#インタビュー

一般社団法人SSP|障がいがあってもオートバイに乗れる。不可能を可能にし続ける

一般社団法人SSP 代表 青木さん インタビュー

青木 治親 (はるちか)

6歳より ポケットバイクに乗る

15歳まで 50㏄のオートバイで全国のレースに参戦

16歳 オートバイ免許取得後ロードレースに参戦

17歳 ロードレース世界選手権に参戦

19歳 日本人最年少、日本人4人目の125㏄クラス世界チャンピオン獲得

20歳 日本人初2年連続世界チャンピオン獲得

26歳まで 世界選手権出場

27歳~現在 オートレーサー

2020年 一般社団法人SSPを設立し社会貢献活動中

introduction

幼い頃からオートバイレースに出場し、「ロードレース界の伝説」とも呼ばれる青木三兄弟。バイク事故により障がいを負った次男、拓磨さんをもう一度バイクに乗せたいという想いから、長男・宣篤さんと三男・治親さんが『SSP(Side Stand Project)』を設立しました。

今回は三男の治親さんに、オートバイというツールを通して、どのように障がい者と向き合っているのか、SSPの活動についてお伺いしました。

ある日突然、次男が障がい者になった

–今日はよろしくお願いします!はじめに、SSPについて教えてください。

青木さん:

2019年から始まった、障がい者が自身でオートバイに乗れるようにサポートする一般社団法人です。健常者と同じようにモータースポーツを楽しむ機会を増やすことを目的とし、障がい者向けの無料体験走行会を定期的に開催したり、練習用のステップアッププログラムを提供しています。

–どのようなきっかけでSSPを立ち上げたのでしょうか?

青木さん:

次男が障がいを負ったことがきっかけです。

私たちは、幼少期から兄弟3人でモータースポーツに触れ、通称「青木三兄弟」としてロードレース世界選手権に参加していました。ですが、1998年にテスト中の事故で次男が脊髄を損傷し、下半身の自由が利かない身となってしまいました。

当時、障がいのある人がオートバイに乗ることは全くイメージがつきませんでしたが、次男にはサーキットに戻ってきてほしいという強い願いはありました。そこで、私たちにできることはないか模索するようになったのです。

–確かに、バランスを取りにくい二輪車に乗るなんて、ハードルが高そうですね。

青木さん:

私も最初はそう思っていました。ですが、海外の車椅子の方がオートバイに乗っている動画を見て、誰かの支えがあれば不可能を可能に変えられることを知りました。そこから実際に次男を乗せてみたら直ぐに自分で走れるようになったんです。

–可能性があるなら試してみよう、という皆さんのチャレンジ精神が素晴らしいですね。

青木さん:

ありがとうございます。オートバイを自分で運転することが可能になったことで、日本で一番大きな8時間耐久ロードレースというイベントで、青木三兄弟としてもう一度サーキットに立つ機会をいただきました。

次男がオートバイに乗り走り出した瞬間、7万人ものお客さんが拍手して「おかえり!!」と喜んでくれたのが今でも忘れられません。

–お話を聞いているだけでも、胸が熱くなりますね。

青木さん:

はい。本当に嬉しくて、この感動を、同じ境遇でオートバイを諦めてしまった人たちにも感じて欲しいと思うようになりました。モータースポーツに深く関わってきた自分たちだからこそ、できるサポートがあるのではないかと考えて、本格的にSSPを始動することになったんです。

安心してオートバイを楽しめるよう、ハードルを取り除く

–練習用のオートバイはどのようなものを使っていますか?

青木さん:

障がいの内容に応じて仕様を変えていますが、例えば下半身付随の方なら、両手のみで運転できるようにしています。自転車のペンディングとギアを動かすハンドシステムをつけることで、親指でギアの上げ下げをするだけで操作が可能になるんです。

–独自のオートバイを使って練習しているのですね。練習方法にもこだわっているのですか?

青木さん:

一人でも、安全にオートバイに乗れるようになるため、段階的に練習しています。

まず、補助輪付きの傾かないオートバイを使います。前に進めるようになったら、地面から10cm浮いた補助輪に変え、バランス感覚を身に付けます。そして20cm浮いた補助輪に変え、パイロンを置いてカーブの練習をします。

ここまでの段階をクリアしたら、いよいよ1,000ccのオートバイに乗車します。免許証なしでも走れるサーキットを貸し切っているので、どなたでも楽しんでもらえるのがポイントです。

–最初の段階は、補助輪がついて傾かない、というのはかなり安心できますね。参加するためにはどのような準備が必要なのでしょうか?

