#インタビュー

ナオライ株式会社|自然よし、未来よし。日本酒を通して実現する「五方よし」の事業とは

ナオライ株式会社 竹澤さん インタビュー

竹澤 元哉

1997年生まれ横浜市出身。上智大学外国語学部卒。大学在学中、様々な国を訪れる中で、発酵を中心とする和食文化の魅力に気付く。帰国後は日本酒にドハマリし、スペイン語で国際利き酒師の資格を取得。「多様で豊かな日本酒文化を次世代に引き継ぐ」というナオライの思いに共感し、大学卒業後の2021年から参画。 Iターンで広島県神石高原町に移住し、主に浄酎の商品企画、営業に取り組んでいる。

introduction

日本の伝統産業である日本酒産業。現在、日本酒をつくる酒蔵の廃業問題となっていることを知っていますか?

今回は、日本酒の新しい価値を創造するナオライ株式会社でプロダクトマネージャーを務める竹澤さんへインタビューさせていただきました。

後継者不足が叫ばれるなか、日本の伝統産業をどのように次世代に繋げていくのか。竹澤さんが製造を担当する「浄酎」というお酒から、そのヒントを紐解いていきました!

日本酒文化を未来に繋げたい

三角島

-最初に、ナオライ株式会社の事業概要を教えてください。

竹澤さん:

ナオライは、2015年に瀬戸内にある三角島という人口約20人の離島を拠点にスタートした会社です。
「多様な日本酒文化を守る」ことをテーマに、スパークリングレモン酒「MIKADO LEMON Sparkling lemon sake」や日本酒を低温浄溜した「浄酎」の製造・販売、日本酒の可能性を語り合う「場」の提供などを行っています。日本酒の需要や酒蔵数が減少するなかで、今後も日本酒の文化を大切に守っていきたいと考えています。

大崎下島久比(くび)地区にある自社レモン畑から見た風景。対岸に見えるのが三角島。

酒蔵数が減少している背景には、どういった理由があるのでしょうか?

竹澤さん:

日本酒は、米と米麹、水をアルコール発酵させて作ります。そのもととなるのが微生物の働きです。常に自然が相手の仕事であり、完成するまでに多くの工程と時間を要するため「非効率な産業」とされていることが一番の原因だと感じています。
そのため、後継者がおらず仕方なく廃業してしまうケースが後を絶たないんです。
特に現代は、効率を重視するあまり、手作りを主とした「非効率な産業」を続けるのが難しい社会構造だなと感じています。
日本酒産業を未来に繋げていくためには、全国の酒蔵で働く皆さんたちと力を合わせ、新しい価値を創造していくことが大切だと考えています。

-竹澤さんはナオライが本社を置く広島とは縁もゆかりもなかったそうですね。どうして事業に関わりたいと思ったのですか?

竹澤さん:

もともと、日本酒を含めた発酵文化に興味があったからです。きっかけは、学生時代の海外留学。その際、日本の食文化、発酵文化の魅力やパワーを再認識することができたんです。
ですが、日本ではそういった文化がどんどん衰退しているという現実があります。それをなんとかしたいと思ったこと、私自身お酒がすごく好きだったこともあり、ナオライの事業に関わりたいと思いました。

時間の経過が価値になる熟成酒「浄酎」

浄酎

竹澤さんは、プロジェクトマネージャーとして「浄酎」というお酒の製造・販売を担当されているそうですね。どういったお酒なのでしょうか?

竹澤さん:

広島県内の酒造家さんから仕入れた日本酒を低温浄溜することで、アルコール度数を高め、長期保存を可能としたお酒です。「ウイスキーやワインのように、世界中で流通し、時間の経過が価値になるようなお酒を、日本酒から造りたい」という思いのもと開発しました。
日本酒でも焼酎でもない「第三の和酒」として注目いただいています。

長期保存が可能であれば、海外への輸出にもチャレンジしやすくなりますね。

竹澤さん:

そうですね。世界的な和食ブームによって、日本酒は注目されるようになりましたが、デリケートなお酒のため、常温での流通が難しかったり、輸送期間が長くなると劣化してしまうという課題を抱えていました。
既存の酒蔵さんも、現在造っている日本酒を原料として浄酎を造ることで、新しい販路を見出していただけるのではないかと感じています。

「造れば造るほど感謝されるものづくり」を目指して

事業の中でSDGsを意識されている部分はありますか?

