竹迫 優香里(右)
日本生命保険相互会社 総合企画部課長補佐
2014年日本生命保険相互会社入社。入社後、渋谷支社、支払サービス部、商品開発部を経て、2022年から、総合企画部に配属。現在は、サステナビリティ経営の推進にあたって、日々業務に邁進している。
池上 裕香(左)
日本生命保険相互会社 財務企画部ESG投融資推進室課長補佐
2015年日本生命保険相互会社入社。入社後、新宿支社・不動産部を経て、2020年から、財務企画部に配属。ESG投融資の高度化に向け、日々業務に励んでいる。
introduction
日本最大手の生命保険会社である、日本生命。創業130年を超える老舗企業ですが、時代のニーズや社会課題を捉え、多様な取り組みを行っています。
特に2018年には「サスティナビリティ重要課題18項目」、2019年には「SDGsに向けた当社のめざす姿」を設定し、持続可能な社会に向けて全社で貢献していく姿勢を貫きます。今回は総合企画部の竹迫さん、ESG投融資推進室の池上さんに、社会課題を受けて生まれた商品や、2022年に始動した新プロジェクトなど、日本生命のこれまでとこれからについてお話を伺いました。
「共存共栄」「相互扶助」―生命保険の精神とSDGsには親和性がある
–御社ではSDGsとも深く関連した「サステナビリティ重要課題18項目」を定めているとのことですが、このような取り組みを始めたきっかけについてお聞かせください。
竹迫さん:
当社は2015年に「CSR重要課題16項目」を設定しました。その直後にSDGsが採択されたり、パリ協定が発効したりと、社会的な意識の変化がありました。SDGsは世界共通の、人類が一丸となって達成すべき目標ということもあり、2018年には元々の16項目に「気候変動」と「人権尊重」の項目を加え、18項目の「サステナビリティ重要課題」を設定しました。
そもそも生命保険という事業そのものが「共存共栄」「相互扶助」の精神に基づくものです。当社はこの精神にのっとり、明治22年の創業以来130年以上にわたって、人々の生活の安定に寄与してきたと自負しています。このような事業特性そのものが、持続可能な社会づくりというSDGsの理念と相性が良いと考えています。
社会課題には、総合的な商品・サービス開発で対応
–重要課題18項目の中に「商品・サービス提供を通じた社会的課題への対応」という項目がありますが、これは具体的にどのような取り組みをされているのでしょうか。
竹迫さん:
高齢者の方の総数や認知症有病者数が増加傾向にあり、社会的にも課題視されている中で作ったのが「認知症保障保険」です。保険ですので認知症と診断されたときに保険金をお支払いするのはもちろんですが、加えてコンシェルジュに相談できる専用窓口や、認知機能の状態を簡易的に確認できるアプリ、ウォーキングや脳トレを促すコンテンツの提供などを行っています。
さらに、高齢の方の間では「自分の認知能力が低下した際に、財産管理や身元保証が出来なくなってしまうのでは」という悩みも聞かれます。特に身近に頼れる人がいない方にとっては、非常に大きな問題です。そこで当社ではすべてのお客様向けに、「GranAge Star(グランエイジ・スター)」というシニア向けサービスも有償提供しています。
このように、単に「認知症保険」と言っても、予防から発症後までを総合的にサポートできる商品として提供しているんです。
また、商品を提案する職員もお客様の課題に寄り添えるように、厚生労働省の推進する「認知症サポーター」講習を受講するなどしています。
その時々の社会的課題やニーズに合わせた商品・サービスを開発・提供することで、人々がより安心して健康に生活できる社会づくりを支えていきたいと考えています。
金融機関の側面から、社会全体がESGを考慮する流れを作る
–保険会社は「金融機関」としての側面もあると思いますが、金融機関として持続可能な社会づくりに寄与する取り組みはされていますか?
