#インタビュー

株式会社ハート|世界最高峰のオーガニック繊維基準認証を得て届ける、安心・安全な寝具類

株式会社ハート 山岡弘章代表取締役社長 インタビュー

山岡 弘章

幼少期の私の病気をきっかけに、父親が「この子が安心して眠れる布団を作りたい」と、オーガニック寝具製造を行う株式会社ハートを設立。オーガニックの寝具を高知から全国のお客様や海外に発信する両親を近くで見て育ち、生活の中でオーガニックは身近な存在であった。20代でアートや海外文化の勉強の為に4年半英国に渡る。英国で大学を卒業後、2011年より家具メーカーやファッションブランドのインターンを経て帰国。その後、株式会社ハート入社。19年常務取締役。20年4月より代表取締役。
「ヨーロッパでは人々が食や服、住居など生活のあらゆるジャンルでオーガニックが生活に密着していたのが印象的でした。日本でもオーガニックを当たり前に生活に取り込めるようにしていきたいと改めて感じています。」

introduction:

株式会社ハートの「本物のオーガニック寝具」は、現社長が幼少時代に患った重度の喘息がきっかけとなって誕生しました。「同じような子どもたちに、安全な寝具で安心な眠りを届けたい」…親である先代社長の思いが、日本の寝具メーカー初の国際オーガニック繊維基準「GOTS」の認証取得という快挙にも繋がりました。

今回は、山岡社長に、SDGsの観点も含めてオーガニック寝具の現状や進化の過程を伺いました。

アレルギーに苦しむ人々に安全な寝具でよい眠りを届ける

–まずは貴社の業務内容をご紹介ください。

山岡さん:

1988年の創業当初より35年間、安心安全な製品でよい眠りをお届けするために、オーガニック寝具を中心とするテキスタイル製品を企画、製造、販売しています。2009年に、寝具の会社として日本で初めて、取得が難しい国際オーガニック繊維基準「GOTS」と「OCS」の二つの認証を得て、自社製造工場にて正真正銘のオーガニック寝具を製造しています。

商品ラインアップは、生地、布団、シーツ、カバー、枕、クッション、タオル、毛布、肌着など多岐にわたります。2004年頃より海外の展示会にも出展を開始し、更なる展開のために、2020年にオリジナルブランド「SaFo」を立ち上げました。この名前は「行儀”作法”」が由来なんです。オーガニックに一定のルールがあるように、行儀作法に従って生活を送ることで気持ちよいライフスタイルが整う、という思いをこめています。

–なぜ、「本物のオーガニック寝具」を目指されたのでしょうか?

山岡さん:

私が幼少時に重度の喘息で苦しんだことがきっかけとなりました。私自身はおぼろげな記憶なのですが、4~5才のころは、夜寝るときになると発作が始まることが多く、何度も救急車で運ばれたそうです。呼吸が止まる危篤状態からなんとか一命をとりとめたこともある、重度のアレルギー体質だったんです。

父親が先代の社長ですが、両親は、同じような子どもたちが安心して眠れるような布団を作りたいと考え、オーガニックに行き着きました。「本物のオーガニック」を目指したのは、強いアレルギー体質の人は、微細なアレルゲンにも大きな反応が出てしまうからです。試行錯誤の末、世界最高峰の国際オーガニック繊維基準の認証を得ることもでき、現在の「ハート」に繋がっています。

日本で繊維のオーガニックにようやく関心が向き始めたのは、この10年、20年という感じですね。先代社長が銀行の頭取にオーガニックの説明をしたら、「ガーリックってそんなに身体にいいのか!」と返ってきたというエピソードがあるくらい、「オーガニック」という言葉も浸透していなかった時期の模索でした。

生産者・消費者・地球環境を守るためのGOTSの厳格な審査

–ご苦労の末、寝具メーカーでは日本初の「GOTS」の認証を得られたのですね。オーガニック繊維の基準について、詳しく教えてください。

山岡さん:

