#SDGsを知る

ドーナツ化現象とは?問題点・原因とデメリット、対策を簡単に解説

ドーナツの美味しいイメージとは裏腹に、「ドーナツ化現象」は、様々な問題を引き起こしてしまう社会現象です。本記事では、「ドーナツ化現象」ということばの語源や問題点、対策についてまとめていきます。

人口減少や少子高齢化が顕在化して久しい日本ですが、コロナ禍でよりクローズアップされたようです。

読み終わった後「持続可能でだれもが安心した生活」を見通せる一助となれば幸いです!

▶︎関連記事:「人口問題とは|日本と世界の現状や問題点、解決策まで

ドーナツ化現象とは

ドーナツ化現象とは、高度経済成長期からバブル経済期にかけて、都心部で暮らす人が郊外に引っ越し、都市部の人口が減ってしまい、郊外の人口が増えた現象のことです。

中心部にある都市部が空洞化することから、ドーナツ化現象と呼ばれました。

次の東京の人口分布グラフを見るとは、まさに「ドーナツ」のような形になっていることが分かります。

          

実は筆者は子供時代から20歳を過ぎるまで、このドーナツの輪の部分で暮らしていました。

都内の特別区いわゆる23区から20km程北にある地方都市です。

住んでいた町や通っていた学校の様子、通学に大変な思いをしたことなど、記事の中で触れながら進めていきたいと思います。

都市と郊外

ドーナツ化現象の理解を深めるために、「都市」と「郊外」を知るところから始めましょう。

「都市」を広辞苑で引くと、”人が多く集まり、政治・経済・文化の中心になっていところ”とあります。他の多くの辞書でもほぼ同じ内容です。

総務省では、統計の必要上、

  • 大都市:50万人以上
  • 中核都市:地方自治法で指定を受けた都市
  • 特例都市:中核都市のうちさらに必要な条件を満たした都市
  • それ以外の都市:10万人以上を中都市、それ未満を小都市

と区別をつけています。

また、国土交通省は都市圏を大都市圏と地方圏に分けています。

  • 三大都市圏:東京圏・名古屋圏・大阪圏
  • 東京圏:埼玉県・東京都・千葉県・神奈川県
  • 名古屋圏:岐阜県・愛知県・三重県
  • 大阪圏:京都府・大阪府・兵庫県・奈良県
  • 地方圏:三大都市圏以外の地域

続いて郊外は、「都市圏の内部で、かつ中心区域に含まれず、都市部の隣接する地域」です。

ドーナツ化現象の原因

では、ドーナツ化現象は何故おこるのでしょうか。

地方圏から大都市圏における人口が移動する原因は、所得と雇用が大きく関連しています。就学や就職を機会に大都市圏に移住し、卒業後も交通網の発達、就業先や施設が充実しているため、多くの人が集まります。

人が増え続ければ、住宅の不足、地価の高騰、ゴミの処理等々、人口密集に伴う問題が起こってきます。

これにより住宅取得が困難になったり、より広い家に住みたいと願ったりする人々は、地価が安く、人もそれほど多くない郊外に住居を求めていくのです。

初めは通勤通学の利便性から、都心に近い居住地を選びますが、その地域が人気が出ると、地価や居住費が高騰していくため、さらに郊外に向かいます。

そして中心地が空洞化するドーナツ現象が発生するのです。

ドーナツ化現象と一緒に抑えておきたいキーワード

ここからさらに踏み込んだ内容に入っていきますが、抑えておきたい3つのキーワードについて簡単に確認しましょう。

①インナーシティー(inner city)問題

辞書では、「都心の/スラムの」と書かれています。補足として「スラムの遠回し表現」とあります。(ジーニアス英和辞典)

ドーナツ化現象における中心部の衰退化した区域を指します。

関連記事:スラム街とは?原因や世界の現状と問題点・なくすための対策、SDGsとの関係

②スプロール(sprawl)現象

sprawl は、「だらしのない/無秩序な/まとまりのない,またはその現象」(前述辞典)の意味で、都市郊外に住宅地が無秩序・無計画に広がっていく現象を指します。

③都心回帰

1990年代後半都心部の地価の下落などがあり、再び都心部に人口が再琉入した現象をいいます。

ドーナツ化現象の変遷

では、この3つのキーワードを踏まえて、具体的にどのような事が起きたのかを見ていきましょう。

1970年代~1980年代半ばのドーナツ化現象

1950年代の高度成長期、三大都市圏では急激に人口が増加しました。1970年代半ばになると、名古屋・大阪圏で落ち着きを見せ、人口の推移は横ばいに。東京圏では、1980年代半ばのいわゆるバブル経済により一時転入超過数は増加したものの、その後ドーナツ化現象が発生しています。

