#インタビュー

株式会社LONVA|エイ革の”ガルーシャ”で、ビジネス・環境問題双方のサステナビリティへ挑む

LONVA

株式会社LONVA  柴田様インタビュー

柴田さん

大学卒業後、株式会社オリエンタルランドに入社。ディズニー事業に携わり、世界観の演出やブランディングについて深く学ぶ。その後、ディズニー事業に関わるフードバイヤー業務にて輸出入やOEM生産など造詣を深める。バイヤーとして世界中を飛び回る中で、ガルーシャ(エイ革)に出会う。美しい素材でありながらも加工が難しく、大手メゾンブランドもVIP顧客にしか販売しないことから知名度が著しく低く、需給のバランスが整っていないことを知り、エイ革ブランド立ち上げの構想を練り始める。その後、新規事業部に異動し、経営の根幹を学び、独立。1年以上かけてLONVAの世界観を作りこみ、ブランドのローンチに至る。

introduction:

2022年、海をこよなく愛すジャパンレザーブランドとして誕生したLONVA(ロンヴァ)。宝石のような美しい輝きを持つガルーシャ(エイの革製品)との出会いからスタートしたこのブランドは、深刻化する海洋ゴミ問題と対峙しながら世界へ大きく羽ばたこうとしています。今回、株式会社LONVAの代表取締役である柴田さんに、ブランド誕生のきっかけや環境問題との繋がりについて、お話を伺いました。

海の豊かさを守ろう廃棄されるエイの皮革を美しい”ガルーシャ”へ生まれ変わらせ、海洋ゴミ問題と対峙する。

ー御社では、利用価値のなかったエイ革を価値のあるものへ変貌させ、CO2削減や海洋ゴミ問題の解決へ挑戦されているとのこと。詳しく教えてください。

柴田さん:

当社は、「LONVA」というガルーシャ(エイの革製品)を使ったレザー製品のデザイン・販売をメインにしている会社です。

このブランドを普及させることにより、廃棄されるはずのエイの皮を活用して、焼却時に出るCO2を削減することを目指しています。

さらに、原材料のエイが獲れるインドネシアとカンボジアの雇用創出と、収入の向上に貢献できるような仕組みを構築して、現地の海洋ゴミ問題の解決に貢献したいと考えています。

日本でリサイクルされたペットボトルの行方を知っていますか?実は、インドネシアに輸出されているんです。

日本人は、ペットボトルをリサイクルできていると満足していますが、実際は、ただ送りつけるだけで終わっています。インドネシアでは、ペットボトルを活用するための資金がないため、そのままゴミとして垂れ流しにされているのが現状なんです。この問題の解決のためには、まずは現地の方たちのベースアップが必要だと考えています。

当社の製品は、インドネシアとカンボジアで捕獲されたアカエイの皮を使用しているのですが、現地の漁師さんが販売しているのは身とヒレの部分です。売らない皮の部分は塩漬けにして倉庫で保管されています。しかし、在庫過多になるとその皮は処分されてしまうんです。

当社は、その塩漬けにされた皮を買い上げて、パートナーシップを結んでいる工場で加工して商品化しています。

結果として廃棄予定だった分のCO2の削減にも貢献でき、現地の雇用創出によりベースアップにも貢献できるという仕組みです。

LONVA

ー素晴らしい取り組みですね。エイの革は、これまでも世の中に認知されていたんでしょうか?

柴田さん:

実は、エイの革の歴史は長く、1000年くらい世界で愛用されています。

昔からエイの革は、日本刀の柄の材料として使われていたり、フランスではルイ14世が家具の装飾に愛用していました。

しかし、エイの革は、表面に天然石のようなカルシウム成分が敷き詰められていてとても固く、針も通らないほど頑丈です。加工には特殊な機械が必要で設備投資がなかなか難しい。高度な技術も必要です。

大量生産に不向きで、作れる人もいない、そういった理由から現代では普及が進まないんです。有名ハイブランドがVIP向けにエイ革の製品を提供したりはしていますが、高級すぎて一般には普及していないのが現状です。皮は余っているのに、活用できていないんです。

とはいえ革製品としては、頑丈で耐水性もありとても良い素材です。初めてガルーシャと出会ったタイには、エイ革の加工をする環境がすでに整っていました。そこで、当社はタイの工場とパートナーシップを結ぶことにしました。

