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【2023年版】絶滅危惧種とは?原因と日本の有名な動物とレッドリスト一覧

Wikimedia Commons『Little spotted kiwi』(2018年7月)

あなたは最近、野生の生き物を実際に目にする機会がどれくらいありましたか?身近なはずの生き物が「昔はたくさんいたのに、最近見かけなくなった」と感じた経験はありませんか?

【ゲンゴロウ】

ゲンゴロウ
筆者撮影

実は日本も含め、地球上の生き物たちは今、どんどん数が減っています。筆者が子供のころには水田でゲンゴロウやタガメを当たり前に観察できましたが、現在は調査のために探すのも簡単ではありません。

多くの生き物は地球の環境の変化にともなって、とても長い時間をかけてゆっくりと進化してきました。生き物の中にはさまざまな理由でこれまでにも地球上から姿を消してしまった種もたくさんあります。

【絶滅危惧ⅠA類のシダ植物 ヒメタニワタリ】

一方で、陸上植物ではコケ類やシダ植物、魚類ではシーラカンスやチョウザメ、昆虫ではシミ、哺乳類ではカモノハシやオポッサムのように、はるか古代からその姿がほとんど変わっていないと考えられている種もあります。例えば熱帯を中心に世界中の海に生息しているスポンジのような原始的な生き物、海綿動物の一部の種は、約8億9,000万年前のサンゴ類が進化するはるか前から生息していた可能性があるという研究結果も報告されています。

【潮岬西岸のミズガメカイメン】

しかし現在、これらの太古から姿を変えずに続いてきたと考えられている種も、少なからず絶滅の危機に瀕しています。こんなにも長く地球に住み続けてきた種たちであるにもかかわらず、どうして近年急激に生息数が減ってしまうのでしょうか?*1)

この記事では、絶滅危惧種について詳しく読み解いていきたいと思います!

目次

絶滅危惧種とは?

絶滅危惧種とは、絶滅の危機にある生物のことです。

日本の豊かな生物相と固有種

環境省が2021年に発表した「生物多様性及び生態系サービスの総合評価 2021」によると、日本で確認されている動植物の生物種の数は9万種以上、未発表のものを含めると30万種を超えると推定されています。日本には約38万k㎡という比較的狭い国土面積にもかかわらず、豊かな生物相が存在しているのです。

さらに、島国の日本には固有種の比率が高いという特徴があります。日本の陸生哺乳類・※維管束植物の約40%、爬虫類の約60%、両生類の約80%が日本の固有種だと言われています。

維管束植物

維管束とは水・ミネラル・光合成で生成したものなどを植物全体に運ぶための組織です。植物の中からコケ植物・藻類を除いた根・茎・葉などの分化した器官を持つ植物が維管束植物です。

【植物の基本構造】

1年間で4万種もの生き物が絶滅している

現在世界では、かつてないスピードで多くの生き物が絶滅しています。これまでの地球の歴史でも、生き物の絶滅は自然に起こってきましたが、現在の生き物の絶滅するスピードは1975年以前のスピードをはるかに上回ります。

1975年以前は1年間に絶滅する種数は1種以下でしたが、現在は1年間で4万種もの生き物が絶滅していると言われています。以前は生き物の調査が現在ほど進んでおらず、私たちの知らないままに生き物が絶滅していたという可能性も否定できませんが、生き物が絶滅していくスピードが加速しているという現実は重く受け止めなければなりません。

【種の絶滅速度】

生き物は多様な種がつながりあって自然環境のバランスをとっています。その中のある生き物が絶滅すると、そこからバランスが崩れ、結果として私たち人間の生活を含めた自然環境全体に大きな影響を与えます。

戦後、高度経済成長により私たち、特に先進国と呼ばれる国々は、便利で豊かな大量生産・大量消費・大量廃棄の社会を築きました。しかし長期的な自然資源の維持や自然の循環システムについて知識がまだ乏しく、大気・土壌・河川・海洋などの環境の汚染や破壊が短期的な利益のために繰り返され、急速に生物種の多様性も失われました

【アブラヤシプランテーションの開発が進むインドネシアの森林】

現在生きている種は、地球の歴史とともに長い時間をかけて育まれてきた命の結晶とも言えます。生き物は、それ自体がかけがえのない価値を持っているのです。*2)

それでは現在、日本にはどれくらいの絶滅危惧種がいるのでしょうか?生き物の絶滅のおそれの程度は「レッドリスト」から知ることができます。

絶滅危惧種を知る上で重要な鍵となるレッドリストについて、内容と仕組みを知っておきましょう。

▶︎関連記事:「【野生動物保護】絶滅危惧種となったワラビーの繁殖計画を成功させたオーストラリア

絶滅危惧種とレッドリスト

レッドリストとは、絶滅の恐れのある野生動植物種のリストです。国際的なレッドリストはIUCNが作成しています。

【IUCNレッドリストカテゴリーと基準 表紙】

国際自然保護連合(IUCN)とは

IUCNはInternational Union for Conservartion of Natureの略称です。1948年に世界的な協力関係のもと設立されました。

国際的な自然保護のための世界最大のネットワークとして200を超える政府・機関、900を超える非政府機関が会員となり、生物種の多様性保全のために協力関係を築いています

【IUCNについて】

日本国内のレッドリストは環境省、地方公共団体、NGOなど複数の機関や団体が作成しています。レッドリストでは生物学的な観点から、それぞれの種の絶滅の危険度が評価されています!

【福岡県の作成するレッドデータブック】

レッドリストの内容

ここからは環境省が作成するレッドリストについて内容を確認しましょう!環境省では、日本に生息する野生生物について生物学的な根拠に基づき、ひとつひとつの種の絶滅の危険度を評価しています。

絶滅の危険度の評価は、生き物の分類群ごとに分科会が設けられて検討されます。動物・植物は次のような分類群に分けられています。

  • 動物:哺乳類、鳥類、両生類、爬虫類、汽水・淡水魚類、昆虫類、陸・淡水産貝類、その他無脊椎動物
  • 植物:維管束植物(いかんそくしょくぶつ)、蘚苔類(せんたいるい)、藻類、地衣類、菌類

海洋生物に関しては一部の種を除き、2012年度からレッドリスト作成のための作業が始まりました。2017年には環境省版海洋生物レッドリストが公表され、絶滅危惧種として56種、絶滅種としてオガサワラサンゴの1種が記載されました。

海洋生物は次の分類群に分けられています。

  • 海洋生物:魚類、サンゴ類、甲殻類、軟体動物(頭足類)、その他無脊椎動物

【2017年海洋生物レッドリストで絶滅と記載されたオガサワラサンゴ】

レッドリストのカテゴリー分け

環境省のレッドリストでは、種ごとに絶滅のおそれの程度によって、下の表のようなカテゴリー(ランク)に分けています。この判定は、2001年にIUCNが発行した「IUCN レッドリストカテゴリーと規準」と同様の判定基準で行われます。

