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医療業界になぜSDGsが必要?日本企業の取り組み事例5選も紹介

医療業界になぜSDGsが必要?日本企業の取り組み事例5選も紹介

SDGs(持続可能な開発目標)の達成に向けて、あらゆる産業、あらゆる業界で熱心な取り組みが進んでいます。そんな中でも積極的にSDGsの推進を謳う機関が増えているのが医療業界です。

医療業界はSDGsとどのように向き合い、どんな取り組みをしているのか。この記事では、特に意欲的な取り組みが目立つ事例を取り上げ、医療業界がSDGsを進めるには何が必要なのかを掘り下げていきたいと思います。

進む医療業界でのSDGsへの取り組み

最近では多くの病院や医療法人でも、SDGsへの取り組みをホームページ上に載せる所が増えています。そしてその多くで、医療分野のみならず、環境や働き方、地域貢献など幅広い分野への言及が目立ちます。

もちろんSDGsへの取り組みを示していないからといって、それらの問題に無関心であるということではありません。

しかし、社会全体でSDGsへの関心が広がりを見せている昨今、もはや医療機関・業界にとってもSDGsは他人事ではなくなってきています。医療業界自体も持続可能な発展には多くの課題を抱えており、解決に向けてSDGsの考え方を取り入れない理由はありません。

医療業界がSDGsに取り組む理由

医療業界がSDGsへの取り組みを重視するのは、SDGsが目指す17の目標のうち、目標3にあげられている「すべての人に健康と福祉を」と直接的に関連するからです。

そして、健康と福祉はSDGsの掲げるすべての目標達成に不可欠であると同時に、SDGsが達成すべき目標は、医療業界が抱える多くの問題とも関わってくるのです。

「健康と福祉」は万人の権利

目標3「すべての人に健康と福祉を」では、その実現に欠かせない概念としてUHC(ユニバーサル・ヘルス・カバレッジ)をあげています。

これは「すべての人が、適切な健康増進、予防、治療、機能回復に関するサービスを支払い可能な費用で受けられること」を意味しており、万人に保証されるべき権利です。

しかし、実際には国や地域によって十分な医療を受けられていないのが現実であり、近年は国内でも医療格差や医師不足など、さまざまな問題が顕在化し始めています。

こうした現状の中で医療業界がSDGsに取り組むということは、「誰一人取り残さずに」UHCを提供することを内外に改めて宣言することにもなるのです。

「健康」があってこその「開発」

SDGsが目指す17の達成目標と、私たち一人ひとりの健康は大きな関連を持っています。

そもそも「Development」には「開発」のほかに「発展」「発達」という意味があります。

これを人間に合わせて突き詰めていくと

  • Development=個々人がより自らを発揮すること

という解釈となり、「健康でない」ことは「自らを発揮できない」ことであると言えます。

SDGsが掲げる「持続可能な開発目標」は、すべての人々が自分の能力を発揮して達成できることです。そのためには健康と、それを実現する医療の力がどれだけ重要かは、もはや言うまでもないでしょう。

医療業界の問題はSDGsの問題でもある

医療機関がSDGsに基づいた運営を行うことは、医療業界そのものが抱える問題を解決するためにも重要になっています。

その最たるものが労働問題です。医療や介護の業界は不規則・長時間な上に心身共に厳しい労働環境であることが多く、深刻な人手不足が続いています。また過疎地域では医療格差も問題となっており、少ない人数でも負担がかからないような働き方の構築は最優先事項とも言えます。

それ以外にも、化学物質を多用する環境や使い捨ての資材が多い医療廃棄物の問題、気候変動が人間の体にもたらす影響、地域住民の生活を守るコミュニティの基盤としての病院など、SDGsのすべての目標は医療機関の存続にも影響を及ぼすものになっているのです。

医療業界のSDGs取り組み事例

ここでは、SDGsに積極的に取り組んでいる医療機関や関連事業者の事例を紹介していきます。

事例①武田病院グループ

京都府で複数の病院や福祉施設を運営する武田病院グループでは、省資源・省エネルギーの推進や廃棄物処理の改善、BCP※と地域連携による安全性や快適性の確保、環境広報活動などの取り組みを行っています。

具体的なものでは

  • 天然ガスコージェネレーションや複層ガラス導入などによる省エネ、CO2削減、電力需要のピークカット
  • 廃棄物計量器を使用した廃棄物の減量・削減、3Rの推進
  • 井戸水浄化装置による飲用水の二重化、冬の給湯エネルギー量軽減、災害時の血液透析施設としての機能維持、地域住民の飲用水
  • 屋上庭園や緑化駐車場

などにより、京都市・京都府地球温暖化対策条例に基づき表彰されています。

※BCP

災害など非常事態の発生に対する事業継続計画のこと

事例②筑波麓仁会  筑波学園病院

茨城県にある筑波学園病院は、急を要する患者を24時間体制で受け入れる二次救急指定病院や専門医療機関、健診センターとしての役割をはじめ、介護、保育、看護学校運営も手がける大規模な医療施設です。

