#インタビュー

一般社団法人エンジェルガーデン南国|農業×福祉で、障がい者といわれている方々の自立を促す仕組みづくりに奮闘。無農薬・無肥料・除草剤を使わない農園の実現へ

一般社団法人エンジェルガーデン南国 西川さん インタビュー

西川 きよ

高知県生まれ高知県在住。自分自身の化学物質過敏症の特性を生かし、1999年に化学物質不使用の化粧品メーカーを設立。

2011年、耕作放棄地を購入し有機JAS認証のグアバ果樹園に転作。現在は夫が代表理事を務める障がい者就労支援施設にて、高知大学土佐FBCなどで自家農園産のグアバ果樹を研究し学会発表するなど機能性を活かした商品開発を担当。

また都内を中心に「有機土佐國グァバ茶」の試飲会やオーガニックコスメ「天海のしずくオーガニック」を使ったハンドマッサージ体験会を通じて添加物や化学物質に頼らずとも身体によい安全安心な商品はつくれる!という想いを発信している。農林水産省農業女子PJ。

introduction

近年、農業と福祉の連携が注目されているのをご存じですか?

農業と福祉の連携を「農福連携(のうふくれんけい)」という言葉で表現されることも多く、いろいろな取り組みが試されています。

なぜ、注目されているのか?

それは、障がい者といわれている方々が農業分野で活躍することで、自信や生きがいをもつ就労の場を得ることができ、且つ、人材不足で悩む農業分野の救世主になる可能性を秘めているからです。

そんな「農福連携(のうふくれんけい)」に取り組んでいるのが「一般社団法人エンジェルガーデン南国」です。障がい者といわれている方々と共に作る無農薬のグアバ茶などの商品はその機能性も好評。今回は、グアバ茶についての研究や福祉の未来を切り開くために日々奮闘されている「一般社団法人エンジェルガーデン南国」の西川さんにお話を伺いました。

–まずは、「エンジェルガーデン南国」について教えてください。

西川さん:

わたしたち「一般社団法人エンジェルガーデン南国」は、高知県南国市にある、障がい者就労継続支援B型事業所です。代表理事を主人の西川一司が務め、私と長男・次男、障がい者といわれている方々と共にスタートし、現在は有機JAS認証取得の農園でグアバやへちま、柚子、露地野菜などを栽培し、自社工場で加工、商品化し販売しています。

「エンジェルガーデン」という名前は、障がい者といわれている方々がピュアな心を持つエンジェルのようで、その心を大切にしたいと名づけました。

障がい者といわれている方々(私たちはメンバーさんと呼んでいます)も含め、すべてのスタッフが働くことの幸せを感じ自立できる環境づくりを目指して、日々活動しています。

–「エンジェルガーデン南国」を立ち上げた背景を教えてください。

西川さん:

もともと化粧品メーカー「有限会社アフロディア」という会社を立ち上げたことがきっかけです。

わたしは肌が弱く、長男も重度のアレルギーを持っていました。そこで、みんなが安心して使うことのできる無添加化粧品を作りたいと、1999年にスタートさせたのがこの会社です。ここで無添加の化粧品をつくったことで、肌の外からケアができる環境を整えられるようになりましたが、やはり「食べたもので身体はつくられる。」次は体の中から健康になりたい(体内美容)と考えるようになりました。そこで注目したのが、さまざまな種類のお茶です。

お茶の研究を重ねているとき、1ヶ月ぶりに来店された常連のお客様が以前より瘦せて肌もピカピカになっておられたんです。

その方は、重度の高血圧症で何回も救急車で運ばれた経験をお持ちでしたが、投薬治療をすることに違和感を覚えていらっしゃいました。その中でグアバ茶に血圧を下げる効果があると知り、生活の中に取り入れたそうです。結果は素晴らしいもので、血圧が下がってダイエットに成功しお肌もピカピカになったとのことでした。

そのお話を聞き、わたしたちは早速グアバを取り入れたいと考えたのですが、生産者の顔が見えないものを使いたくなかったんです。それなら「自分たちで栽培しよう」となり、長男を高知県内のグアバ農家さんに派遣、グアバ茶の自然栽培のノウハウを1年間学びながら、同時にグアバ茶の研究のために高知大学土佐FBCへ入講しました。