筆者の家族が次々と建設された公団住宅に当選し、東京23区内から転出したのもその頃です。

下のグラフをご覧ください。

東京23区・名古屋市・大阪市における転出入超過数の推移

三大都市圏の中でも、中心となる東京23区、名古屋市、大阪市の転出入超過数が、どれも昭和50年代までに急激に減少しており、ドーナツ化現象を裏付けています。

1990年代後半の都心回帰

しかし、同じグラフで昭和50年代後半にどれもまた増加傾向を示しています。これは、都心部の地価の下落・住宅ローン金利低下等を背景に、三大都市圏で人口移動が再び集中する「都心回帰」が進んだと言えます。

特に東京23区では、この後も都心回帰は進み続けました。ドーナツの空洞化部分の環境が改善され、所得や雇用条件のよい東京都内に再び人口が集中していったのです。(逆ドーナツ化現象とも呼ばれます。)

この頃になると、日本中で人口が減る中、東京に転入する人口が極端に多い「東京一極集中」が顕著に見られるようになりました。

都道府県別の転入・転出超過数と合計特殊出生率※aの比較

都道府県別の転入・転出超過数と合計特殊出生率※aの比較
出典:国交白書

※a 合計特殊出生率:その年次の15~49歳までの女性の年齢別出生率を合計したもので、1人の女性が、仮にその年次の年齢別出生率で一生の間に子どもを生むと仮定したときの子ども数に相当する

国土交通白書 2015

コロナ禍により再びドーナツ化現象が

 「都心回帰」の話をしたばかりですが、また東京に極端な傾向が現れている次の資料をご覧ください。

①都道府県別転入超過数(2019年、2020年)

都道府県別転入超過数(2019年、2020年)
出典:総務省統計局

2019年にはまだ典型的な「東京一極集中」の様子を表していますが、コロナが本格化した2020年半ば頃から、一気に人口減少に転じています。

②東京都、特別区※b、市町村の総人口の対前年同月増減率の推移

※b 特別区

東京23区

②のグラフから分かるように、人口減少は東京都の中でも都内23区で生じていると言えます。市町村区域の人口がわずかに増加していることから、ドーナツ化現象を示していると言えそうです。

原因として、都内のコロナ感染状況への不安、リモートでの在宅勤務・授業の増加が上げられます。これまでのように、進学・就職を機に都内に転入するという人が少なくなり、今まで住んでいた人も転出するケースが増えていると考えられます。

しかし、以前のドーナツ化現象と比べ、東京都市町村地区や東京圏と言える近隣三県での人口増加が顕著ではありません。郊外へ、より郊外へと広がっていった、まさにドーナツの型を表していた以前の現象とは異なる様相が感じられます。

ドーナツ化現象による問題

イメージ画像

では、ドーナツ化現象は何が問題なのでしょうか。次は、その点について話を進めていきたいと思います。

ドーナツのホール部分の問題

ドーナツのホール、つまり都心の空洞化した部分についてです。

住民が減れば、地域財政が苦しくなり、施設の有効使用数が減り、商店街はシャッター街となっていきます。

郊外に移り住んだ人は、昼間は都心部で仕事をしても夜間は郊外へ帰宅し、昼夜の人口差にかなりの開きが出てきます。そのため夜間の治安が懸念され、インナーシティ問題の引き金となるのです。「ゴーストタウン」などどいう言葉も思い浮かびます。

また、都内から転校してきた筆者の小学校の同級生は、「子どもが居なくなって、元の学校がなくなった。」と話しており、「東京の学校が姿を消す!?」と驚き、子どもなりに都心部の学校数の減少を実感したものでした。