【絶滅のおそれのある種のカテゴリー(ランク)】

絶滅(EX)我が国では既に絶滅したと考えられる種
野生絶滅(EW)飼育・栽培下あるいは自然分布域のあきらかに外側で野生化した状態でのみ存属している種
絶滅危惧Ⅰ類(CR+EN)※絶滅の危機に瀕しているもの
絶滅危惧ⅠA類(CR)※ごく近い未来における野生での絶滅の危険性が極めて高いもの
絶滅危惧ⅠB類(EN)※ⅠA類ほどではないが、近い未来における野生での絶滅の危険性が高いもの
絶滅危惧Ⅱ類(VU)※絶滅の危機が増大している種
準絶滅危惧(NT)現時点での絶滅危険度は小さいが、生息条件の変化によっては「絶滅危惧」に移行する可能性のある種
情報不足(DD)評価するだけの情報が不足している種
(附属資料)絶滅のおそれのある地域個体群(LP)地域的に孤立している個体群で、絶滅のおそれが高いもの

出典:環境省『レッドリストのカテゴリー(ランク)』より作成

現在確認されている生き物の全ての種はこの表のカテゴリーの中のどれかに分類されますが、その中で絶滅危惧種とされるのは表の赤い部分のカテゴリーに評価された種です。絶滅のおそれの高い順に、絶滅危惧ⅠA類、絶滅危惧ⅠB類、絶滅危惧Ⅱ類の3つのカテゴリーが絶滅危惧種に相当します。

注意:環境省の表にある「絶滅危惧Ⅰ類(CR+EN)」という項目は、絶滅危惧種Ⅰ類にはA(CR)とB(EN)があることを表しています。

【IUCNが示すレッドリストのカテゴリーの構造】

IUCNのカテゴリーの構造のうち、環境省のレッドリストのカテゴリーでは赤色(CR)が絶滅危惧ⅠA類、オレンジ色(EN)が絶滅危惧ⅠB類、黄色(VUのみ)が絶滅危惧Ⅱ類に当たります。*3)

IUCNレッドリスト2022年7月新規登録種

【南北アメリカを4,000km横断する蝶:オオカバマダラ】

オオカバマダラは「集団で旅(渡り)をする蝶」として知られています。生息地の環境破壊と気候変動により数が減っています。

昆虫の渡りとしては最長の移動距離と言われ、毎年秋にアメリカ北部やカナダを旅立ち、カリフォルニア州やメキシコで越冬します。個体数は近年最盛期の20%ほどに減少してしまいました。(地域群によって80%~86%の減少割合)

オオカバマダラの個体数激減の原因は、

  • 人間による環境破壊でオオカバマダラの幼虫の唯一の餌であるトウワタ※の減少
  • 気候変動による気温の上昇により渡りのタイミングが乱された

ことなどが考えられます。

※トウワタとは

キョウチクトウ科の多年草で夏から秋に花を咲かせる多年草。有毒物質のアルカロイドを含み、オオカバマダラの幼虫はこの植物を食べることで体内に毒を蓄積する。オオカバマダラはこの毒を成虫になっても持ち続けている。

参考:NATIONAL GEOGRAPHIC『「旅する蝶」が激減、入り組んだ人為的影響』(2018年12月)
参考:NATIONAL GEOGRAPHIC『トウワタ減少でオオカバマダラ絶滅危機』(2014年8月)

世界に生存するチョウザメ26種全てが絶滅危惧種:チョウザメ再評価

【ダウリアチョウザメ】

【口をあけたダウリアチョウザメ】

チョウザメはチョウザメ目チョウザメ科に分類される淡水魚で、日本語では「蝶鮫、鱘魚」と書きますが、サメの仲間ではありません。日本の環境省のレッドリストでは2017年に「(日本国内で)絶滅」と評価されましたが、これまでIUCNの評価は「準絶滅危惧」でした。

チョウザメの個体数減少の原因は

  • 食用のための密猟
  • 川の温暖化による繁殖の混乱

などが考えられます。今回の再評価により中国のパドルフィッシュ(Psephurus gladius)※の絶滅も記録されました。

パドルフィッシュ

チョウザメ目ヘラチョウザメ科ヘラチョウザメ属の淡水魚。長いヘラ状の口先が特徴。

【ヘラチョウザメ】

そのほか、トラは2015年から見て約40%増加して世界中で野生のトラが3,726頭~5,578頭いることがわかり、安定して増加していると考えられることが明らかにされました。

日本の絶滅危惧種の数

環境省レッドリスト2020では、日本の野生生物のうち、『絶滅のおそれのある野生生物(絶滅危惧種)』として、3,772種がリストアップされています。レッドリスト2020で新たに掲載されたのは41種、カテゴリーが再評価されたのは28種で、5種がレッドリストから削除されました。

日本の固有種:ヤンバルクイナ ー 絶滅のおそれのある野生生物(絶滅危惧種)


沖縄島北部のやんばる地域のみに生息するヤンバルクイナは日本の固有種であり絶滅危惧種ⅠA種に指定されています。2005年の調査では約720羽まで生息数が減っていると報告されましたが、その後のマングース防除事業の進展とともに2011年以降は生息数が回復傾向にあると考えられています。

どうして多くの生き物たちが絶滅に追いやられるのでしょうか?さらには、絶滅危惧種に指定される生き物の種数が増加の一途をたどっているのはなぜでしょうか?

例えば、環境省第4次レッドリストで絶滅危惧ⅠA類に指定されているミヤコカナヘビは、人間による開発や農薬散布、ペット目的などでの採集・乱獲、イタチ・インドクジャクなどの外来種による捕食などの理由で数が減っています。ある生き物が絶滅に追いやられるほどに数が減ってしまう原因は、このように多くの場合、ひとつではないのです。

生き物たちの生息数を激減させる主な原因を見てみましょう!

沖縄県宮古島市のミヤコカナヘビ ー 絶滅危惧ⅠA類

沖縄県宮古島・池間島・伊良部島・大神島などに生息する日本固有種のカナヘビ。とても細身で鮮やかな緑色の体に、四肢の先端が赤褐色です。頭から胴の長さは6.5cmほどで、長い尻尾を含めた全長はオスで29cm、メスで27cmにもなります。森林や薮が背後にある草むらに生息し、昆虫や蜘蛛類などを餌にしています。

絶滅危惧種が増えている原因は?