最近は日本もアカエイの大量発生で困っているとニュースで見ました。将来、日本のエイを使用した商品開発も出来たらいいですね。いつか国内の問題解決へも貢献できたらいいなと思っています。

バイヤーとして世界を飛び回る中、美しいガルーシャとの出会いが人生の転機に。

ー柴田さんがエイ革製品を使って起業されたきっかけを教えてください。

柴田さん:

私が初めてエイ革の製品に出会ったのはタイでした。

もともと私は、株式会社オリエンタルランドの会社員でした。ご存じのとおり、東京ディズニーリゾートを運営している会社です。そこでバイヤーとして世界中を飛び回っている時に、タイでガルーシャを見つけたのが起業のきっかけになりました。

エイ革を使った民芸品はタイではとても有名なんです。

エイの革の美しさ、ポテンシャルの高さには感動しましたが、デザインがあんまり良くなかったんです。「デザインを改善することで、もっと素敵な革製品になるんじゃないか」と注目し始めました。

そうして調べているうちに、エイの皮が廃棄されている現実を知りました。

エイは食材としても世界的に注目され始めています。世界の人口が増加する中、食糧不足、特に動物性たんぱく質がさらに必要とされ、エイの消費量も高まってきています。

エイは、すでに日本や東南アジアでも食べられていますし、高級フレンチの食材や漢方としても使われています。

食材としての需要は伸びているのに、皮部分は大量に余っており廃棄されているのが現状なんです。

それを目の当たりにして、「自分に何かできないだろうか」と思い立ちました。

まず、「消費が伸びている食材としてのエイと、それにより大量に廃棄されている皮のギャップを少なくすることで環境保全につなげることができないか?」と考えました。

そして、今まではほとんど価値のなかった皮を買い取って商品化することで、「皮を廃棄することなく利益も得られる」というサステナブルなサイクルを考案しました。

「サステナブル」っていい言葉なんですが、サステナビリティを考えた商品だからといってお客様の購買決定理由にはならないんですよ。ブランドの世界観に共感してもらわないと商品が売れないんですね。サステナビリティが先行したブランドはなかなか成功できないのが現状です。

そういう理由から、着実に利益を生む会社に成長させるために計画をしっかり組み立ててからスタートさせました。ビジネスモデルをきちんと回すことで、利益を社会に貢献できる会社でありたいと思っています。それができたときにサステナブルと言えるし、そんなビジネスモデルを構築していきたいと思っています。

「オンとオフ」の意識を大切に。お客様へのメッセージを製品に込めて届ける

LONVA

ー成長の可能性を秘めたエイ革製品ですが、事業として確立させるための計画も万全だったのですね。あらためて御社のビジョンやロゴデザインに込めた想いについて教えてください。

柴田さん:

当社のビジョンは、「海のような創造力をもって世界の人々がもつ感性研磨に貢献する」です。当社は、海のような創造力をもって世界の人々のインスピレーションを刺激できるような会社でありたいと願っています。「感性研磨」という表現についてですが、エイの皮を加工する段階で表面を研磨加工することにちなんで、「美しく輝くガルーシャを手にしたとき、世界中の人々の感性も研磨できたらいいな」という想いを込めました。

社名の由来ですが、みなさんに想像していただきたいので、今のところ言わないようにしているんです。もちろん、こだわって作っておりとても大切にしていますので、時期が来たら公表したいなと考えています。

LONVA

ロゴマークは、「大海原の波」「エイが世界中で優雅に泳いでいる様子」と、人間のバイオリズムである「オンとオフ」をリンクさせて作りました。

ブランド「LONVA」を手に取ったとき、エイを通して海を感じてもらいたい、母なる海のパワーをチャージできていると感じてもらいたいと思っています。

このプロジェクトのスタートは2021年。ご存じのとおり、世の中はコロナ禍など激動の時代で、心が荒んでしまう出来事がたくさん起きています。僕たちはレザーブランドをただ提供するのではなく、商品を通して何かを伝えないといけないと思っています。それが「オンとオフ」だったんです。

僕はよく「オンとオフ」をバイオリンに例えているんですが、バイオリンって、演奏が終わったら弦を緩めるんですよね。演奏の前にチューニングをして弦を張り詰めていい音を出します。そしてまた弛緩させたり、張り詰めたりして良い状態に保ちます。