ドーナツのリング部分の問題

どんどん増えていく人口を抱えることになった地域には、

  • 人口の増加を受け入れるためのインフラが間に合わない
  • 住宅や必要施設、道路等を建設するために自然環境が破壊されていく

と、ほとんどがスプロール現象を引き起こしてしまっています。

インフラ整備が追い付かなければ、学校や病院など、生活に直結する施設も不足してしまいます。反面、急激に進めることで、元々住んでいた方たちとの暮らしも脅かしてこともあります。

自然破壊が進むことで、災害に弱い地域となる危険性も否定できません。

筆者の住んでいた地域には、どんどん新しい学校が増えていき、学区再編成が行われました。そのため筆者も新しい小学校と中学校で卒業を迎えています。

当時、学校が完成しても今度は通学路の整備が追い付かず、某研究所と国の敷地の間に通された通学路を使って通学していました。中学校は校舎の建設が間に合わず、1年生の1学期は他の学校の校舎に間借りしていた記憶があります。

両者間の問題

イメージ画像

スプロール現象下、多くの人々が郊外に住み、都心に通うことは、通勤・通学電車や道路の混雑を招きます。

第一次のドーナツ化現象当時、都心に向かう電車路線は多くなく、朝夕の混雑度は常に100%以上であり、ストレスであるばかりでなく、安全性でも大いに問題がありました。

高校に通う満員電車に乗って片足を上げると、おろすスペースが無いこともたびたび。当時、「東京の学校」へのこだわりを持つ親も多くいたものの、電車の混雑状況から子どもを都内へ通学させることをあきらめた家庭も見られました。

また、高速道路でも同様の混雑問題は発生しており、渋滞の激しい首都高速(道路)を首都低速と揶揄している人もいたほどです。

ドーナツ化現象の対策

では、ドーナツ化現象・逆ドーナツ化現象の問題を解決し、さらに人口減少や少子高齢化の現在・将来を見通した住みよいまちづくりは、どのように目指せばよいでしょうか。

最後に「コンパクトシティ」を手掛かりに、一緒に考えていきましょう。

[1] コンパクトシティ compact city の推進

コンパクト は、「引き締まった」「無駄のない」「こじんまりした」という意味を持つ言葉です。

無秩序な開発をあらため、行政・商業・住宅機能を集約させた都市構造が、コンパクトシティです。

OECD ※c の提唱に基づくと、

  1. 高密度で近接した開発形態
  2. 公共交通機関でつながった市街地
  3. 地域のサービスや職場までの移動が容易

という特徴を持った都市構造を示します。

1990年代になり、開発と環境のバランスを図ろうとする流れが強くなる中で、ヨーロッパでは、当初から集約型都市を目指すところがでていました。

日本でも、まちづくりに関する法律が整備されてきました。2006年には、いわゆる「まちづくり三法 ※d 」が改正され、コンパクトシティへの注目が高まるようになりました。

※c OECD:先進工業国経済協力機構 

※d まちづくり三法:土地の利用規模を促進する「都市計画法」、生活環境への影響を考慮した大型店出店の仕組み定めた「大規模小売店舗立地法」中心市街地の空洞化を食い止めるための「中心市街地の活性化に関する法律」の三法

コンパクトシティのパターン

実際のコンパクトシティにはいくつかの類型があります。代表的なのは次の3つです。

コンパクトシティのパターン
出典:国土交通省

混合型で取り組む自治体もあり、現状や目的に沿った取り組みがされています。

関心の高まってきているコンパクトシティですが、どのようなメリットがあるのでしょう。

視点を定めて整理していきたいと思います。

[2]コンパクトシティの効果

<社会的な利点>

ある程度の人がまとまって居住することによって、産業も成立しやすくなり、福祉・商業等の生活サービスの持続性も向上します。民間のサービス業だけでなく、除雪や訪問介護等の公的サービスも効率化されます。

また、各施設の配置を見直すことで、住民がさらに利用しやすくなるでしょう。これにより利用頻度も上がり、本来の機能の活性化につながるのです。

<環境面の利点>

コンパクトな範囲は、徒歩や自転車での移動ができ、さらには高齢者でも外出しやすくなります。公共交通機関を充実させることで自家用車の利用度が減れば、排気ガスの低減につながります。

