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共同親権とは?メリット・デメリット、日本の最新状況も

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日本では現在、年間約21万件の離婚が発生しており、未成年者の10人に1人が離婚家庭で暮らしているとされています。そんな親の離婚を経験した子どもの生活に大きな影響を与える、共同親権という制度がもうすぐ施行されようとしています。

共同親権は離婚後も親子の強い結びつきを維持すると期待される一方で、根強い抵抗や反対の声にもさらされています。共同親権が実際に導入されることで、親子や家族関係はどのように変化するのでしょうか。

共同親権とは

共同親権とは、子ども(未成年者)の親権を父母の両方が持つことです。

親権とは、親が未成年の子どもを養育し保護する権利と義務のことであり、主に

  • 身上監護権:子どもの監督・保護・養育を行う権利
  • 財産管理権:子どもの財産管理や財産関連の法的行為を代行する権利

の二つの権利をいいます。

子どもの親権は結婚している状態の夫婦なら、共同で持つことは当然です。

しかし、夫婦が離婚した場合、共同で子どもの養育を続けることは困難になります。ここで親権を共同で持つのか、単独で持つのかという問題が生じてきます。

単独親権との違い

単独親権は、父と母のどちらか一方だけが離婚後の子どもの親権を認められるという制度です。

この場合親権のある方が子どもと同居し養育する権利があり、子と同居しない親は子どもの養育や居住、教育などに関わる権利を失います。

これに対し、共同親権は離婚後も同居・別居にかかわらず父母のどちらも子どもを監督し養育する権利を持ち続けます。

日本における共同親権の現状

日本では長らく単独親権制度を採用してきました。現在の法律では、夫婦が離婚した後は、父母のどちらかを子どもの親権者と定めなくてはなりません。協議をしても親権が決まらない場合は、家庭裁判所が親権者を決めることになります。

しかし2024年5月に、この法律が参議院での審議を経て可決・改正されました。改正法施行後は、離婚後の子どもの親権を共同親権にするか単独親権にするかを、父母の協議によって選べるようになります。

施行は法成立から2年以内となるため、日本では2026年までに選択的共同親権が導入される予定になっています。

共同親権が導入された背景

このような大きな法律転換の背景には、かねてから指摘されていた単独親権による問題が関係しています。

子ども連れ去りの問題

単独親権で指摘されていた問題のひとつは、片方の親による子どもの連れ去りです。

法的に親権がどちらかにしか認められないにもかかわらず、どちらも親権を希望する場合、監護能力の優劣によって親権を自分の方に認めさせようとします。

その結果、養育実績を作るために子どもを自分と同居させようとして、相手に会わせないという手段をとる親も少なくありません。さらには、無理に子どもを連れ去って別居に踏み切るというケースが出てきます。

養育費不払い問題

片方にしか親権が認められないことで、子と同居しない親が養育費を払わないことも問題視されています。現在の法律でも養育費の支払いは求められていますが、親権がないことで子育てや扶養義務の意識が薄れ、養育費の支払いを怠るケースが増えています。

実際の調査結果でも、元夫婦間で取り決めた養育費が支払われているのは

  • 母子家庭=28.1%
  • 父子家庭=8.7%

にすぎません。

海外からの勧告

日本が共同親権の導入に舵を切った背景には、後述するように世界の多くの国が共同親権を認めていることや、以下のような海外からの要請・勧告も関連しています。

  • 国連「児童の権利委員会による勧告」:児童の最善の利益のために共同養育を認める法令を改正/非同居親との交流の権利確保のため、あらゆる措置をとるよう日本に勧告
  • 日本に対する欧州議会の決議:EU加盟国籍者と日本人が離婚した場合に起こる、日本人の親による日本国内での連れ去り禁止措置や共同親権導入などを求める決議

共同親権のメリット

共同親権の導入によって、従来の単独親権しか認められなかったことで起きていた弊害を解決できる、と期待されています。

メリット①親権争いを避けられる

共同親権の一番のメリットは、元夫婦間の親権争いがなくなることです。双方が子どもの親権を持つことを希望していたとします。この場合、共同親権ならどちらにも親権が認められるため、少なくとも親権で争う必要はありません。もちろん、どちらかが親権を希望しない場合は単独親権を選ぶこともできるため、ここでも揉める心配は少なくなります。