弦を弛緩させるように「オフ」にしたり、時には弦を張りつめるように「オン」にしたりして、精神を健康に保ってもらいたい。「LONVA」は単なるレザーブランドとしてだけでなく、日常における「オンとオフ」を切り替えるスイッチャーであり、インスピレーションの入口を提供するブランドでありたいと考えています。

―社名やロゴに、お客様に向けたメッセージが詰まっているのですね。商品の特徴についても教えてください。

柴田さん:

製品の美しくラグジュアリーなカラーリングは、「エイと共に広い世界を旅する」ことをコンセプトに、世界各国の都市をテーマにしています。

たとえば、ブラックのカラーはニューヨーク、ピンクは東京、緑はマウイなど。それぞれのカラーを手に取ってもらったとき、その都市を思い浮かべて「オンとオフ」の切り替えを楽しんでもらえたらと思っています。

世界に誇るジャパンブランドのモデルになることを目指して

ーカラーバリエーションが豊富で、背景にある世界の都市もイメージしながら商品を選ぶのは楽しいですね。さらに展開されている「端材を活用したプロジェクト」についても教えてください。

柴田さん:

はい。革製品って、効率よく革を使うために革の真ん中を使うものなんです。

エイの革は楕円形になっていて、真ん中に白い斑点の「スターマーク」がついています。その「スターマーク」が人気なんですが、「スターマーク」を中心に革を加工すると周りが余ってしまいます。

そこで、なんとか余っている部分を活用できないかとスタートさせたのが、「端材を活用したプロジェクト」です。余った革の部分は、厚みや色調が均等でなかったりとさまざまですが、そこを活かして商品化できないかと研究しました。

スターマークは入っていないですが、ガルーシャのバングルやスマホケースを考案しました。今度は犬の首輪を端材で作ろうと計画中です。

ー洗練された素敵な商品です。環境保全の観点からいろんな取り組みをされているんですね。ほかにはどんな取り組みをされていますか?

柴田さん:

商品の包装にチーフを使っています。お店で包装のためだけに利用されている袋って、廃棄されてしまうことがほとんどですよね。廃棄されるエイの革を有効利用する取り組みをしているので、なるべく廃棄されないような取り組みをしたいと考えたのが、チーフで包装する方法です。

エイの革のお手入れって、固く絞った布で水ぶきをするだけでいいんです。チーフは、そのお手入れにも使うことができます。プレゼントとしての特別感もあり、お客様にとても好評です。

また、インドネシアの海洋ゴミ問題へ立ち向かうスンガイウォッチという団体へ売り上げの一部を寄付しています。僕はダイビングもしますし、海が大好きです。深刻な海洋ゴミ問題をどうにかしないと地球が危ないと危惧しています。会社を立ち上げる前から個人的に寄付していたんですが、どんどん会社を大きくしてもっと支援していきたいなと思っています。

ー最後に、今後の展望をお聞かせください。

柴田さん:

僕には2歳の娘がいるんですが、彼女が20年後30年後に日本で生活していこうと思ったときに厳しい経済の日本が待っていると思っています。国力って人口×GDPがすべてなんです。日本の人口はどんどん減少するという事実がある中で、どう日本のGDPを向上させていくかが課題だと思っています。

その打開策として、移民の受け入れというのもひとつあると思うんですが、なかなか簡単にはいかない。僕が現時点で考えている解決策は3つで、1つは観光、2つ目はアニメも含めたエンターテインメント、最後にジャパニーズブランドの構築です。この3つの打開策が日本のGDPを押し上げる可能性があると考えています。

観光とエンターテインメントは、ある程度見えてきて、後はどう押し上げていくかが今後のカギになると思います。3つ目のジャパンブランドはまだまだ元気がないので、「LONVA」をひとつのモデルケースとして成長させたいと思っています。

これが成功すれば、観光やエンターテインメントとコラボレーションできるし、日本全体を盛り上げることができます。たくさんのジャパンブランドを確立させることができれば、日本にも明るい未来が待っていると信じています。

ー廃棄されている素材をよみがえらせることを大切にしている株式会社LONVAの挑戦に今後も注目していきたいです。本日はありがとうございました。