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人間開発指数とは?最新の世界ランキングや日本の現状も

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かつて、国の豊かさや進歩は、国内総生産(GDP)のみで測られることもありました。しかし、経済的な数値だけでは測ることのできない側面もあります。そこで発案されたのが、人間開発指数です。

この記事では、人間開発指数とは何か、何が分かるのか、日本の現状、向上に向けた取り組み、SDGsとの関係について解説します。さらに、国別・地方別の人間開発指数ランキングも紹介します。

人間開発指数とは

人間開発指数とは、各国の社会の豊かさや進歩の度合いを測る物差しです。英語ではHuman Development Indexと言い、頭文字をとってHDIと呼ばれることもあります。具体的には、長寿、知識、人間らしい生活水準の3つの分野について、0と1の間の数値で達成度を表します。

国の豊かさや進歩の度合いを経済の目線から測る指標に、国民総生産(GNP)や国内総生産(GDP)があります。これらは、国の所得を示す数値であり、実際に国民の健康や教育のために使われているのか、軍備に利用されているのかを知ることはできません。

一方、人間開発指数は、GNPやGDPだけでは測ることのできない各国の達成度合いが分かります。というのも、人間開発指数は物理的・経済的な要素に加え、教育や安全などがそろってこそ、真の意味の豊かさを実現できるという考え方に基づいているからです。この豊かさとは、次のような事項も含まれます。

■豊かさとは、物理的・経済的な要素に加えて…

  • 教育を受け文化的な活動に参加できること
  • バランスの良い食事がとれて健康で長生きできること
  • 犯罪や暴力のない安全な生活が送れること
  • 自由に政治的
  • 文化的活動ができて自由に意見が言えること・社会の一員として認められ、自尊心を持てることなど

こうした豊かさは、人間にとって本質的な選択肢と言えます。そして、人間がさまざまな選択肢を持つことを「人間開発」とし、「人間が自らの意思に基づいて自分の人生の選択と機会の幅を拡大させること」をこの目的としています。

求め方

人間開発指数は、注目する側面を指標に当てはめて求めます。計算に用いられる数値は次の3つです。

■求める際に使用される指標※( )内は、注目する側面

  1. 出生時平均余命(長寿で健康的な生活)
  2. 成人識字率/総就学率(知識)
  3. 1人当たりGDP(人間らしい生活)

これらを「平均寿命指数」「教育指数」「GDP指数」として0と1の間で数値化します。

1に近いほど人間開発が進んでいる、つまり個人の基本的選択肢が広いことを表しています。

歴史

人間開発指数の歴史は、国連開発計画(UNDP)が『人間開発報告書』を刊行した1990年に始まります。人間開発報告書とは、元パキスタン大蔵大臣、当時の国連開発計画(UNDP)総裁特別顧問のマブーブル・ハック氏が発案した刊行物です。持続可能な人間開発を目指すこと、そのためには経済成長だけでなくその恩恵を公平に分配する必要があるという考え方に基づいて作成されています。人間開発指数は、この報告書の一部に掲載されています。

報告書では、その時代の課題などをテーマに取り上げて論じています。過去3版のテーマを見てみましょう。

■過去3版のテーマ

2020年版「新しいフロンティアへ:人間開発と人新世」

2021-22年版「不確実な時代の不安定な暮らし:激動の世界で未来を形づくる」

2023-24年版「行き詰まりの打開〜分極化する世界における協調とは〜」

現在、人間開発指数は、世界全体の動向や各国の取り組みなどを知る資料として、学習や研究に使われています。

人間開発指数から何がわかるのか

人間開発指数は、前述の通り各国の豊かさや進歩を表しています。そしてこの数値を分析すると、現代社会の問題点を知ることが可能です。この2つの点から、具体的に何が分かるのかを確認していきましょう。

豊かさや進歩

人間開発指数は、その国の豊かさや進歩を表しています。この数値により各国の状況を知ることができるほか、過去のデータを比較することで、世界の人間開発の傾向を捉えることが可能です。『人間開発報告書2023/2024』を例に、具体的な内容を見ていきましょう。

まずは、1999年から2023年(予測)までのグローバルな人間開発指数の推移に注目します。指数は年々上がり、2019年には過去最高を記録しました。しかし、2020年と2021年は、パンデミックやウクライナ戦争などの影響により初めて減少しました。

2023年はその回復に関心が集まりましたが、結果は各国により大きな差が生まれています。経済協力開発機構(OECD)加盟国では、100%が回復したのに対して、後発開発途上国では49%と約半数にとどまりました。

人間開発指数は、各国の事情に加えて、世界全体で見たときの豊かさや進歩の不平等を知ることもできます。

社会の問題点

人間開発指数は、他の数値と組み合わせることで社会の問題点を洗い出すことができます。再び『人間開発報告書2023/2024』を例に、具体的な内容を見ていきましょう。