<経済的な利点>

下のグラフから、都市のコンパクトさと行政コストの関係を見ることができます。

人口密度が高いほど、行政コストが低いことが分かります。

         一人当たりの歳出とDID地区 ※e 人口密度の関係

       

都市構造がコンパクトになり、人口密度が高まると、行政サービス効率よく提供できるようになり、一人辺りの歳出をおさえることができます。余裕ができれば、より住みやすいまちづくりへの投資も可能になるでしょう。

※e DID地区

人口集中地区 Densely(密に) Inhabited(人が住んでいる) District(地域)

[3] 自治体による中心市街地への移住促進

各自治体も、コンパクトシティ推進に向けて取り組みを進めています。

国土交通省では、居住エリアの環境向上等による「コンパクトなまちづくり」 と題し下記5つをポイントとして挙げています。

・日常生活の利便性向上

・移転跡地の管理・利用の促進

・都市農地の保全・活用

・官民データの活用

・広域連携の推進

また、コンパクトシティを推進したい自治体に向けて計画策定や移住のための災害ハザードエリアを考慮した居住区域の調査など、具体的な支援も行っています。

[4]郊外で増える空き家の有効活用

空き家は、ドーナツ化現象や少子高齢化の影響により、この30年間で2倍以上に増加しています。

地域の防犯性や衛生面において悪影響を及ぼす存在となってしまう空き家は、所有者に対しても税負担が重くのしかかることも問題となっています。

国土交通省では、全国で課題となる空き家の活用事業として平成30年(2018年)4月より「全国版空き家・空き地バンク」を運営しています。

全国の自治体毎に管理されていた空き家情報が一挙に集うことにより、空き家所有者と空き家の利用希望者をプラットフォーム上でマッチングすることを可能しており、ドーナツ現象を食い止めたい狙いも含んだものです。

ドーナツ化現象とSDGs目標11「住み続けられるまちづくり」との関係

ドーナツ化現象を防ぐためにコンパクトシティを推進することは、SDGsの達成にも貢献できます。

最後に、コンパクトシティの推進と、SDGsとの関連を見ていきましょう。

SDGsとは、Sustainable(持続可能な) Development(開発) Goals (目標)の略で、読み方はエスディージーズ です。

SDGsは、2015年9月の国連総会で、193の加盟国の全会一致で採択されました。

「地球上のだれひとり取り残されない」という理念のもと、世界が抱える「環境」「社会」「経済」の課題を17の目標としてまとめ、それぞれ2030年までの達成を目指しています。

コンパクトシティを推進することは、以下のさまざまな目標の達成に貢献するのです。

コンパクトシティの各利点をSDGsの視点で整理してみます。

まずこの構想全体が、SDGs目標11「住み続けられるまちづくり」に直結しています。その他にも、以下の点が関連します。

  • 環境的利点とSDGs:公共交通機関の充実・だれでも外出しやすい環境・排気ガス低減
  • 社会的な利点とSDGs:産業の成立とサービスの充実
  • 経済的な利点とSDGs:行政コストが抑えられる

財政については、財源の確保や使い方、コストの削減に仕方によって、すべての目標につながる可能性があります。

このように、誰もが住みやすいまちづくりを進めることで、その他の課題も連動して解決できることが期待されているのです。

まとめ:新しいまちづくりを目指して

この記事では、ドーナツ化現象について、体験を交えながら見てきました。

時代によって、生活様式は変化をしていき、それに伴いさまざまな課題を抱えるようになります。

2020年当初から始まったコロナ禍もその一つです。コロナ禍は、新しい生活スタイルを探る大きなきっかけとなりました。テレワークやペーパーレスといったワークスタイルは、働き方を変えてきています。Afterコロナでも、3密を回避し、過度な接触を前提としないという考えは続いていくでしょう。

高齢女性の筆者は、自分の体調に合わせて時間を使えるので、この働き方の恩恵をとても受けています。

コンパクトシティに取り組み成果を上げている自治体は増えているものの、課題があることも否定できません。

機能の中心地をどこにするか、ネットワークで結ばれた地域同士の利害関係は相反しないか等の問題を、修正しながら進めている自治体が多いのも事実です。

個々人が、自分の生活スタイルにあった心地よく住み続けられるまちを選べ、みんなが充実した日常を手に入れやすくなることを切望しています。