なぜ絶滅危惧種は増えているのでしょうか。ここでは、原因について解説していきます。

原因①開発による生息環境の破壊

野生の生き物がその生息数を減らしてしまう最も大きな原因は、人間による開発です。これまで、人間は自然環境が果たしている役割などの知識が乏しかったり、短期的な利益を追求したりなど、長い時間をかけて築き上げられた尊い自然を破壊し開発を進めてきました。

コンクリート護岸化により住処を失う

日本では治水・利水目的に河川のコンクリート護岸化が盛んに施された時期があります。その結果、希少な淡水魚類が絶滅したり激減するなど、環境が悪化し生物種の多様性が損なわれたという調査結果が多く報告されています。

【干潟が果たす役割】

 日本の干潟は戦後の高度成長期には「役に立たない土地」として、現在までに全体の4割もの面積が埋め立てられました。しかし干潟は多種多様な生物をはぐくむほか、水をきれいにする働きもあります。

近年では、ようやくこの干潟や湿地などの環境に果たす役割が知られるようになりました。自然の営みを視野に入れた「多自然川づくり」や、老朽化した護岸の補強には生物育成環境の創出効果を考えた工事が行われるようになり、環境が改善したという報告も増えてきました。

【多自然川づくり】

原因②環境汚染

大気汚染・水質汚染・土壌汚染・海洋汚染などにより、もともと住んでいた生き物が住めない環境に変わってしまい、その場所の生物種の多様性が失われてしまう問題は今でも深刻です。日本ではすでに明治時代から、足尾銅山鉱毒事件に代表される人間の健康にも大きな影響をもたらす環境汚染が社会問題になりました。

その後もイタイイタイ病・水俣病・四日市ぜんそくなど「公害」と呼ばれる大規模な環境汚染がいくつも起きました。産業廃棄物の不法投棄、生活排水・工業排水による河川・海洋汚染、化石燃料利用の増加による大気汚染など、人間の目先の利益を優先した活動は、大小さまざまな規模で環境を汚染してきたのです。そしてこの問題は、現在ではアジアの新興国などで深刻化しています。

【富栄養化による赤潮の発生】

近年では「海洋プラスチックごみ」が国際的な問題となっています。世界全体で大量に廃棄されているプラスチックごみは、海に流れ出ても長い期間分解されることなく漂い、海洋を汚すだけでなく生き物が誤って食べたり体に絡みついたりして生態系に悪影響を与えています。

【ゴミが絡まっているウミガメ】

原因③地球温暖化や気候変動などの環境問題

気候変動の問題は、いま全世界が協力して解決に取り組まなければならない大きな課題です。主に化石燃料の利用による温室効果ガスの排出増加で地球温暖化が急速に進み、世界各地で豪雨や猛暑などの気象災害が増加しています。

【近年の異常気象の例 令和2年7月豪雨】

生き物にとって、適切な気温や適切な量の水は生死にかかわる重大なものです。移動能力に長けた種であれば、生きる条件に合った新たな土地へ移動できるかもしれません。しかし、移動能力に乏しい生き物はその場所の気候が変わってしまったら絶滅してしまうこともあります。

【生態系ピラミッドの崩壊】

人間の豊かな生活と引き換えに生態系のバランスが崩れてしまう

産業革命以降、人間の活動は急速な発展を遂げました。化石資源をエネルギーとして利用することで高い生産能力と便利な生活がもたらされた一方で、温室効果ガスの増加による地球温暖化や廃棄物による大気・土壌・水質汚染などの環境破壊、それに伴う気候変動を招いてしまいました。

人間の短期的な利益を求める活動は、長い歴史の中で育まれてきた自然の生態系バランスを短期間のうちに崩してしまったのです。私たちは今、この問題の解決に全力で取り組まなければいけない大切な時期にあります。

人間がこれからも持続的に発展していくために、自然と共生する社会を構築しなくてはなりません。そのためには、温室効果ガスを排出するエネルギーや自然を汚染する廃棄物の投棄を可能な限り減らし、持続可能な資源の利用方法へと生活や産業の形を変えていく必要があるのです。

sdgs13SDGs13「気候変動に具体的な対策を」の現状と私たちにできることを徹底解説

原因④人間の採取・乱獲・密猟

絶滅危惧種が減少してしまうのは、人間による直接的な採集・乱獲・密漁なども大きな原因です。絶滅危惧種は鑑賞・ペット目的や、販売目的、食用目的などでの採集・捕獲は禁止されていますが、種によっては密漁が後を絶たないものもあります。

ニホンウナギ

食用目的での乱獲の例には二ホンウナギが知られています。環境省第4次レッドリストでは絶滅危惧種ⅠB類(EN)と評価されました。

人工ふ化の技術も確立されましたが、資源としても、生態系の一環を担う存在としても、大切に保全していく必要があります。日本人にとってウナギはご馳走で、全く食べられなくなってしまうのは寂しいですし、ウナギの養殖で生計を立てている人も居ます。

絶滅に瀕しているニホンウナギのために、私たちはどう行動すべきでしょうか。葛藤に悩む問題です。

人工ふ化ウナギ

水産総合研究センターでは2002年にウナギの人工ふ化に成功し、2010年には完全養殖の技術が確立しました。

水産庁のfacebookで飼育されている二ホンウナギの動画が公開されています。

二ホンウナギの生態

二ホンウナギは日本列島のはるか南、西マリアナ海嶺の周辺が産卵場所です。図のように、ふ化後は東アジア周辺で成長し、成熟すると太平洋を回遊して西マリアナ海嶺に戻ります。

レブンアツモリソウ

レブンアツモリソウは鑑賞(園芸)目的で過去に大量の盗掘があった植物の一例です。希少種はペット・園芸目的で不法に採集され、一部のコレクターの間で高値で取引されている現状があります。

【国内希少野生動植物種に指定されているレブンアツモリソウ】

レブンアツモリソウは北海道の礼文島のみに分布するラン科の植物で、現在ではわずか数十株ほどしか確認されていません。礼文町ではレブンアツモリソウを守るため、この花の開花時期に合わせて「アツモリ感謝祭」を開くなどの活動を行っています。

かつては詳細な分布地を一般公開しないことで、そのような不法な採集から絶滅危惧種を守ろうとしていました。しかし、近年ではレブンアツモリソウのように、その生き物が絶滅危惧種であること・希少であることに加え、その生き物の見た目などの知名度を上げて、社会全体で監視の目を育てて守ろうという方針がとられることもあります。

【レブンアツモリソウの妖精 あつもん】

原因⑤侵略的な外来種

外来種とは、本来その地域に生息していなかった種の生き物が、人間の活動により他の地域から入ってきたものを指します。本来その地域に生息している種の生き物は在来種と呼びます。

外来種という文字の見た目から、海外から日本に持ち込まれた生き物を指すように思われますが、日本国内の他の地域からもともといなかった地域に生き物が持ち込まれても外来種に当たります。外国からの外来種を「国外由来の外来種」、日本国内からの外来種を「国内由来の外来種」と呼びます。

