松本光一
1967年静岡県焼津市生まれ。幼少期からモノづくりが好きで、自動車整備や販売の仕事を経て2002年に退職。「性的欲求は人間の根幹であり、従来のアダルトグッズのイメージを刷新するようなポジティブでオープンなアイテムを作りたい」と36歳でTENGAを開発。2005年に株式会社TENGAを立ち上げ、現在はセクシャルアイテムだけでなく雑貨やアパレル等、製品の幅を広げている。
introduction
TENGAは今までにLGBTQ、女性、中高生、高齢者など、さまざまな人に向けた商品やサービスを展開してきました。そして今年から新たに、障がい者の就労支援を行う「able! project」がスタートしました。「できないこと」ではなく「できる」に目を向け、障がい者が働く喜びを実感できる。そんな場所を目指す、able! projectの取り組みとはどのようなものでしょうか。今回はTENGAの社長、松本光一さんにお話を伺いました。後編は「障がい者の性」についてお話いただいているので、お見逃しなく!
働く喜びを感じられる場所を目指して
–今日はよろしくお願いします!はじめに、able! projectについて教えてください。
松本さん:
able! project(エイブルプロジェクト)とは、「障がいのある人が働く喜びと、働くことに対する対価を得て、自立した人生を送るための取り組み」をコンセプトに、今年5月に始動した、障がい者の就労・生活支援を行うプロジェクトです。独自に開設した就労継続支援B型事業所「able! FACTORY(エイブルファクトリー)」では、障がい者が技術を学びながら働き、収入を得ます。そこに併設するドッグカフェ「able! CAFE(エイブルカフェ)」では、障がいのある方がスタッフとして働いたり、ワークショップを開催したりなど、さまざまな人が交流する場となっております。
–障がい者の就労支援を行おうと考えたきっかけはなんでしょうか。
松本さん:
17年前の創業当時から大事にしているビジョン「性を表通りに誰もが楽しめるものに変えていく」をもとに、これまでさまざまな活動を行ってきました。その一つの活動でもある、障がいのある方々が抱える性の悩みの改善において、障がい者支援を行う事業者さんや団体と関わる機会があったんです。そして実際に施設を訪れた際に、障がい者の働く環境について知ったことが、able! projectの始まりです。
–どのような働く環境を目にしたのですか?
松本さん:
私が訪れた就労継続支援B型事業所では、内職のような作業が行われていました。就労継続支援B型事業所は、雇用契約を結ばないため、給料ではなく工賃が支払われます。
支払われる工賃は全国平均で月15,000円*ほどです。もちろん、目標をもって働いていることは素敵だと思います。ですが、働いた対価として満足な収入を得ることや、働いたことで周りから感謝を得られることも重要だと思うんですね。そこで、TENGAにできることは何かを考えるようになりました。
*参考:「令和2年度工賃(賃金)の実績について」
–働くことに対して、そのような考えに行き着いたきっかけはあったのでしょうか?
松本さん:
私が生きている理由は何かというと、人に喜ばれたいという気持ちがあるからなんです。約20年前、TENGAの製品を開発するために2年間の自主制作期間を設けていました。その期間中は、一人で研究しては作っての繰り返しで、いくら物を作っても誰からもリアクションをもらえないんですね。
そこで、自分が作ったものが誰かの手に渡ったり、誰かの役に立っているからこそ、働くことが楽しいのだと実感しました。そのため、このプロジェクトではモノづくりの楽しさや働く喜びを感じられる場所を目指しています。
新しい助け合いの仕組み
–ご自身の経験から、働く喜びの大切さを実感しプロジェクトを始動したのですね。では、able! projectの中核でもある「able! FACTORY」についてお聞かせください。
松本さん:
able! FACTORYは、独自で開設した就労継続支援B型事業所です。障がいのある方がモノづくりの技術を学びながら働き、そして皆さんと一緒に、今まで「できない」と思っていたことを「できる」に変えていく場所となります。
–どのようなものをつくっているのでしょうか?
