#インタビュー

小林製薬株式会社|環境にも人にも優しい、”あったらいいな”への挑戦とは

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小林製薬株式会社 経営企画部 坂田さん インタビュー

坂田 沙織

2004年小林製薬入社。ドラッグストアや薬局などへの営業を担当した後、医薬品のマーケティングに従事。その後、本社部門に異動し、広報・総務を経て、2020年より経営企画部サステナビリティ戦略推進グループにて、ESGに関する戦略策定・推進に携わる。サステナビリティの社内浸透の取り組みにも積極的に取り組んでいる。2022年より同グループ グループ長。

introduction

開拓精神あふれる企業風土を背景に、多様な製品開発のみならず、熱意あるサステナビリティ活動を展開している小林製薬株式会社。2001年の「小林環境宣言」以来、同社は環境問題への対応を様々な「カタチ」にしてきました。環境問題の解決へ邁進する一方で、小学校への洋式トイレ、世界遺産へのバイオトイレ提供をはじめとした社会貢献も長く続けています。

今回は、サステナビリティ戦略推進グループの坂田沙織グループ長に、同社のサステナビリティ活動を中心にお話を伺いました。

挑戦心あふれる風土と万全な組織体制で環境課題に取り組む

–小林製薬株式会社では、SDGs達成へ向けた取り組みをどのように行っていますか。

坂田さん:

弊社では、国連でSDGsが採択された2015年より10年以上前の2001年に、「小林環境宣言」というものを発表いたしました。

”あったらいいな”をカタチにする、というスローガンにも表れているように、弊社には新しいもの・ことに挑戦する企業風土がありますから、早い時期から環境保全活動に着手したんです。当時は「環境経営」が叫ばれ始めたころで、製造業は環境への影響も大きいため、社会的な責任を感じた部分もあります。

2015年以来のサステナビリティ大転換のあたりから、弊社でもESG(環境・社会・ガバナンス)の必要性を真剣に議論しはじめ、2019年2月に「小林製薬グループ 環境宣言2030」「新・環境行動指針」を発表しました。

–「環境宣言2030」や「新・環境行動指針」実現のために、工夫されていることはありますか。

坂田さん:

環境マネジメント体制を強化することを目的として、2018年から「グループ環境委員会」という会議体でグループ全体の環境課題について様々な議論をスタートさせました。

会社にESG(環境・社会・ガバナンス)の考え方を浸透させた最高財務責任者も務める専務取締役が委員長に就任したことで、弊社の環境問題への取り組みは活性化したと感じています。

各事業部長が委員会に対してコミットする体制を取り、5つのワーキンググループと1つのタスクフォースに分かれて、それぞれのテーマについて真剣に議論しているんですよ。

【ワーキンググループ】

  • CO₂排出削減:CO₂長期削減目標の設定、削減施策検討
  • 製品開発エコ指標:製品開発における環境負荷低減、「小林製薬製品開発エコ基準」の運用
  • 水資源管理:工場での水使用に関する長期削減目標の設定と削減施策の検討
  • 廃棄物:工場での適切な管理、長期削減目標の設定
  • 化学物質管理:製品ライフサイクルを通じての適切な管理

【タスクフォース】

  • 気候変動対応タスクフォース:TCFD提言に基づく取り組み

また2020年には、現在、私が責任者を務める「サステナビリティ戦略推進グループ」が発足しました。サステナビリティに関する動きを社内に伝達して戦略化したり、ワーキンググループの運営・支援、外部評価向上のための取り組みなどを行ったりしています。

さらに2022年には、製造本部内に「エコ戦略推進グループ」が新設されました。本社機能ではなく、製造の目線から製品開発における環境負荷低減の取り組みを推進、見える化する部署になっています。

ただ「委員会をつくりました」で終わってしまわないように、議論の結果を必要に応じて経営会議の議題として上程しています。様々な部署が環境課題について協議し、実行を見据えて委員会を運用することで、弊社の環境活動は着実に前進してきたのだと感じています。

多種多様な商品を扱うメーカーだから連携と協力は必須

–万全なシステムでの環境問題対応ですね。例えば、ワーキンググループの1つであるCO₂排出削減については、どのような活動をなさっているのでしょうか。

坂田さん:

弊社は、気候変動対応を最重要課題と捉えています。CO₂排出量においては、2030年までにScope1,2※で51%削減、Scope3※で15%削減する目標を設定しました。(基準年2018年)

