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ISSBとは?基準や今後のスケジュール、最新動向も紹介

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国際会計基準(IFRS)財団は2021年11月、傘下に「International Sustainability Standards Board(ISSB)」を設立しました。2022年3月、投資家と金融市場のニーズに焦点を当てたESG情報の国際的な開示基準の公開草案を公表。2024年の適用開始に向けて、現在草案の再審議を行なっています。この記事では、今後のスケジュール、国内企業への影響などについて解説します。

ISSBとは

ISSBとは、「International Sustainability Standards Board(国際サステナビリティ基準審議会)」の略称で、環境、社会、ガバナンス(ESG)分野における企業の報告に関する国際基準、「IFRS Sustainability Disclosure Standards(IFRSサステナビリティ開示基準)」を策定するための機関です。

ISSBは、国際会計基準(IFRS)財団が、2021年11月にイギリスで開催されたCOP26(国連気候変動枠組条約第26回締約国会議)にて設立を発表した組織です。

IFRS財団は、実質的な財務情報の国際基準であるIFRS会計基準を策定している機関ですが、ESG情報についてもグローバルスタンダードとなる開示基準を作るために、ISSBを設立しました。(※1)

ESG情報は、今後ますます企業価値の評価において重要な役割を果たすことが予想されており、透明性の高い情報開示への期待が高まっています。一方で現在のESG情報開示環境は、開示基準の乱立や国や地域による法域の違いによる差などが存在し、企業評価を行う投資家や対応する企業の双方にとって負担が増加しています。その結果、開示の一貫性や比較可能性といった観点から課題が生じています。

これらの課題を解決するために、ESG情報の標準化や報告要件の統一化が求められています。そこでISSBが策定を推進する「IFRSサステナビリティ開示基準」の適用によって、投資家の意思決定を支援し、資本を集めるための国際的な比較可能性を促進するために国際的にESG情報開示の質が向上することが期待されています。

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組織概要

IISBは、非営利団体であるIFRS財団が運営する基準設定主体の一つです。議長は仏ダノンの前最高経営責任者(CEO)であるエマニュエル・ファベール氏、副議長はIASB元副議長のスー・ロイド氏および世界銀行の元副総裁兼財務担当のジンドンファ氏に加え14名の審議会メンバーで構成されています。(※2)

また、基準の国際化を意識し、フランクフルト、モントリオール、サンフランシスコ、ロンドン、東京や北京(予定)など各地域に事務所を設置しています。

また、気候変動開示基準委員会(CDSB:Climate Disclosure Standards Board)や価値報告財団(VRF:Value Reporting Foundation)といった、他の基準設置団体がISSBに統合されました。その他の国際的な基準策定機関とも連携をはかり、グローバルで統一的に利用できる開示基準の策定を進めています。

ガバナンス構造は、各国の資本市場の規制当局や国際規制組織からなるモニタリングボードを頂点に、二層目のレイヤーである評議委員会が、第三層のレイヤーである基準設定主体を管理監督する形になっています。ISSBは、国際会計基準を作成する国際会計基準審議会(IASB)と並列関係であり、今後の基準策定に向けて相互に補完し、連携することが期待されています。

次に、設立の経緯とこれまでの動き、今後のスケジュールを確認しましょう。

スケジュール(設立の経緯とこれまでの動き:2023年4月末時点)

ISSB設立発表から基準の最終化に至るまで約4年という比較的短い時間軸で基準策定を推進しています。

遡ると2020年9月にIFRS財団は、「サステナビリティ報告に関する協議ペーパー」を公表し、サステナビリティ情報開示基準について投資家・監査法人・各国の基準団体など利害関係者から、コメントを募集しました。その結果、

  1. 国際的に認知された、比較可能なサステナビリティ情報開示が必要であること
  2. IFRS財団が関連基準の設定において主導的な役割を果たすこと

へ肯定的な意見が多く、IFRS財団は、ISSBの設立とその運営が可能になるよう定款の変更を行い、2021年11月にISSBを設立しました。(※3)

2022年3月31日には、「IFRSサステナビリティ開示基準」の草案として「サステナビリティ関連財務情報の開示に関する全般的な要求事項(S1)」と「気候関連開示(S2)」を公表し、利害関係者にコンサルテーションフィードバックを求めました。

現在、フィードバックを踏まえて草案の再審議をしており、2023年6月末までに基準を最終化し、2024年1月から適用可能とする予定であると公表しています(2023年2月時点)