メリット②面会交流が実施されやすい

共同親権の導入により、同居していない親が子どもとの面会交流がしやすくなることが見込まれます。もちろん現在の単独親権でも親権のない親との面会交流はできますが、親権者の中には離婚した相手に子どもを会わせることを拒む人もいます。また、親権がないことで面会交流の権利を主張しにくいと感じる場合も少なくありません。

これが共同親権であれば父母ともに同じ権利を行使できるため、面会交流を行う機会はより増えると期待されています。

メリット③養育費の支払いがスムーズになる

共同親権の導入により、養育費を払わない親が減ると期待されています。

たとえ同居していない親でも、引き続き親権を持つことで、親としての権利や役割は継続されます。そこから義務感や責任感が生じることで、養育費の支払いも滞りなく行われることが見込まれる、というわけです。

メリット④離婚後も一方に負担が偏らない

共同親権で期待されるのが、同居親の負担軽減です。

現在の単独親権では、親権を持つ側が子どもを引き取って養育を一手に引き受けることが一般的です。そのため育児と仕事・家事を一人で抱え込み、大きな負担に悩むケースは少なくありません。

共同親権では父母がどちらも親権を持つので、互いに協議することで子育てを分担できるようになることが期待されています。

共同親権のデメリット・問題点

一方で、共同親権にはいくつかのデメリットや問題点もいくつか指摘されており、それが後述する根強い反対意見にもつながっています。

デメリット①子どもの負担が増える

デメリットのひとつは、親権を持つ親が別々に住むことで子どもの負担が増えることです。

共同親権が導入されれば、同居していない親とも交流の機会が増え、双方の家を頻繁に行き来するようになるでしょう。しかしそのことが、子どもの生活リズムや自分の居場所といった精神的な負担や、移動に伴う物理的な負担を増やしてしまうことが危惧されています。

デメリット②教育方針などの違いで決定に支障が起きる

子どものライフステージにおいて、両方の親の意見が食い違う場合に起こる問題も無視できません。例えば片方は都市部の私立高校を、もう片方は地元の公立高校を推奨するなど、子どもの教育方針や進路などで対立するケースです。

これが単独親権ならば、子どもと同居している親との意向のみで決めることができますが、別居している親にも親権があればそうはいきません。双方の話し合いがつかなければ決定が遅れ、結果的に子どもが不利益を被ることになります。

デメリット③DVや虐待から逃れられない場合がある

共同親権の導入で最も危惧されているのが、DV(ドメスティック・バイオレンス=家庭内暴力)や虐待・ハラスメントの継続です。

単独親権であれば、暴力を振るう配偶者と離婚することで子どもの親権を無くすことができます。

しかし、共同親権によって相手も親権を主張した場合、DVや虐待の事実を証明できない限り単独親権は認められないケースが出てきます。

近年は、外見的証拠が発見しにくい精神的DVや支配行動、家庭内DVの目撃が増えているとされ、DVや虐待の不安が残ったまま親子関係が続く危険性は無視できません。

デメリット④居住地が制限される可能性も

共同親権をとった場合、元夫婦同士で居住地の移転や転居がしにくくなる場合があります。

共同親権では、別居している親子も定期的に会って交流する機会が求められます。その際、互いの家があまりにも離れすぎていると、行き来するのに大きな負担となるでしょう。転勤や転職など仕事の都合で転居が必要になる場合でも、面会交流がネックになる可能性は増えると思われます。

デメリット⑤家庭裁判所の負担が増える

家庭以外のデメリットとしては、家庭裁判所の負担が増えることがあげられます。

現在日本は9割が協議離婚といわれており、家庭裁判所の調停が必要なほど揉める例は少数です。

しかし共同親権が導入されれば、家庭裁判所での親権認定や調停の件数などは増えると予想されます。にもかかわらず、家庭裁判所は

  • 司法予算の減少
  • DV事案や親権者の認定の困難さ
  • 家庭紛争の経験が豊富な調停委員の不足

などの問題を抱えており、アンケートを受けた弁護士の8割が、現行の家庭裁判所の体制では共同親権への対応は機能しないだろうと答えています。

世界における共同親権の現状

一方、世界に目を向けて見ると、共同親権の国が多数派であり、単独親権のみが認められているのはトルコ、インド、そして日本のみです。

ただし、ひとくちに共同親権といっても、その実施形態や方式は、国によって違いがあります。

特に欧米諸国では、共同監護(Joint Custody)という考え方が当初採用されたものの、そこから生じた問題に対応して、分担親責任(Shared Parental Responsibility)や子の世話(Care)という考えに基づく運用制度へと変わっています。

