#インタビュー

認定NPO法人D×P|若者がどんな環境にあったとしても、自分の未来に希望をもてる社会をつくるために「10代の孤立」問題に取り組む

認定NPO法人D×P

認定NPO法人D×P 理事長 今井 紀明さん インタビュー

今井 紀明

1985年札幌生まれ。立命館アジア太平洋大学(APU)卒。神戸在住、ステップファザー。
高校生のとき、イラクの子どもたちのために医療支援NGOを設立。その活動のために、当時、紛争地域だったイラクへ渡航。その際、現地の武装勢力に人質として拘束され、帰国後「自己責任」の言葉のもと日本社会から大きなバッシングを受ける。結果、対人恐怖症になるも、大学進学後友人らに支えられ復帰。
偶然、中退・不登校を経験した10代と出会う。親や先生から否定された経験を持つ彼らと自身のバッシングされた経験が重なり、2012年にNPO法人D×Pを設立。経済困窮、家庭事情などで孤立しやすい10代が頼れる先をつくるべく、登録者13000名を超えるLINE相談「ユキサキチャット」で全国から相談に応じる。また大阪ミナミの繁華街でユースセンターを開設。10代の声を聴いて伝えることを使命に、SNSなどで発信を続けている。

Introduction

認定NPO法人D×P(ディーピー)が取り組むのは、「10代の孤立」問題です。

安心できる居場所がなく、社会にもSOSを発せずに孤立し、困窮してしまう若者たちに手を差し伸べるセーフティネットを構築・拡充するために活動しています。

今回は、認定NPO法人D×Pの理事長今井さんに、若者を取り巻く社会の課題や、D×Pの取り組みなどについてお話を伺いました。

若者支援の原点は、自身の原体験

–まずは、認定NPO法人D×Pのご紹介をお願いします。

今井さん:

D×Pは、社会課題である「10代の孤立」に取り組む、活動費のほとんどを寄付によって運営しているNPOです。

様々な事情により、安心できる居場所がなく、孤立してしまう10代の若者の新しいセーフティネットを作り、社会につなげていく役割を果たしたいと考えています。

運営しているLINE相談窓口「ユキサキチャット」には、13歳から25歳までの若者13,000人以上が登録しています。

その他に、食糧支援や、給付金支援等の事業を行なっています。

団体名の「D×P」は「Dream times Possibility(ユメ× 可能性)」です。

ユメは、未来への期待だと考えています。「ひとり旅をしてみたい」「車の整備士になりたい」「ラーメン食べたい」など、少しでもやってみたいことも含めて自由に描くものだと思っています。しかし、たくさんあるユメや可能性も、環境や周囲の人達との関係で閉ざされることがあります。

若者がユメを描ける状態であること、本人のもつ可能性を発揮できる社会を実現すること、10代と社会をかけ合わせることが、D×Pの役割です。

–今井さんは、なぜ「10代の孤立」に取り組もうと思ったのでしょうか。

今井さん:

私の若者に対する支援活動の原点は、自身の原体験にあります。2004年、高校生だった私は、子ども達の医療支援のためにイラクに渡航したのですが、そこで武装勢力に拘束され人質になりました。「イラク人質事件」です。

その後、解放され帰国しましたが日本中からバッシングを受け、人間不信に陥り、家に引きこもるようになりました。

その中で、社会に出るきっかけをくれたのが、高校の担任の先生でした。卒業後も私を気にかけてくれ、20歳の時に大学の願書を持ってきてくれたのを機に、進学することができました。さらに大学では、後に一緒にD×Pを創業することになる朴基浩(パク ・キホ)との出会いがありました。

ひとには、自分を否定せずに受け入れてくれる存在が必要です。

今では、自分の体験を人に話せますが、当時は自分の中の「あの人質の今井」が、周りの人達の中にもあるのではないかと、話すのが苦痛でした。でも朴をはじめ、周りの人達はそんな私の話を否定せずに聞いてくれたんです。

それから少しずつ社会ともう一度繋がりたいと思いました。

その後、不登校や中退の経験がある高校生と偶然出会う機会がありました。周りの人達から否定される経験をし、生きづらさを抱えていた彼らと自分自身が重なり「生きづらさを抱えた高校生のために何かできることはないか」と考えるようになりました。