日本では、食品のオーガニック表記はJASに基づきますが、オーガニック繊維においては、国の法律で規定された基準が存在しないんです。したがって、日本で出回っている繊維のオーガニック商品は、実質的に無法地帯です。原料のわずかにオーガニック成分を含むだけで「オーガニック」を名乗れてしまいますから。そんな状況だからこそ、当社は世界基準の認証を得ることにこだわっています。

世界で使われている基準では、GOTS(Global Organic Textile Standard)が最もハイレベルで、ゴールデンスタンダードと呼ばれています。OCS(Orgainc Content Standard)の認証も取得していますが、どちらも生産者や消費者を取り巻く環境を守るために、厳しい基準が課せられています。

認証を得るには、原料から製品になるまでのすべての工程において、書類と実地検査を経て審査されます。GOTSの場合は、働く人々の健康に配慮ができているか、工場から周囲の環境に影響を与えるものを排出していないか、糸への加工、生地への加工、製品へのプロセスから販売店に届けるところまで、すべてが検査対象なんです。大きな努力を要しますが、弊社は毎年取得を更新しています。

–そもそも、繊維のオーガニックとはどのようなものを指すのですか?

山岡さん:

認証を受けた生産地から買い付けるのは、種の管理から始まり、三年間無農薬で育てられた綿花です。ただ、そのオーガニックコットンを用いた製品だから安心・安全なオーガニック、とは言えません。

たとえば、オーガニックのトマトを使ってトマトケチャップを作るとします。そのプロセスで化学調味料や着色料などの添加物を用いたトマトケチャップをオーガニック製品とは呼べません。繊維も同じことです。コットンから糸に、糸から生地にする工程で使われる、環境や健康に影響がある薬品は一万、二万と種類があります。当社は布団の生地、綿だけではなく縫い糸や品質表示タグの布に至るまで、環境や健康に負荷のかかるものは使いません。

微細な異物混入も検出するブラックライト検査

–貴社の、原材料調達から製品出荷にいたる流れを具体的にお聞かせください。

山岡さん:

日本にもオーガニックコットンの生産地はあるんですが、商業レベルで製品化するには国産では足りません。現状では、インドやアメリカなどから、オーガニック認証を得た原料を買い付けています。コットン全体のなかで、オーガニックコットンは約1%しか存在しないんですよ。圧縮されて届く原料をスタッフが丁寧に手でほぐしてから、専用機械でホッパー加工(原料に含まれる葉や枝などの混ざりものを取りつつ、固まりをほぐして空気を入れ、繊維を蘇らせてふんわりとした綿にする加工)を施します。

オーガニック布団でも縫い糸は化繊という場合もありますが、弊社はお客様の安心・安全を考えて、天然の綿糸を使います。化繊糸と比べてデリケートなため、縫製スピードが落ち、通常であれば10枚以上作れるところを1枚という非効率な生産工程ですが、「安全・安心」のため妥協はしません。

弊社は、生地にする工程は外注していますが、その工場がオーガニック以外の製品を扱う場合、そちらの薬剤が紛れ込むことのないように、用いる機械の清掃は完璧に施します。そこまでしても、時に微かに化学薬品や異物がまざることがあるんです。それを見つけだすのが、出荷前に施す「ブラックライト検査」です。偽札発見などにも使われる装置なんですが、僅かであっても薬品の残留や化繊を検知して、青く発光します。重症のアレルギー患者さんのために、この検査は欠かせません。少しでも発光が認められた製品は「オーガニック」としては出荷せず、アウトレットとして状況告知のうえで、それくらいなら大丈夫というお客様に割引いて販売したりします。

ブラックライト検査により検出されて光る残留薬品など

–一般的にオーガニック製品の価格は高めですが、貴社の製品も、これほど丁寧な工程を思えば、低価格では折り合いませんね。反面、消費者にとって、価格の高さはやはり問題点のひとつと思われます。そこはどうお考えでしょうか?