【国内・国外由来の外来種】

【特定外来生物の種類数推移】

身近に存在する外来種

外来種は私たちの身近に、動物・植物ともにすでに多く存在しています。植物では田んぼのあぜ道や公園にもたくさん生えているシロツメクサや、水辺に紫色の花を咲かせるホテイアオイ、魚類では湖のルアーフィッシングで釣れるオオクチバスやブルーギル、哺乳類ではノネコ(イエネコが野生化したもの)、アライグマなど、外来種は多種多様です。

【ホテイアオイ】

ホテイアオイは園芸目的で、ノネコやアライグマはペットとして、オオクチバスやブルーギルは食用に輸入されました。その頃の人々はまさか、外来種を野生に放ったり捨てたりすることが在来の生物種の多様性を蝕むことになるとは思ってもいませんでした。

【琵琶湖のブラックバス】

もともとその地域に生息していなかった生物が外から侵入してくると、その地域で長い期間をかけて築き上げられた捕食する・されるなど食物連鎖のバランスに悪い影響を与えることがあります。また、遺伝子的に近い在来種と交雑して雑種を作るなどの※遺伝的撹乱が起こる場合もあります。

日本の広い範囲で見かける、アメリカザリガニによる影響の例を見てみましょう。

遺伝的撹乱

在来種と外来種の雑種の存在は、在来種の遺伝的な独自性を失わせてしまいます。近年の研究では、従来同一種と考えられてきた種の中でも、遺伝的特徴から、「遺伝子的に近い複数の別種と区別するべき」と考えられる例も多く発見されています。

かつて人間の活動が環境を破壊し、現在の生物種の多様性の喪失をはじめとする、異常気象、地球温暖化などの深刻な問題を招いてしまったように、遺伝的撹乱などによる種の独自性の喪失は、将来的に甚大な問題を引き起こす可能性もあります。自然のシステムは奥深く、未発見の事実がどこにあっても不思議ではありません。

また、雑種があふれると、本来の遺伝子の多様性を失ってしまうだけでなく、専門的な研究の妨げになることもあります。このような観点から、種の遺伝子的独自性は守らなければならないのです。

アメリカザリガニによる影響

【アメリカザリガニの影響を受ける生き物たち】

水辺には水草などの植物が生い茂り、その水草を住処とするヤゴ(トンボの幼虫)やゲンゴロウなどの水生昆虫、小魚、両生類など多種多様な生き物が暮らしています。水草には水を浄化する働きもあり、澄んだ水が保たれています。

もともとは食用のウシガエルの餌として日本に持ち込まれたアメリカザリガニでしたが、捨てられるなどして日本各地の水辺で急速に増えてしまいました。アメリカザリガニは雑食で、動物性の餌から植物性の餌までとても幅広い種類のものを食べます。

【アメリカザリガニ侵入前と後の様子】

在来の生き物たちでバランスが取れていた水辺にアメリカザリガニが侵入すると、食べるためにどんどん水草を切ってしまい、水草を住処にしていた生き物たちは産卵場所や隠れる場所を失ってしまいます。こうして住処を失った在来の生き物たちも、アメリカザリガニはどんどん食べてしまいます。

アメリカザリガニが侵入した後の水辺は、水草や生き物の姿が減り、正常な循環を失って水質が悪化し、水が濁ってしまいます。さらには餌となる生き物が減ったために、カモやサギなどの水鳥たちも来なくなってしまうのです。

【石川県金沢市の池の様子/アメリカザリガニ侵入前(2003年)】

水草が茂り、生き物たちの産卵場所や隠れる場所があります。水草の浄化作用で、水も澄んでいます。

【石川県金沢市の池の様子/※アメリカザリガニ侵入後(2009年)】

水草がほとんど生えなくなり、水も濁ってしまいました。

原因⑥里地里山の管理放棄

人の住む集落の周りに田んぼが広がり、ため池や雑木林が点在するような、人間の生活が自然環境と調和した農耕文化によって作られた地域を「里地里山」と呼びます。日本でも高度経済成長期以前は、このような景色がいたるところで見られました。

しかし戦後の高度経済成長期で、日本の産業構造や生活様式は急激に変化し、耕作地や森林管理が放棄され、山林・農地・水路が荒廃する里地里山が増加しました。里地里山の荒廃は、地域固有の文化や美しい景観を失うだけでなく、それまで人間の活動と調和して保たれていた里山特有の生き物の生息域の環境が失われ、そこに築かれていた生き物の種が減少するという問題を招きました。

レッドリストに掲載されている生き物の多くが里地里山に生息

レッドリストに掲載されている生き物の多くは、里地里山に生息している種です。人間がいなくなり、人間の活動が無くなれば自然環境が改善されるのではなく、自然環境と調和した活動を持続することが、里地里山での生物種の多様性の保全につながるのです。*4)

【初夏の里地里山】

ここまでが絶滅に追いやられている原因です。では、実際にどのような絶滅危惧種がいるのかを確認していきましょう。

世界の絶滅危惧種例

産業革命以降の人間の活動の急速な発展以前にも、人間の活動によって生き物の数が減ってしまう例はありました。世界の絶滅危惧種からは、陸上哺乳類がいなかった島に人間が移住してきたことにより、そこの環境に適応していた飛べない鳥類を絶滅の危機に追い込んでしまったニュージーランドの例を紹介します。

ニュージーランドの鳥類

ニュージーランドにはたくさんの固有種が生息していますが、その多くが絶滅危惧種です。国鳥に指定されているキーウィや、現在147羽ほど(2019年3月時点)しか生息が確認されていないカカポ(フクロオウム)など、飛ぶことのできない鳥たちもその代表です。

かつてニュージーランドには陸生の哺乳類が全くいなかったため、これらの鳥たちは、進化の過程で陸上生活に適応して飛ぶ力を捨てたと考えられています。人間が移住してきたことにより、それに伴ってイヌ・ネコ・ネズミ・イタチなどが侵入し、さらに人間の牧場開発による環境破壊の影響を受けて、これらの飛べない鳥たちの多くが死滅してしまいました。

【ニュージーランドのキーウィ】

体重の4分の1ほどの大きな卵を産み、オスが抱卵するなど独特な生態を持つキーウィですが、陸上に哺乳類が侵入したことにより捕食されただけでなく、人間も食用や羽毛の利用目的に捕獲していました。現在はニュージーランドを象徴する鳥として大切に保護され、生息数も回復傾向にあると報告されています。

【ニュージーランドのカカポ】

カカポはニュージーランドに生息する世界で唯一の飛べないオウムです。とても警戒心が少なく、のんびりとした性格で、世界で最も長生きで、最も体重が重たい種のオウムであると考えられています。

1890年に保護の努力が始まったものの、1980年に「フクロオウム保護計画」が始まる以前は良い結果が得られていませんでした。現在は肉食獣のいない島に移され、24時間体制で手厚く保護されています。

日本の絶滅危惧種例

日本の絶滅危惧種では、魚類から紹介します。何が魚類の生息環境を脅かしているのでしょうか?