グアバについての研究で、機能性が明らかになった段階で、近所の耕作放棄地をグアバ農園に転用し、グアバ果樹を101本定植しました。その後も高知大学土佐FBCにて研究を重ねていくと、グアバは美白作用と抗酸化作用が強いということが明かとなった為、グアバエキスを使った「天海のしずくオーガニック」というオーガニックコスメを開発、2016年には高知県地場産業大賞奨励賞を受賞しました。

こうして最初は「アフロディア」が有機農園を運営していましたが、主人である代表が、特別支援学校で教員を32年間経験したのち早期退職をして、教え子たちの活躍できる場として2017年にエンジェルガーデン南国を設立し、有機グアバ農園を任せることになりました。2019年には「有限会社アフロディア」の業務を移管し、現在の「一般社団法人エンジェルガーデン南国」の形になりました。

昆虫や植物、動物たちが生息できる自然の生態系そのままの環境でより良い農園に。

–グアバを作る際に苦労されたこともあったのではないでしょうか?

西川さん:

私たちは、農薬や肥料、除草剤を使わない究極のオーガニックと言われる自然農法を採用しています。そのため、せっかく育ったグアバの葉っぱをハスモンヨトウという「ガ」の幼虫が食べてしまうことが大変でした。ハスモンヨトウは夜に地面から出てきて食事をするので、昼間捕食することが難しい害虫で、朝になると見事にグアバの葉っぱが食べられているのを見てガックリと落ち込みました。

これを解決してくれたのが、ハスモンヨトウの幼虫の天敵であるカエルです。どこからともなくやってきて、農場の水たまりにたくさんの卵を産み、おたまじゃくしが孵っていることがわかりましたので、育つ環境を整えるとカエルが増え、いつの間にかグアバの葉っぱを食べつくしてしまうハスモンヨトウはいなくなっていました。

そして今度は、カエルを捕食するために立派な蛇が現れるようになりました。中には全長2メートルの大きさの蛇もいたんですよ。びっくりしていたら、次は蛇を捕食するためにハクビシンなどの哺乳類が現れ、蛇がいなくなりました。この頃になると、多種多様な生物や植物が自然のままに息づく空間でグアバが生き生きと成長できる環境になっており、自然の生態系がいつのまにか完成していました。

農業×福祉の連携と6次産業化で農園運営に挑む

–栽培した作物は加工して販売しているとのことですが、次はこちらについて詳しく教えてください。

西川さん:

2018年農林水産省より「一般社団法人エンジェルガーデン南国」は、6次産業化に基づく総合化事業計画に認定されました。

6次産業化」とは、農林漁業者を1次産業とし、加工を2次産業、流通・販売を3次産業として、1次産業×2次産業×3次産業のかけ算の答えである6の意味で6次産業と言われています。わたしたちは農園運営と食品加工、販売を同時にしているので、6次産業化を達成しているわけです。

6次産業化することによるメリットは、高品質な商品を安定してご提供できるということと、メンバーさんのお仕事の種類や量が増えるということです。

特にメンバーさんたちは、自然や農業を通して、グアバの成長に立ち会う経験ができますし、虫が嫌いな方や土で汚れるのが苦手な場合は、加工や梱包のお仕事もあるなど、個々の状態に応じた配置が可能になります。

自分たちが育てたグアバが商品になり、買ってくださる方がいて、その売り上げがメンバーさんのお給料になります。6次産業化で仕事の選択肢が広がりいろんな経験ができること、それは自信や生きがいにつながるんです。

良い面がある一方で、感じている課題があります。

障がい者といわれている方々が一生懸命作った商品だから購入してくださっているお客様もいらっしゃいますが、それでは持続可能にはならないということです。

わたしたちが目指すモノづくりは、「障がい者といわれている方々の生きがいと自立ができる環境を作ること」と「高知大学での機能性の検証に基づいた学会発表での品質の保障」、「有機JAS認証や自然栽培、完全無農薬、無肥料、添加物を使わない安全安心」という要素が良いバランスで成り立っていることです。

