#インタビュー

【SDGs未来都市】広島県東広島市|世界に貢献できるイノベーション創造のまちとは 産学官民が連携し未来に挑戦する国際学術研究都市

東広島市 尾崎 諭さん インタビュー

尾崎 諭

2005年東広島市役所入庁。資産税課、社会福祉課、企画課、保育課を経て2022年度よりSDGs担当部署に所属。

introduction:

広島県東広島市は、1974年に誕生し、「賀茂学園都市建設」及び「広島中央テクノポリス建設」を機に、知的人材や先端技術産業の集積が原動力となり発展してきた市です。広島大学をはじめとした大学・試験研究機関も多く、学生や留学生なども含めた多様な人々が集います。

その中で新たなイノベーションを創出するために、豊富な人材や技術という地域資源を生かしながら、持続的に成長できるまちづくりを目指して大学や企業と連携が進んでいます。

今回は、2030年にあるべき姿を目指しSDGsに取り組む、東広島市総務部政策推進監の尾崎さんにお話をお聞きしました。

「国際学術研究都市」東広島市のルーツは、2つのプロジェクト

–まず、東広島市についてご紹介をお願いいたします。

尾崎さん:

東広島市は広島県のほぼ中央、文字通り広島市の東に位置しています。周囲を山々に囲まれた盆地状の地形を中心に、山間地から瀬戸内海沿岸までと市域が広く、自然豊かなのが特徴です。面積は東京都23区とほぼ同じ大きさで、人口は約20万人です。

1974年に4町が合併し、東広島市が誕生しました。その後、2005年にも市町村合併があり、現在の東広島市の形になりました。

また、日本酒造りは東広島市の伝統産業で、本市の西条は兵庫県の灘、京都府の伏見に並ぶ銘醸地と称されるほどです。JR西条駅前には7つの酒蔵が集積し、年に一度開催される「酒まつり」は例年20万人の人出でにぎわいます。

日本酒の普及を通して日本文化への理解を深めてもらうことを目的に、「東広島市日本酒の普及の促進に関する条例」(2013年7月1日施行)も定めています。

《酒まつりのにぎわい》

–東広島市ではまちづくりに対してどのような考えを持っているのでしょうか。

尾崎さん:

東広島市には、都市づくりを語るうえで欠かせない2つの歴史があります。

1つは「賀茂学園都市建設」というプロジェクトです。

《賀茂学園都市 広島大学》

1974年当時、現東広島市の大部分は「賀茂」という地名で知られていました。ここに「賀茂学園都市建設」のプロジェクトとして、広島大学の統合移転や近畿大学工学部移転、東広島ニュータウンの整備が決定し、東広島市が誕生しました。その後、1982年以降、「広島中央テクノポリス建設」のプロジェクトが加わり、公的産業団地や研究機関の建設地として現東広島市のエリアが活用されるようになりました。

《広島中央サイエンスパーク》

この都市づくりにおける2大プロジェクトの推進によって、産業・都市・高速交通・生活基盤が急速に整えられ、研究者や技術者などの知的人材が集積されました。これが、「国際学術研究都市」として歩み続けている東広島市の原点とも言えます。

そして今では学生や留学生も多く定着し、多様な市民が集うまちに成長してきました。

東広島市ではこの「知的人材が多く定着している」「先端産業が集まっている」という特性を生かし、今後、世界に繋がるイノベーションを起こせるような「人材力豊かなまち」として発展させていきたいと考えています。同時に、昔からこの地にある自然や文化を大切にし、多様なライフスタイル、価値観を持った市民が暮らしやすいまちづくりをめざしています。

SDGsの理念が基盤となった総合計画だからこそ、「SDGs未来都市」への応募は自然な流れ

–東広島市は広島県ではじめて「SDGs未来都市」に選定されました。SDGs未来都市の選考に応募したきっかけをお聞かせください。

尾崎さん:

本市がSDGs未来都市に応募したのは、2020年に策定された「第5次東広島市総合計画」がきっかけです。

第5次東広島市総合計画では、2030年のあるべき姿を「未来に挑戦する自然豊かな国際学術研究都市 ~住みたい、働きたい、学びたいまち、東広島~」と題し、

  1. 「世界に貢献するイノベーション創造のまち」
  2. 「暮らし輝き笑顔あふれる生活価値創造のまち」

という、まちづくりの大きな方向性を定めました。

この総合計画は、現市長のもとで策定されましたが、市長にはSDGsへの強い思いがあり、SDGsの理念である「誰一人取り残さない」を前提に策定されました。市の総合計画全体がSDGsの考えに基づいてできていたことから、SDGs未来都市計画へもスムーズに繋がっていきました。

自治体の仕事は多岐に渡り、セクションも細かく分かれていて、それぞれの部署の仕事にSDGsのゴールが紐づけて設定されています。

1つの部署で、定められた目標に向かって淡々と事業をこなすこともある意味必要ですが、SDGsの視点で考えると、何か1つの事業を進めることで、他のゴールやターゲットにも影響を与えることがあります。

新しい総合計画は、「目指すまちの姿」が最初にあり、それを実現するためにはどうすればよいかを考え、そこに向かって施策を推進する「バックキャスティング」の考え方が用いられています。

SDGsのゴールやターゲットと照らし合わせながら、「この事業を進めると、Aというゴールには近づくが、同時にBというゴールでは新たな課題が出るかもしれない」と視野を広く持って日常業務にあたることで、これまでとは違う工夫も、新たな視点も見えてくるのではないかと思っています。

このことから、持続可能な開発を実現する可能性が評価され、SDGs未来都市にも選ばれたと思っています。

–SDGs未来都市計画では具体的にどのようなことに注力されているのですか?