淡水魚

まずは日本固有種で絶滅危惧ⅠA類のイタセンパラを見てみましょう。

【イタセンパラ】

イタセンパラは最大で15cmほどになるコイ目コイ科の淡水魚です。産卵期にはオスの腹部は赤紫色を帯び、イシガイ科の二枚貝に産卵します。

平野部の河川にできるワンド(河川沿いにできる水たまり)・半自然水路・湖沼などに生息し、分布域は濃尾平野・富山平野北西部・琵琶湖淀川水系の3カ所のみです。淀川下流の分布域では2006年以降、揖斐川では2010年以降確認されておらず、個体数が激減していると考えられています。

【ワンドとは】

イタセンパラの生息を脅かしているのは、

  • 河川の改修や河川の水位の低下に伴うワンドの樹林化
  • 水質汚染などの環境の悪化
  • 人間による密猟
  • 外来種のオオクチバスによる捕食やヌートリアによる二枚貝の捕食

です。また、外来植物のボタンウキクサなどがワンドの水面を覆ったことによる生息環境の変化も原因のひとつと考えられています。

【キタノメダカ】

【ミナミメダカ】

かつてはどこでも見られる最も身近な魚だったメダカも、現在は絶滅危惧Ⅱ類にリストアップされるほどに個体数が減少しています。(日本在来種のメダカは近年の研究でキタノメダカとミナミメダカに区別されました。)

メダカの生息する水域は人間の生活圏に近く、人間の生活様式の変化や開発などの影響を多大に受けます。メダカの減少には主に次のような原因が考えられます。

  • 都市開発や河川改修の影響で生息域が消失
  • 水田の整備で水路がコンクリートになり、水流が速くなって住めなくなる
  • コンクリート整備により、メダカの産卵できる水草が生えなくなる
  • オオクチバスやブルーギルのような外来種の捕食

これらの理由で在来種のメダカは激減し、一般的にもメダカの保全が必要という認識が高まりました。しかし、これがきっかけとなり、誤った形での保全活動も行われてしまいました。

地域のメダカを復活させようと、他の地域で採集された個体や商業目的に養殖されていた個体が各地で放流されてしまいました。結果、本来その地域に生息していたメダカとの交雑(遺伝子撹乱)で、何万年もかけて形成された地域ごとの遺伝的多様性が失われる危機に直面してしまったのです。すぐには影響は目に見えませんが、遺伝子攪乱によって、その環境に進化していたメダカが変化してしまい、のちのち影響が現れる可能性があります。

【メダカの遺伝子解析による分布図】

上の地図のオレンジ色に囲まれた地域がキタノメダカの生息域、青色に囲まれた地域がミナミメダカの生息域です。さらに、見た目は同じメダカのように見えても、細かく色分けされている区域ごとに別の遺伝子集団と考えられています。

日本各地のメダカの遺伝子を調査した結果、各地で本来生息しているはずのない遺伝子を持つメダカが発見されるなど、多くの生息地で遺伝子撹乱が起きていることが明らかになっています。今後は十分な科学的知識に基づいて、慎重な保全への取り組みが必要です。*5)

絶滅危惧種に関する世界の取り組み

絶滅危惧種を守るために、国際的な協力のもとに行われている対策の代表的なものがワシントン条約とラムサール条約です。それぞれの内容を確認してみましょう。

ワシントン条約

ワシントン条約は、野生動植物の国際取引の規制を輸出国・輸入国の双方が協力して行い、絶滅の恐れのある野生動植物を保護するための条約です。保護が必要と考えられる野生動植物を、絶滅のおそれの程度に応じて3つの区分に分類し、それぞれに応じた国際取引の規制が行われます。

絶滅のおそれのある種で取引による影響を受けている、またはそのおそれがあると考えられる種は、ワシントン条約により商業目的のための国際取引が原則として禁止されています。また、国内の取引であっても種の保存法に基づき、規制の対象となります。

【ワシントン条約と種の保存法】

ワシントン条約の3つの区分

ワシントン条約は規制の内容に応じて附属書1〜3の3つに区分されます。

【ワシントン条約の規制の区分】

ラムサール条約

ラムサール条約は1971年にイランのカスピ海沿岸の町、ラムサールで採択されました(発行は1975年12月)。この条約は水鳥の生息地をはじめとする人工のものを含む湿地や地下水系、浅海域など幅広い湿地を保全し適正に利用するための国際的な規定です。

現在は広く認識され、世界規模で実現するために努力されている「自然資源の持続可能な利用(Sustainable Use)」という概念を取り入れて環境の観点から本格的に作成された、採択当時では先駆的な多国間環境条約です。生態学や動物学の知識に基づいた湿地の重要性を認識し、その保全の促進を目的としています。

日本は1980年6月に寄託機関のユネスコに加入書を寄託し、その年の10月から日本にラムサール条約の効力が発生しました。この時に釧路湿原が登録されました。

その後、ラムサール条約湿地登録への取り組みが加速し、現在では50カ所が登録されています。

【さまざまな湿地】

ラムサール条約で定義される湿地は、天然・人工、永続的なものか・一時的なものか、水が流れているか・滞っているか、淡水・汽水・海水であるかにかかわらず、湿原・湖沼・ダム湖・河川・ため池・湧水地・水田・遊水池・地下水系・塩性湿地・マングローブ林・干潟・藻場・珊瑚礁など幅広い水域を含みます。

二国間渡り鳥等保護条約・協定

二国間渡り鳥等保護条約・協定は、日本が渡り鳥や絶滅のおそれのある鳥類とその生息環境を守るために日本が他国との二国間で締結している条約・協定です。

アメリカ・ロシアとは渡り鳥等保護条約、オーストラリア・中国とは渡り鳥等保護協定を結んでいます。その中でもアメリカ・ロシア・オーストラリアとは自国の絶滅危惧種鳥類を互いに通報しあい、輸出入の規制を行っています。

また、通報された種は種の保存法に基づく国際希少野生動物(後述)として、国内での流通が規制されています。

【マガモの人工衛星を利用した調査】

絶滅危惧種に関する日本の取り組み

野鳥を捕獲し足環をつけて放鳥した後に、足環をつけた鳥が再び発見された報告をもとに渡りの経路を調査する方法のほかに、野鳥に送信器を取り付け、人工衛星でその移動経路を追跡する調査なども締約国と協力して行われています。*6)

