようになりました。異文化に触れ、理解を深めることは、子供たちが多様性を尊重し合う態度を身につけるために大切です。
教育の現場での世界各国の文化を学ぶ取り組みは、次世代の多文化共生社会の実現につながるのです。
このように、私たちの日常生活の中には、既に多文化共生への取り組みがさまざまな形で行われているのがわかります。次は、なぜ今多文化共生が求められているのかについて考えてみましょう。*2)
なぜ今多文化共生が求められているのか?
今、国際社会も日本も大きな転換点を迎えていると言われています。しかし、ずっと日本で生活してきた人にとって、多文化共生は「慣れないこと」と感じるかもしれません。
それなのになぜ、多文化共生が求められているのでしょうか?
少子高齢化による人手不足と経済の縮小
少子高齢化の影響で、日本の労働人口は年々減少し、地方を中心に深刻な人手不足に見舞われています。このままでは経済活動の停滞や生活サービスの悪化など、地域社会の衰退につながる可能性があります。
この問題の解決策の1つとして、外国人労働者の受け入れを積極的に進め、人手不足を解消することが喫緊の課題となっているのです。
社会におけるダイバーシティの重要性
グローバル化が進む中、多様な価値観や文化を尊重し合うダイバーシティの推進は、企業競争力の向上や地域の活性化にもつながります。異文化交流を通じて新しいアイデアが生まれ、組織の創造性が高まる効果も期待できます。このように、多文化共生は、活力ある社会を実現する上で不可欠な要素なのです。
国際社会のグローバル化
グローバル化の影響で、日本と世界各国との交流が活発化しています。貿易や投資、観光など、国境を越えた活動が活発化し、日本もその影響を受けて、この変化への対応が必要になっています。
そのため、国にとらわれず、外国人と共生しながら、国際社会の中で存在感を発揮していくことが重要になってきているのです。
外国人との生活に慣れていない日本人が多い
このような国際的な風潮の中でも実際のところ、外国人との接点が少ない日本人が依然として多く、まだ異文化理解が不足していると言ってもいいでしょう。そのため、外国人住民の人々が地域社会に溶け込むのが難しい状況が見られます。多文化共生を実現するには、お互いの文化的背景を理解し合い、コミュニケーションを深めていくことが欠かせません。
外国文化への知識・理解の不足
一般的に、まだ言語や宗教、価値観など、外国の文化的背景に対する日本人の知識や理解は十分とは言えません。そのため、外国人住民の生活習慣や信仰を尊重し、必要な支援を行うことが難しい現状があります。
多文化共生を進めるためには、私たち一人ひとりが外国文化への理解を深めていく必要があるのです。
多文化共生は、今後ますます重要となる社会のテーマです。まずは日本の文化を知り、そして世界のさまざまな文化について学んでみましょう。*3)
海外における多文化共生の現状
現在、世界各地で、異文化の共存に向けた取り組みが行われています。多様性を尊重し、お互いを理解し合うことは、調和のとれた社会を実現する上で極めて重要です。では、海外ではどのような状況にあるのでしょうか。いくつかの事例をご紹介していきます。
人種のるつぼ:シンガポール
シンガポールは、マレー系、中国系、インド系、ユーロピアン系など、さまざまな人種が共生する多文化社会です。マレー語、中国語、タミル語、英語の4つの公用語を設け、宗教的・文化的多様性を尊重する施策を次々と打ち出しています。教育現場でも、異文化理解を深める取り組みが行われ、寛容な社会の実現を目指しています。
移民の国アメリカ
アメリカは移民の国として知られ、各地で多様な文化が共存しています。しかし近年、移民に対する反発の声も強まっており、文化の違いに寛容ではない状況も生まれています。
オバマ政権時代には包摂的な移民政策が推進されましたが、トランプ政権下では厳しい移民規制が進められました。アメリカの建国理念は、「すべての人間は生まれながらにして平等である」というものです。
しかし、
- 人種差別や偏見
- 経済格差
- 言語の壁
などの問題は、現在でも解消していません。
ドイツの難民受け入れ