ISSBのサステナビリティ基準(草案:2023年4月末時点)

ここからは、ISSBのサステナビリティ基準について確認していきましょう。

ISSBが設定する基準は「IFRSサステナビリティ開示基準」と呼ばれます。投資家の情報ニーズに応え、企業がグローバルな資本市場に対して包括的なサステナビリティ情報開示が可能になることを目的としています。

現在公開草案文書一式は約900ページにわたり、全般的な要求事項基準である「サステナビリティ関連財務情報の開示に関する全般的な要求事項(S1)」とテーマ別の要求事項である「気候関連開示(S2)」及び産業別要求事項(S2付録に該当)に大別されます。(※4)

コア・コンテンツの要求事項は、TCFD提言を基礎とし、 ガバナンス、戦略、リスク管理、指標及び目標という4本柱の構成になっています。

産業別要求事項は11セクター・68産業について設定されており、 サステナビリティ会計基準審議会(SASB)の産業別分類を基礎としています。

また、気候変動の次に扱うテーマ別要求事項は、生物多様性、水資源や人的資本などを候補として挙げており、2023年の半ばごろから優先順位をつけて取り組む予定です。

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サステナビリティ関連財務情報の開示項目に対する全般的な要求事項(S1

「サステナビリティ関連財務情報の開示に関する全般的な要求事項(S1)」は、利用者共通の開示基準であり、一般目的財務報告の利用者が、企業価値に関する重大なサステナビリティ関連のリスク・機会の影響評価を可能とする情報について、企業に開示を求めることを目的にしています。

主な特徴として、財務諸表とサステナビリティ情報の「結合性」という概念が挙げられます。 企業は個々の非財務情報がどのように財務情報と関連しているか説明する必要があり、サステナビリティ関連財務情報を企業の一般目的財務報告の一部として開示することを前提としています。コアコンテンツでどのような開示が求められているのか、具体的な基準を例示します。

ガバナンス

重大なサステナビリティ関連のリスク・機会を管理するためのガバナンス構造や仕組みについての開示を定めています。具体的には、サステナビリティ関連のリスク・機会について責任を負う機関や、そのプロセスにおける経営者の役割についてがあげられます。

戦略

重大なサステナビリティ関連のリスク・機会に対処する企業の戦略についての開示を定めています。具体例としては、  短・中・長期にわたり、企業のビジネスモデルやキャッシュ・ フローに影響が見込まれる、リスク・機会を特定し、どのように対応しているかについての開示が求められています。

リスクマネジメント

重大なサステナビリティ関連のリスク・機会を認識し、管理・評価するプロセスについての開示を求めています。具体例としては、サステナビリティ関連リスク評価やモニタリングのプロセス及び企業の統合的なリスク管理への統合などについてです。

指標と目標

重大なサステナビリティ関連のリスク・機会のモニタリング・管理について開示が求められています。 具体例としては、目標への進捗を示すKPIなど、企業自身のパフォーマンス評価の捉え方についての情報が求められています。

気候関連開示(S2)

次に確認するのが機構関連開示(S2)です。

「気候関連開示(S2)」は、企業が気候変動によって直面するリスクや利用可能な機会に焦点を当てた開示要件で、TCFDを基にしています。付録「産業別開示要求」(S2基準案付録B)では、産業固有の指標の基準が定められています。(※5)

「気候関連開示(S2)」での開示範囲は、物理的リスク、移行リスクと気候関連の機会とされています。特徴的な項目をピックアップして説明します。

戦略

コアコンテンツの「戦略」では、以下の情報の開示が提案されています。

  1. 重大な気候関連のリスク及び機会に関する情報
  2. ビジネスモデルやバリュー・チェーンに与える影響に関する情報
  3. 戦略や意思決定に与える影響に関する情報
  4. 財政状態、財務業績及びキャッシュ・フローに与える影響に関する情報
  5. 企業の気候レジリエンスに関する情報

気候変動に対するレジリエンスに関しては、ビジネスモデルや財務状況に気候変動が与える影響についてシナリオ分析を用いた説明が求められていることが特徴的です。シナリオ分析ができない場合は、できない理由について開示することが必要です。

指標と目標

コアコンテンツの「指標及び目標」では、企業がバリューチェーン上で引き起こす温室効果ガスの排出量を、GHGプロトコルのスコープ3基準に基づき、上流・下流の活動を15のカテゴリーに分けて測定することが提案されています。もし開示しない場合は、その理由を開示するよう求められています。

