#インタビュー

ローカルエナジー株式会社|エネルギーの地産地消で持続可能なまちづくりにアプローチする

ローカルエナジー株式会社

ローカルエナジー株式会社 森真樹さん インタビュー

森真樹

1975年(昭和50年)9月16日生まれ

愛媛県西条市(旧周桑郡小松町)出身
ローカルエナジー株式会社 専務取締役 統括部長
株式会社中海テレビ放送 取締役 経営企画室長
2017年度 経済産業省「始動 Next Innovator 2017」シリコンバレー選抜
技術士(総合技術監理部門、建設部門[都市及び地方計画、建設環境、道路])

1998年中国電力グループの中電技術コンサルタント株式会社入社
「エネルギー×都市計画」を専門に、中国地方の各自治体の再生可能エネルギー導入に関する計画立案及びスマートコミュニティ構想の策定に従事
2012年10月鳥取県米子市にIターン
株式会社中海テレビ放送において、放送・通信・エネルギー事業に関する事業企画を担当
2015年12月ローカルエナジー株式会社の設立に伴い、同社に出向
2017年6月から現職

Introduction

ローカルエナジー株式会社は、「エネルギーの地産地消による新たな地域経済基盤の創出」を企業理念に、県外から買っていた電力を県内で作って使うことで、地域内での資金循環を実現しています。今回は、「持続可能なまちづくり」にも取り組むローカルエナジーの森さんに、事業内容や地域に対する思い、今後の展望を伺いました。

県外へ支払う電気代を県内で循環させるためローカルエナジーが誕生

–まずはどのような会社か教えてください。

森さん:

ローカルエナジーは、鳥取県米子市の地方創生事業で立ち上がった地域エネルギー会社です。「エネルギーの地産地消による新たな地域経済基盤の創出」を理念としており、電気の小売・卸売が主な事業です。自治体に出資してもらいながら、地域内で電力を循環させる「地域新電力」「自治体新電力」と言われる業態です。

–ローカルエナジー設立の背景を教えてください。

森さん:

鳥取県の電気代について考えたことがきっかけです。鳥取県の人口は55万人を切っており、東京都杉並区の人口とほぼ同じです。人口最小県とはいえ、鳥取県の一般家庭・企業・行政で使用する電気代は、年間1,000億円です。これは、一年間の県の収入の3分の1ほどと同じ金額となっています。

–かなりの金額なんですね。

森さん:

はい。ただ、これまではこの1,000億円は県外の電力会社に支払われ、さらに電力会社から海外企業に流れています。この金額を地域内で回せば、持続可能なまちづくりのひとつになるんじゃないかと考えたんです。

–県内で経済を循環させようと思ったわけですね。

森さん:

そうですね。だからこそ、電気の地産地消を行う事業をスタートしました。

–電気はどなたに、どのように届けているのですか?

森さん:

地元の公共施設に届けるとともに、地元のケーブルテレビ局に地域で作った再生可能エネルギーを卸しています。一般家庭や民間企業へは、地元のケーブルテレビ局から電気が届けられるんですよ。

再生可能エネルギーの取り扱いは全部で5種類

–どのような再生可能エネルギーを扱っているのでしょうか。

森さん:

再生可能エネルギーには太陽光・風力・水力・バイオマス・地熱の5種類ありますが、ローカルエナジーではすべてを扱っています。一番大きな電源は、バイオマス発電の電気です。

–バイオマス発電とはどのようなものですか?

森さん:

動植物など自然の中で生まれた資源を燃焼やガス化して発電するものです。様々な方法がありますが、米子市ではゴミ焼却時に発生する蒸気で、タービンを回すことで発電しています。また、水洗トイレを流れる排泄物から出たメタンガスを、下水処理場で集めて発電も行っています。

–下水処理場でも発電できるとは知りませんでした!

「コンセントの向こう側」を意識する機会を作る

–地元でエネルギーの地産地消を行っている会社があることは、よく知られているんでしょうか?

森さん:

一般家庭や民間企業に電気を届けるのはケーブルテレビ局なので、一般の方への認知度は低いと思います。まずは多くの方にローカルエナジーという会社があるということを知ってもらい、徐々に事業内容にも興味を持っていただけたら嬉しいですね。

–認知度上昇のために、何か対策はしていますか?

森さん:

大人向けと子ども向け、2つのアプローチをしています。

–まず、大人向けの手段について教えてください。

森さん:

Jリーグ・ガイナーレ鳥取のスポンサーをしているので、試合当日はスタジアムの電光掲示板に、弊社のロゴを映してもらいます。また、スタメンはTwitterで発表されるのですが、その際にもロゴを入れてもらって、みなさんの目に触れる機会を作っています。

–次に、子ども向けの手段について教えてください。

森さん:

2021年は境港市内の小学校すべてを回り、6年生に向けて環境教育をしました。小学生の社会科見学、コロナ禍で修学旅行が県内で行われることになった時には、中高生の受け入れもしました。

<小学生の受け入れ>
<中学生の受け入れ>

子どもたちには、まず教育ベースで「コンセントの向こう側」を意識してもらう機会を作っています。

–お子さんが覚えて帰ると、家族で話し合うこともあると思います。大人も意識するきっかけになりますね。

10のSDGsゴールへの取り組み 働きやすさの実現やSDGs教育も実施

–年代にかかわらず教育はSDGsにも繋がる取り組みかと思うのですが、意識されて取り入れていらっしゃるのでしょうか。

森さん:

そうですね。SDGsの認知度が上がってきたときに、弊社のエネルギー事業がその考え方と近いと感じて、社内で計画を作りました。

–どのように計画を立てたんですか?