なお、この削減目標は、SBT(Science Based Targets)イニシアティブ※の認定を取得しています。

Scope1,2,3

Scope1:事業者自らによる直接排出

Scope2:他社から供給された電気などの使用に伴う間接排出

Scope3:Scope1,2以外のすべての間接排出

SBTイニシアティブ

パリ協定目標達成に向け、企業に対して科学的根拠に基づいた温室効果ガスの排出削減目標を設定することを推進している国際的なイニシアチブ。環境情報の開示に関する国際NGOであるCDP、国連グローバル・コンパクト、WRI(世界資源研究所)、WWF(世界自然保護基金)の4団体が共同で2015年に設立。

 

Scppe1,2では、国内工場からのCO₂排出が多い状況です。削減施策として、空調機の更新、冷熱設備の断熱強化、照明のLED化などの省エネルギー活動に加えて、国内主要工場の使用電力をCO₂排出ゼロ電力に段階的に切り替えています。既に、2020年に仙台小林製薬でCO₂排出ゼロ電力への切り替えが完了しています。

Scope3は、自社排出、使用電力に伴う排出に関わる範囲「以外」のサプライチェーン全体の排出量を指しますが、実はこの部分が弊社のCO₂排出量の95%を占めています。

製造業は、原材料の調達から輸送、製品の廃棄などに関わる排出量が多いため、どうしてもScope3部分の影響度が大きくなる傾向にあります。中でも弊社の場合は、製品が多岐に渡るため、原材料の調達に関わるCO2排出量が大きな課題になっています。調達品目だけでも何千・何万とありますので、サプライチェーン※全体を見据えながらのCO₂排出量削減が必要になってくるのです。

サプライチェーン

調達、製造、販売、消費など、商品が生産者から消費者に届くまでの一連の流れのこと。

2021年にサプライヤーの皆様へCO₂排出の削減要請をお伝えし、アンケートや対話を重ねながら、サプライヤー様とともにCO₂排出量削減の取り組みを検討しはじめています。

従業員の提案を採用し、年間5トンのプラスチック削減に成功

–ドラッグストアで見かけるだけでも、相当な数の製品がありますものね。製品にも環境に配慮した工夫をしているものがあるのでしょうか。

坂田さん:

環境負荷低減を「見える化」するため、弊社独自の基準のうち1つ以上満たした製品に「エコをカタチに」マークを付ける「小林製薬 製品開発エコ基準」という制度を2021年から運用しています。

弊社は、製品容器の多くがCO₂排出量の多い石油由来のプラスチック製で、年間で約8,000トンのプラスチックを使用しています。現在、それらを再生プラスチックやバイオマスプラスチックなどの環境配慮型樹脂に切り替える取り組みを行っています。

その先陣を切ったのは、主要ブランドである「消臭元」や「ブルーレット」でした。大きなブランドだからこそ社会的責任が大きく環境への配慮が必要、と決断したのです。

資材転換のもう一つの例は、芳香剤の香りサンプルです。ある従業員から「年間200万個生産している香りサンプルも環境負荷低減を考えるべき」という提案があり、検討を重ねた結果、紙パウダーが主原料の新素材「マプカ」と紙を組み合わせた仕様に切り替えました。その結果、年間約5トンのプラスチックが削減できたのです。

(香サンプル従来と新仕様の図)

–従業員の方の提案がきっかけだったのですね!環境に対する課題意識が、社内全体に浸透しているのを感じます。

そうですね。近年では、従来の「製品使用後の容器廃棄は仕方がない」という考え方自体から見直そう、という気風が社内で出てきました。弊社だけでは実現が難しい部分もあるため、他社、他組織との協働を模索しているところです。

使用済み容器も見逃さない!大切な資源として再利用

–製品を「作る」段階から、「使い終わった後」にも目を向けるようになったのですね。具体的には、どのように活動なさっているのでしょうか。

坂田さん:

2021年7月から、北九州市の使用済みプラスチック回収実証実験「MEGURU BOX」に参画しました。10社以上の企業や団体が連携し、北九州市の小売店や公共施設で回収した容器を回収し、資源として循環させる仕組みを検証しました。