尾崎さん:

SDGs未来都市計画では「経済」「社会」「環境」の3つの側面からの取り組みを計画しています。

経済面での取り組みで現在力を入れているのは、大学や企業との連携でイノベーションが生まれやすい環境を作ることです。

本市の強みである学術研究機能の集積を活かし、イノベーションによる新たな価値の創造を目指して人材の交流やアイデアの融合を促進し、多様な分野で生産性の向上を図るとともに、次世代の産業を担う人材育成等に取り組んでいきます。

社会面での取り組みで特に力を入れているのは、学校教育です。

たとえば本市では、「一校一和文化学習」に取り組んでいます。本市の地域・文化を知り、誇りをもち、語ることができる児童生徒を育成することや、他人への思いやりや礼儀、自国の文化を大切にする心や他国の文化を尊重する心を養うことを目的としています。各学校でそれぞれの地域の実態などを生かして、歌舞伎・和太鼓・盆踊り等を取り入れて創作した表現活動、新たな地域文化を取り入れた活動などを行っています。また、地域の行事などで発信することにより、地域貢献につなげています。

《一校一和文化学習》

環境面の中心になっているのはゼロエミッションに向けた取り組みです。

例えば「広島中央エコパーク」は、高効率ごみ発電施設と汚泥再生処理センターをメインとした一般廃棄物処理施設です。

《広島中央エコパーク》

高効率ごみ発電施設に導入されている「ガス化溶融炉」は、1,800℃でごみを溶融することで、最終的に埋立処分が必要なものをゼロにすることができます。溶融後にできたスラグ・メタルや溶融飛灰まですべて再資源化されます。

またごみ処理の熱を利用して発電した電気は、施設内で使用したり、余剰分を売電したりするほか、広島中央エコパーク内の足湯施設に使ったりしています。

産学官民の連携・交流が問題解決のイノベーションを生み出す

経済・社会・環境それぞれの取り組みだけでなく、三側面をつなぐ統合的な取り組みもされているそうですね。

尾崎さん:

はい。三側面をつなぎ統合的に取り組むため「国際研究拠点ひがしひろしま形成プロジェクト」を推進しています。特にこのプロジェクトは、大学との連携がキーポイントになっているんです。

中でも広島大学との連携は他大学に先駆けて進んでおり、2021年10月に広島大学キャンパス内に「Town&Gown Office」を設置しました。

Townはまち、Gownは海外の大学生が卒業時に羽織るガウンということで大学。市の行政資源と大学の教育・研究資源を融合しながら活用していくことで、持続的な地域の発展と大学の進化をともに目指しながらまちづくりを進めていくことを目的にしています。

連携するうえで、市の職員と大学の先生方の見ている世界は異なる部分もあるので、ただ情報の共有をするだけでは、うまく連携できないのではという懸念がありました。

そこで、Town&Gown Officeには市から職員を出向させ、大学と一体となって課題解決を推進しています。

また「イノベーションは国際交流、多文化共生から生まれる」という考え方が根底にあるので、広島大学内に整備した国際交流拠点「広島大学フェニックス国際センター『MIRAI CREA (ミライ クリエ)』」に、市として参画しています。

この施設は、国際連携、地域連携、産学連携の拠点として、学生・研究者・自治体がディスカッションの場に使うなど、出入りが自由なオープンスペースです。また、上層階は留学生居室、研究者居室等があり、たとえば海外のトップ研究者用の居住スペースも設けるなど、安全で快適な生活環境の中で研究していただけるよう工夫をしています。

広島県東広島市
《広島大学フェニックス国際センター MIRAI CREA(ミライ クリエ)》

広島大学ではアメリカの「アリゾナ州立大学 サンダーバードグローバル経営大学院」とも連携しており、2022年8月には、「アリゾナ州立大学 サンダーバードグローバル経営大学院―広島大学グローバル校」をキャンパス内に設置しました。多様性がますます増してゆくと思いますし、海外発信の機会も生まれると思います。

また、市内にある近畿大学工学部・広島国際大学・エリザベト音楽大学との連携も進めており、近畿大学工学部や広島国際大学とは、今後、「Town&Gown Office」の設置も視野に入れながら協議を進めています。

他にも、国際交流を含め、さまざまなイノベーションが創出できるような場づくりやイベントなどの仕掛けづくりをしています。

そのための拠点として、市の中心部にオープンラボ「ミライノ+」をオープンしました。

地域・産業・学生・自治体職員が参加して地域課題について話し合うワークショップなどを行う施設です。

《「ミライノ+」イノベーションラボ(交流スペース)》

–「国際学術研究都市」としての姿を体現するような、官学連携の施策が充実していますね。

尾崎さん:

ここに「産」(民間企業)の連携も加わった新たな動きがはじまっています。

広島大学とのTown & Gownの取り組みに関心を持った民間企業も参画して、勉強会を重ねながら新しいまちづくりを目指してきたのですが、その内容をとりまとめた「次世代学園都市構想」を新たに掲げました。

この構想では新しいスマートシティを作り、世界中の研究者に本市を選んでもらい、そこからのイノベーション創出ができるような都市づくりを目指しています。

この取り組みを推進するためにできた共同体が「広島大学スマートシティ共創コンソーシアム」で、大学・自治体・企業が参加し共同で研究・実験をしており、これまでに大学を中心としたローカル5Gの展開や、「交通」「健康・福祉」「居住環境」「教育環境」「防災・防犯」「経済・生産」の各分野での取り組みを展開する前段として、これらの土台となるデータ連携プラットフォームの構築に挑んでおります。

現在、広大向け実証アプリ(TGOアプリ)を開発し、それに紐づく具体的なサービス(下図参照)を検討しているところです。新しいアイデア・コンセプトの実現可能性やそれによって得られる効果などの検証を広島大学スマートシティ共創コンソーシアム内で複数実施することとしております。社会実装を想定して進めているので、後々は市が展開している市民ポータルサイトとの連携をしながら、市民の利便性向上にもつなげていきたいです。

多種多様な方々に関わってもらいイノベーションをおこすのは、単に利益を追求するためだけではありません。サービスを構築し市民に還元することが、行政として「次世代学園都市構想」に関わる意義だと考えています。

しかし共同研究している企業は、社会貢献とともに、会社としての利益追求も求められていますので、「Win-Win」の関係を築くことが必要だと思います。

なお、今までのまちづくりは、概ね税金によって進めることが主でしたが、このプロジェクトは趣旨を理解し、賛同してもらい、資金も企業版ふるさと納税などの寄附をいただきながら進めています。

地方創生応援税制(企業版ふるさと納税)について

そこは今までの行政の取り組みとは違うところです。「イノベーションはお金をかけるだけでなく、連携から生まれる」というのが東広島らしく、大事にしてきた部分でもあります。

SDGs未来都市計画に定めた施策から、未来のまちづくりにむけた新しい構想も進んでいるのですね。他にもSDGs未来都市として注力している取り組みはありますか。

尾崎さん:

「SDGs未来都市東広島推進パートナー制度」にも力を入れています。現在約270団体(2022年11月現在)の登録があります。

この制度は登録するだけでなく、登録したパートナー同士が実現したい目標を達成するために連携する「マッチング機能」を有しています。

市の職員が登録企業や団体と直接お話ししてパートナー同士がマッチングすることもありますが、パートナー団体がプラットフォームに自由にアクセスし、自由にマッチングできる仕組みも合わせて持っているんです。

東広島市SDGs特設サイト:東広島市 SDGsパートナー

マッチングの事例としては、住宅メーカーと服飾雑貨の工房によるものがあります。

住宅建設時に使うブルーシートは建設が終わると廃棄されてしまうのですが、「そのブルーシートを何とか活用できないか」と考えた市内のバッグや小物づくりを手がける工房が、住宅メーカーからブルーシートの提供を受けておしゃれなエコバッグに見事にアップサイクルされました。ブルーシートは強度もあり、エコバッグとして良い素材だったようです。

市としては、これからワークショップなどの場を作って、パートナー同士のマッチングのやり方をもっと工夫していきたいと考えています。

多様なパートナーの縁結び役として、まちの力を引き出し理想の未来に近づける

–市民の皆さんや子ども達への啓発活動はどのようにされていますか。

尾崎さん:

「出前講座」と呼んでいますが、市民の皆さんに対してSDGsに関する講座を開いています。

本市が提供できる講座内容を一覧にして市の団体などに配り、要望を受けて開催する形です。市民のSDGsへの関心は高く、多くの要望があります。

学校でも同じように講座を開いていますが、今の子ども達は、SDGsネイティブと言っても良いのではないかと思うほど、SDGsの考え方が浸透しています。

私も自分の子どもに「手前どり」を促されたりすることがあり、大変頼もしいと嬉しく感じています。

–では、最後に今後に向けた展望をお聞かせください。

尾崎さん:

自治体の力だけで課題解決ができる時代ではないと強く感じており、いろいろな人達と連携し、パートナーシップを結びながら課題を解決していかなければならないと思っています。

地域の人々や企業は、大きな力やアイデアをお持ちです。そうした方々同士のマッチングを推進するとともに、市としてもこれまで以上に連携を深めていくことで、必ずいいまちができると確信しています。

自分たちの役割を再認識し、まちづくりをしていけば2030年には理想に近づいていると思います。

そこに向けしっかり取り組んでいきたいと思っています。

–これからどのようなイノベーションが生まれるか楽しみですね。本日はお忙しい中、貴重なお話をありがとうございました。

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