竹澤さん:

ありがたいことに、私たちの取り組み自体が「SDGsだね」と取り上げていただくことが増えました。ですが、SDGsを意識しながら取り組んでいるというよりは、「造れば造るほど自然から感謝されるようなお酒造りをしたい」というテーマのもと活動をしているのです。
結果として「SDGs」という切り口でご紹介していただく機会が増えましたが、根底にあるのは、本社のある三角島で無農薬のレモン栽培を行う代表の三宅が感じた、「自然に感謝されるようなものづくりをしていきたい」という想いです。

浄酎にも三角島のレモンが使用されているのですか?

竹澤さん:

昨年リリースした「琥珀浄酎」は、三角島で栽培した農薬不使用のレモンを使用しています。また、原料となるお米も、広島の神石高原町で50年以上オーガニックの米作りをされている農家さんから仕入れたものです。
浄酎が広まることで、オーガニックのレモン畑や田んぼが広がっていってほしい…そんな願いもこのお酒には込められているんです。

琥珀浄酎

素晴らしいですね。浄酎の製造をされている場所も、もともと酒蔵だった場所をそのまま使用しているそうですね。

竹澤さん:

そうなんです。広島県神石高原町の廃業して使用されなくなった酒蔵を使用しています。酒蔵という建物自体にも価値を感じており、私たちが大切に末永く使っていくことで未来に残していけたらと思います。

広島県神石高原町にある酒蔵(写真奥)と浄酎・琥珀浄酎の3種飲み比べセット(写真手前)
浄酎のオーク樽熟成室

消費者と生産者の壁をなくしたい

浄酎の製造や販売に携わるようになって、竹澤さんの中で何か変化はありましたか?

竹澤さん:

私自身、横浜出身で田んぼや自然がない環境で育ったので、酒造りの過程でお米を作るところから関わらせていただいていることは大変貴重だなと感じています。
実際に土に触れることで、自然環境や作る背景、作り手の想いというのを強く考えられるようになりましたね。
私と同じように、都市部にお住まいの方は自然に触れる機会が少なく、食べ物がどこでどう育っているか意識したことがない方が多いと思うので、是非体験していただきたいです。

生産者さんとお話しされることも多いようですが、どんな声をいただきますか?

竹澤さん:

浄酎を通して原料であるお米やレモンの素晴らしさを伝えていくことを意識しているので、農家さんたちもすごく喜んでくださっています。このようにお米やレモンなどに高付加価値をつけて販売していくことで、オーガニックの田んぼや畑を増やしていければと思います。

この取り組みの輪が広がれば日本酒産業だけでなく、それに付随する産業一緒に盛り上げていけそうですね!

竹澤さん:

そうですね。私たちの大切にしている想いの一つに「生産者と消費者の壁をなくす」ということがあります。
私たちが今課題と感じているのは、作る側と消費する側の隔たりが大きいこと。そのため、浄酎を作る過程でお客様を田んぼに招いて稲作体験をしていただくなど、もっと「作ること」に関われる機会を作り、生産者を身近な存在に感じていただきたいと思っています。
実際に、三角島のレモンもたくさんの方が栽培体験に参加してくださっています。「自分も作り手だ!」という感覚で一緒に楽しみながらお酒を造ることができる輪を、今後も広げていきたいですね。

レモンの栽培体験の様子

「五方よし」の事業を実現するために

最後に今後の展望を教えてください。

竹澤さん:

やはり私たちの事業の根本は、「日本酒の酒蔵で働く皆さんのためになる事業をする」というところにあります。
現在5つの酒蔵さんと組んでお酒を仕入れておりますが、今後はさらに増やしていきたいですね。
また、「日本酒を浄酎として販売する」ということを新しい選択肢として考えていただけるような提案もしていきたいと思います。

消費者へのメッセージはありますか?

竹澤さん:

浄酎が、未来の環境や暮らしを考えるきっかけになれたら嬉しいです。
浄酎ができてまだ2年たらずですが、今後50年100年とお酒が熟成されることで新たな価値が生まれてくると思います。是非多くの方に飲んでいただき、日本酒の新たな楽しみ方として、価値を伝えていきたいです。

浄酎を通して、自然環境や伝統産業について考える人が一人でも増えていくと良いですね。

竹澤さん:

そうですね。ナオライでは「五方よしのビジネスをしよう」といつもみんなで話し合っています。
一般的には、買い手よし、売り手よし、世間よしの三方よしだと思うのですが、私たちが目指すのは「自然よし」と「未来よし」を加えた五方よしの事業です。
これからも、日本酒を通して自然や未来について考えるきっかけを作っていきたいです!

関連リンク

>>ナオライ株式会社HP