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医療格差とは?世界と日本の現状・原因、地域格差をなくすための解決策・私たちにできることを紹介

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健康であること。健康であるために必要な医療を受けること。

これは私たちすべての人間にとって、保証されなくてはならない大事なことです。

しかし現在でも、さまざまな背景や事情により、世界中で医療格差がもたらされています。

医療格差の実態はどうなっており、なぜ格差は起きるのか。医療格差を解決するために、どんな取り組みがなされているのでしょうか。

目次

医療格差とは

医療格差とは、医療サービスを受けるうえでのさまざまな格差のことを指します。

世界では現在、医者にかかる機会、受ける医療の質や量においても、本来必要なはずのサービスが受けられず、心身を健康な状態に保つことができない人々が多く存在します。

具体的には

  • 高度な医療サービスを受けられる人と受けられない人が存在する
  • 十分な医療機関が居住地の近くにある人とない人が存在する
  • 特定の診療科によっては医療を受けられない場合がある

などといった問題です。

そこには経済的な問題から、国や地域による偏りまで、多くの原因が存在します。それらが絡み合った結果、今でも多くの人々が医療格差に苦しめられているのです。

世界の医療格差の現状

まず、世界全体での医療格差の現状を見ていきましょう。

世界銀行と世界保健機関(WHO)の調査では、2017年時点で世界人口の半数、約35億人が自分の健康を守るための、質の高い基礎的な医療サービスを受けられていません。

そのほとんどが、相対的に弱い立場に立たされている国や地域の人々です。

開発途上国で顕著に見られる

十分な医療サービスを受けられない国・地域の、実に95%が開発途上国です。

特にサブ・サハラ地域と呼ばれるサハラ砂漠以南のアフリカ諸国でその傾向が強く、保健医療格差の大きい国ワースト10のうち7か国を占めています。

その他、東南アジア諸国やインドなどでも医療体制は不十分で、逆に国・地域間で保健医療格差が少ないのはヨーロッパ諸国です。先進国と開発途上国との格差が、医療面でも顕著に見られることがわかります。

近年では、新型コロナウイルスへの対処でも医療格差が見られます。2021年6月時点でのワクチン接種率は、北米やヨーロッパでは約30%ほどでしたが、南米は11%、アジアでは8%、アフリカでは1%以下にとどまっていました。

子どもや妊産婦の死亡率が高い

途上国での医療格差のもうひとつの特徴は、乳児死亡率妊産婦死亡率が高いことです。

2018年だけでも、5歳未満の子どもの死者数は年間540万人に上ります。特に生後28日未満で亡くなる乳幼児が多く、総死亡数の45%以上がこの年齢の子どもたちです。

同様に母親が妊娠中や出産時に亡くなる割合も多く、発展途上地域の母体死亡率は、先進国の14倍以上です。サハラ以南のアフリカに限れば、実に16人に1人の妊産婦が亡くなっているという報告もなされています。

伝染病などの流行も

医療格差が大きい国では、伝染病や感染症が蔓延しやすい状況になっています。特に多いのが、下痢や赤痢・エイズ・マラリア・肺炎・結核などで、アフリカでのHIV感染率は、ヨーロッパ諸国の5倍以上にもなります。

それ以外にも、アフリカ諸国ではエボラ出血熱、インドを中心とするアジアではデング熱など、その地域に特徴的な感染症も多く見られます。

こうした現状にもかかわらず、最貧国や紛争などの影響を受ける地域では、いまだに約2,000万人の子どもたちは予防接種を受けられておりません。

先進国における医療格差

開発途上国に相当しない、いわゆる先進国でも医療格差は発生しています。

背景には公的医療保険を支える財政的な問題があり、経済的余裕がない層は、医療費が払えずに病院にかかれない人が増えているという問題も起きています。

特にその傾向が強いアメリカでは、公的医療保険制度が弱いため、民間医療保険に頼らざるを得ない状況です。しかし、所得の低い層はそうした民間の高額な保険料が払えず、盲腸の手術だけで150万円以上も負担しなければならない事態になっています。