そして2012年にNPO法人D×Pを立ち上げ、設立当初から「否定せずに関わる」姿勢を大切に10代の若者と関わっています。

セーフティネットから抜け落ちやすい10代をひとりにしないために

–では、「10代の孤立」を生み出してしまう社会の現状をどのようにお考えですか。

今井さん:

「10代の孤立」は、不登校・中退、家庭内不和や経済的困難、無業などで、安心できる環境を失ったときに起きると考えています。

現在の日本では、不登校の中高生が約25.5万人、高校中退者が約4.3万人、さらには子どもの貧困率は11.5%です。そして「居場所の数が少ない人ほど、困難な状態が改善した経験が少なく、支援希望や支援機関の認知度等も低い傾向がある。」と子ども・若者白書で報告されています。

参照:内閣府 令和4年版子供・若者白書
参照:文部科学省 令和4年度児童生徒の問題行動・不登校等生徒指導上の諸課題に関する調査

経済的困難、家庭や学校との関係、発達障がいや学習障がいなどの事情により、孤立してしまう10代は、人生における選択肢は狭まります。様々な困難な状況にいる人達は国や民間団体の支援・セーフティネットへたどり着くこと自体が難しいんです。その結果、より困難な状況へ追い込まれてしまうことになります。

私たちが接している10代も、「家で虐待を受けて家出している」「親に経済的にも家庭的にも頼れない」「家から出ざるを得ず、苦しい中一人暮らしをしている」「児童養護施設出身」といった人達が大勢います。

セーフティネットから抜け落ちやすい10代の若者たちを一人にしないために、サポートを続けています。

–それでは、D×Pでは具体的にどのような活動をしているのかお聞かせください。

今井さん:

まずは、孤立してしまっている10代とつながりを持つために、LINEを介した相談窓口「ユキサキチャット」、大阪・ミナミの繁華街に集まる若者に安全な居場所をつくる「ユースセンター」の事業に注力しています。

「ユキサキチャット」では、相談の回数や時間に上限を設けず、伴走支援をメインにしています。

相談は、経済困窮・不登校や学校中退などで今辛い思いをしている、将来の道が見えないなどが主な内容ですので、短時間での解決は難しいんです。

1か月以内で相談が終了するのは約4割程度で、6割は長期にわたり継続してサポートしています。長いものだと2年以上という例もあります。

また、「フリーカフェ事業」も立ち上げ、現在はユースセンターを運営しています。

大阪ミナミの通称グリ下(グリコ看板の下)は、居場所がない若者が集まる場所です。ここで、2022年8月から、若者が無料で使えるフリーカフェをスタートしました。テントを立て、お菓子や飲み物、生理用品やコンドーム等の無料配布を行いながら、若者と対話し、繋がりをつくります。

ミナミのフリーカフェ事業 | プロジェクト | 認定NPO法人D×P(ディーピー)

テントでの活動の課題は、屋外での活動のため、天候や気温によってはテント内で過ごすことが厳しい状況であったこと。また、個別の相談など込み入った話ができる環境がなかったことでした。そこで、グリ下から徒歩5分の場所に、若者が安心して利用でき、主体的に活動できる居場所として「ユースセンター」をつくりました。

若者がどんな環境にあったとしても、安全な環境で過ごせたり、権利を尊重されたり、人とのつながりができたり、文化的な体験や経験をすることが保障される。繁華街でも、どこを選んだとしても、どこにいても、そのようなことが保障される社会をつくりたいと思っています。

《仕事体験ツアーの様子》

※仕事体験ツアー
働く具体的なイメージを持てる機会をつくっています。
https://www.dreampossibility.com/times/10929/

自分の未来に希望をもってもらう 否定せずに受け入れる存在になりたい

–10代の方達と接するときに、気を付けていることや大事にされていることはありますか。

今井さん:

まずは「否定せず関わる」ということを一番大事にしています。

相手のどんな価値観も在り方も否定せず、特に信頼関係ができるまでは、口を出さないのもコミュニケーションの一つだと思い、考え方を受け入れ話を聞きます。今までの経験からも、自分の考えと違うからと否定してしまうと、その後に信頼関係が築けない場合が多いんです。