青木さん:

ヘルメットやバイクを用意する必要もありませんし、参加費もいただいていません。
障がいを持つ方にオートバイを楽しんでいただけるように、すべて無料でサポートしています。

–えっ、無料なんですか?

青木さん:

オートバイに乗れるかどうか分からない段階で、ヘルメットやバイクなど高額を投じて準備をするのは、ハードルが高くありませんか?

乗る前に諦めてしまう方が増えてしまうので、まずは乗ってみて、自分で走れた体験を持ち帰って欲しいのです。

–確かに、乗れるか分からない段階で、専用のオートバイをオーダーするのは緊張しますね。全くの初心者の方にも、嬉しいサポートですね!

不可能を可能にできた感動に、障がいの有無は関係ない

–ここまでお話を伺ってきて、「可能性を諦めてしまう人を減らしたい」という青木さんの想いを強く感じました。現在は、どのような方が参加しているのですか?

青木さん:

脊髄損傷で胸から下が利かない方や、片足義足の方、片手不自由の方など、さまざまです。最近は、視覚障がいのある方でもオートバイを楽しめるようになり、ヘルメットの中にインカムをつけ、私の掛け声をもとに操作してもらっています。

みなさんオートバイに乗ることを楽しんでくれて、「もう一度乗りたい!」と言って帰ってくださっています。

–技術の進歩で、さまざまな障がいにも対応できるようになっているのですね。

青木さん:

特に印象的だったのが、17歳の先天性視覚障がいをもつ方です。その方は生まれつき目が見えないので、オートバイの形や乗り方を知らないのですが、オートバイ好きのご両親が、「息子にも乗らせてあげたい」とプロジェクトに参加してくれました。

その少年がオートバイに乗った時、涙を流しながら「こんなことができるとは思わなかった」と言ってくれたんです。その瞬間、本人たちの諦めていたことを可能とし、自信や活力につなげられるSSPの存在意義を、とても強く感じましたね。

–不可能が可能になった時の、キラキラした瞬間に立ち会えるのは素敵なことですね。

プロジェクトを進める中で心掛けていることはありますか?

青木さん:

コミュニケーションを大切にしています。最初は不安な気持ちでオートバイに乗る参加者が多いため、その人たちでも楽しめるような声掛けや雰囲気づくりは意識していますね。

参加者だけでなくボランティアスタッフも含め、みんなが笑顔で時間を共有しているのがSSPのよさなのかなと。もちろん、安全性に配慮しながら気を引き締め、オンオフ切り替えながら活動しています。

障がい者に対して、「どう声をかけたらいいか」「何か言ったら傷つけてしまうかもしれない」と考える人は多いかもしれません。

ですが、接し方がわからない状態で参加したボランティアスタッフも、「オートバイに乗せる」という目標にみんなが向き合うことで、自然と考え方やコミュニケーションの取り方が変わっていくんですよ。

SSPは、私たちにとっての学びの場でもあるんです。

–障がいの有無に関わらず、1つの目的に向かって一丸となって前進する姿が素敵ですね。

青木さん:

そうですね。パラスポーツは健常者と障がい者に分けてスポーツするのですが、モータースポーツはみんなが一緒に走れることが特徴です。SSPを通して、障がいがあるからと諦めていた方がもう一度オートバイに乗り、みんなと同じサーキットで楽しむ。
この経験を提供し続けることで、平等な社会の一助になればいいなと願っています。

障害のためにオートバイを諦めた、世界中の人を救いたい

–では最後に、今後の展望についてお聞かせください。

青木さん:

10年後までに、世界中の障がいをもつ人たちがオートバイに乗れる環境を提供したいです。SSPのような活動は、世界でまだ当団体だけです。

私たちの活動は、「誰ひとり取り残さない」「人や国の不平等をなくそう」など、様々なSDGsの考え方に当てはまります。

世界中の誰も取り残さずに、不可能を可能にする体験を届けるためにも、SSPを組織化して世界展開する準備をする必要があると考えています。

–世界ですか。夢が広がりますね!

青木さん:

世界に活動拠点を広げるためには、補助金や企業からのサポートが不可欠です。しかしながら、世間一般ではまだまだオートバイは危険な乗り物だという認識があるようです。なので、私たちが責任をもってこの活動を継続することで、今後賛同していただける企業を増やしていけたらいいなと考えております。

–今後のご活躍を楽しみにしております。ありがとうございました!

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