山岡さん:

SDGsの認識が高まっている今、安いものの背景には何か犠牲があると考える人が多くなっていると感じます。この20年くらい、ファストファッションや100円ショップなどで、安いものが溢れていますが、企業努力だけでその安さの実現はありえません。劣悪な労働を課せられている人々の存在があるかもしれないんです。 

本物のオーガニックには、生産者の労働環境や地球環境をも守ることが含まれますし、弊社のお客様は、安全なものとその適正な価格を理解して購入してくださっていると考えます。

ドイツやデンマークなどに行くと、スーパーでオーガニックのじゃがいもと普通のじゃがいもの価格が一緒だったり、時にはオーガニックのほうが安かったりもするんです。それぞれの国が、オーガニックを推奨して力を入れている結果だと感じました。

ヨーロッパで、「オーガニックって環境意識が高い人が買うものだよね」と言うと、「え、そうなの?」と驚かれます。大勢の人が自然とオーガニックを求めれば、供給もそのようになり、そこに競争原理が働くと、価格も必然的に下がる。当たり前の商品になるんです。逆にオーガニックを求めない社会だと、いつまで経ってもオーガニックは高級なもの、環境意識が特別に高い人が買うもの、で終わってしまいます。

現在、日本もずいぶん意識が変ってきたと感じています。やがては欧米と同じような感覚でオーガニックが浸透していくことを願っています。

SDGsを実践しつつ目指す「オーガニックが当たり前」の社会

–貴社製品の具体的な販売方法や、購買層の特色などがあれば教えてください。

山岡さん:

オンラインでの販売もしていますが、昔も今も、主力のお客様は全国の生協会員さんです。SDGsが叫ばれるよりずっと前から、生協さんがやってきたことはSDGsにほかなりません。理念が同じ弊社の製品を最も理解してくださるお客様層なんです。

メインの購買年齢層は、30代、40代でお子さんをお持ちの世代です。独身のころは美味しいものや綺麗な服を楽しんでいても、子どもが生まれると、身体によい食べ物、衣類、寝具への意識が高まるようです。

また、SDGsについての教育を受けている10代、20代の若い世代は、まだ購買層とはなりませんが、弊社の製品や企業のありかたに関心を持ってくださり、「研究や大学の論文で扱いたい」などの要望が増えています。

–その若い世代が「オーガニックが当たり前」の社会を作ってくれるといいですね。オーガニック以外でSDGsを実践されていることがあれば、ご紹介ください。

山岡さん:

オーガニック生地のハギレをパッケージの袋としてアップサイクルしたり、落ち綿(繊維くず)を使ったクッションなどを製品化しています。そのようなものには、廃棄されるはずのものを使っているというメッセージを添えますので、SDGsの啓発にもなるかと思います。

他にも重要視していることは、従業員教育です。製品の製造工程にしても、オーガニックやSDGsの大切さを知らなければ、「なんでこんなに面倒くさいことや時間のかかることをやらねばならないんだろう?」となってしまいます。何のためにやっているのかという知識があれば、作り手の意識も前向きに変化します。

弊社はもともとオーガニックを通じて地球環境に配慮した製品作りをしていましたから、SDGsがスタートした時は、従業員への説明がしやすくなって、本当にありがたかったですね。工場やオフィスでは、SDGs17のゴールのアイコンを、それぞれに当てはまる努力をしている場所に貼っているんです。「自分が今やっている努力はゴールの~番に繋がっているんだ」とわかると、より意識も向きますし励みにもなりますから。

–素敵なアイデアですね!最後に、今後の展望をお聞かせください。

山岡さん:

具体例を一つ挙げれば、2030年までに製造工程で廃棄されるものをゼロにすることを目標に掲げています。

大きな観点からは、「オーガニック」という特別意識がなくなることが、オーガニックが行き着く理想ですね。ヨーロッパのように、オーガニックが当たり前になれば、それを特別視する必要もなくなります。そのような状況や社会を創り出すことが、弊社の終着点、目標値だといえます。

–貴社の視点が常に地球環境にもあることに感動します。本日はありがとうございました。

関連リンク

株式会社ハート:https://www.heart-kochi.jp/