#インタビュー

ICS-net株式会社 |「その原料シェアしませんか?」食品原料のプラットフォームやアップサイクル・フード開発で製造段階の食品ロスを削減!

ICS-net株式会社 広報担当 山口さん インタビュー

山口 幸補

長野県長野市出身。青山学院大学を卒業後、人材サービス会社パソナに入社。営業部門を経て、役員秘書・人事などを経験。結婚を機に一旦退社したのち、UIUXのコンサルティングファームの広報担当に従事。しかし2020年、コロナ禍の影響による会社の倒産を経験。同年フリーランスに転身し、大手企業から中小企業に至るまで約10数社の広報業務に携わる。ICS-netとはフリーランス時代に出会ったが、地元・長野発のスタートアップ企業であることと、「食品ロスを世界から無くす」という強い想いに押されて2023年より参画。現在は、食品原料のWeb売買プラットフォーム「シェアシマ」の認知拡大のため、広報担当に従事。

introduction

2017年創業のICS-net株式会社。「大切な食資源を活かす」をパーパスに掲げ、食品業界の見えざる課題を解決するWebプラットフォーム「シェアシマ」を運営しています。

シェアシマの語源は、「その原料シェアしませんか?」。食品業界における川上から川下まで幅広い領域を事業対象としながら、業界全体の業務効率化および製造段階で発生するフードロス削減を目指しています。

今回は、広報担当の山口さんに、製造段階で発生する食品ロスや、シェアシマのサービス発足の背景などをお伺いしました。

日本で食べ物がなくなる未来を食い止めたい。「大切な食資源を活かす」方法を提示

ー会社概要と事業内容を教えてください。

山口さん:

ICS-netは、元々大手食品メーカーで勤続20年だった代表の小池が、2017年8月に創業しました。「大切な食資源を活かす」をパーパスに掲げ、シェアシマを通じて「食品ロスのない世界」を目指しています。

ー代表の小池さんが、勤続20年の会社を辞めてまで「起業しよう」とお考えになった背景を教えてください。

山口さん:

小池は食品メーカーで製造や営業、商品企画などの部署を横断してきたのですが、その間に「商品開発に大変な労力やコストがかかるということ」「製造段階で出されてしまう食品ロスが非常に多いこと」「日本の食品メーカーは、すでに海外に『買い負け』していること」の3つの課題に気がついたそうです。

2021年に農林水産省が実施した調査によると、日本で発生する食品ロスは年間で523万トンあると言われています。その中でも食品製造業で出されてる食品ロスは125万トン、なんと全体の約24%を占めるんです。ただ、基本的に店舗に並んだ商品しか目にすることのない消費者の方が、製造段階の食品ロスに気づくことは難しいですよね。だから、通称「隠れフードロス」とも言われています。小池は、この実態を変えようと考えました。

ーこの製造段階の食品ロスとは、具体的にどこを指すのかお教えいただけますか?

山口さん:

例えば最終商品が「カップの味噌汁」だった場合、乾燥ワカメや豆腐、ネギ、お味噌など入っている具材の分だけメーカーさんが関わっています。そこで、もしも余剰在庫が生じてしまったら、各メーカーさんの工場でロスが発生するんです。さらにはロット数が非常に大きいため、それぞれで何キロ、何トンという単位の食品ロスになります。

それ以外にも、製造段階で出る余分な切れ端や、中身には問題がなくても外装の見栄えが悪くなったものなども、製造段階の工場で廃棄されています。

ー消費者に届くまでにも、廃棄が発生してしまっているんですね。

山口さん:

特に日本では、四季折々に新商品がでますよね。海外では通年同じ商品しか置かないことも多いのですが、日本のスーパーやコンビニでは商品棚が次から次へと変わります。これは日本の「お客様を大切にする」企業姿勢の表れですから、消費者としてはうれしいことかもしれません。しかし万が一、新商品を作っても売れないことがあった場合には、作ったものと実績の差分だけ、各原料メーカーさんで食品ロスが出てしまうんです。

–「日本の食品メーカーはすでに海外に『買い負け』していること」についても詳しくお聞かせください。

山口さん:

小池が食品メーカーにいた頃、原材料の仕入れでよく海外に行っていたそうです。しかし、国によっては「日本には売りたくない」と言われてたことがあったそうです。日本は人口が少ないので量を買ってくれない。にもかかわらず品質にはうるさく、さらにはお金まで値切るので、売りたくないのだと言われたそうです。つまり、日本はすでに海外に「買い負け」をしているんです。今後、日本に輸出したくない国がもっと増えてもおかしくありません。

ー日本は食料自給率の低い国ですから、輸出してもらえないと食料が足りなくなりますよね。

山口さん:

現在の日本の食料自給率は、カロリーベースで38%です。これ自体も非常に低い数字なのですが、例えば「国産の牛に与えている飼料は海外産」ということも少なくありません。「純粋な国産100%」なものは、ほぼゼロに近いといっても過言ではありません。食料自給率が低いうえに海外市場では買い負けをしているのですから、いずれ日本人は食べるものはなくなるかもしれません。この現実を重く受け止め、「せめて今ある食材を大切にしたい」と考え誕生したのがシェアシマです。

食品業界のデジタル化で食品ロスを削減

ー製造段階での食品ロスを減らすために開発された、創業当時の事業について教えてください。

山口さん:

当社はもともと、食品の原料卸業として事業をはじめました。そして2019年3月、現在のシェアシマ母体となる食品原料のサプライヤーとバイヤーが集うWeb原料検索サービスをスタートさせました。

シェアシマでは、「健康食品だけ」「野菜加工品だけ」など特定の分野に絞らず、原料を総合的に取り扱っています。分野が絞られていない原料検索サイトは日本にはほとんどなく、世界を見ても類似したサービスはまだ4つほどしかありません。(ICS-net株式会社調べ)

ーWeb原料検索サービスとは、誰がどのように使うものなのですか?

まずユーザーの属性は大きくサプライヤーである売り手と、バイヤーである買い手の大きく2つに分けられます。その売り手側が持ってる課題は、「商品を届けたい人に、情報を届けられない」もしくは「届いているのかわからない」などといったものです。反対に買い手側の課題は、「新商品を出したいけれど、商品開発に見合った原料が見つからない」「新商品を作りたくても、どこで情報を得たらいいかがわからない」といったものになります。簡単に言うと、どちらも「情報不足」で困っているんです。シェアシマではそんな売り手と買い手をWeb上で繋ぐことができますので、それぞれの課題を解決できるんです。

ー通常、食品原料はどのような方法で情報収集されているのでしょうか?

山口さん:

食品原料における情報収集の方法は主に3つあります。1つ目は既存のつながりから情報収集すること。これは社内・問屋・商社などが相談先に当たります。2つ目は、食品業界の専門誌を見ること。3つ目は、展示会などに赴き出展ブースを訪問すること。もちろん、Webで調べたりすることもありますが、現状業界情報に特化したページはそう多くはありません。

シェアシマは、Web上にすべてのカテゴリの原料情報が掲載されています。ですので、既存の情報収集にとどまらず、全く新しい方法で時間・場所にとらわれることなく広く情報を仕入れることが可能です。なおシェアシマの転換期となったのはコロナ期でした。コロナ期には先ほどの3つの方法で情報を仕入れることがなかなか難しくなったため、「Webで原料を検索できる」シェアシマの需要が一気に高まったんです。

ーシェアシマでは「原料を探す」だけでなく、さまざまな事業を展開されていますよね。

山口さん:

「原料検索サービスからスタートしたシェアシマですが、現在は食品業界全体のお困りごとを解決する総合プラットフォームへと成長を遂げています。

シェアシマを運営するなかで、原料検索に限らず、食品業界では企画・開発・品質管理・営業に至るまであらゆるプロセスで課題が山積していることがわかりました。それらを解決するためにサービスの裾野を広げていったのです。

具体的には、商品開発に役立つ情報を提供する「シェアシマセミナー」、トレンド・行政情報や製品情報が手に入る専門メディア「シェアシマinfo」、商品を製造したい人と工場をつなげる「シェアシマOEM」、商品情報をWeb上に集めたデータベース「シェアシマ製品情報サーチ」などです。

また「アップサイクル・フード」は、余った原料の出品や商品化のサポートをしています。

廃棄食材から商品化を実現する、長野アップサイクル・フード

ーそのアップサイクル・フード事業について、詳しく教えていただけますか?

