#インタビュー

能美市国際交流協会|誰もとり残さない、対等な関係で築く国際理解

能美市国際交流協会

能美市国際交流協会 喜多さん 清水さん  インタビュー

喜多 泉

1955年、輪島市で生まれる。 県外で大学4年間を過ごし、卒業後石川へ戻り、教員として24年間県内小学校で勤務。在職中、JAISTの中国人の子(4年生で日本語ゼロ)を担任した事で、外国ルーツの子どもの苦労や努力を知った。退職後1999年から、ボランティアでJAISTの留学生や研究員への日本語支援を始め、「国際交流全般の活動」にも携わる。と同時に、「子どもの育ちや子育てを応援する活動」も開始。以来、「国際交流」と「子育て応援」に関わって約25年活動を続けている。

清水 和貴子

大学で国際関係学を学び、銀行員などを経て、国際協力機構(JICA)に入構。JICAで担当した研修員受入事業を通じてふるさと北陸の良さを再発見。また、ふるさとへ貢献したい思いが募り、東京からUターン。現在は能美市国際交流協会で勤務しながら能美市の魅力を発信する能美市移住アンバサダーとしても活動中。

introduction

人口5万人の規模でありながら、地域の特性上、外国籍の方が多く住む石川県能美市。協会の会長を務める喜多さんは「誰も取り残さず対等であること」を大切に、外国の方の生活を支援しています。今回、協会のこれまでの取り組みや心温まる外国の方とのエピソード、今後の展望について、会長の喜多さんと職員の清水さんに話を伺いました。

人口5万人の市に1,400人の在住外国人、その日常生活を支える協会とは

–まずは能美市や、能美市国際交流協会について教えてください。

清水さん

人口約5万人の石川県能美市は、海や山など自然に恵まれた市です。伝統工芸の九谷焼が有名で、美味しい農産物がたくさんとれるのどかな場所です。ボランティア精神が旺盛な方が多く、住民の人柄が良いというのが自慢です。

また、市内には、国立大学法人北陸先端科学技術大学(以下JAIST)があります。このJAISTで、世界水準の先端科学技術を学ぶために、ベトナムなどのアジア圏を中心に、世界中から優秀な留学生がやってきて生活しています。留学生の家族や、JAISTの先生、技能実習生、日本人の配偶者の方などを含めると、1,400人もの外国の方が能美市で生活をしており、県内で一番在住外国人の比率が高いことも特徴です。

その中で、私たち能美市国際交流協会は、能美市で生活をする外国の方の日常生活における困りごとや相談、市民と外国の方の相互理解のために活動をしている協会です。具体的には、外国の方の生活相談、日本語を教える支援、地域の方との交流を促進する地域交流、国際理解を促進するイベントの開催などが挙げられます。

どの国の方も市民の一人として、日本人市民と同じように安心して生き生きと生活できるようにすること、そしてお互いが自然に日常的に交流できるようにすることを目指して活動をしています。その上で大切にしていることは、外国籍であろうと日本人であろうと、対等に接することです。

協会の6名のスタッフのうち3名がベトナム・ブラジル・ロシアの外国出身です。協会では英語、ベトナム語、ポルトガル語、ロシア語、日本語に対応することができます。

 –協会を設立した経緯について教えてください。

喜多さん

1990年にJAISTが開学して以来、そこで学ぶ外国人留学生が能美市で生活をするようになりました。それと同時に、外国人留学生への日本語サポートや心配ごとの相談に乗るようになったことが協会のルーツです。

協会が設立される前から、彼らの生活支援のために、地域の方が自発的に団体を作り、国際交流や国際理解に取り組んできました。そして、その活動を持続可能にするために、長年能美市に働きかけ続けた結果、2019年に能美市国際交流協会が設立されました。これにより、外国の方が抱える様々な課題やニーズを市全体の課題として捉え、協力して解決するための体制が整いました。

私は日本語しか話せないのですが、二十数年前からこのような活動を続けています。

日本語が理解できない外国の方を支える仕組みと、きめ細やかな生活支援

–協会が取り組んでいる活動について詳しく教えてください。

清水さん

まず一つ目に外国の方の生活相談についてお話します。例えば、日本語が理解できず、生活に支障をきたしている外国の方を支援するために、通訳ボランティアを一般市民から募集し、派遣しています。

通訳ボランティアは、市内の保育園や学校、医療機関や市役所等における手続きで通訳をしたり、国際交流イベントで外国の方と日本参加者のコミュニケーションをサポートしたりします。

喜多さん:

サポートの具体的な例を挙げると、JAISTの先生をしている方が、ご主人を国に残したまま、初めての出産をすることになったケースがあります。彼女にとっては外国での初産ですから、言語以外にも不安なことがたくさんあります。そこで病院や行政の窓口に同行することはもちろん、親身に寄り添ってサポートを続けています。このケースでは協会全体でサポートをしていますが、外国語でのサポートが必要な場合は、語学が堪能なスタッフが対応します。

2つ目が日本語教室の開催です。協会の養成講座を修了した日本語サポーターが、市内に4会場ある日本語教室で毎週日本語を教えたり、外国の方の日々のサポートをしたりしています。外国の方の日本語レベルは実に様々なので、サポーターはそれぞれのレベルに合わせてきめ細やかに日本語を教えます。サポーターの登録数は約30人以上と増えてはいますが、教室を必要とする外国の方が100人以上おられるので、ニーズに追いついていない状態なのが今の悩みですね。

–最近では翻訳アプリなどもありますが、それらを活用することはありますか?