2015年のシリア難民危機以降、ドイツはEUでも最多の難民を受け入れてきました。しかし、急増する外国人への不安感から、極右政党の台頭など、社会的な問題も生まれています。
ドイツ政府は、難民の社会統合に力を入れていますが、
- 言語の壁
- 文化の違い
- 雇用創出
- 社会保障制度への負担
など、依然として課題が山積みの状況です。
多文化共生の進んだ国カナダ
カナダは、移民を積極的に受け入れ、多様性を尊重する「モザイク」の国としても知られています。連邦政府は、1971年に多文化主義を掲げ、プログラムの整備や教育の充実に取り組んできました。
カナダの国歌には、「我々は異なる言語で語り、異なる文化を持つが、一つの国を共有する」という歌詞があります。依然として先住民との格差や排他的な思想などの問題もありますが、カナダでは多様性を受容し合う寛容な社会が実現しつつあり、多文化共生のモデルとして注目されています。
このように、異文化が共生する社会の実現に向けて、さまざまな国がさまざまな取り組みを行っています。多文化共生社会を実現するには、一朝一夕にはいきません。長期的な視点を持ち、お互いを理解し合う努力が不可欠です。
次の章では、日本の現状について見ていきましょう。*4)
日本における多文化共生の現状
【在留外国人の国籍・地域別内訳の変遷】
日本は長らく同質性の高い社会といわれてきましたが、近年では在留外国人数が増加傾向にあり、多文化共生への取り組みが求められるようになってきています。日本における多文化共生の現状と課題について、具体的に見ていきましょう。
外国人労働者受け入れの急増
日本の在留外国人数は1990年代以降、大幅に増加してきました。特に近年は東南アジアからの労働者が増加しており、2019年には293万人と過去最高を更新しました。
外国人労働者数も2018年時点で146万人に達し、全就業者に占める割合は2.2%にまで高まっています。この増加は、国内の深刻な人手不足への対応が大きな要因です。
地域・産業における外国人労働者の割合
外国人労働者の割合は、地域や産業によって大きな差があります。南関東の飲食・宿泊業では2018年度に9.2%に達しており、東海の製造業でも6.3%と高い水準になっています。このように、特定の地域や産業で外国人労働者の依存度が高まっている状況が見られます。
多様性の受け入れと課題
急速な外国人労働者の受け入れにより、日本社会の多様性は高まってきました。しかし、言語や文化の違いから、コミュニケーションの障壁や偏見、差別など、統合に向けた課題も少なくありません。地域や企業レベルで多文化共生の取り組みを進めるとともに、国レベルでも包摂性のある社会の実現に向けた施策が求められています。
外国人労働者との共存は、単に人手不足を補うだけではなく、日本社会の未来を左右する重要な問題です。日本における多文化共生は、今まさに私たちが直面している重要な課題と言えるのです。*5)
多文化共生のメリット
日本の社会は、確実に多様化が進行しています。そのなかで、地域における多文化共生の推進は重要な課題となっています。多文化共生を進めることで、地域社会にさまざまな恩恵をもたらすことが期待されています。
労働力不足の緩和
繰り返しになりますが、人口減少と高齢化が急速に進行する中、特に地方や厳しい労働条件の産業では深刻な人手不足に悩まされています。外国人労働者の受け入れはこうした人手不足を緩和し、消費者にとってもより便利なサービスを提供することができるようになりました。
近年、人手不足が深刻な地域ほど外国人労働者への依存度が高まっている傾向にあります。
地域の存続と活性化
人口流出と高齢化が進む地域では、労働力不足で産業が成り立たなくなり、地域の生活基盤が崩壊するリスクがあります。しかし、地域で外国人が働くことで、産業を維持し、地域の経済社会の存続が可能になっています。
さらに、外国人住民による地域活性化への貢献も期待されています。外国人ならではの視点や海外とのつながりを生かし、地域の魅力発信やインバウンド観光の受け入れなどに役立っているのです。
多様性と包摂性の実現