ここまでISBBについて大枠を理解したところで、国内企業へどのような影響があるのかを見ていきましょう。

国内企業への影響

ISSBの基準を採用するかは各国の判断にゆだねられており、英国やシンガポール、ナイジェリアなどは採用方針を示しています。日本ではISSB基準を参照した国内基準を開発する予定です。国内当局の動きと国内企業への影響を解説します。

国内当局の動き

日本の会計基準を制定する機関である公益財団法人財務会計基準機構(FASF)は、2022年7月に、これまで日本の会計基準の開発を担ってきた「企業会計基準委員会(ASBJ)」と並列する組織として、「サステナビリティ基準委員会(SSBJ)」を設置しました。

SSBJはISSBと連携を取りながら、SSBJは24年3月末までに公開草案をまとめ、25年3月末までに決定する方針で日本のサステナビリティ開示基準の開発を進めています。(※6)

また、2022年11月に金融庁より「企業内容等の開示に関する内閣府令」が公表され、2023年3月末日以後に終了する事業年度に係る有価証券報告書から、サステナビリティー情報の開示が始まります。そのような流れを受け、将来的にはSSBJの国内基準が有報開示に組み込まれる見通しとされています。(※7・8)

企業に求めらえる対応

将来的なISSB基準(または国内基準)の適用に向けて、社内の関連情報の収集・集約・検証のための社内システムとプロセスを構築し、企業に与えるサステナビリティ関連リスク・機会の検討など、開示要件を満たす社内整備を進めていくことが必要です。

基準の適用時期や具体的な開示要件がまだ確定していないため、内部体制の整備に加え、基準の策定に関する情報収集や同業他社との意見交換にも注力する必要があるでしょう。

ISSBとSDGsの関係

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最後に、ISBBとSDGsの関係を整理します。

持続可能な社会の実現への取り組みが加速

ISSB基準によりESG情報開示の国際的な基準が確立されることで、企業間の比較が容易になり、ESG情報の評価や投資判断がより正確かつ客観的に行われるようになると考えられます。

このように、ISSB基準に基づくESG情報開示の枠組みが確立されることで、企業がSDGsに対する貢献を評価する際に、より客観的かつ比較可能な情報が提供されることになります。

これにより、企業がSDGsに貢献することが認められやすくなり、持続可能な社会を目指すための取り組みが加速することが期待されます。

まとめ

国際会計基準(IFRS)財団は、2021年に設立した「International Sustainability Standards Board(ISSB)」を通じて、ESG(環境、社会、ガバナンス)情報の国際的な開示基準を設定するための取り組みを進めています。

ISSBは、2022年3月に投資家や金融市場のニーズに焦点を当てたESG情報の国際的な開示基準の公開草案を公表し、現在は草案の再審議を行っています。ISSBが設定する基準は、「IFRSサステナビリティ開示基準」と呼ばれ、2024年に適用開始する予定です。ただし、各国がISSBの基準を採用するかどうかは、各国の判断にゆだねられています。英国、シンガポール、ナイジェリアなどは、ISSBの基準を採用する方針を示しています。

日本では、公益財団法人財務会計基準機構(FASF)が、2022年に「サステナビリティ基準委員会(SSBJ)」を設置し、ISSBと連携しながら、日本独自のサステナビリティ開示基準の開発を進めています。SSBJは、24年3月末までに公開草案をまとめ、25年3月末までに決定する予定です。

現在は、ISSBが公表した公開草案の再審議期間中であり、具体的な要件がまだ確定していません。しかし、国内企業は、内部体制の整備や情報収集、同業他社との意見交換を行い、将来的な適用に向けて、準備を進めることが必要です。

<参考資料>
※1 IFRS財団 ISSBについて
※2 IFRS財団プレスリリース ”ISSB ramps up activities to support global implementation ahead of issuing inaugural standards end Q2 2023″
※3 JPX 「ISSBによるIFRSサステナビリティ開示基準」
※4 サステナビリティ基準委員 ISSB基準・公開草案等の概要

※5 SSBJ「ISSB 公開草案の「IFRS S2 号『気候関連開示』」 (S2 基準案)について」
※6 金融庁 企業内容等の開示に関する内閣府令」等の改正案の公表について
※7 SSBJ「サステナビリティ基準委員会と国際サステナビリティ基準審議会の代表者が 日本での二者間会合を初開催」
※8 日本経済新聞社:「企業の温暖化ガス排出開示、国際ルールを24年適用」