#インタビュー

ジーエルイー合同会社・株式会社マナティ|商品開発とゴミ拾いプロジェクトで、海の環境を守り人をつなぐ

ジーエルイー合同会社・株式会社マナティ 金城さん インタビュー

金城 由希乃

ある時、海で使用していた日焼け止めを「サンゴが死んじゃうよ」と注意されたことをきっかけに観光と環境の問題に取り組むべく8年間経営した店舗を売却し、クラウドファンディングで集めた資金で2017年「サンゴに優しい日焼け止め」の企画販売を開始。講演活動や、イベント登壇を通して、海を守るということが自分ごとになったきっかけや、アクションの大事さなどを幅広く伝えている。

2020年から地域とビジターを繋ぐ「プロジェクトマナティ」を立ち上げ、第一弾として、いつでも気軽にクリーンアップでき、地域の人と繋がるプロジェクトを始動。協力拠点が80箇所に広がり、エシカルツーリズム、地域が立ち上がる地方創生のモデル作りを実践中。

JCI JAPAN TOYP 2019 環境大臣奨励賞

サンゴに優しい日焼け止め

ソーシャルプロダクツ・アワード2021年度 ソーシャルプロダクツ賞

生物多様性アクション大賞2018 審査員賞

サンゴに優しい日焼け止めHP : https://www.coralisfriend.com/

プロジェクトマナティ : https://www.manatii.org/

Introduction

日焼け止めを塗っている時に、知人から発せられた「サンゴ死んじゃうよ」という言葉。金城由希乃さん(沖縄在住)の人生は、そこから大きく進路を変えてゆきました。『サンゴに優しい日焼け止め』を開発して販売し、ビーチのゴミ拾いの新しい形を作った『プロジェクトマナティ』は、山、川、街にも拡がっています。

今回は、ジーエルイー合同会社・株式会社マナティ代表の金城由希乃さんに、環境問題や人をつなぐことへの取り組みを伺いました。

「サンゴ死んじゃうよ」に受けた衝撃

–早速ですが、ジーエルイー合同会社と株式会社マナティについて簡単にご紹介頂けますか?

金城さん:

はい。ジーエルイーは、サンゴに悪い影響を与えない成分のみでつくられた「サンゴに優しい日焼け止め」を販売しています。マナティのほうでは、ゴミ拾いを通じて人と人をつなげる「プロジェクトマナティ」を運営しています。

–まずは、「サンゴに優しい日焼け止め」について詳しく伺います。何がきっかけとなって、この日焼け止めが誕生したのですか?

金城さん:

沖縄の海で日焼け止めを塗っている時に、知人から「サンゴ死んじゃうよ」と言われたんです。驚きました。自分もまわりも、そんなこと知らなかったんです。でも、日焼けもしたくありませんでした。いろいろと気にかかり、その日は海を楽しむことができませんでした。

–一般的な日焼け止めには、サンゴにとって有害な物質が含まれているそうですね。「サンゴが死ぬ」と言われたものを身体に塗って海に入るのは、気がとがめますよね。

金城さん:

帰宅してネットで調べたら、日焼け止めとサンゴについての情報がたくさん出てきました。こんなに情報があるのに何も知らなかったことに、また驚いてしまって。

–金城さんは沖縄で生まれ育ったとのことですが、「海やサンゴはかけがえないもの」という意識がもともとあったんですか?

金城さん:

「海は好き?」と聞かれたら、「まあ好きかな」という程度です。ただ、矛盾することがあまり好きじゃないんです。サンゴに悪いといわれるものを、沖縄の観光地で普通に使うことに抵抗を感じました。

–とはいえ、日焼け止めを使わないことも、身体には有害ですよね。

金城さん:

そうです。だから、「サンゴが死ぬ」と言われた時に、代わりになる日焼け止めはないのかな?と思いました。その時の「びっくり」が、「サンゴに優しい日焼け止め」へのスタートですね。

サンゴの大事さが理解できる「何か」が必要

–知人の一言が商品開発のきっかけになったのですね。その後、どのように開発を進められたのですか?

金城さん:

サンゴに害のない日焼け止めがないか調べてみると、ハワイやパラオなどでは、研究者・科学者・環境省にあたる部署などの研究で確かなエビデンスがあり、サンゴを守る活動をしている人もいっぱいいたんです。沖縄では、そんな話ひとつ出ていなかったことが、もどかしく感じました。

–サンゴを守る研究や活動に関して、日本は少し遅れをとっていたのですね。

金城さん:

沖縄は日本のただの小さな一部で、マジョリティにはなりません。でも「サンゴを守るのに、沖縄から発信しなければ誰が?」と思いました。たとえば、東京の人はやらないですよね?