多文化共生を進めることで、すべての外国人住民を孤立させることなく、地域社会の一員として受け入れていくことができます。コミュニティにおける人の交流やつながりを促し、誰ひとり取り残されることのない「新たな日常」の実現につながります。持続可能な開発目標(SDGs)でも、包摂性は重要な理念とされています。*6)
多文化共生のデメリット・課題
多文化共生にはさまざまな恩恵がありますが、同時に解決すべき課題や懸念も存在しています。外国人労働者の増加に伴い、経済社会に及ぼす影響について、慎重に検討していく必要があります。
賃金上昇の抑制と国内労働者の処遇改善への影響
人手不足の分野に外国人が就労することで、日本人の雇用が脅かされるわけではありません。ただし、労働力の増加により賃金上昇が抑えられる傾向にあります。
企業にとっては労働コストの抑制につながりますが、国内労働者の処遇改善を阻害する可能性があります。
生産性向上の阻害
安価な外国人労働力が活用できることで、設備投資などによる生産性向上の誘因が弱まる可能性があります。低生産性の工程・部門が国内に残り続けることで、産業全体の生産性向上が阻害される恐れがあります。
地域住民とのトラブルと外国人へのマイナスイメージ
生活習慣の違いから、ゴミ出しの問題や騒音トラブルなどが発生する可能性があります。そうしたトラブルが増えれば、地域住民の外国人への偏見が強まり、社会的な軋轢が生じかねません。
外国人との共生に向けた受け入れ体制の整備が急務です。
外国人材の確保競争の激化
経済成長により人手不足に陥るアジアの国々では、賃金が大幅に上昇しています。日本で外国人労働者が低待遇を受けているイメージが広まれば、優秀な外国人材の確保が難しくなる恐れがあります。
日本が魅力的な場所として外国人労働者に選ばれるよう、労働条件の改善などに取り組む必要があります。
このように多文化共生は、メリットとデメリットが表裏一体の関係にあります。メリットを最大限に活かし、デメリットを最小限に抑えるために、政府、企業、地域住民が一体となって取り組むことが求められています。*7)
多文化共生に関する取り組み事例
多文化共生を推進するためのさまざまな取り組み事例をご紹介します。
行政・生活情報の多言語化
行政や生活に関する情報を多言語で提供する取り組みが広がっています。例えば、自治体のホームページや広報誌を英語や、やさしい日本語で発信したり、外国人住民向けの生活ガイドブックを作成したりするなど、言語の壁を低減する取り組みが行われています。これにより、外国人住民が地域社会に容易に参加できるよう支援しています。
多言語音声翻訳プラットフォーム
【多言語音声翻訳プラットフォーム】
観光地や公共施設において、多言語音声翻訳システムの導入が進んでいます。外国人旅行者と日本人スタッフ間のコミュニケーションを円滑にし、サービスの質の向上につなげることが狙いです。
最新のAI技術を活用した高精度な翻訳システムが登場し、言語の壁を克服する手段として期待されています。
日本語教育の推進
外国人住民が日本の生活に円滑に適応できるよう、自治体や企業が日本語教育の充実に取り組んでいます。就労支援と連動した日本語研修の提供や、地域の日本語ボランティアグループの育成など、多様な取り組みが行われています。
日本語能力の向上は、コミュニケーションの障壁を下げ、多文化共生を推進する上で重要な役割を果たします。
地域国際化推進アドバイザー制度
自治体が地域国際化推進アドバイザーを設置し、多文化共生の取り組みを支援する事例があります。アドバイザーは多言語対応や外国人住民支援の知識を持ち、地域の課題解決や新たな施策立案などを支援します。
地域の実情に合わせた効果的な取り組みを推進するために、この制度は重要な役割を果たしています。
適正な労働環境の確保
外国人労働者の権利保護と、適正な労働環境の確保は喫緊の課題です。行政による外国人労働者向けの相談窓口の設置や、企業による外国人従業員への配慮など、さまざまな取り組みが行われています。公平な労働環境は、多文化共生社会の実現にとって不可欠です。*8)
多文化共生に関して私たちができること