森さん:

SDGsの17のゴールのうち、特に10のゴールについてそれぞれ目標を設定しています。単純に事業をSDGsに当てはめているわけではなく、ゴールを決めてしっかりと計画を立てて、事業を行っているんですよ。

–具体的に教えてください。

森さん:

例えばSDGsの4番「質の高い教育をみんなに」ですと、ゲーム形式のSDGsワークショップを行っています。弊社の社員2名が「SDGs de 地方創生」カードゲーム」の公認ファシリテーター資格を取り、SDGs全体について知ってもらう取り組みをしています。

「SDGs de 地方創生」の公認ファシリテーターとは

「SDGs de 地方創生」カードゲームを使ったワークショップの促進者となれる資格。
このカードゲームを通じて、様々な立場の人たちと対話と協働で取り組んだ経験が、参加者にとって今後の具体的なアクションへと繋がり、SDGsの本質を直感的・体感的に学べる。
参考  開発元:プロジェクトデザインhttps://www.projectdesign.co.jp/service/sdgslocal/
運営事務局:特定非営利活動法人イシュープラスデザインhttps://sdgslocal.jp/cardgame/

–教育に関しては、楽しみながらSDGsを学べる機会を作っているのですね。ほかの目標についても教えてください。

森さん:

「ジェンダー平等を実現しよう」では、働きやすい職場を作ろうと休みを増やしたり、時間外労働を極力減らしたり、評価や昇給に男女差をつけないなどを徹底しています。ローカルエナジーは女性社員の割合が多く、子育て世代の社員も多いためです。

その結果、子育て中も退職せずに、設立当初から仕事を続けてくれた社員も多く大変嬉しく思っております。

最初の一歩を率先して踏み出せる「ファーストペンギン」になれる若い仲間を増やしたい

–ところで、米子市は境港市とともに、令和4年4月に発表された第一回目の「脱炭素先行地域」に選ばれていますよね。

脱炭素先行地域とは

2030年度のCO2排出実質ゼロを実現に向けて、家庭やオフィス、店舗、公共施設といった民生部門の電力消費に伴う温室ガスの排出量を抑える取り組みを先行して行う地域。政府や国の支援も受けながら再生可能エネルギー(再エネ)の導入や、建築物の省エネ化などを行う。

参考:環境省

森さん:

はい。弊社も提案に関わっておりますので、米子市や境港市をカーボンニュートラルの先進地にしたいと考えています。

カーボンニュートラルとは

二酸化炭素をはじめとする温室効果ガスの「排出量」 から、植林、森林管理などによる「吸収量」 を差し引いて、合計を実質的にゼロにすることを意味しています。

環境省 https://ondankataisaku.env.go.jp/carbon_neutral/about/

鳥取県は人口が全国で最も少なく、自然も豊かな県ですので、二酸化炭素の排出量も抑えられています。その特性を活かして再生可能エネルギーを活発化させれば、カーボンニュートラルの結果も得やすいのではないかと考えます。太陽光・風力・水力・バイオマス・地熱の5つをバランスよく使い、少しずつ発電施設を増やしていきたいと思っています。

–全国の中でも、エネルギーを地産地消するロールモデルとして注目されそうですね。他の地域にも同じような事業を広めていきたいと考えていますか?

森さん:

他の地域へ声を掛けるというよりは、自分たちがまだ達成できていないことをひとつずつクリアしながら先頭を走っていきたいですね。徐々に他の地域に真似してもらえるよう取り組みを、継続・発展させていきたいです。

–地域エネルギー会社の先頭を走るため、必要なことは何ですか?

森さん:

「ファーストペンギンになること」だと考えています。ペンギンの群れにリーダーはいませんが、エサを確保するために誰かが率先して海に飛び込まなければなりません。

5つのエネルギーをバランス良く組み合わせて地産地消することは全国的にも稀なケースで、意味のある事だと思っています。カーボンニュートラルや脱炭素の動きを加速させるために、自分たちがまずは進んで取り組んでいきたいですね。

–最初の一歩を踏み出し、挑戦することが大切だということですね。

森さん:

そうですね。今後このような「ファーストペンギン」として新たなことに率先してチャレンジする、若い力が地域には必要です。鳥取県はとても自然豊かで過ごしやすいので、若い方や学生に集まって欲しいと思っています。これからの時代、豊かさややりたいことは田舎にこそあるかもしれません。

写真提供:鳥取県
画像は「鳥取県撮れたて写真館」の皆生温泉と米子市街地を使用
https://www.kouhouren.jp/album/

若い方と一緒に地域を盛り上げていきたいですね。

「エネルギーを売る」だけではなく、市民や行政と一体となって「まちづくり」を行う会社へ

–最後に、今後の展望を教えてください。

森さん:

私たちはエネルギーを売る会社ですが、まちづくり会社になりたいと思っています。人も物もエネルギーがないと動けないので、エネルギーの側面で市民の方や行政と一緒になってまちづくりをし、持続可能な環境にしていきたいです。

–今日は貴重なお話を聞かせていただき、ありがとうございました!

関連リンク

ローカルエナジー株式会社:https://www.lenec.co.jp/index.php