離婚後の親権行使の現状

共同親権を認めている国でも、離婚後の親権をどのように扱うかは、国によって異なります。

例として

  • ドイツ:裁判所の判断などがない限り原則共同親権。子どもの重要事項の決定は父母の合意が必要だが日常生活に関しては同居親が単独で決められる
  • カナダ(ブリティッシュコロンビア州)・スペインなど:父母の協議により単独親権にできる
  • インドネシア:養育している親が子に関することを決め、共同での親権行使はまれ
  • イギリス・南アフリカ:父母のいずれもそれぞれの親権を単独行使できる
  • メキシコ:共同で行使するのは財産管理権のみ。監護権は父母の一方が行使する

などのような方法がとられています。

父母の意見が対立する場合

共同親権の行使で父母の意見が食い違う場合、最終的に裁判所が判断する国が多数です。

その中でも

  • オーストラリア:裁判所がソーシャルワーカーや心理学者などの専門家をコンサルタントとして指名でき、報告書の提出などを判断材料にしている
  • 韓国:離婚時に紛争解決方法を決定している場合、その決定に従って解決する
  • タイ:児童保護の権限を持つ省庁が子に対する不法な扱いを疑われる親に助言や警告をできる

など、裁判所以外の判断材料を設けている国もあります。

離婚後の子の養育のあり方

離婚後の子どもの養育方法についての取り決めも、国ごとに違いがあります。

韓国、オーストラリア、オランダなどでは離婚時の取り決めが法的義務として定められていますが、世界的には法的義務ではない国が多数派です。

ただし、面会交流や養育費の支払いに関しては、

  • アメリカ(ワシントンDC):監護手続の際に全ての親に子育てクラスの受講を義務付け/親の所在の特定、裁判所の支払命令の取得や執行(給与差押えなど間接強制)といった支援
  • スウェーデン:行政機関による面会交流支援/養育費を支払わない非同居親に国が保護費分を求めたり、同居親が低所得である場合には国から保護費が出るなどの支援

などといった公的機関の支援がなされている国もあります。特に面会交流については、父母の教育やカウンセリング、適切な実施のための監督機関設置などの支援が多くの国で行われています。

共同親権への反対はなぜ?

施行を控えた共同親権ですが、法案成立までには数多くの問題点が指摘されており、現在でも法曹関係者などを中心に反対する声は少なくありません。

反対理由①共同親権ではDVや虐待は防げない

反対意見の主張でも、やはりDVや虐待の増加への懸念が強くなっています。

共同親権反対派の意見としてあげられるのは、

  • 暴力や虐待が原因の離婚は決して少なくない
  • 日本は男性優位社会家父長制が根強く、子どもを連れて離婚する母親の力が弱い
  • DV・虐待の認定や当事者間の合意を判別するのは裁判所でも困難

といった背景です。

こうした状態で共同親権を持ち込むことは、主に父親側が引き続き子どもに干渉できることになります。共同親権の反対派は、家庭裁判所が暴力や精神的支配の事実を認定できない限り、問題はさらに深刻化すると主張しています。

反対理由②家族内の紛争が増加する

反対派のもうひとつの主張は、共同親権の導入によって家庭内の紛争が増えるというものです。

日本はほとんどが協議離婚のため、DVなどの紛争以外で裁判所が関与するケースは少なく、話し合いで解決できている家庭では単独親権でも何の問題もないからです。

しかし、共同親権で複数人が親権を持つと、必要とされる取り決めやルールが新しくできることで揉めごとに発展し、対立が強くなると裁判所が関与する機会も増えます。

反対する弁護士の中でも、こうした紛争の増加を懸念する声は少なくありません。

反対理由③現行の制度でも共同監護は可能

3つ目の理由は現在の単独親権でも子どもの共同監護は可能であり、変える必要がない、というものです。主な主張としては

  • 離婚しても法律上の親子関係は切れず扶養義務もある
  • 面会交流の法的な手続きも可能であり、親権の有無は監護に影響しない
  • 離婚当事者は支配従属的関係であることが多く、共同親権による養育費の取り決めなどは一方的なものになりかねない