日本はよく「単一民族国家」と言われていますが、実は古くからさまざまな民族が入り混じる多民族国家だったのをご存知でしょうか。近年の研究で、従来の「縄文人=日本人」という単純な図式は崩れ、有史以降、さまざまな民族が日本列島に移住し、混血が進んできたことが明らかになっています。
- 旧石器時代:旧石器時代の人々は、現代の日本人に繋がるDNAを持っていると考えられています。
- 縄文時代:縄文人のDNAは、現代の日本人に約10~20%残っていると言われています。
- 弥生時代:朝鮮半島から稲作技術や金属器文化をもたらした弥生人が移住してきました。(しかし稲作の跡は日本で世界最古となるものが見つかり、「大陸から来た弥生人が稲作をもたらした」という説は変更になるかもしれません。)
- 古墳時代以降:朝鮮半島や中国大陸からさまざまな民族が日本に移住し、日本列島の人口は増加しました。
現代の日本人は、縄文人、弥生人、そしてさまざまな移住者たちのDNAを受け継いでいます。日本人は単一民族ではなく、多様な民族が混血を経て形成された民族で、もともと異なる言語や文化を持つ人々が共生してきた国なのです。その歴史の中で、日本人特有の寛容さや共生の精神が培われてきたのだと言えるでしょう。
多様性を受け入れる心の大切さ
日本人は、古来から「和」を重んじ、協調性を大切にする文化を育んできました。これは、多文化共生社会を実現していく上で大きな強みとなります。
異なる文化や価値観を持つ人々を受け入れ、共に生きていくためには、互いを尊重し、理解し合うことが不可欠です。日本人の根底にある気質は、多文化共生社会の実現に向けて、重要な役割を果たすでしょう。
世界情勢と多文化共生
グローバル化が進む現代社会において、多文化共生はますます重要性を増しています。多文化共生社会の実現は、単に外国人労働者を受け入れるというだけではなく、世界平和への架け橋となる可能性もあるのです。
人種、民族、宗教、性別などによる差別や偏見は、多文化共生にとって大きな障害となります。差別や偏見をなくすためには、法整備や啓発活動だけでなく、一人ひとりの意識改革も大切です。
具体的に私たちができる行動
多文化共生は、私たち一人ひとりが意識し、行動することで実現できるものです。多文化共生のために私たちができる具体的な行動の例を紹介します。
- 偏見や差別、無意識のバイアスをなくす
- 世界の異文化への知識を深める
- 日本の歴史や文化、外国人との接し方について学ぶ
- 地域のボランティア活動や交流イベントに参加する
- 地域の多様性を尊重する社会づくりを理解する
- お互いの違いを認め合い、尊重し合う姿勢を持つ
ユネスコ憲章では、「人種、性別、言語、宗教、国籍またはその他の地位による差別なく、すべての人々が教育を受け、文化を分かち合い、その恩恵にあずかる権利」を保障しています。私たち一人ひとりが、異なる文化や民族を尊重し、理解しようと努めることは、未来の平和な世界の実現に向けて大きな力となるでしょう。*9)
多文化共生とSDGs
国連が掲げるSDGs(持続可能な開発目標)の達成には、多文化共生の実現が大きな役割を果たします。多様性を尊重し、誰一人取り残さない社会を実現することは、SDGsの理念そのものにも通じています。
特に多文化共生が重要となるSDGs目標を取り上げ、その関係性や効果について解説していきます。
SDGs目標4:質の高い教育をみんなに
多様な言語や文化的背景を持つ子供たちに対して、包摂的で質の高い教育を提供することが、SDGs目標4の達成には重要です。多文化共生の取り組みを通じて、母語教育の充実や外国人児童生徒への日本語教育支援などが実現できます。
これにより、誰一人取り残されることなく、全ての子供たちが等しく質の高い教育を受けられるようになります。また、教育の場における多文化理解の推進は、互いの違いを認め合い、尊重し合う心を育むことにも貢献します。
SDGs目標8:働きがいも 経済成長も
外国人労働者の受け入れや、多様な人材の活躍を促すには、職場における多文化共生の推進が欠かせません。言語や文化の違いを乗り越え、互いを尊重し合える環境づくりが求められます。