世界の医療格差が発生する原因

いったいなぜこうした不公平が起きてしまうのでしょうか。

その背景には、開発途上国のほとんどが医療のみならず、あらゆる分野において苦しい状況を強いられている現実があります。

途上国に貧困層が多い

途上国で医療格差をもたらす最大の問題は、貧困です。

世界では、1日あたり1.9米ドル未満でしか生活できない人々が人口の10%にも及び、その多くが開発途上国に集中しています。

特に顕著なのがここでもサハラ以南のアフリカで、人口の41%、約4億人が貧しい暮らしを強いられています。

南アジアでは約2億1000万人、中東・北アフリカ、中南米・カリブ海諸国がそこに続きます。

では、開発途上国に貧困層が集中してしまうのはなぜなのでしょう。そこにはさまざまな原因が複雑に絡み合っています。

貧困の原因①植民地としての歴史

上記の開発途上国は、ほとんどがヨーロッパ諸国の植民地にされた歴史があります。

そこでは宗主国の利益のためだけに現地の資源や人材が奪われ、当事国のための産業開発はかえりみられませんでした。その結果、

  • 社会の発展が遅れ、住民は十分な収入も教育も得られない
  • 民主主義が根づかず、土着の有力者による汚職が横行
  • 独立後も政情が安定せず、民族対立などによる内戦やテロが頻発

といった弊害を招きました。こうした問題は、現在でも終息の兆しが見えていません。

貧困の原因②荒廃した国土と自然災害

開発が遅れた途上国では資源採掘のために土地が荒らされ、技術開発も進まない状況で、農業の生産性も低いままでした。

その後アフリカやアジアでは、干ばつや洪水などの自然災害に加え、テロや紛争が頻発し、国土はますます荒廃していきます。こうして大規模な食料危機が発生し、農作物や財産、仕事を失った人々は食糧を得ることができなくなり、多くの人々が劣悪な居住環境や食生活を強いられてきたのです。

貧困の原因③水・衛生環境の悪さ

劣悪な生活環境は、水や衛生状態にも悪影響を及ぼしています。

世界人口の10人に3人は安全に管理された水を飲めず、10人に6人は安全に管理された衛生施設を利用できないとされています。

こうした状況におかれた人々は、近くの池や川、湖、整備されていない井戸などから水を汲み、不衛生な水を摂取せざるを得ない状況です。その結果、さまざまな病気の危険にさらされています。

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教育と情報の不足

開発途上国では、教育格差情報の不足もまた、医療格差を助長する要因になっています。

これらの国では、教育や人の健康に対する基本的権利への理解が薄く、土着の信仰・習慣が根付く地域では男女の格差や病気への偏見もなくなりません。

教育が不十分なため、医師や看護師などの人材も、患者の記録や診療データなどといった情報も足りていません。医療機器や医薬品、施設の量も質も、先進国とは大きな差が生じているのです。

医療施設への地理的な障壁

十分な医療サービスが得られない理由として、インドやブラジル、中国などその国土の広さが、医療拠点へのアクセスへの障壁となっている点もあげられます。

サハラ以南のアフリカでは、2億8,700万人が、最寄りの病院から2時間以上かかるところに居住していると報告されています。途上国では、交通機関や道路が十分に普及・発展していない所も少なくないため、医療機関までのアクセスはさらに難しくなります。

こうした地理的な障壁も、開発途上国の医療格差を悪化させている要因です。

職業階層間・所得・居住地による格差

それぞれの国内における個人の経済状態や居住地による格差も、医療格差をもたらす原因になります。

これは途上国だけではなく、先進国とされる国でも同様です。

イギリスでは専門職と非熟練労働者との間での長期疾患の割合、低所得層家庭での喫煙率、マンチェスター(労働者階級が多い)とオックスフォード(上層階級が多い)の住民との間で心疾患の割合などを比較し、生活階層や経済状態の格差が医療や健康にも影響を与えることが指摘されています。

世界の医療格差を解決するための取り組み

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世界中で起きる医療格差を解消し、誰もが基本的な医療を受けられるために、どのような取り組みがなされているのでしょうか。

当然ながら、各国でも政府として公共医療への投資や医療アクセスの改善には乗り出しています。

しかし、内戦や紛争などで政府が機能していない国では、医療サービスはおろか、国民の生命財産の安全すら保証されません。こうした状況で医療を受ける必要がある人たちを救うためには、多くの援助団体の協力が不可欠になります。

事例①国境なき医師団

国境なき医師団は、世界で最も知られている非営利の民間医療・人道支援団体です。

1971年にフランスで設立されて以来「独立・中立・公平」の精神を堅守して、紛争や自然災害、貧困などで危機に陥る世界中の人々に医療援助を行っています。

国境なき医師団のもう一つの役割として、現地で目の当たりにした人道危機を社会に訴える「証言活動」があります。シリアやウクライナなど、現在も戦火が絶えない地域で起きていることを、世界に伝え続けているのです。

>>国境なき医師団

事例②フレンズ・ウィズアウト・ア・ボーダーJAPAN

フレンズ・ウィズアウト・ア・ボーダーJAPANは、一人の日本人カメラマンとその有志によって、1995年に設立された特定非営利活動法人です。

アジアの子どもたちに医療と健康な環境を与えるため、ラオス、カンボジア、ミャンマーといった地域で活動を行っています。主な取り組みとしては

  • 医療活動:ラオスとカンボジアに24時間体制の小児病院を設立
  • 教育活動:現地スタッフの育成・医療水準の向上と、患者や家族への医療や衛生・栄養教育
  • 予防活動:退院後のフォローや訪問看護、カウンセリングなど