国際的な条約などに基づいた保護のほかに、日本は絶滅危惧種を守るために独自の対策を行っています。日本の絶滅危惧種の中でも特に注意が必要とされる種を厳重に保護・管理・増殖するために、環境省を中心に国土交通省・農林水産省など各省庁・研究機関・地方公共団体などが協力しています。

種の保存法

種の保存法は「絶滅のおそれのある野生動植物の種の保存に関する法律」の略称です。1992年6月に制定され、1993年4月に施行されました。

対象となるのは、

  • 国内:環境省レッドリストなどに基づく国内希少野生動植物種
  • 外国産:ワシントン条約附属書Ⅰに掲載されている種(日本が留保している種を除く)

です。二国間渡り鳥等保護条約・協定に基づく絶滅のおそれのある鳥類として通報のあった種も含まれます。

【種の保存法 4つの区分】

国内希少野生動植物種国際希少野生動植物種
個体等の取扱規制
・輸出入の禁止
・譲渡し等の禁止
・販売目的の陳列の禁止
・販売目的の広告の禁止
・捕獲等の禁止

・輸出入時の承認の義務付け
・譲渡し等の禁止
・販売目的の陳列の禁止
・販売目的の広告の禁止

(下記の場合は例外的に譲渡し等が可能)
環境大臣または登録機関の登録を受けた場合
象牙などで全形を保持しないものを譲渡しする場合
(ただしべっ甲として譲渡しする場合は届出が必要)
(特別国際種事業として象牙の譲渡しを行う場合は登録が必要)
生息地保護生息地保護区の指定

・環境大臣が指定
・環境省が保護管理
保護増殖保護増殖事業計画

・環境省が各省庁と協力して策定・公示
・環境省が保護増殖事業
動植物園認定希少種保全動植物園などの認定

・認定された園が行う希少野生動植物種の譲渡し等については許可手続きが不要

出典:環境省『ワシントン条約と種の保存法 種の保存法とは』より作成

【種の保存法に基づく規則】

国内希少野生動植物種の指定

【国内希少野生動植物種に指定されているエトピリカ】

国内希少野生動植物種とは、日本に生息・生育する野生動物種の中で、絶滅のおそれがあるとされ、種の保存法施行令により定められたものです。捕獲・採取・譲渡などが原則として禁止されます。

2022年1月24日時点では、国内希少野生動植物種は427種です。レッドリストに掲載されている種が3,772種であることから見ると、かなり絞られた数の種が国内希少野生動植物種に指定されていることがわかります。

【環境省による種の保存法 広報ポスター】

緊急指定種の指定

日本では「絶滅のおそれのある野生動植物の種の保存に関する法律」で、特に緊急な対策が必要と認められる場合、その種を緊急指定種として指定することができます。緊急指定種は、新たに発見された種や絶滅したと思われていた種が再発見された場合など、特に緊急な保護の処置が必要な場合に、乱獲などを禁止することができる法律です。

緊急指定種に指定されると、3年を限度に捕獲・殺傷、譲渡、輸出入、陳列などが緊急に禁止されます。指定後、国内希少野生動物種への指定の必要があるか、調査による科学的な知見から判断されます。

これまでは、1994年のワシミミズク、イリオモテボタル、クメジマボタル、2008年のタカネルリクワガタなどの例があります。この中から、ワシミミズクは1997年に国内希少野生動植物種に指定されました。

【1994年に緊急指定種に指定されたワシミミズク】

【2017年に緊急指定種に指定されたケラマトカゲモドキ】

最近では、ケラマトカゲモドキの例があります。ケラマトカゲモドキは、2015年に国内希少野生動植物種として指定されたマダラトカゲモドキの同亜種と考えられていましたが、2017年の公表された学術論文により、新たに別亜種とされました。

マダラトカゲモドキが規制の対象になっていたことから、ケラマトカゲモドキも緊急指定種として2020年までの3年間規制の対象とされました。2019年にはリュウキュウテングコウモリなどとともに国内希少野生動植物種に追加で指定されました。

生息域外保善

絶滅危惧種などを動物園・植物園・水族館・その他の研究機関などで飼育・栽培することを、生息域外保全による絶滅回避と言います。多くの場合、生き物が絶滅のおそれがあるまでに減少する原因は生息域の環境の変化です。

しかし一度変化した環境を改善するには時間がかかります。すでに絶滅のおそれがある生き物を、生息域の環境が改善されるまでに絶滅してしまわないように保護するのです。

【2016年に国内希少野生動植物種に指定されたウスイロヒョウモンモドキ】

絶滅危惧ⅠA類のウスイロヒョウモンモドキは環境省と箕面公園昆虫館・伊丹市昆虫館との連携により、生息域外保全されています。ウスイロヒョウモンモドキは非常に熱心に保護されている一例で、伊丹市昆虫館では日本チョウ類保全協会と共同でシンポジウムが開かれたほか、難しいとされる飼育下での繁殖に取り組んでいます。*7)

絶滅危惧種を守るために私たちができること

絶滅危惧種を守るのは国や専門家、熱心なその種の愛好家や環境意識の高い人だけではありません。あなたが絶滅危惧種の生息する地域のそばに住んでいなくても、できることがあります。

先ずは正しい知識を身につける

私たち個人にできる絶滅危惧種や生物種の多様性を守る第一歩は、

  • 絶滅危惧種
  • 生物種の多様性
  • 自然の循環システム

などについて、正しい知識を身に付けることです。正しい知識を身に付けることにより、その大切さがわかり、守るための努力の必要性を感じることができます。

現在の絶滅危惧種を取り巻く状況はとても厳しく、捕獲の禁止や生息域の立ち入りの禁止のみでは解決が困難です。その種の周りだけでなく、地球全体で起きている温暖化・気候変動・汚染などが絶滅危惧種を含む自然の生物相に大きな影響を与えているからです。

絶滅危惧種やその種を取り巻く環境・生物種の多様性・自然の循環システムなどの知識は、あなたに危機感を与えるかもしれません。しかし自然の仕組みの素晴らしさ・地球の美しさ・命の尊さなどを知ることは、あなたのこれからの生きる時間をより充実した素晴らしいものにするでしょう。

