石巻市
石巻市は、宮城県北東部の北上川の河口に位置し、海・山・川のある風光明媚な都市です。漁業が盛んな街であり、世界三大漁場の一つに数えられる金華山沖が近いことで、かつお・いわし・さばなどの水産資源の宝庫になっています。また、石巻魚市場は、荷捌き上屋根の全長が最も長い魚市場として、昨年ギネス世界記録に認定されました。
平成23年3月に発生した東日本大震災では、甚大な被害を受けた本市ですが、日本国内のみならず世界中の皆様からの温かい御支援を受けながら、復興の完結と、その先にある新たな石巻市を見据え、より良いまちとなるよう、事業を推進しています。
目次
introduction
2020年度、SDGs未来都市、自治体SDGsモデル事業に選定された石巻市。東日本大震災により大きな被害を受け、その後復興を進める中で交通手段「グリーンスローモビリティ」を取り入れた地域コミュニティの再生に取り組んでいます。今回、石巻市に、どのような想いで取り組みを進めているのか、今後の展望などについてお話を伺ってきました。
交通手段の確保によってコミュニティ再生を目指す
–今日はよろしくお願いします!まず、SDGsに力を入れるようになった背景について教えてください。
石巻市:
きっかけは、2011年に東日本大震災の被害を受け、半島沿岸部や海辺の市街地の多くの住宅が高台や内陸部に移転したことです。そのような地域では、地域のコミュニティが崩壊してしまい、住民は不安を抱きながらの生活を送ることとなりました。
このコミュニティを再生するためには、まずは人と繋がること、繋がるためには外に出なければなりません。しかし、高齢者の交通手段を確保するのが困難であるという問題が浮上したのです。
–高齢者が孤立してしまう課題があったんですね。
石巻市:
はい。そこで私たちはさまざまな施策を展開し、すべての人が安心して暮らせるまちづくりを進めてきました。その中でSDGsが掲げる「誰一人取り残さない」という理念は、石巻市のまちづくりと親和性の高いものでした。
そこで、これまで私たちが行ってきた施策の中にSDGsの考え方を取り入れ、持続可能な石巻市を目指して取り組みを進めることになったんです。
グリスロ導入で経済、社会、環境を好循環に
–では、具体的にどのような取り組みを行っているのかを教えてください。
石巻市:
グリーンスローモビリティ(以下グリスロ)等の電気自動車を軸とし、コミュニティの再生や雇用促進、地域活性化を目指したまちづくりを進めています。
–グリスロとは、20km/h未満で走る電気自動車ですよね。どのように活用されているのでしょうか?
石巻市:
一番は、高齢者の方の足としての活用です。
自宅からバス停や駅までの交通手段がないという問題に対し、グリスロを導入することで、自宅の玄関から公共交通の結節点(ラストワンマイル)をつなぐことができるようにし、また、地域内の銀行やスーパーへの移動手段としても利便性を高めています。
–グリスロの運営は市が主体となって行っているのでしょうか?
石巻市:
一般社団法人「日本カーシェアリング協会」のフォローもいただきながら、住民組織が中心となって、ボランティア活動として運営を行ってもらっています。
コミュニケーションロボットを活用したデジタル支援
–グリスロを利用する場合、アプリなどから連絡するケースが多いと聞いています。それは高齢者の方にとってハードルが高いように感じていますが、そこはいかがでしょう?
石巻市:
現在コミュニケーションロボット「ATOM」の導入を検討しています。高齢者の自宅に1台設置し、そのロボットに話しかけることでグリスロの事業者に連絡ができるような仕組みです。
–話しかけるだけで連絡がとれる仕組みは、高齢者にとって手軽で安心ですね。
石巻市:
はい。高齢者の方は、どうしてもタブレットやスマートフォンの活用に不安を持っていらっしゃいます。そのため、特別な操作が必要なくグリスロを活用できる仕組みが求められていましたので、コミュニケーションロボットが最適でした。
その他にもコミュニケーションロボットは、コミュニケーション不足の解消という面でも期待されています。
–どういうことでしょうか?
石巻市:
高齢者の方々は一人暮らしの場合も多く、一日中喋らないこともあるそうで、深い孤独感を感じてしまいます。
この課題に対して、ATOMは話しかけると返事をしてくれて疑似会話ができるので、少しでも孤独感が解消されればと考えています。
–さまざまな役割を果たしてくれるんですね。
地元企業で誕生するモビリティ
–では、グリスロは経済面ではどのような効果があるのでしょうか。
石巻市:
グリスロの車両を地元で生産する取り組みを進めています。グリスロ車両は、使われなくなったハイブリッド自動車からモーターやバッテリー等を回収し、リユースして電気自動車として製品化されます。
この事業が新たな地元産業として定着することで、地域経済の活性化が図られます。
–地元内でうまく循環する仕組みなんですね。
石巻市:
はい。大きな企業に依頼するのもひとつの手段ではありますが、石巻市ではほとんどを地元企業が対応することで、より地域経済が活性化すると考えています。
–地元企業が受注することで製品の輸送なども減り、環境負荷の軽減も期待できますね。
石巻市:
そうですね。SDGsは経済・社会・環境の3つの側面から取り組みを進めていく必要があります。その意味でも、二酸化炭素を排出しないグリスロを走らせ、さらには地元で製造することは、SDGsの達成にも大きく貢献できるのではないかと思っています。
少しずつ「SDGs」が浸透
–まちづくりの現状がよくわかりました。話は変わりますが、市民の方々への啓発活動も行われていますか?
石巻市:
SDGsが難しいものだという認識を打破するため、市内の全ての世帯、そして小学校、中学校の全ての児童・生徒に対して、漫画を使った冊子を作って配布しています。
併せてSDGsのシンポジウムを開催し、SDGsは身近なものであり、すでに皆さんが取り組んでいることがSDGsに繋がっているということを発信しています。
–これらのSDGsへの取り組みに対して市民からの反響はありますか。
石巻市:
はい。啓発活動や、グリスロを軸にしたまちづくりを進めてきた中で、市民のみなさんの「SDGs」への関心が高まっていると実感しています。SDGsは自分ごと化できるかがポイントです。啓発活動を通して、社会課題を身近に感じていただけていると思います。
また企業にとっても、限られた業種だけでなく新たな分野の仕事もあるんだ、という前向きな認識が芽生え始めていると感じますね。
小さな取り組みがSDGs達成への鍵
–最後に、今後の石巻市の展望をお聞かせください。
石巻市:
市民のひとつひとつの取り組みがSDGsという大きな目標を完成させるパーツです。また、それらは地方創生にも繋がると考えています。すぐに大きな効果が現れることはないかもしれません。
それでも「電気はこまめに消す」「水を出しっぱなしにしない」などの小さな取り組みが、SDGsの達成に繋がっていることを認識してもらうことを第一に考えています。そうすると、他のことも意識できるようになるのではないでしょうか。
–ひとつひとつの取り組みが大切なんですね。
石巻市:
はい。その取り組みが形になってさまざまな面に良い影響が出て、それが目に見えてくると会話が生まれます。そして会話はアイデアを生み出します。
そこで出たアイデアが産業面の活性化にも繋がると思います。石巻発祥の産業が出てくるといいですね。
石巻市がまちとして生き残れるよう、また住みやすい場所だと思ってもらえるよう努力していきたいです。
–今日は貴重なお話をありがとうございました。
取材 大越 / 執筆 Mai Nagatani