池上さん:
お客様(各保険のご契約者様)からお預かりした大切な保険料を適切に管理・運用し保障責任を全うすることは、生命保険会社の最も重要な責務です。
資産運用という面では、以前より公共性の高い事業への投融資を積極的に行ってきました。2017年には「ESG投融資の取組方針」を設定し、それ以来ESG投融資を強化しています。
私たちは機関投資家として企業に資金提供を行う立場でもあるので、こういった取り組みを進めることによって、相手企業に影響を与えることもできます。特に当社は、投融資の際にESGに関する非財務情報を考慮する「インテグレーション」という手法を全資産に導入しました。
加えて、投融資先との「エンゲージメント」も積極的に行っています。これは各企業と当社の運用担当者が対話をし、その中でESGに関する内容についても取り上げるというものです。現状どのような取り組みをしているかをヒアリングし投融資判断をするだけでなく、こちらから取り組みの提案もしています。また他の企業の良い取り組みを他社にも伝えることも行っています。
「エンゲージメント」では、企業と当社の間の話だけではなく、その企業がかかわる人たちに対してどういった取り組みをしているか、サプライチェーン全体での取り組み状況を確認するようにもしています。例えば気候変動問題に関して、その企業自体のエネルギー消費を評価することも重要ですが、サプライチェーン全体でどの程度CO2排出量を削減しているかといった点も確認しています。
投融資先の企業の意識も、ここ数年でかなり進んできているように感じています。
この取り組みを通して、社会全体がESGに考慮していく流れを作っていけると良いと考えています。
“子育ての壁や不安がない社会”へ。「NISSAYペンギンプロジェクト」が始動!
–2019年には「SDGs達成に向けた当社の目指す姿」というものも設定されたそうですね。ここにある「貧困や格差を生まない社会の実現」に関して、どのように取り組まれていますか。
竹迫さん:
そもそも生命保険という仕組み自体が「相互扶助」という精神に基づいているので、「貧困・格差をなくす」という目標達成に資するものであると考えています。
そのうえで、2022年3月より「NISSAYペンギンプロジェクト」を始動しました。これは“子育ての壁や不安がない社会”をみんなで考え、ともに作っていくということをテーマに掲げています。次世代を担う若者・子どもの育成・支援といった事業は、当社がもともと重視していた内容ではあるのですが、より強化していきたいという思いから、今回この様なプロジェクトを立ち上げました。
「NISSAYペンギンプロジェクト」については、ぜひこちらの動画をご覧ください。
–群れ全体で協力して子育てするペンギンを参考に、「NISSAYペンギンプロジェクト」と名付けられたのですね。具体的にはどのようなことをされているのですか?
竹迫さん:
プロジェクトの趣旨に合致した大小さまざまな取り組みを行っていて、それらを俯瞰して見ていただけるように「ペンギンプロジェクト取り組みマップ」を作成しています。
このマップは「ペンギンプロジェクト特設サイト」で公開しているものですが、このサイトでは子育てしやすい社会の実現に向けて、情報の発信と啓発を行っています。先ほどの動画のほかに「となりのコウテイさん」というマンガも公開しており、子育てにまつわる壁や悩みについて考えていただくきっかけになればと考えています。
このプロジェクトに関連する取り組みは多岐に渡りますが、生命保険会社の本業である保険商品やサービスにおいても、子育て世代に向けた価値を充実させています。
例えば、3大疾病への保障に「出産給付金」や「不妊治療給付金」などの保障を付けた商品を提供しています。これは、日本の抱える少子化という大きな課題に対して「保険会社として出来ることは何か」と考え、2016年に開発したものです。
また、グループ企業であるニッセイプラス少額短期保険株式会社からは2022年に「ママとこどもの1000daysほけん」という商品を発売しています。妊娠中の切迫流産・早産や、出産後の乳腺炎、子どもの入院などに応じて必要な保障をカバーしています。「少額短期保険」という加入しやすい形態であることも、何かとお金のかかる妊娠~育児期を想定しつつ、子育てしやすい社会の実現に寄与したいと考えられた商品です。