などであり、単独親権制度を変更することによる弊害が指摘されています。

反対理由④共同親権は海外でも問題が生じている

もうひとつの反対理由は、日本以外の多くの国で共同親権が必ずしも子どもの利益になっていない実態が報告されていることです。

実際、離婚後の共同親権を導入している国でも、

  • アメリカ:年平均60人以上の子どもが面会交流中に殺害されている
  • オーストラリア:面会交流の子どもの殺害事件を契機に、交流より保護を優先に

など、DV加害者や虐待加害者に監護権を与えたことによる事件はなくなっていません。

こうした問題を受け、現在でも各国で法改正が繰り返されています。

また欧米諸国でも、離婚した両親が均等に監護をしているのは少数であることが明らかにされており、「他国も導入しているから」という理由で単純に共同親権を取り入れるのは尚早であると指摘されています。

共同親権に関してよくある疑問

共同親権が導入されるとどうなるのか。実際に離婚や親権問題に直面している人の中にはいまだ不透明な点も少なくないことと思います。ここでは共同親権に関して寄せられている、いくつかの疑問を見ていきましょう。

既に離婚している場合は?

共同親権が導入されても、自動的にすべての父母が共同親権を得られるわけではありません。

そのため、法律が施行される前に離婚している場合は、引き続き単独親権となります。既に離婚している父母が共同親権に変更したい場合、家庭裁判所で申し立てを行い変更を求めることになります。

再婚した場合の子どもの親権は?

子どもを連れて離婚し、その後別の相手と再婚したら子どもの親権はどうなるのでしょうか。

この場合、再婚相手と子どもが養子縁組をすれば再婚相手も子どもの親権を得ることになります。

ただし、離婚後も共同親権をとっていて子どもが15歳以下の場合は、共同親権者である元配偶者の承諾も必要です。仮に承諾を得られなければ、家庭裁判所への申し立てによって再婚相手との養子縁組ができるようになります。

事実婚の場合は?

共同親権が導入されることで、事実婚をしているカップルも子どもの共同親権を持てるのではと期待されていますが、現時点では適応されません。

事実婚はそもそも法的な婚姻関係ではなく、母親が子どもを出産したという事実に基づいて母親が子どもの親権を持つことになります。

新しい民法では認知した場合に父母の両方または父のみを親権者と定める、となっていますが、事実婚では共同親権は認められません。そのため父が親権を得れば、母の親権が失われることになります。

共同親権とSDGs

共同親権の問題とSDGs(持続可能な開発目標)とは、どのような関連性があるのでしょうか。

最も関連の強い目標としてあげられるのは、目標16「平和と公正をすべての人に」です。

子どもの親権のあり方や、親権を持つ者が子どもに対しどのような義務や責任を持ち、どれだけ十分に務めを果たせるかは、子どもの健やかな成長や人格形成に影響します。

同時に親同士の間でも、一方に過度な負担や不当な義務を課すことは望ましくありません。

そのためには、法に基づいた公正な判断と家族の事情に十分配慮した適切な対応が求められます。

同時にひとり親の問題は、

  • 目標1「貧困をなくそう」/目標5「ジェンダー平等を実現しよう」…シングルマザーの貧困問題
  • 目標4「質の高い教育をみんなに」…教育機会の損失
  • 目標3「すべての人に健康と福祉を」…子どものメンタルヘルス

など、SDGsの複数の達成目標とも関わってきます。


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まとめ

施行まで1年弱となった共同親権。その内容や導入にはいまだ賛否両論があり、導入後もさまざまな反応が予想されます。実際に導入している諸外国でも試行錯誤を繰り返しながら制度運用を続けており、個々の家族問題に国が介入することへの難しさを表しています。

そして国や行政が決して忘れてはならないのは、子どもの意思や視点を何よりも尊重すべきであるということです。共同親権であれ単独親権であれ、新たに導入される制度が、親の権利や利害で子どもの尊厳をないがしろにするものではいけないことは言うまでもありません。

参考文献・資料
共同親権とは?制度を徹底解説!【2024年最新】 | コメチャンネル | 公明党
共同親権とは?いつから導入?メリット・デメリットなどをわかりやすく解説 | 法律事務所へ離婚相談 | 弁護士法人ALG&Associates
選択的共同親権の制度導入で忘れてはいけない「子どもの利益」 | Meiji.net(メイジネット)明治大学
離婚後の共同親権とは何か―子どもの視点から考える/梶村太市・長谷川京子・吉田容子編著;日本評論社,2019年
離婚後の共同親権について – 参議院
令和 3年度 全国ひとり親世帯等調査結果の概要
離婚後共同親権に反対します。
エッセイ > 共同親権の何が問題か  弁護士 角田由紀子 | ウィメンズアクションネットワーク Women’s Action Network