松本さん:
障がいのあるアーティスト山野将志さんの作品をパッケージに使った「able! TENGA」を生産しています。
ここで作られたable! TENGAを1つ購入していただくごとに、100円が全国の障害者支援に寄付されるという取り組みを行います。これによって、障がいのある方は働く喜びに加えて、仲間をサポートしているという誇りがもてるんです。商品を購入いただくことで、皆さんもプロジェクトに参加いただき、一緒に喜びを分かち合える。そのように、皆さんに参加していただくことで生まれる「新しい助け合いの仕組み」をつくることが、このプロジェクトです。
–素敵な仕組みですね!障がい者の方は、事業所内でどのような作業を担っているのでしょう?
松本さん:
able! TENGAの外装フィルムを巻く作業、アパレル製品のシルクスクリーンによるプリント作業、中古や壊れたPCのリペア作業、able! CAFEの調理補助や接客など、幅広い作業内容があります。
–数ある作業の中から、どのようにして個々に適した作業を判断しているのですか?
松本さん:
どの作業が合っているのか相談される方も多いのですが、色々あるのでとりあえず体験してみることをおすすめしています。あとは一人で考える時間を大切にしてもらっています。こちらからどの作業が向いていると提案することもありますが、体験したあとに何にやりがいを感じたか、楽しかったか、自分にどのような作業が向いていると思ったかを考えることで、新しい気付きがあると思うんです。その方の意思を尊重するよう、心がけています。
–コミュニケーションを大事にされているのだと感じました。さまざまな障がいのある方と接するなかで、何か意識していることはありますか?
松本さん:
特別なことはなく、障がいのある人・ない人も同じように接しています。例えば、障がいのある方と一緒にカフェに行くとします。相手がドリンクを飲みづらいと決めつけ、障がい者の口元にストローを持っていったらどうでしょう。本人は自分のペースで飲みたいだけなのに、特別扱いされたら不快に感じてしまいますよね。障がいの有無は関係なく、話しやすい人・話しにくい人はいますし、同じ人間の一人だなと思っています。
さまざまな人が交流する場
–では、併設しているable! CAFEについて教えてください。
松本さん:
able! CAFEは、ただカフェを運営するのではなく、コミュニケーションの場として展開しています。カフェでは障がいのある方がスタッフとして働くことで、障害のある人・ない人、子供も大人も犬も一緒に楽しくコミュニケーションが取れる場所を目指しています
定期的に開催予定のワークショップでは、一緒にTシャツを制作したり、ケーキをつくったり、さまざまな体験を通して「できる」喜びを感じることができます。また、ワークショップに参加した子供たちが、一緒に体験し時間を共有することで、障がい者も健常者も変わらないということを感じてもらえると思います。それが、多様性を認め合う社会につながるのだと信じています。
–今までにない取り組みを行うable! FACTORYですが、今後どのようにしてプロジェクトを展開していく予定ですか?
松本さん:
このプロジェクトを始めたきっかけもそうですが、障がい者の声を取り入れることを前提としています。当事者の声をたくさん聞くことが大切です。まだまだわからないことがたくさんあるんですね。先ほど話したように、こっちが良かれと思ってやったことが当事者にとっては不快に感じることもあります。自分にある前提を捨て、常に学んでいく必要があるのです。新しいことを知ったら、次は「何をすべきか」に変わりますし、こうやって少しずつ世の中に貢献していくのだと信じています。
また、現状では、障がい者が性の悩みを相談できる場所はまだまだ少ないです。そこで今後は、長年TENGAとして培ってきた性のノウハウを活かし、性の悩みに応えていきたいです。その1つとして、オンライン相談室を開設します。
–たしかに、障がい者の性についてはまだまだ表向きには語られていない印象がありますね。これからのTENGAの取り組みが楽しみです。ありがとうございました!
インタビュー後編では、まだまだタブー視されている障がい者の性について話を伺いました。
株式会社TENGA https://tenga-group.com/