下図は、人間開発指数値とプラネタリー圧力指数値の関係を表しています。プラネタリー圧力指数とは、人間活動が地球環境に与える負担や影響を指します。

左下の人間開発指数(HDI)低位のグループでは、プラネタリー圧力指数も低いことが分かります。一方で最高位のグループは右上に位置し、プラネタリー圧力指数が最も高くなっています。

このデータから、人間開発は、地球環境を犠牲にして成り立っていると推測できます。地球環境に負担や影響を与えずに、豊かさや進歩を手に入れることが課題として浮かび上がります。

プラネタリー圧力の他にも、ストレスを感じる度合いや自国の政府に対する信頼感などの関係の分析にも使われています。

【2024年最新】人間開発指数ランキング

ここで、2024年最新の人間開発指数ランキングを紹介します。上位国と日本の順位を確認していきましょう。

■【2024年最新】人間開発指数ランキング(40位まで)

  1. スイス…0.967
  2. ノルウェー…0.966
  3. アイスランド…0.959
  4. 香港(SAR)…0.956
  5. デンマーク…0.952
  6. スウェーデン…0.952
  7. ドイツ…0.950
  8. アイルランド…0.950
  9. シンガポール…0.949
  10. オーストラリア…0.946
  11. オランダ…0.946
  12. ベルギー…0.942
  13. フィンランド…0.942
  14. リヒテンシュタイン…0.942
  15. 英国…0.940
  16. ニュージーランド…0.939
  17. アラブ首長国連邦…0.937
  18. カナダ…0.935
  19. 韓国…0.929
  20. ルクセンブルク…0.927
  21. 米国…0.927
  22. オーストリア…0.926
  23. スロベニア…0.926
  24. 日本…0.920
  25. イスラエル…0.915
  26. マルタ…0.915
  27. スペイン…0.911
  28. フランス…0.910
  29. キプロス…0.907
  30. イタリア…0.906
  31. エストニア…0.899
  32. チェコ…0.895
  33. ギリシャ…0.893
  34. バーレーン…0.888
  35. アンドラ…0.884
  36. ポーランド…0.881
  37. ラトビア…0.879
  38. リトアニア…0.879
  39. クロアチア…0.878
  40. カタール…0.875
  41. サウジアラビア…0.875

(引用元:人間開発報告書 2023/24年版 「行き詰まりの打開〜分極化する世界における協調とは〜」 | United Nations Development Programme

すべてのランキングは、人間開発報告書 2023/24年版 「行き詰まりの打開〜分極化する世界における協調とは〜」 | United Nations Development Programmeで確認できます。

日本における人間開発指数の現状

ランキングを確認したところで、日本における人間開発指数の現状を確認していきましょう。日本の人間開発指数の推移と、上位国に比べて順位の低い理由を見ていきます。

推移

2024年に発表された日本の人間開発指数は0.920、順位は193カ国中24位でした。これは最高位グループに入ります。そして、1990年から2021年の人間開発指数の推移は次の通りです。

日本の人間開発指数は、2021年までに0.845から0.925へと9.5%の改善を実現しています。この理由は、平均寿命が5.8歳、平均就学年数が1. 7年、予測就学年数が2. 2年とそれぞれ延びているからです。日本の1人当たり国民総所得は約18.8%の伸びを記録し、経済的にも改善しています。

一方で、前回版2021/2022年版の人間開発指数は0.925、順位は19位という結果でした。2023/24年版と比較すると、いずれも低下しています。とはいえ、パンデミックの影響からおおむね回復していると言えるでしょう。

上位国に比べて低い理由

日本の人間開発指数の順位は最高位グループに入りますが、他の経済協力開発機構(OECD)加盟国の中では決して高い方ではありません。その理由は、教育指数とGDP指数に上位国との差があるからではないでしょうか。

教育指数は学校で学ぶ年数、GDP指数はGDPをドルで表した数値で表しています。この2つの指数を上位国と比較すると次の通りです。

■人間開発報告書 2023/24年版「指数比較」

平均教育指数(年)GDP指数(2017 PPP ドル)
スイス(1位)13.969,433
ノルウェ(2位)13.169,190
アメリカ(20位)13.665,565
日本(24位)12.743,644
(引用元:HUMAN DEVELOPMENT REPORT 2023/2024

平均教育指数とGDP指数は、他の3カ国と比べていずれも低いことが分かります。

日本が人間開発指数を上げ、さらに世界の上位になるためには、これらの数値を改善していくことが必要になるでしょう。

【2024年最新】都道府県の人間開発指数ランキング

人間開発指数は国ごとに計算した数値ですが、地方別のデータもあります。最新版である2021年時点のランキングを見ていきましょう。

■【2021年時点】地方別の人間開発指数ランキング(「…」以降は人間開発指数)

