#インタビュー

株式会社アッシェ|「いっぱい食べて地球を救おう!」人気キャラクター「もぐにぃ」がスーパーとタッグを組み、食品ロス削減に挑戦

株式会社アッシェ 穐津さん インタビュー

穐津 健太

慶應義塾大学 商学部を卒業後、新卒で広告会社に就職。その後、ウォルト・ディズニー・ジャパン社でエンターテイメントビジネスを、日本マクドナルド社で外食のマーケティングを学び、楽しみながら食品ロスを減らす「もぐもぐチャレンジ」のコンセプトに共感して2023年より現在のアッシェに入社。マーケティング&カスタマーサクセス事業部を統括する。

introduction

スーパーの賞味・消費期限が近い商品に貼られた「もぐにぃ」シール。このシールを10枚集めてスーパーのサービスカウンターに持ってゆくと、買い物客は景品をもらえたり、食糧支援機関等への寄付活動に参加できたりします。人気キャラクターに育った「もぐにぃ」は、幼稚園・保育園や学校に「食育」の出前授業に出かけ、楽しい歌や踊りとともに「食品ロス」について児童と一緒に学びます。

今回は同社の穐津さんに、「もぐにぃ」による「もぐもぐチャレンジ」の拡大やスーパーとの協働など、様々な活動とその成果を中心に伺いました。

恵方巻廃棄問題から始まった、食品ロス削減への挑戦

–御社がどのような会社であるか、まずは概略をお聞かせください。

穐津さん

弊社は、高知県でデジタルマーケティングを提供する会社として、2005年に創業しました。2019年に、食品ロス削減事業を部門に加え、地元スーパーと協働での取り組みをスタートさせました。現在は、口いっぱいに食べ物をほおばっているリスの見た目をした妖精のキャラクター「もぐにぃ」を中心として、賞味・消費期限の近い食品の廃棄を減らすための「もぐもぐチャレンジ」をはじめ、お子様、学生を対象とする食育イベントの実施、自治体との協働イベントなど様々な活動を展開中です。

–デジタルマーケティングのIT企業が「食品ロス削減事業」を始めることになったきっかけを教えてください。

穐津さん:

この一部門だけ「浮いて」見えますよね。実は、デジタルマーケティング事業でおつきあいがあった「サニーマート」さんとの日々のやりとりがきっかけとなったんです。

2019年の節分では、「恵方巻の大量廃棄」が食品ロスの問題として全国的に大きく報道されました。その話題のなかで、「サニーマート」さんが食品ロスへの対策を模索していると伺った時、弊社でも何かアイデアが考えられないか提案を検討しました。

スーパーの現場では、まだ食べられるたくさんの売れ残り食品が廃棄されている現状があります。食品小売店での廃棄対象は、売れ残りの生鮮食品や惣菜だけではありません。食品メーカー、卸売業者、小売店の間には「3分の1ルール」という商習慣が存在しており、この決まり事によって、まだ食べられるたくさんの食品が捨てられてしまうんです。このような背景を知り、食品ロス削減は弊社にとっても大きな関心事でありました。

3分の1ルール

1990年代に、メーカー、卸売業者、小売店の間で生まれた商習慣。サプライチェーンは、賞味期間の3分の1以内で小売店に納品する。不可能だった場合、アウトレットなどへの行き場がなければほぼ廃棄処分。次の3分の1の期間までは小売店が商品を店頭に並べておいてもよいが、最後の3分の1期間に入ったものは正規価格で販売できず、値引き、返品、廃棄扱いとなる。食品ロス削減の観点で、現在このルールの緩和に向けた検討が進んでいる。

そこで「サニーマート」さんと、弊社が対話を重ね、結果として食品ロス解消を目指した「もぐもぐチャレンジ」という企画を提案させていただきました。

「もぐにぃ」や景品の「トイカプセル」で子どもを惹きつけ、ファミリー層を巻き込む

–「もぐもぐチャレンジ」の具体的なシステムを詳しく教えてください。

穐津さん:

「もぐもぐチャレンジ」の最重要アイテムは、「もぐもぐシール」です。協賛スーパーは、それぞれの基準にしたがって、賞味・消費期限が近づいた商品や、売れ残りが予想される生鮮食品、惣菜、パンなどに「もぐもぐシール」を貼っていきます。それらの商品を購入したお客様は、「もぐもぐシール」を台紙に貼り付け、10枚たまったらガチャガチャや抽選箱で景品に交換するか、食糧支援機関等への寄付に振り替えることができます。店舗によっては、寄付一択、店内で販売されているお菓子ひとつ、店内商品の値引き券などの対応もあります。あるスーパーでは、その一店舗全体で大きな台紙にシール100枚を集めて寄付に挑戦、などの企画にも取り組んでいます。

–先日、私も「もぐもぐチャレンジ」協賛の某スーパーに行ってみたんです。楽しそうな「もぐにぃ」コーナーで、お子さんがガチャガチャで大喜びしていました。食品を選択し購入するのは「大人」でありながら、あえて「もぐにぃ」で「子ども」を惹きつけるのはなぜでしょうか?

穐津さん:

ガチャガチャのカプセルトイだけではなく、「もぐにぃ」をキャラクターとしたグッズやYouTube、着ぐるみの「もぐにぃ」が活躍する歌や踊りのイベントなど、確かに一見するとお子様向けと思われるプログラムとなっています。しかし実のところ、ターゲットは「子ども」という訳ではありません。お子様を通じて「ファミリー層」に食品ロス削減活動に関わっていただくことが目的なんです。

「もぐにぃ」が人気キャラクターに育ってくれたおかげで、様々なイベントや取り組みにも発展しています。シール集めも含めて、そこにファミリー層が集っていただくことで、食品ロス削減への意識も拡がっていきます。

とはいえ、「子どもへのSDGs教育」を考えてのことでもあります。「もぐにぃ」活動で、お子様への「食育」も手がけており、地元高知では四万十町と連携協定を結び、自治体の皆様と一緒に、幼稚園や小学校に着ぐるみの「もぐにぃ」が出前授業に出向くなどしているんです。年齢に合わせ、幼稚園児には歌や踊りや紙芝居で「食育」を行い、合わせて食品ロス問題も伝えます。小学生には相応のコンテンツを用意して、食品ロスに関わる様々な問題を考えてもらっています。3月には大阪のエリアでももぐもぐチャレンジ導入スーパーの近くのこども園で食育イベントを開く予定です。

また、幼稚園やこども園に給食の食材を卸しているスーパーなどは、お客様に食品を販売するだけのおつきあいではなく、地域でのかかわりを強めていきたい、触れ合う機会をもちたい、と考えているようです。「地域のスーパーとして、お客様に恩返しをしたりつながりを持てたりすることは喜び」との思いを受けて、我々がスーパーと自治体の橋渡しをすることもあります。このように、食育や食品ロス削減活動を通じ、地域社会に新しい文化を根づかせることも目標の一つですね。

ミッションは、食品ロス削減への意識変容、行動変容の促し

–たんに「食品ロスを減らす」だけではなく、子どもと大人双方の意識変容を促すことも目的なんですね。

穐津さん:

その通りです。いくら食品ロス問題をニュースで発信したり、啓発の言葉を発したりしても、なかなか「自分ごと化」されません。日頃の行動に反映されないこともありますし、頭ではわかっていてもつい買いすぎてしまうこともあると思います。言葉で意識変容を促すだけでは「行動の変容」は起こりづらいんだな、というのが実感です。

弊社は、「捨てる常識(アタリマエ)を棄てる!」がミッションの一つです。これを実現するには説教じみるのではなく、お客様と楽しみながら食品ロス削減が達成できるプログラムを通じて、行動変容、意識変容を促すことが大切だと考えています。シール集めやガチャガチャの景品をお子様にせがまれて「もぐもぐチャレンジ」に参加した親御さんも、実際に行動してメッセージなどを読むうちに、「食品ロスって大変な問題なんだ」と気づいていただけるはずです。

「もぐもぐチャレンジ」を続けることで、食品ロス削減が今の日本、世界、地球に必要なのだと感じていただければ、やがてはインセンティブがなくても廃棄が迫った商品を購入してくださるでしょう。シールを集めて食べ物に困っている人への寄付に替えようとする消費者も増えるでしょうし、実際に増えているんです。そのようにして、食との良いつきあいを続けていただけるのではないかと考えています。

–「もぐもぐチャレンジ」の参加者や協賛スーパーからはどんな声が届きますか?