【サンゴ礁に群がる魚の様子】

小さなことから行動する

絶滅危惧種を守ることにつながる行動には、さまざまなアプローチがあります。私たちが絶滅危惧種や生物種の多様性を守るためにできることを具体的にいくつか挙げてみます。

  • 実際に自然を体験する
  • 動物園・植物園などに行く
  • 自然の素晴らしさや季節の移ろいなどを写真・絵・文章などで伝える
  • 生き物や自然、人や文化のつながりを守る活動に参加する
  • エコマークなどがついた環境にやさしい商品を選んで購入する
  • 省エネ家電・再生可能エネルギーの利用
  • 食べ残しをなくす
  • コンポストやリサイクルを活用しゴミを減らす
  • ペットは責任を持って飼育し、捨てない
  • 珍しい動植物をペットやコレクションにしない
  • 信頼できる保護活動を行なっている機関に応援・寄付をする
  • 地元でとれたものを食べ、旬のものを味わう
  • 環境に優しい方法で生産されたものを選んで食べる

このように、私たちにできることはたくさんあります。ひとりひとりが環境を守るためにできることから実行することによって、社会全体がより自然と共生できる生活様式や産業形態を目指して動くのです。

絶滅危惧種とSDGsのつながり

最後に、絶滅危惧種とSDGsについてのつながりを確認しましょう。

目標14「海の豊かさを守ろう」

sdgs14

SDGsの目標14は海の資源を守り、持続可能な形で大切に使うための7つのターゲットにより構成されています。これらのターゲットの内容は以下の通りです。

  • あらゆる海の汚染を減らし、汚染を防ぐ
  • 海と沿岸の生態系を回復させるための取り組み
  • 持続可能な漁業のための科学的知識に基づいたな管理計画の実施
  • 開発途上の小さな島国などへの科学的知識や海洋技術の提供などによる国際協力

海に漂うプラスチックゴミ問題や、海洋の酸化なども深刻な問題です。これらの解決への取り組みは、同時に絶滅危惧種や海の生態系、海洋の環境を守ることに直結します。

目標15「陸の豊かさも守ろう」

sdgs15

SDGsの目標15は、土地の砂漠化を防ぎ、生物種の多様性を守りながら陸の豊かな資源を大切に使うための9つのターゲットにより構成されています。この記事で取り上げた内容を思い出しながら、その内容を見ていきましょう。

  • 陸上の生態系と内陸の淡水地域の生態系を守り回復させる
  • 陸の自然の恵みを持続可能な形で利用する
  • あらゆる森林の持続的な管理
  • 世界全体で植林を大きく増やし、森林の減少をくいとめる
  • 砂漠化・干ばつ・洪水などの影響で衰えてしまった土地と土壌の回復
  • 山地の生態系の保護
  • 絶滅か心配されている生物を保護し、生物種の多様性が損なわれないようにする
  • 2020年までに絶滅が心配されている生物に緊急対策を行う
  • 遺伝資源を使って得る利益が公正で公平に分けられるようにする
  • 保護の対象となっている動植物の密猟や違法な取引をなくす
  • 外来種が生態系に与える影響を大きく減らすための対策をとる
  • 特に優先度の高い外来種は駆除する
  • 国や地方の開発プロセスや経済に、生態系や生物種の多様性を守ることの大切さを組み入れて計画する
  • 開発途上国が持続可能な森林の管理ができるよう十分な資金を集める
  • 密猟や違法な野生生物の取引をやめさせるための国際的な支援をする
  • 密猟や違法な取引の原因となる貧困をなくすため、持続可能な形で収入を得られるようコミュニティ能力を高める

陸上では、森林の減少・土壌の劣化や汚染・野生生物の密猟や違法な取引など、生き物の生息環境や命に直接関わる問題が数多くあります。※IPBESによると2019年の時点ですでに、陸上の鳥類の14%、哺乳類の25%、針葉樹の34%、両生類の41%が絶滅の危機にさらされていると推定されています。

IPBES

The Intergovernmental Science-Policy Platform on Biodiversity and Ecosystem Servicesの略称。生物種の多様性及び生態系サービスに関する政府間科学・学策プラットホーム。

絶滅危惧種を守ること、生物種の多様性を守ることは、SDGsの目標の中でも気候変動への対策などとともに重要な位置を占めています。

2021年SDGs達成度ランキングでは目標15の評価が低下

SDGs達成度ランキングとは、ドイツのベルステルマン財団が毎年作成しているDevelopment Report(持続可能な開発報告書)によって評価されています。2021年6月に発表された日本の順位は世界で18位でした。

実は2019年は15位、2020年は17位と、過去と比較して順位が落ちています。この原因には目標15「陸の豊かさも守ろう」の評価が低下したことも関わっています。

  • レッドリストに登録された種の生息数改善などが進んでいないこと
  • 開発、汚染、外来種の侵入によって淡水域を含めた陸上の生物種の多様性の損失が進んでいること
  • 生物種の多様性の観点から重要と考えられる陸上・淡水域のうち、保護地区に登録された面積が増えていないこと

などが評価の低下につながりました。絶滅危惧種や環境を守ることは他国と競うことではありませんが、世界的に見て「まだまだ努力が必要」と評価されていることは事実です。*9)

まとめ:守るのは、命の循環のバランス全体

【人間の活動、社会・経済システム、環境基盤の相互関係】

ほかの全ての生き物と同様に、人間もひとりひとりが地球の生命の循環のなかに生まれます。生き物の種によってその生活の様子は多様ですが、生命体が存在した年代が39億5000万年以上前、さらに生命誕生のまえに遺伝子(RNA・DNA)が形成されており、それが生命の起源に関与した可能性が高いという研究結果も報告されています。

命はこのはるか長い歴史を経て、現在までつながって来ました。生物種の多様性は、その中でひとつひとつの命が自分の環境に適応しようと進化を繰り返した結果もたらされた壮大なものです。

しかし産業革命以降、化石燃料の利用により猛烈な勢いで発展・開発を繰り返し、私たち人間はこの尊い自然を便利な生活や利益の追求のために傷つけてしまいました。各分野には少なからず、人間が現在直面している問題を予測し警鐘を鳴らした研究者がいたにもかかわらず、多くの場合が「採算が合わない」「利益が減る」「そんな未来は信じがたい」と受け入れられませんでした。

人間社会全体の意識を未来に向けよう!