さらに、従来の「学資保険」や「こども保険」といった商品ラインナップに加えて、契約者様の育児の悩みや女性の体の悩みについて相談できる電話窓口を設けるなど、保険商品以外にもお客様をサポートできるようなサービスを揃えています。
–社会課題の解決に繋がりつつ、多くの方から選ばれる商品の開発は「サステナビリティ経営」という面から見ても重要ですね。一方で社会貢献活動にも力を入れられているそうですね。
竹迫さん:
はい。「次世代育成への貢献」として、当社の関連団体であるニッセイ文化振興財団が行う「ニッセイ名作シリーズ」という取り組みがあります。これは、プロによるオペラや人形劇、クラシック音楽といった芸術の公演に、小学生・中学生・高校生を無料で招待するというものです。前身となる取り組みから数えると60年近くに渡って実施しています。東京の日生劇場をはじめ全国で行っており、次世代を担う子供たちの情操教育や多様な価値観の育成に寄与しています。
さらに、「進学応援奨学金 supported by 日本生命」という事業も行っています。これは経済的に困難な状況にある子どもが大学等への進学を控えている場合に、進学準備資金として一律5万円を、当社による拠出をもとに認定NPOキッズドア基金を通じて給付するという取り組みです。
大学等への進学には入学金や学費だけでなく、受験のための費用も多くかかります。このような一般的な奨学金ではカバーできない部分の支援を行うことを目的としています。この奨学金には、給付と併せて当社職員からの直筆メッセージもお送りしているのですが、受け取った方がそれをお守り代わりにしてくれたとか、「精神的な励みになった」という嬉しい感想もいただいています。
その他、「ペンギンプロジェクト」では社内に向けた取り組みも行っています。2013年度以降、当社男性職員の育休取得率は100%を達成してきましたが、さらに2021年度からは「育休+α」として、①出産後8週以内の育休取得 ②連続10日以上の育休取得 ③16時の早帰りや在宅勤務活用による育児参画デー設定 と取得条件を細かく設定しました。このうち1項目以上の達成率100%を目標に掲げ、2021年度は達成しています。
現在では管理職も含めた男性職員の約3割が育休経験者となっており、社内では「男性も育休をとるのが当たり前」という空気になっていますね。男性職員本人や家族の子育て支援が第一の目的ではありますが、他にも業務効率改善や、お子様のいる家庭への商品提案時に役立つなど、経営面での効果も表れています。
人財育成・社会貢献活動を通して、よりよい社会を目指す
–最後に、今後の展望についてお聞かせください。
竹迫さん:
当社は内勤・営業職員を合わせると、全国で7万人以上の従業員がおります。「2050年ネットゼロ」という国際的な目標、そしてSDGs達成へ貢献するためには、7万人の従業員一人ひとりがしっかりと社会を意識することが重要です。これに関連して、現在「人財価値向上プロジェクト」に全社で取り組んでいます。これは「人財育成」と「闊達な風土の醸成」の二本柱で行っている取り組みです。
人財育成としては、従業員一人一人の「個」の強化のため、オンライン研修など専門性習得の機会を提供しています。また当社は従業員の約9割を女性が占めており、女性管理職の育成・登用も積極的に行っています。
闊達な風土育成の面でも、「ダイバーシティ推進方針」に基づくダイバーシティ・インクルージョンの推進、働きがい向上、働き方変革、健康増進に取り組んでいます。
加えて、お客様・地域・社会のお役に立てる人材づくりのために展開しているのが「ACTION CSR-V ~7万人の社会貢献活動~」です。出前授業・受け入れ授業・高齢者見守り活動・当社所属選手によるスポーツ教室・植林活動など多様なプログラムを用意し、役員・職員全員が何らかの社会貢献活動を行っています。社会との接点を持つことで地域からの信頼を得られるだけでなく、人財育成、職場の一体感醸成といった効果もあり、今後も大切にしていきたい活動の一つです。
–社員一人ひとりの意識の変化が大きな貢献につながるのですね。さまざまな取り組みについてお聞かせいただき、ありがとうございました!
取材 大越・前田/執筆 カナタ
日本生命保険相互会社ホームページ:https://www.nissay.co.jp/