この病院では、本格的にSDGsに取り組むべく、以下の重点的な3つのテーマを掲げています。

  • みんなのために(地域医療・介護への貢献):茨城県地域医療構想の体制構築/「つくば医療MaaS(マース)」の運用
  • なかまのために(働きがいのある職場づくり):休暇や労働時間を含む勤務環境の改善・整備/人事制度の見直しや医療スタッフの業務拡大/福利厚生の強化/資格取得支援制度
  • みらいのために(環境への配慮):LED照明/環境に優しい空調エネルギーや太陽光パネルの導入/入院食・職員食堂でのフードロス削減

などのほか、「つくばSDGsパートナーズ」のメンバーとして、医療の分野から持続可能な地域づくりに貢献しています。

筑波学園病院については、当サイトのインタビュー記事で詳しく紹介しています。

【関連記事】一般財団法人筑波麓仁会  筑波学園病院|「地域医療にイノベーションを」

事例③横須賀市立うわまち病院

横須賀市立うわまち病院は、横須賀・三浦二次医療圏で唯一の、児童福祉法による助産制度を利用できる指定病院です。

この病院では生活保護法指定医療機関として困難を抱えた方へ医療を提供したり、出産費用の補助を行ったりして経済的に不安のある妊婦さんの支援を行っています。

このほかにもこの病院では、SDGsの17の目標すべてにわたるきめ細やかな取り組みを進めています。主なものとして

  • 近隣の病院や診療所などとの積極的な地域医療連携体制で、安心安全な医療を継続的に提供
  • 8か国語対応の電話医療通訳メディフォンの導入、外国人技能実習生の受け入れなど、グローバルパートナーシップへの貢献
  • 同性パートナーの同意書への署名に親族と同様の対応をとる、性別に関係なく職員が活躍できる環境とサポート体制の構築などジェンダー平等の推進
  • 救命のほか、虐待・暴力の早期発見や対処ができる体制づくり

など、その範囲は多岐にわたります。

事例④医療法人社団翔和仁誠会

医療法人社団翔和仁誠会は、東京都と神奈川県の15の病院からなる医療法人です。

ここでは、患者と同じ目線に立った快適・安全な地域医療をモットーにしており、なおかつ専門性、先進性の追求による大病院と変わらない治療を目指しています。

この医療法人におけるSDGsへの取り組みは、

  • 医療格差をなくす活動:三宅島の僻地診療所へ年に数回の診療/生活保護者の診療
  • 従事者がやりがいを持って働ける環境:ノー残業デーや時短勤務など労働環境の整備

などのほか、問診票で男女の性別記入をやめる、カンボジアや上海への医療支援など、独自の取り組みを行っています。

【関連記事】医療法人社団翔和仁誠会|患者に寄り添う格差のない医療を目指して、地域に根差しつつ、三宅島や中国、カンボジアにも診療支援

事例⑤MEDIUS HOLDINGS

こちらは医療機関ではなく、医療機器の販売や医療ソリューションの開発・提供、介護・福祉機器の販売やレンタル事業などを手がける企業です。

SDGsとの関連としては、

  • BCP対策による医療インフラの安定供給体制整備
  • 低廉で高品質、環境に配慮した医療機器の提供
  • 医療支援ツールの開発による医療現場の業務効率と安全性向上に貢献

などがあります。

特に力を入れているのがBCP対策で、あらゆる災害を想定した流通経路の確保や、免震構造の物流倉庫、衛星電話や自家発電装置の導入、社内ネットワークの冗長化など、どんな時でも医療インフラを途切れさせない体制を整えています。

また医療機器の提供についてもサプライチェーン全体を視野に入れた環境対策を行っており、工場の選定や排水規制への対応、梱包材のリサイクルへの対応なども行っています。

医療機関がこれからSDGsに取り組むためのポイント

今後、SDGsへの取り組みを進めようとしている病院や医療機関は増えていくでしょう。同時に、SDGsを進めるためにどんなことをすればいいのかが明確になっていない所もあるかもしれません。医療の分野でも、SDGsの目標達成のために求められることはたくさんありますが、ここではその中でも重要になるであろうポイントをあげていきましょう。

ポイント①高齢化への対応

これからの世界、特に日本では高齢化への対応がこれまで以上に必要になります。

2050年に90億に達するといわれる世界の人口。その中で65歳以上の高齢者の割合は2060年には17.8%に達し、先進国以外の国でも高齢化がもたらす課題に直面することは間違いありません。

SDGsには直接言及している目標項目はないものの、Healthy Ageing(健康に老いる)という概念は、間接的に以下のようなSDGs目標と密接に関わります。

  • 貧困の撲滅
  • 飢餓・栄養改善
  • 包摂的で質の高い生涯教育
  • 働きがいのある人間らしい雇用
  • 不平等の是正
  • 安全で強靭な持続可能な都市や街