私たち人間にとって、目先の利益を捨てても未来のために何かすることは、簡単ではありません。しかし今、地球の生物種の多様性は深刻な危機に直面しています。

全ての命がつながっているように、生物種の多様性を守るための、あなたの正しい知識に基づいたひとつの行動・ひとつの選択が、地球環境全体を守ることにもつながっていきます。この素晴らしい命の循環システムを知り、その一員としてつながり、地球が未来も生物種の多様性のゆたかな、住める場所であり続けるよう、学び、行動しましょう!*10)

【屋久島国立公園:白谷雲水峡の美しい自然】

人間社会はこれまでも数々の苦しい時期を乗り越えてきました。この生物種の多様性と環境の危機を私たちが解決し、豊かな自然と共に末長く生命の環が回る地球を手に入れましょう。

〈参考・引用文献〉

*1)はじめに
環境省『保護増殖事業 ヒメタニワタリ』
環境省『串本海域公園 11月の錆浦の海 番外編』(2007年11月)
*2)絶滅危惧種とは
筑波大学『生命環境学群 生物学類 植物の基本構造』
IUCN日本委員会『IUCNとは』
IUCN『About』
環境省『生物種の多様性及び生態系サービスの総合評価 2021 第I章. わが国の自然環境と生態系』p.3
環境省『自然環境・生物種の多様性 ヤンバルクイナ』
環境省『日本の絶滅危惧種』
環境省『国際的な森林保全対策 森林減少・劣化の原因』
環境省『なぜ、守らなければいけないの?』

*3)絶滅危惧種とレッドリスト
環境省『自然環境・生物種の多様性 レッドリスト』
IUCN『IUCNレッドリストカテゴリーと基準』
環境省『自然環境・生物種の多様性 レッドリスト』
環境省『環境省版海洋生物レッドリストの公表について』(2017年3月21日)
環境省『レッドリストのカテゴリー(ランク)』
IUCN『IUCNレッドリストカテゴリーと基準』p.9
*4)絶滅に追いやられている原因とは
環境省『自然環境・生物種の多様性 ミヤコカナヘビ』
広島大学『コンクリート三面護岸化された小河川の環境改善に向けた課題(2016年論文)
環境省『命はつながっている 湿地は生命のゆりかご』
国土交通省『多自然川づくり』
経済産業省『なるほど!ケミカル・ワンダータウン 合成洗剤と環境問題』
環境省『令和2年版 環境・循環型社会・生物種の多様性白書 第3節 海洋プラスチックごみ汚染・生物種の多様性の損失』
環境省『令和3年版 環境・循環型社会・生物種の多様性白書 第2節 気候変動問題の影響』
環境省『令和3年版 環境・循環型社会・生物種の多様性白書 世界の新型コロナウイルス感染症の拡大に関する状況』
環境省『まもろう日本の生きものたち 私たちにできること』p.3(2015年3月)

農林水産省『二ホンウナギの安全供給に向けて』
水産庁suisan(ニホンウナギの「てっちゃん」)
農林水産省『二ホンウナギの安全供給に向けて』
環境省『レブンアツモリソウ』
北海道礼文町『あつもんランド』
環境省『日本の外来種対策』
環境省『令和3年版 環境・循環型社会・生物種の多様性白書 絶滅のおそれのある種の保存』 
環境省『日本の外来種対策』
環境省『命はつながっている 外来生物にかく乱される生態系』
環境省『何が問題なの? 水草、全部切る!?』
環境省『命はつながっている 荒廃する里地里山

*5)世界と日本の絶滅危惧種
Wikimedia Commons『Little spotted kiwi』(2018年7月)
WWF『Kiwi』
Department of Conservati『Kakapo Sirocco』(2012年2月)
NationalGeogrfic『残り147羽の鳥カカポに「記録的な繁殖期」、NZ』(2019年3月)
環境省『保護増殖事業 イタセンパラ』
国土交通省 農林水産省 環境省『生態系ネットワーク財政支援制度集』p.5
環境省『いきものログ キタノメダカ』
環境省『絶滅の恐れのある野生動植物種の生息域外保全 メダカ』

*6)絶滅危惧種に関する世界の取り組み
環境省『ワシントン条約』
外務省『地球環境 ワシントン条約』
環境省『ワシントン条約と種の保存法 ワシントン条約』
経済産業省『ワシントン条約について(条約全文、附属書、締約国など)』
外務省『地球環境 ラムサール条約』
環境省『ラムサール条約と条約湿地 湿地とは』
環境省『ワシントン条約と種の保存法 二国間渡り鳥等保護条約・協定とは』
環境省『我が国へ渡来するカモ類の渡りについて 人工衛星を利用した調査』

*7)絶滅危惧種に関する日本の対策
環境省『ワシントン条約と種の保存法 種の保存法とは』

境省『2021年1月1日に、国内希少野生動植物種として39種が指定されました』
環境省『エトピリカ』
環境省『国内希少野生動植物種一覧』
環境省『2021年1月1日に、国内希少野生動植物種として39種が指定されました』
環境省『緊急指定種について』
環境省『種の保存法に基づく緊急指定種の指定について』
環境省『2021年1月1日に、国内希少野生動植物種として39種が指定されました』 p.9
環境省『国内希少野生動植物種一覧』
京都市動物園『どうぶつ図鑑 ワシミミズク/Eagle Owl』
環境省『種の保存法に基づく緊急指定種の指定について』
琉球新報『ケラマトカゲモドキなど12種 希少種に追加へ』(2019年1月16日)
環境省『自然環境・生物種の多様性 ウスイロヒョウモンモドキ』
環境省『日本の絶滅危惧種と生息域外保全』
伊丹市昆虫館『チョウ類保全シンポジウム 2020年12月19日』

8)個人ができる絶滅危惧種を守る行動
環境省『サンゴ礁保全の取り組み サンゴ礁生態系保全の意義』
環境省『令和3年版 環境白書・循環型社会白書・生物種の多様性白書 第3章 地域や私たちが始める持続可能な社会づくり』
資源エネルギー庁『カーボンニュートラルってなんですか?』
経済産業省『2050年カーボンニュートラルに伴うグリーン成長戦略』
*9)絶滅危惧種とSDGsのつながり
環境省『生物種の多様性 民間参画ガイドライン』p.8
国際連合広報センター『SDGsのアイコン』
unicef『SDGs CLUB ”海の資源を守り、大切に使おう”』
国際連合広報センター『SDGsのアイコン』
unisef『SDGs CLUB ”陸の豊かさを守り、砂漠化を防いで、多様な生物が生きられるように大切に使おう”』
*10)まとめ
環境省『令和2年版 環境・循環型社会・生物種の多様性白書 第1章 気候変動問題をはじめとした地球環境の危機』
環境省『日本の国立公園』
nature『進化学:地球誕生の時期に迫る最古の生命の証拠』(2017年9月)
nature『生命の起源:DNAは生命誕生の前に存在したのか』(2020年6月)

この記事の監修者
阪口 竜也 監修者:フロムファーイースト株式会社 代表取締役 / 一般社団法人beyond SDGs japan代表理事
ナチュラルコスメブランド「みんなでみらいを」を運営。2009年 Entrepreneur of the year 2009のセミファイナリスト受賞。2014年よりカンボジアで持続型の植林「森の叡智プロジェクト」を開始。2015年パリ開催のCOP21で日本政府が森の叡智プロジェクトを発表。2017年には、日本ではじめて開催された『第一回SDGsビジネスアワード』で大賞を受賞した。著書に、「世界は自分一人から変えられる」(2017年 大和書房)