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北九州市立大学 牛房さん|地域の課題解決に取り組む官民連携のSDGs【前編】

北九州市立大学 経済学部教授 牛房 義明さん インタビュー

牛房 義明

1971年9月6日、大阪府大阪市生まれ。2019年7月、京都大学大学院経済学研究科博士後期課程修了(博士、経済学)。2001年10月、北九州市立大学経済学部に講師として赴任。現在、北九州市立大学経済学部教授。専門分野は環境経済学、エネルギー経済学、行動経済学、因果推論、機械学習など。

introduction

大学で行われるSDGsの取り組みにフォーカスしインタビューする本企画。今回は、SDG大学連携プラットフォーム(SDG-UP)に参加する北九州市立大学の牛房先生と永末先生へインタビューさせていただきました。

SDGs未来都市にも選定されている北九州市。大学でも様々な視点からSDGsの達成に向けた取り組みが行われています。前編ではエネルギー分野でSDGsに関連する様々なプロジェクトに取り組む牛房先生へお話を伺いました。 

北九州市と連携したエネルギー関連プロジェクト

–本日はよろしくお願いします。早速ですが、牛房先生が行うSDGsの取り組みについて教えてください。

牛房さん:

SDGs未来都市である北九州市では、SDGsが注目される以前から様々なプロジェクトが行われてきました。私は環境経済学、エネルギー経済学が専門ですので、それに関連した取り組みをいくつか行っています。

現在進行中のもので言うと、城野ゼロ・カーボン先進街区形成事業、北九州水素タウンプロジェクト、北九州次世代エネルギーパーク(上表参照)などがあり、洋上風力発電の施設についてはこれから建設予定です。

–全国的に見ても先進的な取り組みが多いですね。牛房先生はどういったきっかけでエネルギー関連の研究を始められたのですか?

牛房さん:

2010年度から2014年度まで行った「スマートコミュニティ創造事業」がきっかけでした。2011年の東日本大震災の際に行われた計画停電のように、節電要請や電気代を上げることでどれだけ電力を削減できるかなどの社会実験を行いました。

それ以外にも、水素やゼロ・カーボン、洋上風力で安定的に発電するためのメンテナンスやオペレーションができる人材の育成などにも取り組んでいます。

–SDGsが注目される以前からエネルギー関連の様々な取り組みをされていたんですね。

牛房さん:

そうですね。2016年頃にSDGsのことを知り、既に取り組んでいたことと17の目標を照らし合わせたうえで、SDGsを意識しながら連動させて取り組むようになったという感じです。

私が現在行っている取り組みで言うと、特にSDGs目標7の「エネルギーをみんなに そしてクリーンに」SDGs13「気候変動に具体的な対策を」を意識しながら取り組んでいます。

地域課題の解決を最優先としたSDGsの取り組み

–牛房先生が行うSDGsの取り組みの特徴を教えてください。

牛房さん:

科学技術振興機構(JST)という組織が2019年にSDGs達成に向けた共創的研究開発プログラム(SOLVE for SDGs)を立ち上げ、このプログラムに私の研究開発プロジェクトが採択され、研究を進めています。

–どのようなことを行うプログラムなのでしょうか?

牛房さん:

SDGsが掲げる17の目標の中で、それぞれの地域で最優先課題を取り上げて解決策を考えるというものです。

例えば九州では、再生可能エネルギーの出力抑制が行われています。電気は、消費(需要)と発電(供給)が同時に行われる必要があり、これが一致しないと大規模な停電を引き起こす可能性があります。日照に恵まれる九州は、需要よりも供給が上回ることが多いため、出力抑制が行われているのです。

–それってなんだかもったいない気がしますね。

牛房さん:

そうなんです。そこで、余った再生可能エネルギーで水素を作り貯蔵し、必要なときに電気にするという装置を社会にどうやって普及させていけばよいかの研究を進めているところです。このような施設が九州から日本社会全体に広がるよう頑張りたいです。

–まずは地域の課題解決をして、それを全国に広げていくというのが一番の特徴なのですね。

ゼロ・カーボン達成度などのシミュレーションによる効果

–様々なプロジェクトを進める中で、どのような結果が得られましたか?