穐津さん:

参加してくださる方々は、とても楽しみ、喜んでくださっていますね。お客様やお子様たちから「もぐにぃ」への手紙がたくさん届くんです。SNSにも嬉しい感想が投稿されていますし、「食品ロスをなくすために、一緒に活動するよ」といった反応も増えてきました。お客様と「もぐにぃ」にいっそう感情的なつながりができて、一緒に頑張っていくという共感を得ています。

協賛スーパーの皆様も、とてもポジティブに活動をとらえてくださっています。やはり「もぐにぃ」に愛着を感じてくださり、このキャラクターをいかに使ってお客様に投げかけて行こうかと、店舗ごとに工夫をこらした企画もあり、想定以上の「もぐにぃ」効果がありました。

例えば、従業員様自ら「もぐにぃ」のワッペンを作って胸につけていたり、「もぐにぃ」の紙芝居を作って店舗で食品ロス削減イベントを開いたり。キャラクターを作ったことで、スーパー従業員の皆様をいっそう巻き込み、店舗の反響を高めている感触がありますね。食品ロスが気にかかっても何をやったらいいかわからない、という方々や店舗をうまくつなぐことができたと思います。

目標は47都道府県のスーパーでの「もぐもぐチャレンジ」

–現時点での協賛スーパーの店舗数を教えてください。また、「もぐにぃシール」による食品ロス削減数はどれくらいにのぼっているのでしょう?

穐津さん:

2023年2月現在で、参加スーパーは304店舗(13チェーン)です。現在様々なスーパーからお引き合いを頂戴しており、さらに店舗は拡大してゆく予定です。

食品ロス削減数は、回収した「もぐもぐシール」の数で見える化するわけですが、2022年末時点で約4年間の累計が890万枚という驚くべき数となっています。

–「もぐもぐチャレンジ」を持続可能な取り組みとするためには、貴社にとっても収益性は必要かと思います。このプログラムのビジネスとしての側面も教えていただけますか?

穐津さん:

活動をサステナブルなものとするには、弊社にもスーパー側にも利益が出ることが必要です。そこで弊社は、協賛スーパー1店舗あたり月額いくら、というかたちでプログラムの費用を頂戴するシステムを構築しています。対してスーパー側は、「もぐもぐチャレンジ」を使っていただくことで値引によるロスや廃棄のためのロスが減り、さらにはこのような社会貢献によって企業イメージも向上します。弊社としては、なるべく多くの店舗で実施していただけるよう、様々なエリアやタイプの店舗ごとにメリットが生み出せるような提案をさせていただいています。

–今後の展望を教えてください。

穐津さん:

「もぐもぐチャレンジ」のかたちもどんどん変えて、もっといいプログラムにしてさらにSDGsで掲げている食品ロスをなくす目標に対していい影響を与えることができるようにしたいですね。

このプログラムを改善してゆくため、お客様はシールを得るために買ったのか、それとも値引き品を買ったらたまたまシールがついていたのか、シールを集めているのはどんな層なのか、「もぐもぐチャレンジ」に参加するためにスーパーに来店する場合はあるのか、など様々なことを分析・調査していきたいと思っています。

スーパーごとにお客様の属性も違いますし、どういうエリアではどんなプログラムが機能するのかなどを調査して提案していければ、店舗ごとに食品ロスについてのコンサルティングもできるようになると考えています。

まだ生まれて4年ほどのビジネスですが、このプログラムがお客様に愛されて全国に広まってゆく状況が見えています。47都道府県で「もぐもぐチャレンジ」を取り扱ってくれるスーパーを増やしていくことが、直近の目標といえますね。

–そうなれば、日本全国で「もぐにぃ」と会えますね。今日はありがとうございました。

関連リンク

もぐにぃ公式サイト https://mognny.fun/