医療活動ではその場限りの対症療法ではなく、経済状態、家族関係、知識や教育、環境や信仰など、多角的な要因をチェックし予防の重要性を説くなど、現地住民の実情に寄り添った取り組みが特徴的です。

>>フレンズ・ウィズアウト・ア・ボーダーJAPAN

事例③ジャパンハート

ジャパンハートは小児科医の𠮷岡秀人氏が創設した認定NPO法人です。アジア諸国だけでなく、日本国内の僻地や離島、大規模災害の被災地など医療の届きにくい場所へ赴いて医療活動を行なっています。

ジャパンハートでは12項の行動指針に基づき、

  • 医療支援:カンボジアやミャンマーでのこども医療センター設立や巡回診療
  • 福祉:病気や災害で親を亡くした子どもたちへの教育と生活を支援
  • 教育:現地医療者だけで治療に当たれるように、医療技術、病院運営や、非医療者への指導

などに加え、小児がん患者の支援や緊急時の医療チーム派遣などの取り組みを行い、多くの賛同者と共に活動を続けています。

>>国際医療協力・海外医療ボランティア医師団 | ジャパンハート …

日本の医療格差の現状

では日本における医療格差はどのような状況になっているでしょうか。

日本では国民皆保険制度のもと、すべての国民がいつでも必要な公的医療を安い自己負担額で受けられる体制になっています。高い医療技術と生活環境や栄養水準にも支えられ、充実した医療体制は世界的にもトップクラスです。しかしその一方、十分な医療サービスを受けられない、医療格差に悩まされる人々の数が増えはじめてきています。

地域・診療科による医師の偏在

ひとつには、地域による医療機関や医師の偏りがあります。

26都道府県の41エリアで医師数の減少が見られ、47都道府県中36都道府県において医師数の格差が広がっています。特に過疎地域では24%で医師の数が減少しており、都市部に医師が偏り、地方で無医村・無医地区が増えていることが深刻な問題となっています。

また、産婦人科、小児科といった特定の診療科で医師数が減っているといった、診療科の偏りも生じています。

医療保険財政の悪化

医療格差のもう一つの一面は、医療費の増大によって少しずつ個人負担が増え、他の先進国同様、経済的余裕がない層で医療費を払えない人が増えているという問題です。

日本の医療費は現在毎年約1兆円(3~4%程度)ペースで増加しており、国民医療費の対国民所得比は現在の8.8%から2025年には13.2%へ上昇する見込みです。医療保険財政が年々厳しくなり、個人負担額が増える一方で、医療サービスが先進化、高度化していけば医療費も高額になり、所得によって受けられる医療水準にも格差が生じていきます。

日本で医療格差が発生する原因

誰でも高水準の医療が手軽に受けられるはずの日本で、なぜ医療格差が発生するのでしょうか。

そこには、次のような背景があります。

地域医療格差の原因:制度上の問題

地域によって医療の格差が生じるのにはいくつかの原因があります。それによって住民の健康維持にかかるコストも増大し、国民医療費と老人医療費も都道府県によって大きな差となっています。

研修制度改正による地域への医師派遣機能が低下

影響が大きいとされたのが、新人医師の研修制度が2004年に改正されたことです。

これによって、主に出身大学で行われてきた研修先が任意で選択できるようになり、症例数が多く勤務条件が良い都市部の民間病院など、大学病院以外へと研修医が流れました。

このため若手医師が不足した大学病院では、地方に派遣していた医師を引き上げ、地域の医療機関で医師不足問題が加速するきっかけとなりました。

労働環境に不安

ただし、若手医師が地方勤務を望んでいないわけではありません。むしろ半数以上が条件さえ合えば地方勤務の意思がある、と回答しています。つまり、条件面に問題があるのです。

新人医師が地域への医療機関での研修を望まない理由としては

  • 交代要員の不足で十分な休みが取れない可能性
  • 希望する内容の仕事ができない/専門医の取得に不安
  • 子供の教育環境が整っていない/家族の理解が得られない

などをあげており、過重労働での負担の大きさや、キャリア形成への不安、居住環境などが選択に影響を与えていることがうかがえます。

少子高齢化と経済格差の拡大

医療格差の財政面での原因のひとつは急速な少子高齢化です。高齢者の割合は増加する一方、現役世代の減少で社会保険料は伸び悩み、健康保険組合の半数が赤字になるという見通しです。当然ながら医療費抑制のためには、健康保険の本人負担の引き上げを余儀なくされます。