このアップサイクル・フード事業が始まったきっかけは、2022年に長野市と共同で発足した実証事業「サーキュラーフードプロジェクト」です。長野市は善光寺やウインタースポーツなど観光で有名である一方、少子高齢化や都市部への人口流出の影響で人口の減少が続いています。そこで長野市では経済を活性化させる仕組みを作り、人口減少を食い止めるため「スマートシティNAGANO」という構想を立ち上げました。その柱の1つがフードテック事業であったことから、弊社がご縁をいただいてプロジェクトを担うことになったのです。

プロジェクトの内容は、食材におけるサステナブルを追及するというもの。廃棄される食材の実態調査から、捨てられる素材を使った商品企画、商品の製造、販売までを行いました。もちろん、そのすべてを私たちだけで実施することはできません。弊社がハブとなりながら、さまざまな会社と協力して商品販売まで実現しました。現在は、それをブランド化して「長野アップサイクル・フード」と謳っています。

ープロジェクトにおいて、大変だったことはありますか?

山口さん:

プロジェクトのスタート部分である「廃棄される原料の実態調査」もスムーズにはいきませんでした。企業のイメージにもかかわるため、製造段階で出される食品ロスは明るみにはなりにくいからです。代表の小池がさまざまなメーカーさんに通っても、廃棄される原料を見つけることはできませんでした。それでも諦めずに調査を続けた結果、食肉加工工場さんから「レバーとハツが余っている」というお声をいただいたんです。

福味鶏の飼育風景:写真提供:ICS-net

レバーとハツは、当時コロナ禍で居酒屋さんからの需要が激減してしまったことから余ってしまっていると聞きました。そして「レバーとハツを商品化しよう」という話になったのです。

そして開発されたのが、「ふくふくレバー」というグルメ缶詰です。

ただし、商品化までの企画・開発も簡単ではありませんでした。現在の日本では「余ってしまったもの=価値が薄れたもの」と捉えられることも少なくありません。そんな文化的背景のなかで、いかに我々の取り組みの背景・意義を理解していただくかは重要なポイントです。

余ってしまったから価値がないのではなく、あくまで良い素材を活かしたグルメ缶詰であるということをまず認知していただく。その上で、食品製造段階における隠れフードロスを知るきっかけにするため、メッセージの伝え方にも細心の注意を計りました。そうして完成した「ふくふくレバー」は、現在長野市だけでなく東京都内でも販売されています。

左から、「ご褒美パテ」「生姜香る時雨煮」「贅沢ネギ塩」:PRTIMES STORYより
左から、「至福のアヒージョ」「おとなの焼肉味」「旨辛ッヤンニョム」:PRTIMES STORYより

その他、「長野アップサイクル・フード」で作った商品には、お土産品のウエハースの切れ端から作ったクラフトビール「信都ご縁エール」や、ブランド品種であるものの形や大きさが不揃いのトマトを混ぜ込んで作ったカレー「長野県立大学生オリジナルSKIスキカレー」があります。

実はこれらの商品名やパッケージデザインは、ワークショップを通じて長野県立大学の学生さんに考えてもらいました。

「信都ご縁エール」写真提供:ICS-net
「長野県立大学生オリジナルSKIスキカレー」写真提供:ICS-net

ー今後の御社の展望を教えてください。

山口さん:

私たちの目標は、「食品ロスのない世界を目指したい」ということに尽きます。具体的には、まずシェアシマのサービスサイトをもっと最適化して使いやすくしたいと考えています。そして、「捨てられてるから価値がない」ではなくて、「余っている食材も、そうでない食材と同等の価値がある」という新しい食の概念を、もっと普及させたいですね。そこにはアップサイクル・フードの普及も含まれますから、さらなる商品化の実績を作り、アップサイクルについてももっと広めていきたいと思います。

–本日は貴重なお話をありがとうございました!

関連リンク

ICS-net 株式会社ホームページ:https://www.ics-net.com/