–旅に出ない限りサンゴを目にする機会はありませんから、確かに意識は向きにくいでしょうね。

金城さん:

そうですよね。サンゴは浅い、太陽の当たるところ、つまり、必ず人の近くにあるので地元の人にとっては身近な存在です。実は、日焼け止めの害だけでなく「踏みつけ」も問題なんです。コロナ前はたくさんの観光客に踏まれて、一瞬でサンゴがなくなった浜がいっぱいありました。

–観光客の多くが、サンゴへの知識も、大事にする感覚もないということですね。

金城さん:

だからこそ、サンゴの大事さを理解できる「何か」が必要だと思ったんです。「サンゴに優しい日焼け止め」というネーミングの商品がホテルや空港に置いてあれば、サンゴは大事、と伝える効果もあるはずです。日焼け止めの害を訴えるよりも、「サンゴを大事にして遊ぼうよ」ということを発信しているつもりです。

ゼロ地点から開発した「サンゴに優しい日焼け止め」

–商品の成分表を拝見しますと、ミツロウ、シアバター、ホホバオイルなど、アトピーや敏感な肌にもよいとされるものが多いですね。スキンケアにも優れているのでは?

金城さん:

その通りです。SPF50でウオータープルーフですが、ぬるま湯でも落とせますし、落とさなくても大丈夫。化粧下地としても使え、ファンデーションの害からも守ってくれます。

–それは、日焼け止めとして、信じられないほどの性能です!ゼロからどのように開発を進めていったのですか?

金城さん:

信頼できる論文や、ハワイを中心に研究している機関の情報などを参考にしました。紫外線吸収剤と呼ばれるもの全般、防腐剤なども海洋生物に影響があります。海外には、環境に配慮した日焼け止めがたくさんあるので、他社の先行商品も参考にしました。料理と同じで、わかりやすい原材料を使うのが大事です。

–開発する中で苦労したこと、その過程で学ばれたことはありましたか?

金城さん:

当時、地方にはまだあまり浸透していなかったクラウドファンディングで資金調達をしたのが、二度とやりたくないほど大変でした。誰が応援してくれるのかが、一目瞭然でわかるプロセスでしたね。言葉のみだったり、期待していたところが出資してくれず、期待していなかったところが出資してくれたり。覚悟して飛び込んだ事業ですが、思ったより賛同されなくてショックでした。

–厳しい道のりだったんですね。

金城さん:

ただ、ラッキーだったのは、ある程度の年齢になっていたことです。36才でしたが、会社運営の知識もあり、キャッシュフローを考えられたり、メンタルのマネジメントもできるようになっていたので。

–これまでのご経験があったからこそ、厳しい過程を乗り越えられたのですね。商品はどこで買えるのですか?

金城さん:

サイトに掲載があるオンラインショップと、契約した店舗に置かせてもらう形での販売です。Ethical & Seaさんなど、やはりエシカル商品系のお店が多いですね。14g(924円税込)と44g(2728円税込)の二種類があります。オンラインショップでのご注文発送の場合、送料は無料です。

–消費者の評判はいかがでしょうか?

金城さん:

やはり、肌に優しいことへの好感度が高いです。あと、容器がアルミ缶なので、プラスチックフリーが嬉しい、という声が多く届いています。

ゴミ拾いで人ともつながる「プロジェクトマナティ」

–金城さんは他にも「プロジェクトマナティ」事業を運営されていますが、こちらは何がきっかけとなって始められたのですか?

金城さん:

2017年に西表島に旅をしたのですが、浜でゴミをたくさん見つけたんです。拾いたくても、拾ったあとの処理に困り、諦めました。ホテルに持ち帰ることもできないし、袋も持っていませんでした。旅人が自然に感謝して何かの行動をしたくても、できなかったわけです。これって、一方通行の思いだな、と感じました。

–「サンゴに優しい日焼け止め」で、海の水を害さない活動をなさっていた金城さんとしては、ビーチのゴミも気にかかったのですね。ただ、知らない土地でのゴミ収集のルールは、すぐにわからないですよね。

金城さん:

はい。それが「人と人とのつながり」について考えるポイントにもなりました。私の場合、旅の思い出は人との交流が多いんですが、このごろは交流が生まれづらい。そんな観光ではその土地に愛着もわかず、さみしさを感じていました。西表島の体験もあり、「自然に感謝した自分がゴミを拾い、それを地元の人が捨ててくれる」ような、旅人と地元の人のコミュニケーションが生まれるアクティビティがあればいい、と思いつきました。

–ゴミ拾いとゴミ捨てが、コミュニケーションツールともなるわけですね。

金城さん:

ゴミ箱がそこにあれば解決、とはなりません。それを処分する誰かが必要です。マンパワーには、お金も発生します。自分ならいくら払える?と考えたとき、1000円はきついけれど500円なら、と思えました。コーヒーショップで買うコーヒーとドーナツくらいの気軽な金額ですから。

–同じワンコインでも、人とのつながりが生まれるワンコインですね。

金城さん:

地元の人と出会って、感謝して感謝されて、つながりが生まれる。500円でこんな温かな時間になります。それがいろいろな地域で実現できることを目指し、「プロジェクトマナティ」が発足しました。「お金持ちであってもなくても、気持ちひとつで同じ経験ができる世界をつくりたい」とも思いました。

「プロジェクトマナティ」で観光しながら地元にとけこむ

–「プロジェクトマナティ」の具体的なシステムを教えてください。

金城さん:

参加者にマナティ専用の黄色いバッグを500円で貸し出し、拾ったゴミをそれに入れてもらいます。ゴミの入ったバッグは「パートナー」か「ホスト」へ返します。拾われたゴミを分別して処分する人が「パートナー」。ゴミ拾いの「マナティ」に、様々なツアーやアクティビティを別料金でセットにして提供しているのが「ホスト」です。カヤック体験、無人島プランなど、様々なメニューがあります。すべて、サイトで検索して選ぶことができます。

–同じゴミ拾いでも、清掃業者なら賃金を得ていますし、ボランティアなら対価はありません。このプロジェクトはあえて「500円を払ってゴミ拾い」という発想が画期的です。

金城さん:

「なぜお金をとるのか?」と思われるかもしれませんが、知らない土地では、ボランティアをしたくても誰かの力を借りないとできません。拾ったゴミを売店などに置いていかれても、売店の人は困ります。どんな善意でも、誰かにとって難儀があると分かれば、そこに対価が発生することにも納得できるはずです。

–500円は、パートナーさんの手間賃なのですね。

金城さん:

250円がパートナーさんの手間賃です。あとの250円は、マナティ側が、バッグやのぼりなどの諸費用に使います。まったく足りないんですけれどね。

–時間がゆるせば、バッグを空にして、またゴミ拾いを繰り返せるんですか?

金城さん:

いいえ、バッグがゴミで満杯になれば、それで終わりです。バッグ一つ分の手間賃なので、複数回ならその都度500円を頂きます。ちなみに海洋生物のためには、5ミリくらいの小さなゴミを拾って頂ければ助かります。

目指すのは、「人とのつながり」を生む活動

–プロジェクトマナティを運営するうえで、どんなことにこだわっていますか?

金城さん:

「観光客がどうすれば地元にとけこめるか」ということを考えています。もしゴミ拾いをしてお金をもらっていたら、地元の人は、お金欲しさだと感じます。そうなると、観光者は地元にとけこめません。逆に、外からくる人がお金を払ってまでゴミ拾いをするとなれば、地元の人は「ありがとう」しかありません。与える気持ち、愛があると感じられる人は、地元に入りこめます。

–目的は、むしろコミュニケーションに重きがあるのでしょうか?

金城さん:

はい。環境問題を訴えるというよりも、人とのつながりを生む活動を目指しています。人とつながって、やっと初めていろいろな問題が自分ごとになると思うからです。私たちからの環境問題へのメッセージはミニマムなもので、あとは行った先で体験してもらえばいいと思っています。

–山マナティ、川マナティ、街マナティと、ご活動はビーチ以外にも拡がっているとのことですが、最後に、今後の展望をお聞かせください。

金城さん:

「マナティ」の活動が世界中でできることを願っています。一人でどこかに行っても、そこで同じような志の、優しい人々とつながることができます。「マナティ」で人と簡単につながれることを便利だと思ってもらえたら嬉しいですね。

もうひとつ、大事なことがあります。「マナティ」をやると、見た目ではなく行動で人を見れるようになります。口先だけではなく、起こすアクションでその人を判断できるような世の中、地域づくりにも貢献したいと思っています。

–「サンゴに優しい日焼け止め」の投資者、協力者を募った時に、真の応援者が分かったとのことでしたが、それもまた、同じような志をもつ者たちがつながったということですね。

金城さん:

はい。サンゴを害したくない、ビーチも、山、川、街も汚したくない…そんな優しい気持ちをもつ人同士がつながる意味は、とても大きいのです。

–日焼け止めの商品開発とゴミ拾い活動、全く違う事業のように思えますが、地元の海を守り、地元と外の人との繋がりを広げたいという金城さんの想いは共通していますね。今日はありがとうございました。

関連リンク

サンゴに優しい日焼け止めHP : https://www.coralisfriend.com/
プロジェクトマナティ : https://www.manatii.org/