喜多さん:

サポーターとして外国の方と接するためには、日本語を教えることに加え、外国の方の置かれた状況や課題についての認識が必要です。加えて、外国の方との信頼関係の築き方が非常に重要になります。翻訳アプリなどが役に立つ場面ももちろんありますが、やはり人を介した通訳、サポートには敵いません。

生活全般における相談は、信頼関係があってこそできることだと思います。ですからサポーターには、生徒が何か困っていないか常に気を配り親身に接することで、いつでも相談していいと思ってもらえる関係性を築いてもらうようにしています。 

清水さん:

協会の取り組みの3つ目が、地域の方との交流を促進する地域交流、国際理解を促進するイベントの開催です。他の市にも国際交流を目的に活動している協会は多くありますが、当協会はその中でも開催する回数が多いと思います。積極的に情報発信をしているFacebookでイベントの開催を知った方が、市内はもちろん近隣の市町からも遊びに来てくれることが増えました。お陰で市民の方が外国の方に声をかける機会が増えており、イベントの開催に協力してくれる外国の方も増えていることを嬉しく思います。

–このようなサポートに対して、外国の方の反応はいかがですか?

喜多さん

「誰も取り残さない」ことを大切にしている協会のこのような活動や能美市での生活は、外国の方にとって心地良いようです。そのため、JAISTを卒業した留学生のほとんどは海外や都市圏に就職してしまいますが、転居後も私たちと連絡を取り合うケースが多いのです。先日も東京に就職をした留学生が、「里帰り」という言葉を使って会いに来てくれましたし、出産の報告をくれたり、結婚相手を連れて遊びに来てくれたりと、能美市を第二の故郷だと思ってくれている卒業生が多くいることを嬉しく思います。

清水さん

ちなみに、外国の方はサポートを受けるばかりではありません。地域の一員として能美市に貢献してくれています。例えば、能美市の冬は雪が多いのですが、高齢で雪下ろしができない一人暮らしの方の家で、外国の方が雪下ろし作業をしてくれたことがありました。これは、社会福祉協議会から当協会に「どなたか作業できる人がいませんか」と依頼があったことがきっかけです。このように能美市に住む外国の方は、助けてもらうだけではなく、一人の市民として、自分も誰かの役に立ちたいという想いを持っています。その想いに応えるためにも、社会福祉協議会や他の団体との連携を大切にして、多様で柔軟な活動をしています。

–活動を続ける中で、課題となっていることはありますか?

清水さん

ひとつは、交通手段のサポートが課題です。能美市では、車が無いと移動が難しいのが現状です。かと言って学生である外国の方が車を所有するには維持費がとてもかかります。ですから外国の方を病院やイベントに送迎することを普段から協会の職員も手伝ってはいますが、いつでも送迎できるわけではなく、すべて対応できない場合は、心苦しく思うこともあります。

能登半島地震を経験して

–2024年元旦に能登半島地震がありました。その際の外国の方の様子や、災害時における課題、対策などについて教えてください。

清水さん

能美市では震度5強を観測しました。幸い深刻な被害はありませんでしたが、道路が一部陥没したり断水したりしました。また、津波警報が出ており、揺れた直後は私たちも逃げるのに必死でしたが、すぐに外国の方に情報を知らせました。能美市には「外国人コミュニティサポーター」という外国人と日本人をつなぐサポーターのみなさんがいます。彼らを通して安否確認や避難所の案内をしました。

それでも外国の方たちは、どこに避難すべきか混乱し、たどり着いた避難所でも言葉が分からず困ったという方もいました。能美市での事例ではありませんが、避難所で支援物資をもらっていいのか分からなかったり、食料を支給してもらったものの宗教上の理由から食べることができなかったりと、大変な思いをした方もいたようです。

このような問題を受けて、協会では2024年7月に、外国の方向けの防災イベントを開催しました。行政や消防、救急の方にも協力してもらい、避難場所の確認や災害に備えた心得などについて勉強しました。このイベントは多くの外国の方の関心を集め、たくさんの方が参加してくれました。

企業と取り組む異文化交流で、分け隔てることなく理解し合える能美市に

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 –今後どのような取り組みをしていきたいですか?
清水さん

地元企業や町内会を巻き込んで、地域での異文化交流をしていきたいと考えています。

というのも、まだまだ外国の方に対する理解が足りないと思っています。例えば、企業が複数の技能実習生の住居として一軒家を貸し切っているケースがあります。ただ、地域の人にそのことを知らされておらず、「あそこに外国の方がたくさん住んでいるらしい。けど何も知らない。どのように接したらいいのか分からない。」という声を聞くことがあります。

このような状況を改善するためには、まずは企業の方が町会長に事前に挨拶をしたり、そこから住民に周知したりしていくことが必要だと思います。知らないから「どう接していいのか分からない」「知らないから怖い」のであって、互いの存在を把握して、少しずつでも顔見知りになっていくことで、地域にも受け入れてもらえるはずです。また、能美市に住んでいる外国の方を協会が把握することにもつながるので、今後企業や町内会との連携を強化していきたいですね。

 喜多さん

外国の方も同じ能美市民の一人ですから、彼らの存在意義が認められるような活動をこれからも続けたいです。加えて、大好きな能美市のために何かしたいと思っている外国の方が実はたくさんいることを伝えたいです。能美市は住んでこそ分かる魅力が詰まった所です。人柄の良い能美市民ですから、「外国人」、「日本人」と分け隔てるのではなく、同じ市民として、もっと理解し合えると信じて今後も様々な活動を続けていきたいです。

外国の方と築く信頼関係に加え、地域のために彼らができる役割を手配するなど一歩踏み込んだ協会の取り組みが、彼らに「能美市は第二の故郷」と言わせるのだなと納得しました。誰も取り残さないために尽力する協会の姿に感激しました。ありがとうございました。

関連リンク

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