また、2021年9月から、「神戸プラスチックネクスト~みんなでつなげよう。つめかえパックリサイクル~」に参加し、つめかえパックの「水平リサイクル※」の実現にも注力しています。神戸市と小売・日用品メーカー・リサイクラーなど19社が連携し、神戸市内で回収した使用済みのつめかえパックを新しいつめかえパックに再生することを目指しています。

水平リサイクル

使用済みの製品を一度資源の状態に戻し、また同じ製品として生まれ変わらせるリサイクル方法のこと。

回収量自体はまだ少ないのですが、回収に協力してくださるお客様や企業等の皆様は環境に対する意識が高く、ともに意気込みも大きいですね。サーキュラーエコノミーの実現に近づく試みですので、今後もお客様、参加企業の皆様とともにチャレンジし続けていきます。

未来を担う子どもたちに「洋式トイレ」をプレゼント

CO₂の排出量削減や、プラスチックの環境負荷対策など、様々な取り組みをなさっているのですね。この他にも、御社の特徴的な取り組みがあれば教えてください。

坂田さん:

弊社はトイレにまつわる製品を多く扱っていることから、「トイレ環境の整備」に取り組んでいます。

「小学校に洋式トイレプレゼント」という取り組みと、「世界遺産へのバイオトイレの寄贈」です。

まず1つ目の「小学校に洋式トイレプレゼント」という取り組みは、2010年から始めています。学校のトイレ環境の改善と、ただしい排便意識の啓発が目的です。

小学校では、まだ「和式トイレ」が全国的に多く、うまく排便できずにトイレを我慢してしまう子どもがいるのが現状です。トイレを我慢しているせいで、給食を食べられなくなってしまう子さえいるそうです。未来を担う子どもたちの健康を考え、洋式トイレのプレゼントと出張授業をセットで提供しています。

ご応募いただいた学校の中から、毎年10校ほどを選び、男女各一か所の和式便器を洋式に変更し、臭気・イメージ対策としてトイレ全体の床面に防臭シートを貼ります。現在までに提供させていただいた学校は138校にもなるんですよ。出張授業では、排便の大切さやトイレ掃除の方法などを若手社員が教えます。子どもたちも熱心に聞いてくれますし、プレゼントしたトイレには行列ができる、などの報告をいただくと嬉しいですね。

もうひとつのトイレ貢献として、現在6か所の世界遺産にバイオトイレを寄贈しています。

便器の下におがくずが入っていて、使用後にボタンを押すことで排泄物とおがくずが攪拌(かくはん)され、水を使わず、臭いも出ないように処理されます。メンテナンス費も弊社で請け負い、バイオトイレの維持にも協力しています。

–どちらも人々の困りごとを解決できる、素晴らしい取り組みですね。

坂田さん:

そう思っていただけると嬉しいです。

「困りごと」という観点で言えば、母子家庭への食糧支援、「小林製薬チャレンジド」というグループ会社での障がい者雇用・職場提供も行っています。

さらに、製品の「ユニバーサルデザイン」化にも取り組んでいます。高齢者や障がいのある方の社会進出も盛んな昨今、重要なコンセプトだと考えています。

例えば、従来のアルミパウチはご高齢な方や手先が不自由な方にとっては、開封しづらい構造でした。そのため、「少ない力できれいに開封できる」ことや「手で持ちやすい」などの諸条件をクリアすべく、60パターン以上も試作品を作り改善を繰り返しました。現在は、試行錯誤の末辿り着いた、理想的な山形形状の開け口になっているんですよ。

今後も、様々なお客様にとって使いやすいデザインを目指して製品を作り続けます。

環境にも、消費者にも、しっかりと寄り添っていらっしゃるのですね。最後に、今後の展望についてお聞かせください。

坂田さん:

社員のSDGsやサステナビリティへの認識が高まってきていますので、今後は「それをどう具現化するか」「いかに行動に移すか」に注力していきたいなと考えています。

現在、月に一度、SDGsとサステナビリティの社内浸透を目的に、グループディスカッションも含む90分のプログラムを開催しています。毎回、児童労働、食料危機などのテーマを決め、会社や個人として何ができるか?を論じ合いますが、参加者はみな熱心で、とても盛り上がるんですよ。


こうした社員たちの熱量をいかして、自分たちが開発する製品で、社会全体の意識や行動を変えていけるような仕組みづくりをしていきたいですね。

–今日は貴重なお話をありがとうございました、

関連リンク

小林製薬株式会社HP:https://www.kobayashi.co.jp/