もうひとつの原因は経済格差の拡大です。長年にわたる国民所得の低下と非正規雇用労働者の増加により、国民の間でも所得や経済の格差が拡大し、国民健康保険を払えない人も増えています。

そして日本でもイギリスの例のように、所得や職業、教育水準の差が健康や医療に影響を与えることが指摘されています。生活保護受給者や低所得者層は健康リスクと医療の必要性が高いにもかかわらず、そのためのコストを負担できないことが危惧されています。

責任やリスク、負担の大きい診療科

特定の診療科で医師が不足する背景には、その診療科が抱える特性にも関連してきます。

例えば外科や産婦人科の場合だと、「勤務時間が長く変則で、労働環境が過酷」「直接患者の命に関わるため、訴訟リスクが高い」という理由から、その診療科を敬遠する医師が多くなってしまうのです。

また、産婦人科や小児科は女性の医師や看護師の割合が多いため、本人の結婚や出産などで、フルタイムで働ける医師や看護師が減るという事情もあります。

日本の医療格差を解決するための取り組み

このような医療格差を是正するため、日本では厚生労働省や公立・民間・大学病院などで解決方法を模索しています。現在、どのような取り組みが行われているのでしょうか。

厚生労働省の医師偏在対策

厚生労働省では、医師の偏在解消に向けて、以下のような対策を進めています。

医師偏在対策に有効な客観的データの整備

都道府県内で医師が多い地域と少ない地域を可視化し、多い地域から少ない地域へ医師が配置されるような取組を実施

都道府県が主体的・実効的に医師偏在対策を講じることができる体制の整備

自治体や大学、医師会、医療機関それぞれが合意の上、医師の派遣方針、研修施設・研修医の定員などを決定

医師養成過程を通じた医師確保対策の充実

専門医の養成は、第三者機関認定の養成プログラムに基づき、大学病院などの基幹病院と地域の協力病院・診療所が実施

医師の少ない地域での勤務を促す環境整備の推進

働き方改革による待遇と労働環境の改善や、経済面・環境面・キャリア面でのインセンティブ

地域医療を連携させたネットワークの構築

将来的には、病院だけでなく、患者の住む地域内で完結する体制作りを促進する「地域共創型医療」の構築が目指されています。地域内外、病院・診療所間などが機能分担・連携をすることで、急性期から回復期、さらには療養期、在宅療養へと切れ目なく進めていくイメージです。

同時に、現在導入が勧められている、地域包括ケアシステムとの連携も視野に入れています。

テクノロジーを活用した遠隔医療の活用

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現在期待が持たれているのが、AIやIoTICTの最先端技術を活用した未来型医療です。

病院、医師、患者をスマートフォンなどのスマートデバイスやテレビでつなぐ遠隔診療のほか、遠隔ICUや手術指導なども実証化・実用化が行われています。

膨大な医療データの管理や迅速な情報共有ができることで、診断の質の向上や作業の効率化、負担軽減につながるだけでなく、継続的な受診で生活習慣病の予防と減少にも効果が期待できます。

新たな国民健康づくり運動

厚生労働省が推進しているのは、生活習慣病対策と健康な体づくりです。

運動の習慣や食生活の改善、趣味や地域、社会活動への参加など、心身ともにできるだけ健康な状態を保つことができれば、病気や要介護状態になることを防ぎ、社会保障の負担軽減にもつながります。

これらは私たち自身でもできることなので、率先して行いたいものです。

まとめ

医療格差は、日本でも、世界でも、最優先で解消されなければならない問題のひとつです。

今回紹介した現状とその原因は「貧困をなくす」「すべての人に健康を」「安全な水」「人や国の平等」など、SDGsの多くの目標とも深く関連するものです。それだけに問題の背景は複雑で、解決にはたくさんの障壁が立ちはだかりますが、私たちが少しずつでもできることを行い、考え方や行動を変えることで実現に近づいていくのではないでしょうか。

<参考資料>
厚生労働白書 令和4年版
医師偏在対策について – 厚生労働省
ユニバーサル・ヘルス・カバレッジ(UHC) | 国際協力・ODAについてついて|JICA
発展途上市場における医療アクセスの改善 – Abdul Latif Jameel
世界の「保健医療格差ランキング」発表 – ワールド・ビジョン
第2部 先進諸国における健康格差対策「健康格差対策の枠組み:英米における政策展開の比較分析」|立命館大学生存学研究所
医師不足地域になぜ医師は集まらないのか?―転職データとアンケートから読み解く、医師の偏在の背景と対処法―|医師転職研究所
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