つまり、「障がい者といわれている方々が作っているから」という動機ではなく、「本当に良いものだから購入したい」と気づいていただき、さらにそこからリピートにつながれば持続可能になるはず、ということです。購入者さんもメンバーさんもみんながハッピーな世の中を実現できればいいなと思っています。

「障がい者といわれている方々」がしっかり稼げる仕組みづくりへの挑戦

–続いては、メンバーさんの働く環境について教えてください。

西川さん:

わたしの肩書のひとつに「目標工賃達成指導員」というものがあります。これはメンバーさんの工賃(給料)を増やすという役割を担っている者ということです。

就労継続支援B型事業所1ヶ月の工賃の全国平均は2021年時点で1万6,507円です。高知県に絞ってみると、平均は2万969円となっています。こちらは2022年の数字です。

その中で「エンジェルガーデン南国」では、2023年4月現在で3万6,000円を達成しています。とはいえまだまだ低い水準だと感じています。

障がい者就労支援事業所の商品の売上利益はすべて障がい者といわれている方々の工賃(給料)となります。わたしたちスタッフのお給料は、農園で就労訓練を受けるメンバーさんを支援することで国から給付金をうけ、その中から支払われています。

メンバーさんたちは障がい者年金を月6〜7万円もらっており、工賃(給料)と合わせて月10万円前後が手元に入ることになります。しかし、その金額では自立には遠く、余暇も楽しむには足りませんよね。そこでわたしたちは、SDGsの目標として、2030年までに平均工賃(給料)を7万円にすることを宣言しています。

–メンバーさんたちがお仕事しやすい環境づくりはどのように工夫されていますか?

西川さん:

メンバーさんが作業しやすいように、生産時の行程をいろいろ工夫しています。たとえば、グアバ茶の商品の1袋に入っているティーバッグの数を間違えないように、くぼみのあるトレイにティーバッグ一つひとつを置いて数を管理します。規定の数通りにトレイに並べられたティーバッグを袋に詰めれば間違うことなく商品を完成させることができるんです。また、商品ラベルを貼る作業も補助具をつくりそれに合わせてきれいに貼れるように工夫しています。

みんなで作り上げた居心地の良い農園になっているので、メンバーさんの定着率もとても良いんです。2017年の設立から通われている方も数名いらっしゃいます。自分たちで高品質な商品を作り売り上げが伸びれば、お給料としてご自身にもどってくるので、とてもやりがいを感じていただいているようです。

先日も、農園見学者に「楽しそうですね」と話しかけられると「楽しいどころか面白い!」と答えていました(笑)。

イベントなどで出張販売をすることがありますが、自分たちの作った商品がどのような方がいくらで買っていただいているのかを知ったり、購入者から生の声を聞いたりすることで、やりがいはもっと深いものになります。

また、インターネット販売もしていますが、どこの地域の方が、「何を」「いくら」で買ってくださったのかを日本地図を見ながら、担当者が指し棒で差し示しみんなで確認しています。都道府県の市を確認し勉強にもなりますよね。生産販売を通して社会勉強にもなっています。

–すばらしい取り組みをたくさんされていますね。将来の展望を教えてください。

西川さん:

障がい者といわれている方々の生きがい、働きがいのある仕事をもっと増やしていき、工賃を7万円までに早急に引き上げるのが最優先の目標です。そして、世の中に無添加・無農薬のものを広めたいので、添加物がなくても良いものができることを消費者に気づいて欲しいと思いますし、みなさんの健康のために本物を見極める目を磨いてほしいと思います。

将来的には高知県南国市に移住してくださる方を対象に、「エンジェルガーデンアカデミー」を設立し、グアバ果樹の栽培方法を伝授し一緒に健康を広げてゆきたいとも考えています。

さらにメンバーさんのために、グループホームの運営もできたらいいなと思っています。

–パワフルにご活躍され、障がい者といわれている方々の道を切り開く「一般社団法人エンジェルガーデン南国」。これからの飛躍が楽しみです。

関連リンク

南国にしがわ農園:https://www.nishigawa-nouen.com/