  1. 南関東(埼玉、千葉、東京、神奈川、山梨、長野)…0.951
  2. 関西(滋賀、京都、大阪、兵庫、奈良、和歌山)…0.928
  3. 東海(岐阜、静岡、愛知、三重)…0.924
  4. 中国(鳥取、島根、岡山、広島、山口)…0.921
  5. 北関東・甲信(茨城、栃木、群馬)…0.913
  6. 北陸(新潟、富山、石川、福井)…0.908
  7. 四国(徳島、香川、愛媛、高知)…0.905
  8. 九州(福岡、佐賀、長崎、熊本、大分、宮崎、鹿児島、沖縄)…0.905
  9. 北海道…0.900
  10. 東北(青森、岩手、宮城、秋田、山形、福島)…0.893

(引用元:Subnational HDI – Subnational HDI – Table – Global Data Lab

上位には、大都市といわれている都道府県がランクインしている印象です。自分の住む地方の順位をどのように感じましたか?

人間開発指数の向上に向けた取り組み

人間開発指数を向上していくことは、社会の豊かさにつながります。グローバルな時代になった今、各国の格差を解消していくことは、重要な取り組みであると言えるでしょう。『人間開発報告書2023/2024』では、すぐに行動すべき分野として次の4つを挙げています。

地球環境に関する公共財の提供

世界は気候変動やパンデミック、生物多様性の破壊といった危機に直面しています。これらの課題に立ち向かうためには、世界が1つになることが必要です。そのためには、世界の誰もが受けられる「もの」や「こと」などの公共財を提供することが役に立ちます。

デジタルに関する公共財の提供

デジタル革命は、人々をもっと公平な形で豊かにすることが理想です。これを実現するためには、デジタル公共インフラやデジタル公共財を提供することが有効です。地球環境に関する公共財と同様に、グローバルな公共財であることが重要な点です。

金融メカニズムの構築

公共財は、世界の未来に不可欠な財源です。そして、これを実現するためには、新しい金融メカニズムを構築する必要があります。低所得国の開発支援や人道支援を補完し、国際協力の新しい道筋をつける新たな拡大型の金融メカニズムをつくります。

政治的分極化の抑制

人間開発の向上には、国際協力が必要です。しかし、各国内では政治が両極端に振れる分極化が進行し、これを妨げています。実際、世界人口のおよそ7割が、自国政府の決定にほとんど影響力を持たないと回答しています。政治に対する人々の発言力を高めていく必要があるでしょう。

こうした分野に対して取り組み、人間開発の向上につなげていくことが求められています。

人間開発指数とSDGs

最後に、人間開発指数とSDGsとの関係について確認しましょう。人間開発指数を向上させることは、SDGsの達成に貢献します。

SDGsは、貧困や飢餓の撲滅、健康の促進、教育の提供、人や国の平等などの目標を掲げています。これらは、社会の豊かさや進歩に直結しており、人間開発指数を向上させることで実現します。

2019年時点では、2030年までに世界の人間開発指数は最高位グループの基準である0.800を超え、SDGsの達成期限に間に合うはずでした。しかし、パンデミックの発生やウクライナ戦争の勃発などにより、その軌道を外れているのが現状です。

しかし、人間開発に引き続き取り組み、持続可能で豊かな社会を実現していくことに変わりはありません。今後も社会の課題を捉えながら、人間開発の向上を目指します。

>>SDGsに関する詳しい記事はこちらから

まとめ

人間開発指数は、国連開発計画(UNDP)が刊行する「人間開発報告書」において示される各国の社会の豊かさの度合いを測る物差しです。長寿、知識、人間らしい生活水準の3つの分野について、各国の達成度が分かります。

日本の人間開発指数は1990年から上昇し、2024年には193カ国中24位と、最高位グループに位置しています。一方、後発開発途上国とOECD加盟国との間には差も生じているのが現状です。

人間開発指数は、気候変動などの世界的な課題につながっています。そしてこうした課題に立ち向かうためには、国際協力が欠かせません。公共財の提供や金融メカニズムの構築などに取り組み、全体で改善していくことが必要でしょう。その先には、持続可能な社会の実現があります。

<参考>
人間開発報告書 2023/24年版 「行き詰まりの打開〜分極化する世界における協調とは〜」 | United Nations Development Programme
2021/2022 年版人間開発報告書に関する国別ブリーフィング・ノート日本
人間開発ってなに?ーほんとうの豊かさをめざしてーUNDP
UNDP人間開発報告書 最新版発表: 豊かな国では人間開発が記録的水準に達する一方、 最貧国の半数の状況は後退 | United Nations Development Programme