将来的には、高齢者が上記のような目標を実現し、健康で安全な生活を送るために、医療業界としてできること、サポートすべきことが求められていくでしょう。

【関連記事】少子高齢化とは?日本の現状と原因・問題点・対策から若者ができることを徹底解説

ポイント②地域医療連携

医療費や人員が不足していくであろう将来において、より包括的で質の高い医療を維持するために必要なのが「地域医療連携」です。

これは地域の中で個々に役割・機能を持つ病院や診療所、在宅支援診療所などが連携することで、患者は病院での治療から回復、在宅療養まで、切れ目ない医療を受けられるネットワークで、平成26年に成立した「医療介護総合確保推進法」によって制度化されました。

多くの医療機関がこの地域医療連携に参加することにより、医療機関を効率よく、必要な人が適切な医療を提供できるシステムが作られます。

地域医療連携の推進は、UHCの実現だけでなく、SDGsの目標11「住み続けられるまちづくり」や目標17の「パートナーシップで目標を達成しよう」にもつながります。

ポイント③医療のICT化

ICT(情報通信技術)を使った医療技術は、医療業界で積極的な導入が求められています。

一例をあげると、電子カルテ管理システムや病院、医局や介護施設などを結ぶ情報連携、さらには遠隔診療や遠隔手術などがあります。ICTツールの導入により業務の効率化や最適化、省力化につながり、長時間労働の解消や人手不足、僻地の医師不足の改善が期待されます。

電子カルテデータ規格の標準化や個人情報の取り扱い、インフラ整備などの課題はあるものの、ICT化、デジタル技術の導入が、さまざまな問題の解決や高まる医療ニーズに向けて効果を発揮することは確かです。

【関連記事】ICTとは?ITやIoTとの仕組みと違い、ICT教育の現状、身近な活用事例を簡単解説

ポイント④予防医療と健康寿命の延伸

医療機関の役目は病気やケガの治療だけではありません。病気を未然に防ぎ、健康寿命を保つために必要なのが予防医療の推進です。

平均寿命と健康寿命との差が広がり、医療費や介護給付費用が増大すれば、健康な生活も持続可能な社会保障制度の維持も困難です。

同時に、QOL(生活の質)の向上を損なうのは認知症や脳卒中、(高齢者の)骨折や関節疾患などであり、これらの原因を防ぎ、要介護状態を減らす予防医療へのニーズも年々高まっています。

そのためには、医療機関においても

  • 食生活や栄養状態の改善
  • 適度な運動と睡眠・休息の奨励
  • 生活習慣病の原因となる要素の排除

など、病気やケガを未然に防ぐための適切な予防医療や、ライフステージに応じた「こころの健康」「次世代の健康」「高齢者の健康」を推進していくことが重要になってきます。

まとめ

医療業界とSDGsは、目標3の「健康と福祉」以外でも多くの関連があります。

それは、私たちが常に心身ともに健康な状態であることが「持続可能な社会」をつくるということと、「社会が持続可能」であるからこそ私たちが健康でいられることとが表裏一体だからです。

こうした持続可能な医療と福祉を推進し、維持していくためにも、医療業界全体でより多くの機関や関連事業者がSDGsに取り組み、各目標に向けた取り組みや活動を積極的に発信していくことが求められます。

参考資料
SDGs3「すべての人に健康と福祉を」私たちにできること・日本の取り組み事例|SDGsメディア『Spaceship Earth(スペースシップ・アース)』
どんな「不」が医療現場そして社会にあるか/狩野光伸|Drug Delivery System / 37 巻 (2022) 1 号- J-Stage
SDGs フレームワークに基づく Healthy Ageing 評価の動向/三浦宏子|保健医療科学 2021 Vol.70 No.3 p.235-241
環境への取り組み|武田病院グループについて|武田病院グループ (takedahp.or.jp)
一般財団法人筑波麓仁会  筑波学園病院|「地域医療にイノベーションを」|SDGsメディア『Spaceship Earth(スペースシップ・アース)』
医療法人社団翔和仁誠会|患者に寄り添う格差のない医療を目指して、地域に根差しつつ、三宅島や中国、カンボジアにも診療支援|SDGsメディア『Spaceship Earth(スペースシップ・アース)』
うわまち病院のSDGsへの取り組み
OUR SDGs 持続可能な社会の実現に向けて|メディアスホールディングス株式会社
地域医療連携について – 神奈川県立病院機構
今こそ知ってほしい「地域医療連携」 – medigle
平成26年度版 厚生労働白書 第3章 健康寿命の延伸に向けた最近の取組み – 厚生労働省
予防医療はなぜ必要か|MSD
医療の2024年問題とは|働き方改革への課題や解決方法について詳しく解説|働き方改革ラボ|RICOH
医療業界の今後はどうなる?現状の課題から徹底解説 – バトンズ