もう一つは「ひとりひとりと向き合い、学ぶこと」ですね。

相手を肩書・性別・年齢や「LGBTの人」「やんちゃな生徒」などとひとまとまりにせず、

きちんと向き合い、その感覚を学ぶことを大切にしています。どんな価値観の元で生きているか、どんな考えを持っているのかを常に意識しています。

そして、たとえ連絡が途絶えることがあっても、しばらく待っていること、いつ帰ってきてもいいよと、窓口を開いておくことが大事かなと思います。

また、これは社会的な問題だと思いますが、昨今は詐欺などの事件が多く、特にオンライン上で信頼してもらうことが難しくなっています。

ですから、ユキサキチャットでは匿名での相談から始められるようにしています。緊急で食糧支援や現金給付支援をする場合には、面談の必要がありますが、身分証明書を提示するなど、信頼してもらえるように工夫をしています。

《スタッフの方々》

–D×Pの活動を通して、目指している社会をお聞かせいただけますか。

今井さん:

「ひとりひとりの若者が、自分の未来に希望を持てる未来」をビジョンとして目指しています。

社会福祉制度を知らないし、信頼もしていない、窓口にも行けない、電話での相談もできないという何重もの壁を作ってしまう若者への支援は、オンラインでのセーフティネットが必要なんです。

これを今、現在ではまだ十分ではない状況なので、D×Pが寄付を募りやっているんです。

足りていないところを自分達が作っていく必要があると思っています。

社会全体で子ども達の声を聴き支援する未来を作る!

–そんな、D×Pが目指す社会を作るためには、私達には何ができるでしょうか。

今井さん:

D×Pの活動は寄付で成り立っていますので、ぜひ寄付に参加していただきたいと思います。

国や自治体の単位では、10代の孤立の解決のような課題には、なかなかスピード感を持って取り組むのは難しいんです。ですから、NPOのような非営利団体が、その仕組みを作るのが役割ではないかと思います。

毎月定額で寄付をする月額1,000円からの寄付もありますし、単発での寄付もできます。

食糧支援や、現金給付支援をするときに、毎月の寄付は、経営計画・支援計画が立てやすくなるので、非常にありがたいんです。

昨年度(2023年度)の当NPOの運営費は約2.7億で、そのうち約84%が寄付で運営しています。月額1,000円のサポーターは3,000人を超え、法人のサポーターは123社を超えました。単発での寄付も5,000人以上いますので、本当に多くの人達が関わってくれています。

毎月の寄付は、ものすごく大きな社会への影響力がありますので、ぜひ考えていただければと思います。

※寄付に関する詳しい内容はこちらからご確認ください。

もう一つ、特に若い方々には、まず社会の課題を知ってほしいと思います。そして知るだけでなく、現場や現地に行って実際に見てほしいですね。

当事者から話を聞く、実際にどんなことが必要なのか肌で感じることを大事にしてもらいたい。

そして、いろいろなことにあきらめずに関わってみてほしい。自分の地域や仕事、関わったことは必ず人生の中で、ちゃんと何かと繋がるので、そこを大切にしてほしいと思います。

–最後に、今後どのように活動していくのか、展望をお聞かせください。

今井さん:

私達には、2030年までに達成したい「2030ビジョン」があります。

現在、13歳から25歳までの人口は約1,500万人強ですが、支援が必要な「ユキサキチャット」対象者は200万人前後と推計しています。

この中で、国や自治体の支援を受けているのは1割くらいと推測していて、非常に少ないんです。

ここを、2030年までに何とか3割まで増やそうと考えています。

そしてこの3割という数字は、D×Pだけではなく、他のNPOとも力を合わせ、国への提言も続けながら達成を目指します。

社会全体が子ども達の声を聴き、支援していく体制や環境を整えていきたいと思っています。

–本日は、貴重などもお話をありがとうございました。

関連サイト

認定NPO法人D×P 公式サイト:https://www.dreampossibility.com/

D×P 寄付サイト:https://www.dreampossibility.com/supporter/

「ユキサキチャット」:https://www.dreampossibility.com/yukisakichat/

【クラウドファンディング】グリ下から緊急提言!繁華街に集まる4000人の若者に安全な居場所をつくりたい:https://camp-fire.jp/projects/view/755370

目標金額:2000万円

期間:5月8日(水)〜7月1日(月)