こうした取り組みを通じて、職場の生産性や創造性の向上が期待できます。多様性を活かした組織運営により、包摂的かつ持続可能な経済成長の実現にもつながるのです。
SDGs目標10:人や国の不平等をなくそう
多文化共生の推進は、貧困や格差の解消にも大きな効果を発揮します。言語や文化の違いを乗り越え、外国人住民が地域社会に参加しやすくなることで、社会的包摂が促進されます。
また、行政サービスや法制度の多言語化により、すべての人々が等しくアクセスできるようになります。これにより、誰一人取り残されることのない、公平な社会の実現につながるのです。
さらに、多文化共生の取り組みを通じて、多様性を受け入れ合う寛容な心が育まれます。互いの違いを理解し、尊重し合うことで、国内外における格差や差別の解消にもつながるのです。
SDGs目標16:平和と公正をすべての人に
言語の壁を取り除き、行政サービスや司法制度の多言語化により、すべての人々が等しくアクセスできるようになります。これにより、誰一人取り残されることのない、公平な社会の実現につながります。
これは、対立や紛争の予防に大きな効果があります。お互いの違いを理解し、尊重し合うことで、平和で安定した社会の実現が期待できるのです。*10)
>>各目標に関する詳しい記事はこちらから
まとめ
多文化共生とは、言語や文化の異なる人々が互いの違いを理解し、尊重し合いながら、地域社会の一員として共に生きていくことを意味しています。多様性を受け入れ、お互いが協力し合うことで、より豊かで調和のとれた社会の実現を目指します。
しかし、中には多文化共生がかえって伝統文化の衰退を招くのではないかと危惧する人もいます。また、急速なグローバル化の中で、個性的な文化が失われていくのではないかという懸念も存在します。
確かに、インターネットや国際交流の活発化などにより、さまざまな文化が入り混じり、独自性を保つことは容易ではありません。しかし、それぞれの民族や地域が、自らのアイデンティティーを大切にしつつ、他者の文化も積極的に理解し、尊重し合う態度が肝心なのです。これにより、個性豊かな社会が実現し、持続可能な発展につながると考えられています。
多文化共生に不安を感じる背景には、予測のつかない未知のものへの恐怖心があるのも事実です。そこで重要なのは、自ら対象に興味を持ち、知識や情報を深めることです。
互いの違いを理解し合い、寛容な心を持つことで、平和な世界が実現できるのです。
このように、多文化共生は、単なる共生だけでなく、多様性を尊重し、個性を活かすことで、より豊かな社会を実現しようとする試みなのです。
もし、多文化共生がうまくいかなければ、対立や紛争が絶えず、偏見と差別が蔓延した社会を想像することができます。一方で、多文化共生が受け入れられた世界線では、将来は多様性が尊重され、誰もが安心して暮らせる平和な社会が実現しているでしょう。
日本では、少子高齢化や地域の過疎化など、深刻な社会問題を抱えています。この課題解決にも、多文化共生の視点が不可欠です。
一人ひとりができることから始めましょう。お互いを理解し合い、協力し合うことが、平和で豊かな社会につながるのです。
<参考・引用文献>
*1)多文化共生とは
文化庁「「地域における多文化共生推進プラン」の改訂について』
国際協力機構『多文化共生ってなんだろう』
総務省『多文化共生の推進』
日本経済新聞『多文化共生の鶴見 戸惑う在日外国人を「伴走支援」』(2024年2月)
日本経済新聞『(地域の風) 「にほんご」で多文化共生』(2023年7月)
日本経済新聞『労働力確保へ多文化共生 山形県24年度予算案6498億円』(2024年2月)
総務省『多文化共生事例集作成ワーキンググループ(第1回)議事次第』(2021年2月)
*2)まずは多文化共生の身近な例を知ろう
総務省『多文化共生事例集』(2017年3月)
総務省『多文化共生事例集(令和3年度版) 』(2021年8月)
文化庁『外国人住民とともに築く地域の未来』
日本経済新聞『共生への鍵(4)すぐそこにある多国籍社会 多様性こそ活力の起爆剤』(2018年2月)
文化庁『地域における多文化共生施策の推進について』(2024年1月)
*3)なぜ今多文化共生が求められているのか?