牛房さん:

北九州で得られた実データを利用したシミュレーション結果を基にお話しますね。

このシミュレーションでは、太陽光発電でどれだけの電力がまかなえるか、どれだけ化石燃料由来の電気を買わずに済むかについて、「ゼロ・カーボン達成度」という指標で見ることができます。

シミュレーションによると、年間平均77.1%は太陽光発電や水素システムで電気がまかなえるということが分かりました。これらを導入しなかった場合と比較すると、年間約10万円の電気代が節約できる可能性があります。さらに化石燃料の電気を使わないということは、大気汚染や温暖化防止にも繋がります。そういった社会的な便益の費用も計算すると年間2万3千円ほどの社会的価値があるという試算も得られています。

–素晴らしい結果ですね。具体的な金額が分かると、今行われている研究がどれだけ価値の高いことなのかが分かります。

牛房さん:

ありがとうございます。

私は大学の地域戦略研究所にも所属していて、そこでSDGsに関するセミナーを実施したり、個別の相談対応を行うなど地元の企業支援も行っています。今後は、SDGsに関連する具体的な取り組みによって、企業の売り上げにどこまで貢献できたかをしっかり見ていきたいです。

SDGsをきっかけに大学のあり方を見つめ直す

–SDGsの達成に向けて、大学の果たす役割はどのようにお考えですか?

牛房さん:

子どもたちは既に、小中高でSDGsについて学び始めていますし、本学でもSDGsのことについてさらに深く学びたいという学生が増えていると感じています。こういった想いに、大学としてどこまで応えられるのかということは常に意識しないといけないかなと思います。

さらに言うと、大学自体もSDGsの視点から経営や教育、研究、社会貢献のあり方などをもう一度捉え直す必要があるのではないでしょうか。それを学生の育成や研究にも活かしていきたいですね。

–今後SDGsを軸とした大学の講義も増えていきそうでしょうか?

牛房さん:

少しずつですが、SDGsを意識して講義をされている先生が増えている印象です。SDGsは2030年までですが、それ以降も社会課題がなくなるわけではありません。大学として2030年以降のBeyond the SDGsも意識しながら学べる環境をつくっていけたらと思います。

”次世代を育成する場”として大学を盛り上げたい

–SDGsの取り組みを今後どのように発展させていきたいですか?

牛房さん:

最近強く感じるのは、大学として次世代を育てる責任があるということです。大学の教員は論文によって評価されることが多いですが、それだけではダメだと思います。

北九州市立大学には、ジェンダーやエシカル消費、福祉、町づくり、防災、人工知能など様々な専門分野に精通した先生方がSDGsを意識した研究をスタートしています。そういった先生方と一緒に情報共有しながら、大学がSDGsで掲げている課題を解決できる可能性があることを示していきたいです。

–様々な専門分野を持った先生が一丸となって取り組むSDGs、魅力的ですね。

牛房さん:

ありがとうございます。今年度から一般の方向けの公開講座で、SDGsのことを考えるというテーマの講座を始めました。おかげさまで高校生からシニアの方まで幅広い年齢の方にご参加いただき、私自身も大変勉強になっています。今後も学内の先生方と連携しながら、学生たちや地域の方々と一緒に取り組むSDGsのプロジェクトを増やしていきたいです。

–聞いていて非常にわくわくする内容でした!牛房先生、ありがとうございました!

インタビュー後編では、北九州市立大学の基盤教育センターで教員を務める永末先生へお話をお伺いしました。教育分野のSDGsに興味がある方は必見です!是非後編もご覧ください。

北九州市立大学 永末さん|地域の課題解決に取り組む官民連携のSDGs【後編】

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