日本経済新聞『(地域の風) 多文化共生が花開くとき』(2023年2月)
日本経済新聞『首相「外国人と共生社会」 国会改革にも言及、令和臨調』(2023年7月)
国土交通省『1.本調査の背景 (1)「多文化共生」とは』
日本財団『【避難民と多文化共生の壁】外国人が共生・活躍できる社会づくりは、なぜ必要か。ウクライナ避難民支援で見えてきたこと』(2023年9月)
文化庁『「文化を大切にする社会の構築について ~一人一人が心豊かに生きる社会を目指して」』
*4)海外における多文化共生の現状
多文化共生ポータルサイト『第33回 移民統合の国際比較』(2021年2月)
日経BP『オーストラリアに垣間見る「多文化主義政策」日常生活に浸透するダイバーシティと移民への定住支援』(2022年2月)
全国市町村国際文化研究所『多文化共生施策の現状と課題』(2023年1月)
宮島 喬『「多文化共生」の問題と課題─日本と西欧を視野に─』(2009年12月)
日本財団『世界では5分に1人の子どもが、さまざまな暴力(ぼうりょく)によって命を落としてる?』(2023年12月)
地方財政研究会『移民政策と政府間関係―― 国際比較の視点 ――』(2022年10月)
九州大学『外国人労働者受入れ政策の日韓比較 : 単純技能労働者を中心に (特集 外国人労働者の受け入れ : 日韓比較に向けて)』(2020年)
*5)日本における多文化共生の現状
文化庁「「地域における多文化共生推進プラン」の改訂について』
日本経済新聞『東京都、外国人の子ども支援強化 多文化共生を推進』(2023年4月)
日本財団『祖国から離れた遠い地で働くことを決めたウクライナの若者たち。心の支えは “同窓”』(2023年8月)
総務省『地域における多文化共生の現状等について』
日本在外企業協会『日本型多文化共生に向けて』(2021年6月)
渡辺 雅之『学校内外における多文化共生に関する考察』
*6)多文化共生のメリット
名城大学『外国人との共生がもたらす未来と、そのメリット』
九州大学『ムスリム学生と異文化適応 : 礼拝空間をめぐる日本の国立大学のとりくみ』(2018年)
日本財団『【避難民と多文化共生の壁】外国人が共生・活躍できる社会づくりは、なぜ必要か。ウクライナ避難民支援で見えてきたこと』(2023年9月)
国際協力機構『多文化共生ってなんだろう』
*7)多文化共生のデメリット・課題
日本経済新聞『外国人労働者への日本語教育 比率上位市町村の半数なし』(2024年3月)
参議院『多文化共生社会の構築を目指して ~外国人労働者受入問題~』(2008年1月)
法務省『~共生社会の在り方及び中長期的な課題について~』(2021年11月)
全日本自治体労働組合『多文化共生社会の実現に向けた課題と対応『外国籍の子どもたちへの教育環境の整備』』
地球産業文化研究所『多文化共生と安全・安心の両立』(2007年5月)
渡戸 一郎『〈多文化共生〉再考 ― 〈多文化主義〉 と 〈インターカルチュラリズム〉 の狭間で』(2019年)
*8)多文化共生に関する取り組み事例
文化庁「「地域における多文化共生推進プラン」の改訂について』
外務省『外国人との共生社会の実現に向けた取組』(2024年4月)
法務省『外国人との共生社会の実現に向けたロードマップ』(2022年6月)
*9)多文化共生に関して私たちができること
北海道アイヌ協会『アイヌ民族とは・・ -どこに、いつから、どのように-』
米穀機構『1-3 伝わったのは縄文時代の終わりころ』
佐賀県『考古学場の大発見〜東名・菜畑・吉野ヶ里〜』
文部科学省『国際連合教育科学文化機関憲章(ユネスコ憲章)/The Constitution of UNESCO』
*10)多文化共生とSDGs
国際連合広報センター『SDGsのポスター・ロゴ・アイコンおよびガイドライン』